さがしもの

猫谷 一禾

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少年のころ

《6》

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 3学期、里葉は進と同じ小学校に通うことになった。たった1学期だけだったが、それでも良かった。温かな養護教諭と離れることは少し寂しかったが同級生とは同じ空間にいたくなかった。どうせ中学校で離れるのだ、少し早まっただけだ。

「里葉くん、よろしくね」
「よろしくお願いします 」

家庭教師役に週末帰ってくる道雄が名乗り出た。

「俺はね、本当は可愛い弟が欲しかったの。だからせっかくだから里葉くんと絡みたいんだよ」
「僕は……可愛いくないですヨ」
「ははは、可愛いよ~あの学校に行くならちょっと心配になるくらいに可愛いよ!」
「?」
「大丈夫、進にナイト役やらせるから」
「??」
「じゃあ勉強始めようか?」
「……お願いします…」

里葉は一の学校に行く決心をした。受験は理事の特別枠で推薦という形になっていた。しかし、学力を上げるため、試験のテストを一律受けるため、勉強は欠かせなかった。

(これ、狡してるって……まさにその通りだ)

「里葉くん、元々色んな問題集やってたでしょ?だから特別枠じゃ無くても普通に入れそうだけどね…親父も甘いねぇ」
「え……どういうことですか?」
「ふふふ、親父も里葉くんを近くに置きたいの。母さんと張り合ってるんだよ」
「?…まさか……道雄さんの勘違いですよ」
「でも、この家から距離を取るのはいいかもよ。母さん我慢してるけど、本当は里葉くんをきせかえ人形みたいに色んな服を着せたくてウズウズしてるから。可愛いくて綺麗な子が大好きなんだよ」
「道雄さん……この問題教えて下さい」

里葉は面倒くさくなって来てしまっていた。

「里葉くんはクールだなぁ。……無表情じゃない方がいいかも……笑ってると可愛いけど、表情が無いと綺麗になるんだよね…余り笑顔を見せてもらってないけどね」
「…………すみません…」
「あぁうそうそ、責めてないから。そのままで良いんだけど、お兄さん心配でね……これから艶っぽさが出てきたら心配なんだよ……今でさえ時々色っぽいから。小学生なのに……君の独特な雰囲気に変なのが寄ってきそうで……」
「ごめんなさい、僕にはなんの事だか…」
「君のその雰囲気は生まれ持ったものなんだろうね…いいかい、あの学園に入ったらニコニコしてる方が良いよ。これはお兄さんからの忠告だよ」
「はぁ……」
「進にも言っとかないとな、よし」


 短い3学期、そうタカをくくっていた里葉は公立でも地域的にお金持ちの子が多くいる小学校を舐めてかかっていた。前の学校と比べると明らかに雰囲気が違った。今度は違う意味で馬鹿にされ下に見られた。どこからとも無く噂が流れ、里葉の事情を知っているのだ。どちらかと言うと白い目で見られた。そんな状況下に置かれれば自分の存在を卑下してしまうのも仕方の無い事だった。

(僕も……お母さんとお父さんと一緒に車に乗っていたかったな……)

ちらりと、そんな考えが頭をよぎる。



「おい、森里葉」
「なに……」
「お前さぁ……ちょっとは愛想良く出来ないの?」

話しかけてきたのは同じ家に住む同級生の進だ。進は進で新しい同居人が来てからずっと静かに観察していたのだ。両親がある日突然事故で死んでしまった可哀想な子だとある種特殊な目で見ていた。塞ぎ込んでいたり、慣れない環境に戸惑うのは当たり前で、打ち解けろと言う話の方が無理やりだと思っていた。しかし、この家に来てから全てを拒否する態度にいい加減頭に来ていた。3ヶ月は過ぎた日々、歩み寄ろうとする自分の家族を全身で拒否していると進の目には映っていた。

「学校の奴らは仕方ないとしてもさぁ……それでも自分から敵作ってる感じだけど…。それより、家の家族に対してさぁ何とかなんないの?」
「え……どういう……」
「気ぃ使ってんの分かりきってるだろ。何も四六時中ニコニコしてろってんじゃないけど……もう少し態度柔らかく出来ないの?」

里葉は正直、自覚が無かった。それより邪魔にならない様に迷惑を掛けないように…そればかりが先行した考えであった。

「僕……元々、こんなだし…」
「まぁ良いけどさ……流石に、見ててイラつく」
「!?」

(だから、目に付かないように生活してるじゃん)

「…………」
「なんとか言ったら?悔しくないか、こんな事言われてさぁ」
「僕に……なんて言って欲しいわけ…どうしろと?出て行けってこと?」
「そこまで言ってねぇじゃん」
「僕は……明らかに君と違う。ここを追い出されたらどうなるかくらい想像出来る…まぁ君には関係ない事だよね」
「何かさ……その考え方って卑怯じゃね?」
「……だから……君と僕とじゃ違うんだよ……置かれている状況も、育ってきた環境も…それそこ…分かんないの?」
「周りに敵ばっか作って面白いのかよ」
「僕の性格だよ!恵まれてる君には……分かんないんだよ!」
「っ!もぅ知らねぇ!!」

怒りの余りカッとなり怒鳴りつけた進はその場を去っていく。

(誰かと言い争うなんて初めてした…)

里葉は昔から小柄な体をしていた。いつも周りの目線は上から見下ろされている。里葉の気性は大人しい子だった。乱暴的な子は苦手だったし話も上手くない、自分は地味で目立たないからと萎縮して生活するのが当たり前だった。人が、他人が、人間関係が苦手で怖かった。まして今は気心の知れた家族はいなくなり慣れない環境。いっぱいいっぱいなのだ。溜まっていた何かが漏れ出るくらいの事は許して欲しい。それでも子供の里葉はどうする事も出来ないのが現実だった。
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