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はじまり
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しおりを挟む「カナゲ……まだ具合が悪いのか?」
額にかかった髪を指で弄りながらアルセが顔を覗かせてきた。あのまま寝入ってしまったようで頭の芯がぼんやりと重たい。ついでに瞼も大分重たかった。
「……泣いていたのか……」
目元もそっと撫でられる。
「……お世話してくれる人が…………俺の事を……」
「あぁ…聞いた。カナゲの全ては俺のものだと言ったな…命も身体も…人生も…」
「俺の……人生……」
「私は……カナゲを伴侶としてここに連れてきた」
「は……はん……」
ぼんやりとした頭にジワリと広がる単語。想像の絵面がぱっと浮かんだ、それは両親の姿だった。ガバリと起き上がりアルセの袖口を掴む。勢いがつき過ぎて後ろの奥がひきつき、う”う”ぅ……と唸る。
「まったく……無理をするな」
「痛ぃ……ちょっと……は、伴侶って……」
「意味を知らないのか?」
「知ってます!……知って……います……」
「なら話は早いじゃないか…世話係も言っていたと思うが、明後日に身体の採寸を測りに人がここに来るから」
「え……いや……だって……え?」
眠る前までは投げやりな考えだったが、今は少し体力も回復して先程までの悲観的な気持ちではなかった。
「待って……下さい……え?……俺、結婚するんですか?貴方と……」
「そうだ」
「は………………」
「何か問題が?」
(あるだろっ!!)
「俺……殺されるって……」
「だから、殺さないと言ったはずだ」
「急に……そんな……け、結婚?」
「…………カナゲを手に入れたと思い、我慢が効かなかったのは…まぁ…考える部分では…あるが…全てはカナゲの魅力がそうさせた、ということで」
「待って下さい……。全然……話が見えません」
「ん?そうか?……私はカナゲを妻に、と言っているんだ…それで分かるだろうに…」
(分かるかっ)
「え……だっ…て……俺の…あの家族の…身代わりとして、旦那様に命の誓いをしました…よ…ね?」
「あぁ……少し…………策をねった」
「……は?」
「カナゲを手に入れる為に、策をねった」
「俺を?…………え?……」
(は?は?……いやいや……はぁ?)
「婚礼は目の前だ……もぅ逃げられないからな」
「ひっ……」
「少し……昔話でもするか…」
「昔……話……」
─── 今から、8年前のことだ……
私が父からこの土地を受け継いで躍起になっていた頃だ。私は父より能力があると見せたくて無茶なやり方をしていた。因果応報というやつだ。逆恨みではあったが、他にやり方があった連中から襲撃を受けて…まぁボロボロになったのだ。
身を隠している時に出会ったのだ、カナゲに。
「え!?俺ですか??」
そうだ、カナゲに会って手当てをしてもらった。裏のない純粋な気持ちで、可愛らしい笑顔つきでな。
(え……やっぱり……この人……関わっちゃ駄目な人なんじゃないの?)
カナゲは手当の他に水を持ってきたり、私が助かる場所まで肩を貸して連れて行ってくれもした。まだ小さな子供であったはずなのに…一生懸命に。
(けが人の……手当……)
それからだ、名前を聞いてお礼をと思っていたが…私の周りは、まだゴタついていてな…顔を合わせない方が良いと判断したのだ。
(そんな人……いたかも…)
地主として力をつけ、やり方を考え、カナゲに正面きって会いに行こうと思っていたのだ…
「あ!顔が…ボコボコの人!!」
……それだ……私だ。……それで……会いに行けなくともカナゲの様子を時々見ていたんだ。危険がないか…両親と幸せそうで安心していたが…
「強盗…ですか?」
そうだ、知らせを受けた時にはカナゲはもぅ何処にも居なかった……消えてしまっていたんだ……。その時に引き取ろうとしていたんだが………。探して、探して…つい最近やっと見つけたのだ…。まさかこんなに近くに居るとは……遠くから見て幸せならそれで良いと思っていたが…
「幸せ……」
そうは見えなかった。しかも……その……まぁ……随分と綺麗になっていてだな……
─────
穴があくほど見つめる。
(なに?……目を付けてて…順調に育ったから娶った…て事…?え、えぇ……怖い…)
「俺は……凄く怯えてて……殺されると、思っていたのですよ」
「……それは……悪かった…余りに…可愛らしくて」
「………………え”………………は…ぁ?」
「ふん…カナゲの怯える姿は魅力的だと言っているんだ。ついでに、恥辱に泣く姿もそれはそれは…」
「わああああ!!分かりました!分かりましたからそれ以上は…辞めて下さい…」
「まぁ…婚礼の義をするまでは何ら変わらない生活だから大した差ではないだろう。私はカナゲをここから出す気は一切無いから」
(出れない……ここから……?)
══════════
私の完全なるメモの読み間違いで名前を間違えてました。
世話係の名前は → イチ 〇
イツ ✕
です。よろしくお願いします。
分かりにくくて、すみませんでした。
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