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はじまり
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しおりを挟む耳の後に鼻をつけられて匂いを嗅がれる。
(……何やってんの……この人……)
「湯浴びに行こうか…」
「……はい」
昨日よりぐちゃぐちゃな気がした。尻の奥も昨日より長くかき混ぜられたからか、違和感があった。
(なんかこれ……足震える……)
よろよろとした足取りで、やはりカナゲの腰にはアルセの腕が周り支えられながら湯浴びへと行く。
同じ体勢が続いたので関節がギシギシとする。湯が張られた湯船に入り足を伸ばすとホッとした。相変わらず背後から抱きしめられるようにして2人で入っている。
(この人、たまに腕を撫でてくるんだよな……)
そうされると胸の奥がくすぐったい気がするので困ってしまうカナゲだった。
(昨日もそうだったけど……湯を浴びている時って何にも話さないんだよな…イヤラシイコトしてる時はあんなに……あんな事……言ってくるのに…)
ザバリと湯から上がって体を拭く。そしてもう予想通りの羽織りを着せられる。今日は淡い橙色だった。
「ふむ………よし…」
アルセはカナゲの格好を上から下までじっくり見てから何か納得していた。カナゲは心の何処かでゲンナリした気分を感じていた。
温まった2人は運動の後ということもあってそのまま就寝した。
次の日、またしても部屋から出てはいけないと言われたカナゲは恒例となったグルグルと考える無限の思考の世界に入っていった。
膝を抱えてぼんやりと部屋の中を見回す。ここは最初に手を出された部屋、ベッドの手前の部屋だ。どうにもベッドを直視していると、まざまざと思い出して頭を掻き毟りたくなってしまう。
(……何をやっているんだろう……俺……。)
1人になると、とたんに虚しさが襲ってくる。
(いや……ここから出られないのは分かってるんだよ…こんなことしてても…家族のこと守れてるみたいだし……だけど……どうなっていくんだろう俺は……ずっとこのまま飼い殺しみたいな状態って長く続かないよなぁ…)
何もかもはっきりと告げられない事がカナゲにとってはグルグルと考える事になってしまう。
(分からない……あの人が何を考えているか……俺は命を握られているのに……昨日の俺の態度は反抗的だったはず…だって、あんなの……我慢なんて出来ない。でも、殴られもしなかった……あの家族のお父さんでさえ…昔は俺のことを……)
フと昔を思い出して、悲しい気持ちになってしまった。
(幸せだと、思い込もうとしていたのか……いや、そんなはずは無い。確実に助けられた、拾ってもらえなかったら死んでいた。だから……多少のことには目を瞑るべきなんだ)
握り拳を作って嫌な考えを振り払う。
(そこはもう良いんだよ、違うだろ俺。昨日だって考えたじゃ無いか……あの人に触られて……気持ち悪く無かったって……)
ギュッと自分の体を抱きしめる。
(あの人が言うように…俺って……そーゆー身体なんだろうか……今まで考えたこと無かっただけで…実は……。何で俺、嫌だって言いながら……あんな顔、してたんだよ……)
カナゲは勇気を出してもう少し自分と向き合う。
(嫌なのは……なんだ?…はっきり言って……気持ち良かった……。それは誤魔化しようが無い。俺男だし……じゃあ…何だろう……恥ずかしくて嫌だったんだよな。うん。でもさ…あの人の声って……聞いていて嫌じゃ無いんだよな……)
はぁぁぁぁ
深い深いため息をついた。
(身体はしょうがないよ、快感?……うぅ…に弱いんだろ、俺は……。でも、気持ちが…心が……まるで見てもらえないのは…辛いな)
自分の掌を広げてジッと見る。
(それはさ、しょうがないことだろ。今は殺されないだけ……良いんだ。きっと……そうだよな……)
膝を抱え、その膝に額を付けて小さくなる。
(俺が何をどう考えたって、この状況は何も変えられない……死にゆくその日まで、耐えるしか無い。流されるままに……)
日が落ち、部屋が薄暗くなるまでじっとしていたカナゲだった。
トントン
扉を叩く音がしてそちらを見る。
「失礼いたします。旦那様から先に湯浴びをしておくように、と言われております。よろしいでしょうか」
「はい」
扉を開けて部屋を出て行く。1人での湯浴びは久しぶりな気がした。ここに来てまだ3日目だが、濃密な時間が多いので長く感じる。
ほぅっと息を吐くと体から何か一緒に出ていくようだった。
「またこれだ……」
湯から上がって体を拭いていると羽織りが目に入ってくる。世話係の者が用意してくれたであろうそれは、お馴染みの羽織りだった。
「普通の服は……着せてもらえないのかよ……」
ブツブツと思わず独り言を言ってしまう。
手に取って袖を通した羽織りは、今日も色が違っていた。いつもの淡い色より少し濃い目の色で今日は、紫色だった。
「今日は……いつもより色が濃いな……」
鏡を見る。
(今日も……すんのかな…やっぱり……)
ほのかに頬が赤くなるカナゲ。唇を噛んで自分の腕を力一杯握る、痛いほど…。チリっと胸をかすめたモノを無かった事にするように。
「旦那様がお帰りになりました」
扉の向こうから声が聞こえた。
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