90 / 93
2部
第31話 この気配、人それとも……
しおりを挟む
(……ん?)
ロエルと町に出かけ、2人で蚤の市をまわっている私は、ふと、自分のななめ前方に位置する大きな木から、何かの気配を感じた。
この木は、蚤の市の露店と露店のあいだに植えている。
(木のうしろに誰か、いるの?)
一度気になってしまうと、いったいどんな人が何の目的で太い幹のうしろに隠れているのか……。その答えを知りたくなってしまうというもの。
私は足をとめ、大木をじっとみつめてみた。私のとなりにいるロエルも私にあわせて歩くのをやめてくれた。
ロエルは私をねぎらうように言う。
「歩き疲れたのか、ユイカ。それなら少し休むことにするが――」
「えっと……、疲れたわけではないから大丈夫。ただちょっと、気になることがあって……」
それだけ話すと私は、前方にそびえる木を観察することに再び意識を集中させる。
すると――。
一瞬。本当に一瞬なんだけど。
チラチラッと、大木の幹から黒っぽい色をした何かが見えた!
目にうつったのはほんのわずかな時間だったけど、たぶん、私の頭と同じくらいの高さから。
やわらかくて、ふわふわした感じの黒い物体が視界にあらわれた。
(黒っぽい色、やらわかくてふわふわした……といえば、もしかして――ティコティス!?)
私が異世界トリップして最初に言葉を交わした相手は、この世界の『人間』ではなく、人の言葉を話す不思議な『うさぎ』。彼の名はティコティス。
ティコティスと会ったのは昨日だから、彼の見た目はまだはっきりとおぼえている。
ほどよくモフモフしたボディのティコティスは、とても可愛い黒うさぎ。
長いお耳を羽のようにパタパタさせて、宙に浮かんでいた。
体のサイズは地球のうさぎといっしょって印象だったけど……。両脚を地面にふれさせることなく浮遊していたティコティス。
その顔は、私の顔とだいたいおなじ位置にあったはず。
ということは、ティコティスが昨日とおなじように体を浮かびあがらせ、木のうしろから、チラリと顔をのぞかせた可能性は高いかも。
(ティコティスと会ったのは、ロエルの館。なぜ今、ティコティスがこの町にいるのかは謎だけど――)
あ、もしかしたらティコティスには、私の居場所がわかるのかもしれない。
たとえば……21世紀の地球でいうGPSのような機能が、私の首についたチョーカーにはあるとか?
このチョーカーは元々ティコティスが、異世界の言葉を知らない私に翻訳機としてくれたもの。
現代日本でスマホが電話機能以外にもさまざまなことができたりGPSが搭載されているように、ティコティスがくれたチョーカーだって、GPS機能をはじめ、翻訳以外にもいろいろなことがでいるのかもしれない。
現に、私とロエルは昨夜――。自分の世界に帰っていったティコティスとこのチョーカーを通信機にして会話したもの。
(木のうしろにいるのはやっぱりティコティス、あなたなの!?)
はやる心を抑えきれず、私は目の前の木に駆けよった。
ロエルと町に出かけ、2人で蚤の市をまわっている私は、ふと、自分のななめ前方に位置する大きな木から、何かの気配を感じた。
この木は、蚤の市の露店と露店のあいだに植えている。
(木のうしろに誰か、いるの?)
一度気になってしまうと、いったいどんな人が何の目的で太い幹のうしろに隠れているのか……。その答えを知りたくなってしまうというもの。
私は足をとめ、大木をじっとみつめてみた。私のとなりにいるロエルも私にあわせて歩くのをやめてくれた。
ロエルは私をねぎらうように言う。
「歩き疲れたのか、ユイカ。それなら少し休むことにするが――」
「えっと……、疲れたわけではないから大丈夫。ただちょっと、気になることがあって……」
それだけ話すと私は、前方にそびえる木を観察することに再び意識を集中させる。
すると――。
一瞬。本当に一瞬なんだけど。
チラチラッと、大木の幹から黒っぽい色をした何かが見えた!
目にうつったのはほんのわずかな時間だったけど、たぶん、私の頭と同じくらいの高さから。
やわらかくて、ふわふわした感じの黒い物体が視界にあらわれた。
(黒っぽい色、やらわかくてふわふわした……といえば、もしかして――ティコティス!?)
私が異世界トリップして最初に言葉を交わした相手は、この世界の『人間』ではなく、人の言葉を話す不思議な『うさぎ』。彼の名はティコティス。
ティコティスと会ったのは昨日だから、彼の見た目はまだはっきりとおぼえている。
ほどよくモフモフしたボディのティコティスは、とても可愛い黒うさぎ。
長いお耳を羽のようにパタパタさせて、宙に浮かんでいた。
体のサイズは地球のうさぎといっしょって印象だったけど……。両脚を地面にふれさせることなく浮遊していたティコティス。
その顔は、私の顔とだいたいおなじ位置にあったはず。
ということは、ティコティスが昨日とおなじように体を浮かびあがらせ、木のうしろから、チラリと顔をのぞかせた可能性は高いかも。
(ティコティスと会ったのは、ロエルの館。なぜ今、ティコティスがこの町にいるのかは謎だけど――)
あ、もしかしたらティコティスには、私の居場所がわかるのかもしれない。
たとえば……21世紀の地球でいうGPSのような機能が、私の首についたチョーカーにはあるとか?
このチョーカーは元々ティコティスが、異世界の言葉を知らない私に翻訳機としてくれたもの。
現代日本でスマホが電話機能以外にもさまざまなことができたりGPSが搭載されているように、ティコティスがくれたチョーカーだって、GPS機能をはじめ、翻訳以外にもいろいろなことがでいるのかもしれない。
現に、私とロエルは昨夜――。自分の世界に帰っていったティコティスとこのチョーカーを通信機にして会話したもの。
(木のうしろにいるのはやっぱりティコティス、あなたなの!?)
はやる心を抑えきれず、私は目の前の木に駆けよった。
0
お気に入りに追加
685
あなたにおすすめの小説
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
寡黙な騎士団長のモフモフライフ!健気な愛し子に溺愛されて
蓮恭
恋愛
日々の鍛錬を怠らず、逞しく鍛え上げられた体躯と鋭く光る三白眼を持つ騎士団長ユーゴ。
他人だけでなく己への厳しさも備え持ち、普段なかなか笑うことのない無愛想な騎士団長は、それでもその本質を知る部下達に非常に慕われていた。
そんなユーゴの最大の癒しは……まぁるくてフワフワで真っ白で……。
ウサギの尻尾のようなモフモフの毛玉、ケサランパサランという生き物を愛でる事であった。
「モフ、寂しくなかったかー? 俺は早く帰ってお前をモフモフしたくて堪らなかったぞー!」
帰宅して早々に、『モフ』と名付けた柔らかな毛玉を優しく撫で、幸せそうに頬擦りをする三白眼の逞しい体躯の男。
そんな男に愛でられる、モフモフ毛玉のケサランパサランには秘密があって……。
とあるきっかけでユーゴのことを愛してしまったモフが、女神の力を借りて人間となり、健気にも陰から騎士団長ユーゴを助けていくというお話です。
間で邪魔をするキャラも出てきたりして……モフモフ毛玉のケサランパサランと、騎士団長ユーゴは最終的に結ばれるのか?
それとも……
どうか可愛らしくて健気なモフモフ毛玉を、応援しながらお読みいただけると幸いです。
『なろう』『カクヨム』『ノベプラ』にも掲載中です。
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
男女比崩壊世界で逆ハーレムを
クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。
国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。
女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。
地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。
線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。
しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・
更新再開。頑張って更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる