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1章
第27話 リンちゃん、名乗りでる!
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ここは、沢樫荘の管理人室。
今日からこのアパートで1人暮らしを開始する、一入居者のわたしが今、管理人室にいるのにはわけがある。
引っ越し早々、アパートの出入口手前で、わたしは黒い靄のような謎の何かに手足をとらえられてしまった。
危機にさらされたわたしを助け、黒い霊っぽい何かを一瞬で退散させてしまったのが、あやかしの青年、オキツネサマ。
人間の姿にもなれる彼は、意識を失ってしまったわたしをこの管理人室に運び、休ませてくれた。
(オキツネサマのおかげで、今のわたしの体は、元気を取りもどせたはず――)
あやかしのオキツネサマには、人間のわたしからみると、自己中心的にうつる言動が多々あるけど、そんな彼でも彼なりにわたしの体調を気づかってくれてたみたい。
だからこそ、さっきオキツネサマは――。わたしの隣にすわり、わたしをみつめながら、あたたかみのある声でいたわるように、ああ話しかけてきたのだろう。
わたしはオキツネサマに、ついさきほど言われた言葉を思いだした。
「そろそろ体調のほうは回復してきたか。そなたの気分がよくなってから、この部屋を出て、そなたの借りた、我らの新しき住まいに移動しよう。あ、無理はいかんぞ」
オキツネサマ……わたしの体は心配してくれてるのかもしれないけど――。わたしが住む部屋に、いっしょに住む気でいる。
わたしは今日から1人暮らしを始めるのであって、誰ともいっしょに住む気はないって、はっきり伝えたのに……。
オキツネサマは、わたしが『テレているだけ』だと思いこんだままだ。
(オキツネサマに助けてもらったことにはお礼を言うけど、だからって同居はできない。また『テレてるだけ』って誤解されるだけかもしれないけど、いっしょに住むつもりはないってことは言い続けなきゃ……)
わたしはオキツネサマ、そして彼の横でプカプカ浮かんでいる、人の言葉を話す青い炎、リンちゃんに向かって言った。
「わたしを黒い霊みたいなものから助けてくれたことは、本当に感謝してるけど、でも、だからってわたしの部屋でいっしょに暮らすわけにはいかないので……。同居はできないって、わかってもらえるとうれしいんだけど――」
わたしは、はじめこそハキハキと話せていたんだけど、言葉を続けていくうちに
(どうせ、今度も納得してくれないんだろうな)
って弱気な気持ちになっちゃって、声も小さく、はぎれも悪くなってしまった。
こんなんじゃ押しの強いオキツネサマにお引き取り願うことは、むずかしそう……。不安になったわたしの元へ、いままでオキツネサマの横にいたリンちゃんが、ふわふわと飛んでくる。
(……ど、どうしたの、リンちゃん!?)
リンちゃんは、炎の体をゆらしながらつぶやく。
『黒い霊みたいなもの……って、ああ、アイツらのことか』
リンちゃんは、疑問を1人で解決し納得した感じだけど――。
わたしはリンちゃんの言葉を聞き、そういえばオキツネサマがわたしを黒い何かから助けだしたとき――。彼の近くにリンちゃんはいなかったことに気がつく。少なくとも、わたしの記憶ではリンちゃんはいない。
わたしは、この部屋で初めてリンちゃんに会ったはず。
リンちゃんのくちぶりからすると、(やっぱりリンちゃんはあの場にはいなかったけど)わたしが『黒い霊みたいなもの』って言った存在が何なのかは見当がついたって感じ。
一方、オキツネサマは、何か説明したそうな雰囲気で口をひらいた。
「サキ、そなたは『黒い霊みたいなものから助けてくれた』と言うが、あれは……」
「あれは――?」
話の続きが気になり、オキツネサマの言葉をわたしがくりかえすのと、わたしのそばにいたリンちゃんがオキツネサマの横に舞いもどるのは、ほぼ同時だった。
オキツネサマの隣に、ものすごいスピードで移動したリンちゃんは早口で言う。
『オキツネサマッ! その説明は、おれっちがするんで! オキツネサマはしばらく黙っててくださいっす』
あの場にいたのは、オキツネサマとわたし。リンちゃんはいなかったはず。なのに、なんでリンちゃんが?
不思議に思ったのは、わたしだけではなかったみたい。
オキツネサマまで首をかしげてリンちゃんに質問する。
「リン、いったいどうしたのだ」
『どうしたって言われても、どうしても、ゆずれないっす。お願いですから、おれっちがいいって言うまでオキツネサマは口をはさまないでくださいね。いいっすか?』
「……う、うむ。リンがそこまで言うのなら、かまわんが」
押しの強いはずのオキツネサマが律儀に言うことを聞いている。
リンちゃんも、オキツネサマをヨイショすることはあっても、強めのお願いをすることなんて、いままでなかったのに。……いままでっていっても、今日会ったばかりの2人組(?)だけど。
なにはともあれ、黒い靄みたいな、あの霊のような存在については、オキツネサマではなくリンちゃんがわたしに説明してくれることになった。
(いったい何なの、あの黒い霊みたいなものは――)
今日からこのアパートで1人暮らしを開始する、一入居者のわたしが今、管理人室にいるのにはわけがある。
引っ越し早々、アパートの出入口手前で、わたしは黒い靄のような謎の何かに手足をとらえられてしまった。
危機にさらされたわたしを助け、黒い霊っぽい何かを一瞬で退散させてしまったのが、あやかしの青年、オキツネサマ。
人間の姿にもなれる彼は、意識を失ってしまったわたしをこの管理人室に運び、休ませてくれた。
(オキツネサマのおかげで、今のわたしの体は、元気を取りもどせたはず――)
あやかしのオキツネサマには、人間のわたしからみると、自己中心的にうつる言動が多々あるけど、そんな彼でも彼なりにわたしの体調を気づかってくれてたみたい。
だからこそ、さっきオキツネサマは――。わたしの隣にすわり、わたしをみつめながら、あたたかみのある声でいたわるように、ああ話しかけてきたのだろう。
わたしはオキツネサマに、ついさきほど言われた言葉を思いだした。
「そろそろ体調のほうは回復してきたか。そなたの気分がよくなってから、この部屋を出て、そなたの借りた、我らの新しき住まいに移動しよう。あ、無理はいかんぞ」
オキツネサマ……わたしの体は心配してくれてるのかもしれないけど――。わたしが住む部屋に、いっしょに住む気でいる。
わたしは今日から1人暮らしを始めるのであって、誰ともいっしょに住む気はないって、はっきり伝えたのに……。
オキツネサマは、わたしが『テレているだけ』だと思いこんだままだ。
(オキツネサマに助けてもらったことにはお礼を言うけど、だからって同居はできない。また『テレてるだけ』って誤解されるだけかもしれないけど、いっしょに住むつもりはないってことは言い続けなきゃ……)
わたしはオキツネサマ、そして彼の横でプカプカ浮かんでいる、人の言葉を話す青い炎、リンちゃんに向かって言った。
「わたしを黒い霊みたいなものから助けてくれたことは、本当に感謝してるけど、でも、だからってわたしの部屋でいっしょに暮らすわけにはいかないので……。同居はできないって、わかってもらえるとうれしいんだけど――」
わたしは、はじめこそハキハキと話せていたんだけど、言葉を続けていくうちに
(どうせ、今度も納得してくれないんだろうな)
って弱気な気持ちになっちゃって、声も小さく、はぎれも悪くなってしまった。
こんなんじゃ押しの強いオキツネサマにお引き取り願うことは、むずかしそう……。不安になったわたしの元へ、いままでオキツネサマの横にいたリンちゃんが、ふわふわと飛んでくる。
(……ど、どうしたの、リンちゃん!?)
リンちゃんは、炎の体をゆらしながらつぶやく。
『黒い霊みたいなもの……って、ああ、アイツらのことか』
リンちゃんは、疑問を1人で解決し納得した感じだけど――。
わたしはリンちゃんの言葉を聞き、そういえばオキツネサマがわたしを黒い何かから助けだしたとき――。彼の近くにリンちゃんはいなかったことに気がつく。少なくとも、わたしの記憶ではリンちゃんはいない。
わたしは、この部屋で初めてリンちゃんに会ったはず。
リンちゃんのくちぶりからすると、(やっぱりリンちゃんはあの場にはいなかったけど)わたしが『黒い霊みたいなもの』って言った存在が何なのかは見当がついたって感じ。
一方、オキツネサマは、何か説明したそうな雰囲気で口をひらいた。
「サキ、そなたは『黒い霊みたいなものから助けてくれた』と言うが、あれは……」
「あれは――?」
話の続きが気になり、オキツネサマの言葉をわたしがくりかえすのと、わたしのそばにいたリンちゃんがオキツネサマの横に舞いもどるのは、ほぼ同時だった。
オキツネサマの隣に、ものすごいスピードで移動したリンちゃんは早口で言う。
『オキツネサマッ! その説明は、おれっちがするんで! オキツネサマはしばらく黙っててくださいっす』
あの場にいたのは、オキツネサマとわたし。リンちゃんはいなかったはず。なのに、なんでリンちゃんが?
不思議に思ったのは、わたしだけではなかったみたい。
オキツネサマまで首をかしげてリンちゃんに質問する。
「リン、いったいどうしたのだ」
『どうしたって言われても、どうしても、ゆずれないっす。お願いですから、おれっちがいいって言うまでオキツネサマは口をはさまないでくださいね。いいっすか?』
「……う、うむ。リンがそこまで言うのなら、かまわんが」
押しの強いはずのオキツネサマが律儀に言うことを聞いている。
リンちゃんも、オキツネサマをヨイショすることはあっても、強めのお願いをすることなんて、いままでなかったのに。……いままでっていっても、今日会ったばかりの2人組(?)だけど。
なにはともあれ、黒い靄みたいな、あの霊のような存在については、オキツネサマではなくリンちゃんがわたしに説明してくれることになった。
(いったい何なの、あの黒い霊みたいなものは――)
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