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1章
第17話 本当のわたし――
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アパート、沢樫荘の管理人室。
今この部屋にいるのは、わたし、谷沼 紗季音と『オキツネサマ』と呼ばれる、和服を着た美青年、そして『りんかのリンちゃん』と名乗る、人の言葉を離す不思議な青い炎だ。
『オキツネサマ』とリンちゃんから呼ばれている青年は、リンちゃんそしてわたしに言い聞かせるように、おだやかに告げた。
「サキが無事でいてくれた。それだけでも、充分すぎるほどだ」
『……オキツネサマ!? でもさぁ――』
リンちゃんは言いたいことが他にもいっぱいあるみたいで、うずうず、そわそわオキツネサマとわたしのまわりを動きまわる。
リンちゃんはハムスターと同じくらいの大きさで、室内を自由にぷかぷか浮かべるのに、なぜかオキツネサマとわたしが心配になったらしく――。隣りあったわたしとオキツネサマのあいだを行ったり来たり。
わたしの友達の恵もわりと心配性な子だけど、リンちゃんも心配性なタイプ?
リンちゃんとオキツネサマはずっと前からの知りあいっぽいけど、わたしと彼らは今日が初対面。
なのに、彼らは、わたしのことを知りあいあつかい。わたしのほうが彼らを忘れてるんだってスタンスで接してくる。
どう説明したら、『わたしはあなたたちの知りあいの誰かとは違います。人ちがいしてますよ』ってことを納得してくれるんだろう。
わたしはもう何度もオキツネサマに、人まちがいだって言ってるのに……。
おもわずため息がでそうになったとき。
オキツネサマがふたたび口を開いた。
不安げにわたしとオキツネサマのまわりを飛ぶリンちゃんに言い聞かせるように、彼は告げる。
「――リン、そう案ずるな」
オキツネサマの声はおだやかで、そのまなざしは基本的にはリンちゃんにそそがれている。
彼の言葉は、これで終わりではない。まだ続く。
しかも、ときおり、チラッ、チラッと視線を移動させて、わたしのほうを確認しながら、あくまでもリンちゃんに言い聞かせてるって感じで話す。
「なに、ともに同じ屋根の下で暮らしていくうちに――、サキも徐々に私のこともリンのことも思いだしていくであろう。あせることはない」
……はいっ? いま、オキツネサマなんて言った!?
『ともに同じ屋根の下で暮らしていく』
なんてこと、言ったよね、この人!
そうすれば『サキも徐々に私のこともリンのことも思いだしていく』だろうから、あせることないって……。
勝手にこんなこと決められて、黙っているわけにはいかない!
わたしは断固抗議する。
「ちょっと待ってください! あぶないところを助けてもらったのには、本当に感謝しています。でも、何度も言うようですが、わたしとあなたは知りあいではなく――だから、わたしがあなたを忘れているのではないんです。それって、いっしょに生活しても、あなたとの過去を思い出したりはできないってことですよね。わたしはこのアパートで1人暮らしするんです。同居とかしませんっ」
気が動転したわたしは、一気に まくしたてるように言った。
しゃべり終わってから、ハァハァと荒い息で呼吸するはめになってしまったほどだ。
危機を救ってもらった恩人に、キツイ言い方をしてしまったことになるのだろうけれど、わたしはもう何度も伝えているのだ。
わたしはあなたの知りあいではありません。人ちがいですって。
今この部屋にいるのは、わたし、谷沼 紗季音と『オキツネサマ』と呼ばれる、和服を着た美青年、そして『りんかのリンちゃん』と名乗る、人の言葉を離す不思議な青い炎だ。
『オキツネサマ』とリンちゃんから呼ばれている青年は、リンちゃんそしてわたしに言い聞かせるように、おだやかに告げた。
「サキが無事でいてくれた。それだけでも、充分すぎるほどだ」
『……オキツネサマ!? でもさぁ――』
リンちゃんは言いたいことが他にもいっぱいあるみたいで、うずうず、そわそわオキツネサマとわたしのまわりを動きまわる。
リンちゃんはハムスターと同じくらいの大きさで、室内を自由にぷかぷか浮かべるのに、なぜかオキツネサマとわたしが心配になったらしく――。隣りあったわたしとオキツネサマのあいだを行ったり来たり。
わたしの友達の恵もわりと心配性な子だけど、リンちゃんも心配性なタイプ?
リンちゃんとオキツネサマはずっと前からの知りあいっぽいけど、わたしと彼らは今日が初対面。
なのに、彼らは、わたしのことを知りあいあつかい。わたしのほうが彼らを忘れてるんだってスタンスで接してくる。
どう説明したら、『わたしはあなたたちの知りあいの誰かとは違います。人ちがいしてますよ』ってことを納得してくれるんだろう。
わたしはもう何度もオキツネサマに、人まちがいだって言ってるのに……。
おもわずため息がでそうになったとき。
オキツネサマがふたたび口を開いた。
不安げにわたしとオキツネサマのまわりを飛ぶリンちゃんに言い聞かせるように、彼は告げる。
「――リン、そう案ずるな」
オキツネサマの声はおだやかで、そのまなざしは基本的にはリンちゃんにそそがれている。
彼の言葉は、これで終わりではない。まだ続く。
しかも、ときおり、チラッ、チラッと視線を移動させて、わたしのほうを確認しながら、あくまでもリンちゃんに言い聞かせてるって感じで話す。
「なに、ともに同じ屋根の下で暮らしていくうちに――、サキも徐々に私のこともリンのことも思いだしていくであろう。あせることはない」
……はいっ? いま、オキツネサマなんて言った!?
『ともに同じ屋根の下で暮らしていく』
なんてこと、言ったよね、この人!
そうすれば『サキも徐々に私のこともリンのことも思いだしていく』だろうから、あせることないって……。
勝手にこんなこと決められて、黙っているわけにはいかない!
わたしは断固抗議する。
「ちょっと待ってください! あぶないところを助けてもらったのには、本当に感謝しています。でも、何度も言うようですが、わたしとあなたは知りあいではなく――だから、わたしがあなたを忘れているのではないんです。それって、いっしょに生活しても、あなたとの過去を思い出したりはできないってことですよね。わたしはこのアパートで1人暮らしするんです。同居とかしませんっ」
気が動転したわたしは、一気に まくしたてるように言った。
しゃべり終わってから、ハァハァと荒い息で呼吸するはめになってしまったほどだ。
危機を救ってもらった恩人に、キツイ言い方をしてしまったことになるのだろうけれど、わたしはもう何度も伝えているのだ。
わたしはあなたの知りあいではありません。人ちがいですって。
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