暗黒騎士物語

根崎タケル

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第13章 白鳥の騎士団

第15話 幻惑の王国

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「くそ! どうなっているんだ!? ここはどこだ?」

 ヒュロスは周囲を見て言う。
 ヒュロス達は街道を真っすぐ進んでいるはずだった。
 ここの街道には何度も来た事がある。
 市街地のような複雑な道ではなく迷う事はないはずであった。
 しかし、今現にどこにいるのかわからない状況だ。
 何らかの魔法を使われたかもしれなかった。

「隊長殿、ここは道を引き返した方が良いかもしれません」

 側にいた騎士ホプロンが進言する。
 確かにその通りだろう。
 進んでいる道が間違っているのなら、引き返すべきであった。
 だが、果たしてそれをさせてもらえるのかわからなかった。

「わかっている。ホプロン卿。だが、簡単に戻れるかどうかだ……」

 ヒュロスは目を押さえる。
 先ほどから目が霞む。
 ヒュロスは目には破幻の力がある。
 だが、迷い込まされてしまった。 
 誰かの仕業だとすればかなりの力だろう。
 だからこそヒュロスは焦る。
 対処ができないかもしれない。
 どうやら、あの時に何らかの魔法が使われたらしい。
 こんな時、巫女の力を借りたいがまだ倒れたままだ。
 もしかするとこの状況を作り出した者はこれも計画のうちかもしれなかった。
 ヒュロスがそんな事を考えている時だった。
 
「隊長殿! 前方に城壁が見えます!」

 先を行く騎士フリョンが声を出す。
 それを聞いて他の騎士達が安心したような声を出す。
 どうやら、人の住む町についたようだ。 

「そうか、道が違っているような気がしたが、間違っていなかったのかもしれないな……。行こう諸君」

 ヒュロス達は城壁へと近づく。
 そして、その城壁を見た時だった。
 ヒュロスは怪訝な顔をする。
 ヒュロスはバンドール平野にある国々の多くを行った事がある。
 そのため様々な国の城壁も見て来た。
 だが、目の前の国の城壁は今で見た事はなかった。
 
「初めて見ますな……。隊長殿。どういたしますか?」

 ホプロンも同じことを思ったのかそう言う。

「決まっている。巫女様もいるのだ。中で休ませてもらおう。さすがに我らの事を知らないはずはないだろうからな。誰か門を開けるように行ってくれ!」

 ヒュロスは城門の上を見て言う。
 城門の上には門兵らしき影が見える。
 その者に門を開けてもらうつもりだった。

「わかりました。俺が行きましょう」

 フリョンがそう言うと城門の前まで馬を走らせる。

「我々はレーナ様に仕える騎士である! 任務の途中でこの国へと立ち寄った! できれば今宵一晩の宿を取りたい! 城門を開けられたし!」

 フリョンが叫ぶとしばらくして城門が開かれる。
 その城門の向こうから誰かが歩いてくるのが見える。
 女性だ。
 年齢は50歳ぐらいで昔はかなりの美女だった事を伺わせる。
 また、着ている服からしてかなりの身分の者のようであった。
 
 
「まさか、主要な街道から外れた我が国に高名な白鳥の騎士の方々が見えられるとは……。私はスノビヘ王国の治める者、ビヘンナと申します。皆様を歓迎いたしますわ」

 そう言うと女性は頭を下げるのだった。



 クロキは白鳥の騎士団が入って来たのを城壁の上から確認する。
 その中にコウキがいない。
 どういうわけか別行動を取っているようだ。
 クロキの目の前には1の首と2の首と3の首と呼ばれる者達が立っている。
 多頭蛇ヒュドラ会と呼ばれる組織の指導者達である。
 このバンドール平野諸国の人間の社会の裏に潜み、犯罪行為を行っている。
 構成員の多くは人間だが、その指導者は人間ではない。
 案内させた2の首ももはや人間とはいえない。
 その体はかなり改造されており、通常の人間よりもはるかに強い魔力を持っている。

「どうやら、上手くいったようですね。3の首殿」

 1の首が横に3の首に言う。
 1の首は女性であり、仮面を被っている。
 一見人間に見えるが、おそらく蛇身転生を行っており、蛇の眷属になっているだろう。
 ラミアかゴーゴンかはわからないが、普通の人間では敵わないだろう。

「ふふ、私の幻術を持ってすれば容易い事です。あの中にかなりの力がいる者がいるようですが、上手く行きました」

 3の首が答える。
 かなり香水がキツい男だ。
 この香水は過去にワルキアの地で嗅いだ事がある。

 鮮血姫ザファラーダ。

 死神ザルキシスの娘であり吸血鬼達の女神でもある。そして、全ての吸血鬼の始祖ともいえる存在だ。
 3の首が使っている香水はザファラーダが好んで使っていたものだ。
 また吸血鬼が自身の瘴気を隠すために多用している匂いだ。
 同じ匂いを漂わせている3の首の正体は吸血鬼なのだろう。
 彼の作り出した幻術で白鳥の騎士達は誘い込まれた。
 だとすればかなりの使い手だろう。
 もしかすると彼の力ではないかもしれない。
 もっと強い力を持つ者がいる可能性がある。
 なぜなら、クロキですら見通す事が難しいからだ。

「ふん、来たか。アルフォスの倅とやらは来たか?」

 振り返ると蛇の王子ダハークが城壁へと昇って来る。
 
「はい、我らが王子。件の神の子は今や我らの手の内でございます」

 1の首が跪いて答える。

「そうか……。順調のようだな。ふん、それぐらいでなければ」

 そう言うとダハークはクロキ達を見る。
 そして、3の首を見る。
 
「お前がこの幻術を作ったのか? なかなかの力じゃないか」

 ダハークは感心したように言う。

「いえ、違います。私程度ではこれ程のものは作れません」

 3の首はそう言って笑う。
 その時だった、クロキは嫌な気配を感じる。
 それはダハークも同じのようであった。

「この気配は……。来ていやがるな! ザファラーダ!」

 ダハークは空中を見て言う。
 ダハークがそう言うと空中に赤い霧が発生する。
 赤い霧は収束してやがて人型となる。
 現れたのは真紅の衣を着た女性だ。
 現れたのは鮮血姫ザファラーダである。

「ふふ、下僕から報告を受けてね。急ぎこちらまで来たの。凶獣の血を引く者がいるなんて面白そうじゃない」

 ザファラーダは笑って言う。

「おい! どういう事だ!! ザファラーダが来てしまったではないか!」

 ダハークは1の首に怒りの視線を向ける。
 
「えっ!? ああ、申し訳ございません! 既にこの方が来られる事は知っていらっしゃるかと……」

 1の首はしどろもどろに答える。
 
「そうよ、ダハ君。貴方の母君は同盟者としてお父様にも伝えているのよ。私が来てもおかしくないわ」
「何!?」

 ダハークは言葉を詰まらせる。
 ダハークの母は蛇の女王ディアドナだ。
 その母親が同盟者である死神に伝えたのだろう。

「そうよ、でも……」

 ザファラーダはそう言いかけてクロキを見る。

「どうして、暗黒騎士がここにいるのかしら?」

 ザファラーダは冷たい目を向ける。
 明らかに警戒している目だ。

「姫様。そこにいるのは2の首殿が作られた夢の存在ですなのです……」

 事情を聞いていた3の首は説明をする。

「……というわけです。そうでございますよね、2の首殿?」

 説明を終えると3の首は2の首に聞く。
 しかし、2の首は答えない。

「2の首殿?」

 3の首は不思議そうな顔をする。
 全員の視線が2の首に集まる。

「我が主はお疲れのようです。私が代わりに答えます。そうです私は夢の存在です。本物ではございません」

 クロキは前に出て代わりに答える。

「あら、そうなの……。あまりにも強い存在感。まるであの時にあった暗黒騎士そのもののようだわ。本当に夢の存在なの?」

 ザファラーダはクロキを良く見て聞く。

「間違いなく夢の存在です。自分は……。お美しい姫様」

 クロキは心にもない事を言うと恭しく頭を下げる。

「まあ、見る目はあるようね。信じてあげるわ。ふふ、確かに私は美しいわ。あの憎たらしい女神レーナなんかよりもね。貴方もそう思うでしょう?」
「えっ!? それはないです……」
「なんですって!!」

 クロキが思わず本音を言ってしまうとザファラーダは眉毛を吊り上げて怒る。

(しまったーーーーー!! つい本音が――――――!!!!!)

 クロキは自分の口を思わず押える。
 ザファラーダの本当の姿は本当に醜い。
 今は美女に化けているが、それでもレーナに敵わないだろう。
 そもそも、美しさでレーナに勝てる女性はいない。
とにかくレーナとザファラーダでは比べるまでもない。
 ザファラーダは怒りの視線をクロキに向けて爪を伸ばす。
 クロキは戦いを覚悟する。

「くくくく、がはははは! 待てよ、ザファラーダ。さすがにそれは無理があるだろうよ! そいつが夢の存在なら、定められた事しか答えられないはずだ。そう目くじらを立てるなよ。それよりも凶獣の子を待とうぜ」

 突然ダハークは笑う。
 よほど、クロキの返答が面白かったのだろう。
 それを聞いて、爪を引っ込める。
 
「そうね。お前が夢で作られた存在なら、夢を作り出した者の意思を反映しているはずだもの。レーナ信徒が元になっていたに違いないわ。人形を相手にしても意味ないわね」

 ザファラーダはクロキから目を背ける。
 さすがにまだ機嫌は悪そうだ。
 クロキはほっと安心する。
 何とか戦わなくて済みそうであった。
 ダハークとザファラーダは並んで城壁を降りる。
 1の首たちも後に続く。

(さて、まさかザファラーダまでも来るなんて……。ちょっと厄介な事になったかな)

 クロキはこれ以上厄介な誰かが増えない事を祈るのだった。

 
 
 
 


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