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第13章 白鳥の騎士団
第4話 シビュラ
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星見とは星の流れや輝きにより未来等の様々な事象を見る事である。
特別な才能が必要であるらしく、誰にでも出来る事ではない。
その才能を持って生まれた子は重宝される。
中にはさらに星見の力を得るために魔術師に弟子入りする者もいる。
だが、一般的に多いのは神殿に預けられる事である。
魔力が高い者程、加護を得た時に強力な神聖魔法が使えるようになる。
そのため、神殿は魔力を高い者を多く受け入れようとする。
もちろん、預け入れる側も子どものためになると思い、また神殿に入れる事で、神殿と良好な関係を築く事ができる。
結果神殿には魔力が強い者が多くいたりする。
また、星見の力を持つ者は女性が多く、そのような神殿に入った女性は巫女と呼ばれる。
特に有名なのはアルフォスを祀ったデルポイアの巫女である。
そして、アルフォスの妹神であるレーナの神殿も同じよう巫女がいる。
コウキはそんな彼らと共に副団長からの指令にあたるのだった。
◆
コウキ達は聖レナリア共和国から北へと向かうために集まる。
事件は聖レナリア共和国やエルドからも離れた場所で発生している。
まるで、白鳥の騎士団や勇者達から逃れるようにだ。
相手はかなり知恵が働くようであり、勇者達に近づく危険をよくわかっているようだ。
また場所も広範囲であり、かなり移動して調査しなければならないだろう。
そのため、コウキ達は馬車で移動しなければならない。
今回の任務は隊長である騎士ヒュロスと騎士達に仕える従騎士と巫女とその巫女を守る女騎士とその女性従騎士で構成される。
従騎士の数に巫女を含めるとかなりの大所帯であった。
コウキ達は神殿本部の中庭に集まる。
「こちらが、巫女メリニア様です」
ルクレツィアが巫女を騎士達に紹介する。
コウキはルクレツィアの後ろにいる巫女を見る。
巫女メリニアはまだ12歳だが、かなりの力を持っている事で有名だ。
元は貧しい生まれだったが、力があった事から、レーナ神殿に引き取られた。
修行をして今では立派な巫女である。
今回の事件をゴブリンの仕業ではないと看破し、事件を調査するために同行する。
彼女を力で犯人が見つからなければ、エルドにいる勇者達の力を借りなければならないだろう。
「さて、今回は巫女様が来て下さる。まやかしの術を使う魔物もこれで終わりだろう。諸君らは巫女様を守りながら北へと行き、魔物討伐に当たれ。以上だ」
ルクルスはそう言って指令を出すとその場を後にする。
「さあ、お前達! 行くぞ、遅れるなよ!」
ヒュロスの合図でコウキ達は行動を開始する。
今回の任務に割り当てられた騎士は12名、従騎士はコウキを入れて10名、そして、巫女とその護衛であるルクレツィアを含めた女性3名である。
騎士は馬に乗って行き、従騎士と巫女達は馬車で乗って行く。
「よう、コウキ。まさか一緒に任務に当たれるなんてな。よろしく頼むぜ」
一緒に行く従騎士の1人が声をかけてくる。
「あっ、ネッケ。君も任務に参加するんだ? こちらこそ、よろしく」
コウキは声を掛けて来た少年に答える。
声をかけて来たのはネッケスという少年だ。
年齢は12歳でコウキと同じ頃に入団したのでよく覚えている。
修練所でも良く会うので仲良くなった。
そんなネッケスは聖レナリア共和国の平民出身だ。
白鳥の騎士団は身分を問わずに入団できる。
もちろん、簡単ではなく騎士としての誓いをする事以外にも、一定の身分の者の紹介状が必要であった。
貴族やそれに関係する者であれば簡単に入団できるが、ネッケスには特に貴族に伝手がない。
そのため紹介状を得るまでが、かなり大変だったそうだ。
コウキとネッケスは少しの間話し合う。
任務中話す相手がいないのは辛いので、ネッケスが来てくれるのは嬉しかった。
「おいお前ら! 早く支度をしろ! 出発するぞ!」
少し太めの従騎士デイブスがコウキとネッケスを見て注意をする。
デイブスは27歳の従騎士である。
騎士を目指して入団したが、騎士になれないまま年齢を重ねてしまった。
正式な騎士になるには様々な条件があり、条件を満たさなければ騎士叙勲を受けられず、従騎士のままで終わる者も珍しくない。
デイブスもその1人である。
しかし、経験はかなり積んでいるので従騎士達のまとめ役になっている。
従騎士は騎士の補佐をするのが仕事であり、様々な雑用をこなさなければならない。
そのためやる事が多かった。
見ると他の従騎士達が馬車に積み込む荷物の確認をしている。
コウキも働かなくてはならないだろう。
だが、任務は初めてであり、どう動けば良いのかわからなかった。
本来ならどこかの騎士に従卒となり、色々と教えてもらうのだが、コウキにはその機会がないのである。
そのため、動きもぎこちなく手際が悪い。
「コウキは任務は初めてだったな。教えてやるよ」
そんなコウキを見かけたネッケスが助け舟を出す。
ネッケスはこんな下働きに慣れているのか手際が良い。
「ああ、ありがとう。ネッケ」
コウキはネッケスに礼を言い教わりながら仕事をする。
もちろん、他の従騎士は忙しく働く。
武具の手入れ、馬の世話、様々な物品の管理。
やる事は多かった。
そんな従騎士の中で唯一働いていない者がいる。
それはギルフォスだ。
ギルフォスは従騎士だが特別扱いを受けており、騎士と同じ待遇である。
騎士も従騎士もその事を咎める者はいない。
なぜなら、神の子であり、その強さはこの場にいる騎士達が束になっても敵わない。
あまりにも若くなければとっくに騎士になっていただろう。
一緒に行く事になる巫女の護衛の騎士もギルフォスに熱い視線を送っている。
美少年でもあるギルフォスは聖レナリア共和国の女性達から人気が高い。
将来は白鳥の騎士団を代表する騎士となるだろう。
そのため誰もがギルフォスを特別扱いするのである。
「……羨ましいな。だけど俺もいつか騎士になって、歌われるような存在になってやる」
ネッケスは手を動かしながらギルフォスを見る。
ネッケスは英雄である白鳥の騎士ローエンの物語に憧れて入団した。
平民であり、特に貴族の後ろ盾もないネッケスが入団するのはとんでもない苦労があったに違いない。
それでも夢をかなえるために必死に頑張っている姿をコウキは何度も見てきた。
コウキも見習いたいと思う。
「あっ、悪い。コウキ。ホプロン様が呼んでいる。ちょっと行かないといけない。後は頼んで良いか」
「ああ、後の事はやっておくよ……」
「すまねえ、じゃあ行って来る」
仕事をしている時だった。
自身が仕える騎士に呼ばれたネッケスが席を外す。
そのため、コウキは1人で仕事をする事になる。
だが、ネッケスのように手際よくは出来なかった。
「何をしているんだ! お前! 初めて見るが名前は何という!」
デイブスの怒声がコウキの背中に届く。
これまで、騎士の元で働いてこなかったコウキは上手く動けないでいる。
その手際の悪さを見たデイブスがコウキに怒声を飛ばしたのだ。
振り向くとデイブスが近づいて来る。
「ま、待て! デイブス!」
だが、デイブスが近づこうとしたその時だった。
別の従騎士がデイブスを止める。
ひょろ長い背丈の従騎士ノッポスである。
デイブスと同じぐらいの年齢で、デイブスと共に動く事が多い。
ノッポスはデイブスを止めると耳打ちする。
「えっ、ギルフォス様と同じ扱い……、どういう事だ?」
「わからない……。だが、そうみたいだ……」
デイブスとノッポスはコウキを見ながら小声で話をしている。
「ええと、いいんだ。適当にやっててくれ……」
ノッポスとの話を終えたデイブスは納得のいかない顔をしたままそう言うと離れていく。
「まさか、顔が良いからというわけじゃないよな……」
デイブスは呟き声が聞こえる。
(何だろう?)
コウキは首を傾げながらデイブスとノッポスの後ろ姿を見送るのであった。
◆
時刻は昼、森の中に獣神子テリオンとその配下の人狼達はいる。
場所は聖レナリア共和国からかなり離れている。
人の足では一日以上もかかるだろう。
しかし、人狼達ならばほんのわずかの時間で移動が可能である。
そんな人狼達の足元には数匹の猪の死体。
先程狩ったばかりの獲物だ。
テリオン達はその猪にかぶりつき食事をしている最中であった。
側では同じように人狼達が食事をしている。
「おい、イカヅチ。気付いているか?」
テリオンは猪の肉にかじりながら、側にイカヅチに聞く。
「はい、若! 出てこい! 隠れていてもわかっているぞ!」
イカヅチは藪の中に向かって吠える。
イカヅチは他の人狼と違い、テリオンを守るために一緒に眠らされていた魔狼である。
テリオンが目覚めた時、共に目覚め、世界を喰らうために動く。
そのイカヅチの咆哮は魔力が込められていて、並みの生物なら聞いただけで動けなくなるだろう。
「さ、さすがは1の首様が認めた御方だ……。私の隠密を見破るとは……」
呻き声と共に何者かが出てくる。
出て来た者は一見黒装束を着た人間である。
しかし、その者からは普通の人間とは違う嫌な匂いを漂わせていた。
「ほう、あの蛇女の使いか? どうやって、俺達の居場所がわかった? 何の用だ?」
イカヅチは睨んで言う。
イカヅチは警戒を解かずに言う。
咆哮を受けて、足元がおぼつかないようだが、この場所を嗅ぎ付けた情報収集能力は侮れない。
警戒するのも当然だった。
「はい、実は面白い情報を手に入れましてね。至急お伝えに来たしだいですよ」
黒装束の人間は笑いながら言う。
「面白い事だと? それは何だ? 答えろ?」
イカヅチは背中の大剣を手にすると黒装束の人間に向ける。
「いえね、人間の巫女の話を御存知でしょうか? 星を見る能力があるらしいのですよ。もしかするとそちらが知りたい事を得られるかもしれません」
「ほーん……」
側で聞いていたテリオンは思わず声を出す。
興味深い情報であった。
「その人間の巫女とやらはどこにいる?」
テリオンが興味を持った事に気付いたのかイカヅチはさらに聞く。
人間風情の巫女にどれだけの力があるかわからない。
しかし、白き狼の巫女カジーカの行方がわからない状態ではそれに頼るのも仕方がないだろうとテリオンは思う。
「それがですね」
黒装束の人間は喋り始める。
テリオンはその人間の言葉を興味深そうに聞くのだった。
特別な才能が必要であるらしく、誰にでも出来る事ではない。
その才能を持って生まれた子は重宝される。
中にはさらに星見の力を得るために魔術師に弟子入りする者もいる。
だが、一般的に多いのは神殿に預けられる事である。
魔力が高い者程、加護を得た時に強力な神聖魔法が使えるようになる。
そのため、神殿は魔力を高い者を多く受け入れようとする。
もちろん、預け入れる側も子どものためになると思い、また神殿に入れる事で、神殿と良好な関係を築く事ができる。
結果神殿には魔力が強い者が多くいたりする。
また、星見の力を持つ者は女性が多く、そのような神殿に入った女性は巫女と呼ばれる。
特に有名なのはアルフォスを祀ったデルポイアの巫女である。
そして、アルフォスの妹神であるレーナの神殿も同じよう巫女がいる。
コウキはそんな彼らと共に副団長からの指令にあたるのだった。
◆
コウキ達は聖レナリア共和国から北へと向かうために集まる。
事件は聖レナリア共和国やエルドからも離れた場所で発生している。
まるで、白鳥の騎士団や勇者達から逃れるようにだ。
相手はかなり知恵が働くようであり、勇者達に近づく危険をよくわかっているようだ。
また場所も広範囲であり、かなり移動して調査しなければならないだろう。
そのため、コウキ達は馬車で移動しなければならない。
今回の任務は隊長である騎士ヒュロスと騎士達に仕える従騎士と巫女とその巫女を守る女騎士とその女性従騎士で構成される。
従騎士の数に巫女を含めるとかなりの大所帯であった。
コウキ達は神殿本部の中庭に集まる。
「こちらが、巫女メリニア様です」
ルクレツィアが巫女を騎士達に紹介する。
コウキはルクレツィアの後ろにいる巫女を見る。
巫女メリニアはまだ12歳だが、かなりの力を持っている事で有名だ。
元は貧しい生まれだったが、力があった事から、レーナ神殿に引き取られた。
修行をして今では立派な巫女である。
今回の事件をゴブリンの仕業ではないと看破し、事件を調査するために同行する。
彼女を力で犯人が見つからなければ、エルドにいる勇者達の力を借りなければならないだろう。
「さて、今回は巫女様が来て下さる。まやかしの術を使う魔物もこれで終わりだろう。諸君らは巫女様を守りながら北へと行き、魔物討伐に当たれ。以上だ」
ルクルスはそう言って指令を出すとその場を後にする。
「さあ、お前達! 行くぞ、遅れるなよ!」
ヒュロスの合図でコウキ達は行動を開始する。
今回の任務に割り当てられた騎士は12名、従騎士はコウキを入れて10名、そして、巫女とその護衛であるルクレツィアを含めた女性3名である。
騎士は馬に乗って行き、従騎士と巫女達は馬車で乗って行く。
「よう、コウキ。まさか一緒に任務に当たれるなんてな。よろしく頼むぜ」
一緒に行く従騎士の1人が声をかけてくる。
「あっ、ネッケ。君も任務に参加するんだ? こちらこそ、よろしく」
コウキは声を掛けて来た少年に答える。
声をかけて来たのはネッケスという少年だ。
年齢は12歳でコウキと同じ頃に入団したのでよく覚えている。
修練所でも良く会うので仲良くなった。
そんなネッケスは聖レナリア共和国の平民出身だ。
白鳥の騎士団は身分を問わずに入団できる。
もちろん、簡単ではなく騎士としての誓いをする事以外にも、一定の身分の者の紹介状が必要であった。
貴族やそれに関係する者であれば簡単に入団できるが、ネッケスには特に貴族に伝手がない。
そのため紹介状を得るまでが、かなり大変だったそうだ。
コウキとネッケスは少しの間話し合う。
任務中話す相手がいないのは辛いので、ネッケスが来てくれるのは嬉しかった。
「おいお前ら! 早く支度をしろ! 出発するぞ!」
少し太めの従騎士デイブスがコウキとネッケスを見て注意をする。
デイブスは27歳の従騎士である。
騎士を目指して入団したが、騎士になれないまま年齢を重ねてしまった。
正式な騎士になるには様々な条件があり、条件を満たさなければ騎士叙勲を受けられず、従騎士のままで終わる者も珍しくない。
デイブスもその1人である。
しかし、経験はかなり積んでいるので従騎士達のまとめ役になっている。
従騎士は騎士の補佐をするのが仕事であり、様々な雑用をこなさなければならない。
そのためやる事が多かった。
見ると他の従騎士達が馬車に積み込む荷物の確認をしている。
コウキも働かなくてはならないだろう。
だが、任務は初めてであり、どう動けば良いのかわからなかった。
本来ならどこかの騎士に従卒となり、色々と教えてもらうのだが、コウキにはその機会がないのである。
そのため、動きもぎこちなく手際が悪い。
「コウキは任務は初めてだったな。教えてやるよ」
そんなコウキを見かけたネッケスが助け舟を出す。
ネッケスはこんな下働きに慣れているのか手際が良い。
「ああ、ありがとう。ネッケ」
コウキはネッケスに礼を言い教わりながら仕事をする。
もちろん、他の従騎士は忙しく働く。
武具の手入れ、馬の世話、様々な物品の管理。
やる事は多かった。
そんな従騎士の中で唯一働いていない者がいる。
それはギルフォスだ。
ギルフォスは従騎士だが特別扱いを受けており、騎士と同じ待遇である。
騎士も従騎士もその事を咎める者はいない。
なぜなら、神の子であり、その強さはこの場にいる騎士達が束になっても敵わない。
あまりにも若くなければとっくに騎士になっていただろう。
一緒に行く事になる巫女の護衛の騎士もギルフォスに熱い視線を送っている。
美少年でもあるギルフォスは聖レナリア共和国の女性達から人気が高い。
将来は白鳥の騎士団を代表する騎士となるだろう。
そのため誰もがギルフォスを特別扱いするのである。
「……羨ましいな。だけど俺もいつか騎士になって、歌われるような存在になってやる」
ネッケスは手を動かしながらギルフォスを見る。
ネッケスは英雄である白鳥の騎士ローエンの物語に憧れて入団した。
平民であり、特に貴族の後ろ盾もないネッケスが入団するのはとんでもない苦労があったに違いない。
それでも夢をかなえるために必死に頑張っている姿をコウキは何度も見てきた。
コウキも見習いたいと思う。
「あっ、悪い。コウキ。ホプロン様が呼んでいる。ちょっと行かないといけない。後は頼んで良いか」
「ああ、後の事はやっておくよ……」
「すまねえ、じゃあ行って来る」
仕事をしている時だった。
自身が仕える騎士に呼ばれたネッケスが席を外す。
そのため、コウキは1人で仕事をする事になる。
だが、ネッケスのように手際よくは出来なかった。
「何をしているんだ! お前! 初めて見るが名前は何という!」
デイブスの怒声がコウキの背中に届く。
これまで、騎士の元で働いてこなかったコウキは上手く動けないでいる。
その手際の悪さを見たデイブスがコウキに怒声を飛ばしたのだ。
振り向くとデイブスが近づいて来る。
「ま、待て! デイブス!」
だが、デイブスが近づこうとしたその時だった。
別の従騎士がデイブスを止める。
ひょろ長い背丈の従騎士ノッポスである。
デイブスと同じぐらいの年齢で、デイブスと共に動く事が多い。
ノッポスはデイブスを止めると耳打ちする。
「えっ、ギルフォス様と同じ扱い……、どういう事だ?」
「わからない……。だが、そうみたいだ……」
デイブスとノッポスはコウキを見ながら小声で話をしている。
「ええと、いいんだ。適当にやっててくれ……」
ノッポスとの話を終えたデイブスは納得のいかない顔をしたままそう言うと離れていく。
「まさか、顔が良いからというわけじゃないよな……」
デイブスは呟き声が聞こえる。
(何だろう?)
コウキは首を傾げながらデイブスとノッポスの後ろ姿を見送るのであった。
◆
時刻は昼、森の中に獣神子テリオンとその配下の人狼達はいる。
場所は聖レナリア共和国からかなり離れている。
人の足では一日以上もかかるだろう。
しかし、人狼達ならばほんのわずかの時間で移動が可能である。
そんな人狼達の足元には数匹の猪の死体。
先程狩ったばかりの獲物だ。
テリオン達はその猪にかぶりつき食事をしている最中であった。
側では同じように人狼達が食事をしている。
「おい、イカヅチ。気付いているか?」
テリオンは猪の肉にかじりながら、側にイカヅチに聞く。
「はい、若! 出てこい! 隠れていてもわかっているぞ!」
イカヅチは藪の中に向かって吠える。
イカヅチは他の人狼と違い、テリオンを守るために一緒に眠らされていた魔狼である。
テリオンが目覚めた時、共に目覚め、世界を喰らうために動く。
そのイカヅチの咆哮は魔力が込められていて、並みの生物なら聞いただけで動けなくなるだろう。
「さ、さすがは1の首様が認めた御方だ……。私の隠密を見破るとは……」
呻き声と共に何者かが出てくる。
出て来た者は一見黒装束を着た人間である。
しかし、その者からは普通の人間とは違う嫌な匂いを漂わせていた。
「ほう、あの蛇女の使いか? どうやって、俺達の居場所がわかった? 何の用だ?」
イカヅチは睨んで言う。
イカヅチは警戒を解かずに言う。
咆哮を受けて、足元がおぼつかないようだが、この場所を嗅ぎ付けた情報収集能力は侮れない。
警戒するのも当然だった。
「はい、実は面白い情報を手に入れましてね。至急お伝えに来たしだいですよ」
黒装束の人間は笑いながら言う。
「面白い事だと? それは何だ? 答えろ?」
イカヅチは背中の大剣を手にすると黒装束の人間に向ける。
「いえね、人間の巫女の話を御存知でしょうか? 星を見る能力があるらしいのですよ。もしかするとそちらが知りたい事を得られるかもしれません」
「ほーん……」
側で聞いていたテリオンは思わず声を出す。
興味深い情報であった。
「その人間の巫女とやらはどこにいる?」
テリオンが興味を持った事に気付いたのかイカヅチはさらに聞く。
人間風情の巫女にどれだけの力があるかわからない。
しかし、白き狼の巫女カジーカの行方がわからない状態ではそれに頼るのも仕方がないだろうとテリオンは思う。
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テリオンはその人間の言葉を興味深そうに聞くのだった。
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