暗黒騎士物語

根崎タケル

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第12章 勇者の王国

第24話  剣師

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 チユキの目の前でシロネと竜人ドラゴニュートアズムルが刃を交える。
 圧倒的にシロネが優勢だ。
 竜人ドラゴニュートは強い。
 しかし、真竜トゥルードラゴン程の強さはない。
 シロネは並みのドラゴンならば簡単に倒せる、竜人ドラゴニュート程度では敵わないのが当然だ。
 チユキは転生して出直して来なさいと言いたくなる。
 ちなみに竜人ドラゴニュートはとある秘術を使う事で真竜トゥルードラゴンに転生できるらしい。
 
「グルルルルル、やはり敵わぬか!」

 そう言うとアズムルが撤退する。
 アズムルの行く手を阻むようにリザードマン戦士達が立ちはだかる。
 後を追わせないつもりらしい。

「どうするチユキさん?」
「こっちも撤退するしかないわね。ゴシション先生がどうなったのか気になるけど、入った人達を出来る限り脱出させて私達も撤退よ」

 チユキはそう決断する。
 ゴシションの行方は気になる。
 しかし、リザードマン達が戻って来ていて、さらに竜人ドラゴニュートもいる。
 人間を嫌う彼らがいる以上、ゴシションも生きてはいないとみるべきだろう。

「確かにそうかも……。でも何か嫌な予感がするよ。あの子もいるし」

 シロネは呟く。
 あの子というのは白銀の魔女クーナだろう。
 確かに気になるが、出来る限り早めに脱出しないと危険である。
 チユキとシロネは後ろに下がろうとする。
 そんな二人の背後から何かが近づいてくるのを感じる。
 チユキが後ろを見るとそこには巨大なタガメのような虫がいる。

「えっ!? 虫」

 チユキは驚く。
 虫は一匹ではなくタガメの後ろには人間とゲンゴロウを合わせたような虫人が立っている。
 その横には呪術師のような姿のリザードマン。
 この虫達を操っているようだ。

「御主達の仲間が用意していた虫。我らの方で利用させてもらうぞ」

 呪術師は笑う。
 そして次の瞬間に砦が少し揺れる。

「チユキさん。何か嫌な気配を感じる」

 シロネはアズムルが去った方を見る。

「グルル。くふふ、あれが動き始めたようだ。まさかあのような虫を育てているとはな人間も侮れん。だが、今は我らの手中。悔しかろう」

 呪術師は語る。
 チユキとシロネは顔を見合わせる。
 状況を説明してくれる。呪術師に少しだけ感謝である。
 
「何だか、とんでもない事になっているみたいね」
「撤退もできないかも」
 
 チユキとシロネは覚悟を決めるのだった。

 




 オズとボームは砦の中を急ぎ走る。
 なぜなら後ろには変形し人外へと変貌したブイルが追って来ているのだ。
 ブイルは明らかにこっちを狙って来ている。
 捕まれば命はないだろう。
 急ぎ逃げる必要があった。

「ひいいいいっ! 何だよあれ!?」

 ボームは振り返らずに走る。

「ボーム、急ぐんだ! 早く!」

 先を行くオズがもどかしそうに言う。
 ボームは太っていて、そもそも運動が得意ではない。
 足が遅くブイルに追いつかれていないのが不思議なぐらいである。
 だが、いずれこのままでは追いつかれるだろう。
 
「ああっ!」

 そんな時だったボームが転ぶ。
 
「ボーム!」

 オズはボームに駆け寄る。

「ごめん、オズ……。もう走れそうにない……。先に逃げてくれ」
「何言っているんだ! ボーム! そんな事できるわけないだろう! そもそも! 一緒にいたから襲われているのに!」

 オズはそう言うと剣を抜く。
 ブイルの第一狙いはオズ。
 それがわかっているのでオズは後悔する。
 ボームを巻き込んでしまった。そんなボームを置いていくわけにはいかない。
 逃げられない以上は戦うしかない。
 ブイルの叫び声が聞こえる。
 その声は近づいているみたいだ。

「……そこにいるのは誰だ? 子どもの声みたいだが」

 そんな時だった。
 近くから声が聞こえる。

「えっ、誰かいるの?」

 ボームは周囲を見る。
 すると砦の通路の影になっている所から声がする。
 船の残骸を積んで作られた砦なので、通路はデコボコであり、その歪んだ箇所に隙間がある。
 普通に歩いていたら気付かない場所だ。
 オズとボームはその隙間に近づく。
 何とか人が一人入れそうな隙間。
 そこに顔を突っ込む。
 中は意外と広く、その中に誰かがいるようであった。
 様子からして人間のようである。
 
「お願いです。助けてください。追われているんです」

 オズは助けを求める。 
 状況から見て彼もまた逃げてここに隠れているように見える。
 助けになってくれるような力はなそうであった。
 しかし、それでもオズは助けを求めずにいられなかった。
 それだけ状況がひっ迫しているのである。

「追われている? 待ちなさい、灯りをつけよう」

 座っている者が何か呟く。するとその隙間の中が少し明るくなる。
 座っていたのは魔術師風の男。
 オズとボームはその者に見覚えがあった。
 魔術師風の男は胸を苦しそうに押さえているケガをして休んでいるようだ。 

「君達は? ああ、あの時のコウキ殿と一緒にいた子か? なぜここに?」

 座っている者がオズとボームを見て言う。
 
「「あ、あなたは!?」」

 オズとボームは同時に声を上げる。
 そこに座っていた魔術師風の男は探しているゴシションであった。

「追われているのだろう……。早く入って来なさい、子ども達よ。私の魔術で隠して上げよう」

 ゴシションは手招きする。
 隙間の中は思った以上に広く、オズとボームが入っても大丈夫そうであった。
 思いがけない人物との遭遇。
 ブイルが迫る音が近づいてくる。
 オズとボームは急ぎ中へと入るのだった。



 コウキは暗黒騎士と剣を交える。
 暗黒騎士からもらった剣は扱い安く、手になじむ。
 欠点は少し長い事である。
 しかし、それもコウキが成長して背が高くなれば丁度よくなるだろう。
 まるでコウキのためにあるような剣であった。
 コウキはその剣を使い、これまで練習して来た全てを暗黒騎士にぶつける。
 その一撃一撃を暗黒騎士は丁寧に受け流す。
 返す刃でコウキに攻撃するが、どれもゆるくコウキが対応できる速さであった。

(どうして? 勝負はもうついているはずなのに……)

 コウキは疑問に思う。
 暗黒騎士との力の差は天と地以上の差がある事は間違いなく、コウキが生きているのは相手に殺す気がないからだ。
 遊んで嬲ろうという気も感じない。
 純粋にコウキと剣を交えているだけのようであった。

(だけど、それが隙を作るはずだ)

 コウキは考える。
 コウキが剣を振るのは母親に立派な騎士になる約束をしたからだ。
 騎士は強く優秀な戦士が名乗る称号。
 だから強くなるために剣を学んでいるのだ。
 そのためにエルドに預けられた。
 少なくともコウキはそう思っている。
 学ぶ対象は光の勇者レイジであり剣の乙女と呼ばれるシロネであった。
 しかし、どちらもからも学ぶ事はできなかった。
 レイジは面倒臭がり、シロネは教えるのが下手で学ぶ事ができなかった。
 何もできない日々であり、コウキがしていたのは自主練とレイジの娘であるサーナの世話の方が多かった。
 そんな時だった、クロキに出会ったのは。
 初めてクロキの剣を見た時、コウキは震えた。
 レイジやシロネにも負けない優れた剣士に出会ったのである。
 コウキは頭を下げて剣を教えて欲しいと願った。
 クロキはその願いを聞いてくれた。
 短い期間であったが、クロキは基本的な事や剣を振る上で大切な事を教えてくれた。
 コウキはそれが嬉しかった。
 クロキと別れた後、コウキは毎日教わった事を練習している。
 その修練所が出来、色々と教われるようになった。
 その教官である戦士達でクロキ程の剣士はいなかった。
 それでも多くの事を学べたとコウキは思っている。
 コウキは暗黒騎士を見る。
 暗黒騎士もかなりの剣士のようであった。
 力任せに剣を振るっているのではない。
 ある程度学んだからこそわかる動きであった。
 
(クロキ先生に似ている……)

 コウキは暗黒騎士と剣を交えていくうちにそう考えるようになった。
 コウキが理想とする動きが暗黒騎士にはあった。
 本来ならばすでに勝負がついている状況。
 暗黒騎士が本気を出していないからこそ、コウキはまだ生きている。
 敵ではないと舐めているのかとも思ったが、そういう感じではない。
 むしろ暗黒騎士はコウキに剣を教えてくれているように感じる。
 剣を交えているうちにコウキの未熟な部分が修正されていっていた。
 以前よりもコウキは鋭い一撃が出せている。
 コウキは剣を構える。
 疲れてはいるがまだまだ戦えそうであった。
 そんな時だった。
 地面が大きく揺れる。
 それは砦自体が揺らいでいるかのようであった。
 
「何が起こっているんだ?」

 暗黒騎士が揺らいだ方を見る。
 また、砦の中で何かが起こっているようであった。



 
 
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