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第12章 勇者の王国
第12話 エルドの外側で
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「あのゴシション先生。自分達も一緒に連れて行ってもらえないでしょうか?」
コウキはゴシションに頭を下げる。
するとゴシションは少し驚いた顔をして首を振る。
「それは無理ですよ、コウキ殿。そもそも、チユキ様の許可はもらっているのでしょうか?」
「えっ、それは……」
コウキは言葉が出なくなる。
チユキには犯人を捜している事すら言っていないのだ。
許可などもらっているわけがない。
「コウキ殿。ここは城壁の外。チユキ様が後見している子を危ない場所に連れていく事はできません。それに何か事件が起こっているようですし、立場上、城壁の中に戻りなさいと言わざるをえません。」
ゴシションは頭を下げて言う。
礼儀正しい。コウキのような子ども相手でもしっかりしている。
そして、言っている事ももっともであった。
ゴシションはチユキに仕える魔術師だ。
チユキが預かっている子を許可もなく、城壁外を連れて歩けるわけがない。
しかも何か事件が起きている。
連れて行ってもらえなくて当然であった。
「わかりました。無理を言って申し訳ないです、先生」
コウキは諦めて仲間達の所に戻る。
「その通りだぜ。こんな育ちの良さそうな子どもは城壁の中で大人しくしてるんだな」
「そうだぜ、良い子は城壁の中で大人しくしてな」
「がはははは」
ゴシションの側にいた戦士風の男達が言う。
その言葉はコウキだけにかけられたものではない。
オズはもちろんボームも男達から見たら育ちが良いのである。
市民の子であっても全員が剣や文字を学べるとは限らない。
ボームもエルドに住む者全体から見たら、かなり育ちが良いといえるだろう。
「どうしよう。無理みたいだね」
ボームがしょんぼりする。
「仕方がない。別の手段を考えよう。それからピュグマイオイ達から頼まれた事はどうする」
「確かに、どうしようか?」
コウキも考える。耕作地に勝手に入ることは難しい。
ゴシションのようなチユキに仕える魔術師が一緒であれば、入れてくれるだろうが断られてしまった。
これではピュグマイオイのタッキュから頼まれたファブルへの手紙を渡せない。
「そうだ、コウ。せめて頼めないかな」
「うん、わかった」
もう一度コウキはゴシションの元へと行く。
「どうしたのですか? コウキ殿?」
「実は先生に頼みたい事がありまして、実はピュグマイオイから頼まれたことがありまして」
コウキは事情を説明する。
「ほう、ピュグマイオイの虫博士ですか……? もし、その者を見かけましたら、お知らせしましょう」
ゴシションがそう言った時だった。
コウキの耳元で小さく警告する声が聞こえる。
(えっ、この声は……!?)
コウキは思わず声を出しそうになる。
「どうかしたのですか? コウキ殿?」
「い、いえ。何でもないです」
「そうですか、それでは私共は行きましょう」
ゴシションは先へと進んでいく。
ゴシションが去るとオズとボームが駆け寄ってくる。
「これで、ピュグマイオイの虫博士に伝わってくれると良いのだけどな」
「そうだね……。ん、コウ? どうしたの?」
ボームはコウキの様子がおかしいのに気づき首を傾げる。
「いや、何でもないよ……」
コウキは首を振って誤魔化す。
「そうか、とりあえずどうしようか……」
「そうだね。とりあえず戻ろうか」
コウキ達は一旦戻る事にする。
(今の警告は? どういう事だろう?)
コウキは戻りながら先程の事を考えるのだった。
◆
「さて、久しぶりに来たけどどうなっているかな?」
クロキは黒竜グロリアスの背からバンドール平野を眺める。
クロキは定期的にバンドール平野に来て、勇者達の動向を調べているのである。
もちろん、あまり近づく事は出来ない。
勇者の仲間であるナオは鋭い探知能力を持つので迂闊に近づけば直ぐに察知されるだろう。
だから、周辺で情報収集するのが精いっぱいであった。
「うむ、エルドでは何か事件が起こっているみたいだぞ、クロキ」
一緒にグロリアスに乗っているクーナが言う。
「わかるの、クーナ?」
「ああ、虫等を使えばある程度はわかるぞ、クロキ」
「なるほど……。便利だね。それ」
クロキは探索系の能力がほとんどない。
一応勇者の国エルドに使徒はいるが、彼にスパイ活動をさせるつもりはない。
そのため、彼との間で連絡を取り合うことはしないのである。
それに対してクーナは様々な情報収集するための手段を持っている。
それはクロキも驚く程だ。
「良ければ調べにいってやるぞ。クロキ」
クーナは笑って言う。
その表情は悪戯っ子のようであった。
「それはダメだよ、クーナ! ようやく動けるようになったばかりだというのに!」
クロキはクーナを止める。
クーナは子どもを生み、ようやく動けるようになったばかりだ。
ちなみに子どもは預けている。
何でも高貴な生まれの子は乳母等の養育係が育てるのが基本なのだそうで、言われてクロキもそうする事にした。
実際に魔王の娘ポレンを育てたのは魔女ヘルカートであり、母親のモーナはあまり関与していなかったりする。
クロキは自身が高貴だとは思っていないが、説得されて承諾した。
今頃リウキはヘルカートが選んだ養育係の元にいるだろう。
泣いてないだろうかとクロキは思う。
「そうか、ならば違う手段で情報を集めてやるぞ、クロキ。待っていろ」
クーナの手から黒い何かが飛び出す。
何をしているのかわからない。
「ええと、ありがとう、クーナ。でも無理はしないでね」
「大丈夫だぞ。すでにいくつも手駒を忍ばせている。そやつらが情報を持ってくるだろう。心配するな、クロキ」
クーナは笑う。
クーナの配下には様々の能力に秀でた者もいて、クロキもその全てを知っているわけではない。
ただ、知っている者の中には怪しい者が何名か含まれている。
特にクーナの側にいる道化は明らかに怪しかったりする。
クロキは少しだけ不安に思うのだった。
◆
「ぐへへへへ、リウキ君。今日も来たよ~」
魔王の娘ポレンはナルゴルにあるクロキの屋敷へと来る。
狙いは生まれたばかりのリウキに会うためだ。
ちなみ現在の姿はブタである。
まだまだ、美少女形態を長時間維持する事はできず、楽な姿のままで来ているのだ。
「これは殿下。ようこそおいで下さいました」
リウキを抱くダークエルフのヴェルタが頭を下げる。
ヴェルタは魔女ヘルカートの弟子であり、リウキの養育係に選ばれた。
そしてこの屋敷の留守を預かっている。
主がいないので来客は基本的に受け入れていけないのだが、魔王の娘であるポレンを阻む事はできない。
そのため、ヴェルタは困ってしまう。
「ねえねえ、リウキ君を抱かせてよ。お願い!」
ポレンは目を輝かせながらリウキに近づく。
するとリウキがぐずり出す。
「殿下~。あんまり怖がらせちゃダメなのさ」
一緒に来たプチナがポレンを何とか止めようとする。
「怖いだなんて、そんな事ないよね~。リウキ君。ぐふふふ、リウキ君は先生と師匠の子だものね~。ずえ~ったい美男子に育つよね~」
ポレンは半ば強引にリウキをヴェルタの腕から抱き取る。
実際リウキはかなり綺麗な子であった。
幼い顔立ちだが、クーナの血を引いている事がわかる。
将来有望間違いなしだ。
そのため、ポレンはリウキが育つのが楽しみであった。
「本当に可愛いね~。リウキ君は食べちゃいたいくらいだよ」
ポレンがそう言った時だった。
ポレンは服が引っ張られるのを感じる。
見るとプチナとヴェルタが青ざめた顔をして首を横に「ふるふる」と振っている。
明らかにポレンがリウキを食べるのではないかと心配している顔であった。
「ちょ、ちょっと!? 本当に食べるわけないでしょーーーー!!!!!」
思わずポレンは大声を出す。
そして、リウキは盛大に泣き出すのであった。
◆
耕作地から離れたコウキ達は城壁内へと戻る事にする。
そして、コウキはオズとボームと離れチユキの元へと向かう。
要はチユキから許可をもらえば良いのである。
コウキは一人歩き、路地裏に入った時だった。
「ルウ姉さん。付いて来ているんでしょ? 出て来てよ」
コウキは立ち止まり後ろにいる者に呼びかける。
「はい、コウキさん」
すると声と共に何者かが姿を現す気配を感じる。
コウキは振り返る。
そこにいたのは1名の少女である。人間の年齢でいえば17歳前後ぐらいであり、とても美しい。
ただ、普通の人間とは違う。
美しい髪から出ている耳の先が尖っている。
もちろんエルフの姫ルウシエンである。
ルウシエンはコウキが犯人捜しをするのを心配して付いて来たのだ。
昼前に岩中の執務室で会ったキョウカとカヤが言う保護者とはルウシエンの事だったのだ。
「ねえ、ルウ姉さん。さっき、警告をしたよね。どういう事なの?」
コウキは先程の事を聞く。
コウキに警告する声を出したのは間違いなくルウシエンである。
つまり、ゴシションとの会話に何か警告するものがあった事になる。
「はい、あの者は嘘を吐いていました。ピュグマイオイを見かけてもお知らせするつもりはないようです」
ルウシエンは答える。
リノ程ではないがルウシエンは嘘を感知する能力がある。
普通の人間であれば嘘を隠す事はできない。
間違いなくゴシションは嘘を吐いていたことになるのだ。
「ゴシション先生が……。どういう事だろう?」
コウキは首を傾げる。
ゴシションは優れた魔術師だ。
なぜ、そんな嘘を吐いたのかわからない。
彼がコウキにピュグマイオイの事を隠す理由は思いあたらない。
その事も含めてチユキに相談すべきかもしれなかった。
「どういたしますか? コウキさん?」
「とりあえずはチユキ様に報告するよ。そして、許可をもらうつもり」
「危険かもしれませんよ」
ルウシエンはコウキを心配する。
「それでも行くよ。自分は騎士を目指しているんだ。騎士は危険を恐れてはいけないと思うから」
コウキはそう言って歩き出すのだった。
コウキはゴシションに頭を下げる。
するとゴシションは少し驚いた顔をして首を振る。
「それは無理ですよ、コウキ殿。そもそも、チユキ様の許可はもらっているのでしょうか?」
「えっ、それは……」
コウキは言葉が出なくなる。
チユキには犯人を捜している事すら言っていないのだ。
許可などもらっているわけがない。
「コウキ殿。ここは城壁の外。チユキ様が後見している子を危ない場所に連れていく事はできません。それに何か事件が起こっているようですし、立場上、城壁の中に戻りなさいと言わざるをえません。」
ゴシションは頭を下げて言う。
礼儀正しい。コウキのような子ども相手でもしっかりしている。
そして、言っている事ももっともであった。
ゴシションはチユキに仕える魔術師だ。
チユキが預かっている子を許可もなく、城壁外を連れて歩けるわけがない。
しかも何か事件が起きている。
連れて行ってもらえなくて当然であった。
「わかりました。無理を言って申し訳ないです、先生」
コウキは諦めて仲間達の所に戻る。
「その通りだぜ。こんな育ちの良さそうな子どもは城壁の中で大人しくしてるんだな」
「そうだぜ、良い子は城壁の中で大人しくしてな」
「がはははは」
ゴシションの側にいた戦士風の男達が言う。
その言葉はコウキだけにかけられたものではない。
オズはもちろんボームも男達から見たら育ちが良いのである。
市民の子であっても全員が剣や文字を学べるとは限らない。
ボームもエルドに住む者全体から見たら、かなり育ちが良いといえるだろう。
「どうしよう。無理みたいだね」
ボームがしょんぼりする。
「仕方がない。別の手段を考えよう。それからピュグマイオイ達から頼まれた事はどうする」
「確かに、どうしようか?」
コウキも考える。耕作地に勝手に入ることは難しい。
ゴシションのようなチユキに仕える魔術師が一緒であれば、入れてくれるだろうが断られてしまった。
これではピュグマイオイのタッキュから頼まれたファブルへの手紙を渡せない。
「そうだ、コウ。せめて頼めないかな」
「うん、わかった」
もう一度コウキはゴシションの元へと行く。
「どうしたのですか? コウキ殿?」
「実は先生に頼みたい事がありまして、実はピュグマイオイから頼まれたことがありまして」
コウキは事情を説明する。
「ほう、ピュグマイオイの虫博士ですか……? もし、その者を見かけましたら、お知らせしましょう」
ゴシションがそう言った時だった。
コウキの耳元で小さく警告する声が聞こえる。
(えっ、この声は……!?)
コウキは思わず声を出しそうになる。
「どうかしたのですか? コウキ殿?」
「い、いえ。何でもないです」
「そうですか、それでは私共は行きましょう」
ゴシションは先へと進んでいく。
ゴシションが去るとオズとボームが駆け寄ってくる。
「これで、ピュグマイオイの虫博士に伝わってくれると良いのだけどな」
「そうだね……。ん、コウ? どうしたの?」
ボームはコウキの様子がおかしいのに気づき首を傾げる。
「いや、何でもないよ……」
コウキは首を振って誤魔化す。
「そうか、とりあえずどうしようか……」
「そうだね。とりあえず戻ろうか」
コウキ達は一旦戻る事にする。
(今の警告は? どういう事だろう?)
コウキは戻りながら先程の事を考えるのだった。
◆
「さて、久しぶりに来たけどどうなっているかな?」
クロキは黒竜グロリアスの背からバンドール平野を眺める。
クロキは定期的にバンドール平野に来て、勇者達の動向を調べているのである。
もちろん、あまり近づく事は出来ない。
勇者の仲間であるナオは鋭い探知能力を持つので迂闊に近づけば直ぐに察知されるだろう。
だから、周辺で情報収集するのが精いっぱいであった。
「うむ、エルドでは何か事件が起こっているみたいだぞ、クロキ」
一緒にグロリアスに乗っているクーナが言う。
「わかるの、クーナ?」
「ああ、虫等を使えばある程度はわかるぞ、クロキ」
「なるほど……。便利だね。それ」
クロキは探索系の能力がほとんどない。
一応勇者の国エルドに使徒はいるが、彼にスパイ活動をさせるつもりはない。
そのため、彼との間で連絡を取り合うことはしないのである。
それに対してクーナは様々な情報収集するための手段を持っている。
それはクロキも驚く程だ。
「良ければ調べにいってやるぞ。クロキ」
クーナは笑って言う。
その表情は悪戯っ子のようであった。
「それはダメだよ、クーナ! ようやく動けるようになったばかりだというのに!」
クロキはクーナを止める。
クーナは子どもを生み、ようやく動けるようになったばかりだ。
ちなみに子どもは預けている。
何でも高貴な生まれの子は乳母等の養育係が育てるのが基本なのだそうで、言われてクロキもそうする事にした。
実際に魔王の娘ポレンを育てたのは魔女ヘルカートであり、母親のモーナはあまり関与していなかったりする。
クロキは自身が高貴だとは思っていないが、説得されて承諾した。
今頃リウキはヘルカートが選んだ養育係の元にいるだろう。
泣いてないだろうかとクロキは思う。
「そうか、ならば違う手段で情報を集めてやるぞ、クロキ。待っていろ」
クーナの手から黒い何かが飛び出す。
何をしているのかわからない。
「ええと、ありがとう、クーナ。でも無理はしないでね」
「大丈夫だぞ。すでにいくつも手駒を忍ばせている。そやつらが情報を持ってくるだろう。心配するな、クロキ」
クーナは笑う。
クーナの配下には様々の能力に秀でた者もいて、クロキもその全てを知っているわけではない。
ただ、知っている者の中には怪しい者が何名か含まれている。
特にクーナの側にいる道化は明らかに怪しかったりする。
クロキは少しだけ不安に思うのだった。
◆
「ぐへへへへ、リウキ君。今日も来たよ~」
魔王の娘ポレンはナルゴルにあるクロキの屋敷へと来る。
狙いは生まれたばかりのリウキに会うためだ。
ちなみ現在の姿はブタである。
まだまだ、美少女形態を長時間維持する事はできず、楽な姿のままで来ているのだ。
「これは殿下。ようこそおいで下さいました」
リウキを抱くダークエルフのヴェルタが頭を下げる。
ヴェルタは魔女ヘルカートの弟子であり、リウキの養育係に選ばれた。
そしてこの屋敷の留守を預かっている。
主がいないので来客は基本的に受け入れていけないのだが、魔王の娘であるポレンを阻む事はできない。
そのため、ヴェルタは困ってしまう。
「ねえねえ、リウキ君を抱かせてよ。お願い!」
ポレンは目を輝かせながらリウキに近づく。
するとリウキがぐずり出す。
「殿下~。あんまり怖がらせちゃダメなのさ」
一緒に来たプチナがポレンを何とか止めようとする。
「怖いだなんて、そんな事ないよね~。リウキ君。ぐふふふ、リウキ君は先生と師匠の子だものね~。ずえ~ったい美男子に育つよね~」
ポレンは半ば強引にリウキをヴェルタの腕から抱き取る。
実際リウキはかなり綺麗な子であった。
幼い顔立ちだが、クーナの血を引いている事がわかる。
将来有望間違いなしだ。
そのため、ポレンはリウキが育つのが楽しみであった。
「本当に可愛いね~。リウキ君は食べちゃいたいくらいだよ」
ポレンがそう言った時だった。
ポレンは服が引っ張られるのを感じる。
見るとプチナとヴェルタが青ざめた顔をして首を横に「ふるふる」と振っている。
明らかにポレンがリウキを食べるのではないかと心配している顔であった。
「ちょ、ちょっと!? 本当に食べるわけないでしょーーーー!!!!!」
思わずポレンは大声を出す。
そして、リウキは盛大に泣き出すのであった。
◆
耕作地から離れたコウキ達は城壁内へと戻る事にする。
そして、コウキはオズとボームと離れチユキの元へと向かう。
要はチユキから許可をもらえば良いのである。
コウキは一人歩き、路地裏に入った時だった。
「ルウ姉さん。付いて来ているんでしょ? 出て来てよ」
コウキは立ち止まり後ろにいる者に呼びかける。
「はい、コウキさん」
すると声と共に何者かが姿を現す気配を感じる。
コウキは振り返る。
そこにいたのは1名の少女である。人間の年齢でいえば17歳前後ぐらいであり、とても美しい。
ただ、普通の人間とは違う。
美しい髪から出ている耳の先が尖っている。
もちろんエルフの姫ルウシエンである。
ルウシエンはコウキが犯人捜しをするのを心配して付いて来たのだ。
昼前に岩中の執務室で会ったキョウカとカヤが言う保護者とはルウシエンの事だったのだ。
「ねえ、ルウ姉さん。さっき、警告をしたよね。どういう事なの?」
コウキは先程の事を聞く。
コウキに警告する声を出したのは間違いなくルウシエンである。
つまり、ゴシションとの会話に何か警告するものがあった事になる。
「はい、あの者は嘘を吐いていました。ピュグマイオイを見かけてもお知らせするつもりはないようです」
ルウシエンは答える。
リノ程ではないがルウシエンは嘘を感知する能力がある。
普通の人間であれば嘘を隠す事はできない。
間違いなくゴシションは嘘を吐いていたことになるのだ。
「ゴシション先生が……。どういう事だろう?」
コウキは首を傾げる。
ゴシションは優れた魔術師だ。
なぜ、そんな嘘を吐いたのかわからない。
彼がコウキにピュグマイオイの事を隠す理由は思いあたらない。
その事も含めてチユキに相談すべきかもしれなかった。
「どういたしますか? コウキさん?」
「とりあえずはチユキ様に報告するよ。そして、許可をもらうつもり」
「危険かもしれませんよ」
ルウシエンはコウキを心配する。
「それでも行くよ。自分は騎士を目指しているんだ。騎士は危険を恐れてはいけないと思うから」
コウキはそう言って歩き出すのだった。
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