暗黒騎士物語

根崎タケル

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第11章 魔術の学院

第30話 魔術都市サリアの平穏

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「ひさしぶりだな、ラーサよ」
「ひさしぶりじゃな、お前様。そちらは力を取り戻したようで何よりじゃ」

 ラーサは映像のザルキシスと話す。
 ラーサがザルキシスと離れてかなりの時間が経過している。
 こうして話すのも久しぶりであった。

「そちらは力を取り戻せなかったようだな。不運の相は相変わらずか……」
「うう、言うでない……。不運なぞ認めぬぞ、そんなものはまやかしだ……」

 ラーサは項垂れる。
 離れた原因は互いに力を失い、またラーサには不運の相があったからだ。
 ラーサと一緒にいると何をするにしても上手くいかず、共倒れになるのを避けるため、ザルキシスは別行動を取ったのだ。
 
「まやかしと思いたいのはわかる。しかし、今回の事は本当に不運だったな、まさか暗黒騎士とは出会うとはな……」
「くう~! 本当にそれじゃ! モデス以来じゃぞ! あれほどの圧を感じたのは! 全く忌々しい!」

 ラーサは悔しがる。
 暗黒騎士さえいなければ何とかなったかもしれない。
 
「さて、これからどうするつもりだ? ラーサよ?」
「ふん、何とか力を取り戻す方法を探すわい! 暗黒騎士は無理でも小娘共にはやり返す!」

 ラーサは禁書庫で戦った小娘達を思い出す。
 力を取り戻し、元の姿に戻れば小娘よりも背が高くなり、胸も大きくなる。
 何としても見返してやろうとラーサは叫ぶのだった。




 チユキはサリアからエルドへと戻って来る。
 エルドの街はカヤの指導でより発展しているようであった。
 チユキはエルドの談話室で休む、羽毛の入った長椅子は体を優しく支え、程よく体を脱力させてくれる。

「お帰り、チユキ。さっきカヤがものすごい形相で走っていったが、どうしたんだ?」

 戻って来たチユキに会いにレイジがやってくる。

「カヤさんはサリアに残ったキョウカさんの様子を見に行ったわ。何か嫌な予感がしたみたいよ」

 出迎えたカヤが入れ替わりにサリアへとつい先ほど行ってしまった。
 ラーサを追い払った後、サリアに平穏が訪れた。
 そして、サリアで一晩過ごして、朝にチユキはマギウスと禁書庫で何があったのか報告して、今エルドに戻った所だ。
 ちなみにキョウカとは同じ宿ではない、彼女は別の場所で一晩すごした。
 どこに宿泊したか聞かなかったが、サビーナの所に行ったのだろうとチユキは思っている。
 チユキが泊った宿よりもかなり豪華だろうから、より休めただろう。
 そして、戻って来て、出迎えに来たカヤにサリアで起こった事を少し話すと、大急ぎでサリアへと行ってしまった。
 
「そうか、まあキョウカが心配なんだろうな。でもあいつも俺の妹だ、心配しなくても大丈夫だろう」

 レイジは笑って言う。
 キョウカの事を心配していないようだ。
 実はチユキもキョウカの事を心配していない。
 最近キョウカの事を見直したが、彼女の人を見る目は確かである。
 誰かに騙されたりしないだろう。

「そういえば、みんなはどうしたの? いないみたいだけど?」
「ああ、シロネとナオとリノは近くの国に行っている。そして、サホコはいつも通りサーナと一緒だ」
「近くの国? 何かあったの?」
「ああ、俺達が留守にしている間に怪しい奴らがエルドに何度も入って来ていたらしい。それの調査だ。おそらく魔王を信仰している奴らか、蛇の女王を信仰している奴だろうな」

 レイジは不敵な笑みを浮かべる。
 自分達にちょっかいをかけようとした者達を叩き潰すつもりのようだ。

「魔教徒か、ついにここにも来たのね。でもどうすべきかしら?」

 チユキは溜息を吐く。
 魔教徒にはサビーナのようなものもいる。
 それに魔王の側にも言い分がありそうなのである。
 そのため、今後の方針で迷うところもあった。
 チユキの悩みは尽きないのであった。


 







 ストレガ達が去り、一夜明け、魔術都市サリアに平穏が戻った。
 昨夜の事件は「ストレガの夜」と呼ばれる事になり、その事件の影響で多くの魔術師が救護院に運ばれた。
 幸い死者はなく、ほとんどは精神的な傷害であった。
 はっきり言うとストリゲス達やアンデッドよりも暗黒騎士の放った恐怖の波動が原因で救護院に運ばれた者の方が多い。
 そして、そんな救護院へとカタカケとミツアミは来ていた。
 救護院では深緑の賢者ラストスと妖艶の賢者サビーナの弟子達が被害にあった者の治療にあたっている。
 救護院は他の国では医と薬草の女神であるファナケアの司祭が運営している事が多いが、このサリアでは違う。
 魔術都市であるサリアはトトナ以外の教団の影響をなるべく排除する方針であり、そのため救護院も薬学の知識を持つ深緑の賢者ラストスの弟子達が運営しているのだ。
 ただ、今回は運ばれた者が多いのでラストスの弟子以外にも救援が要請され、サビーナとその弟子達が動員された。
 元々も精神的な傷害はサビーナの方がラストスよりも専門であり、クロキの事もあるためかサビーナも嫌とは言えなかったようである。
 そして、カタカケ達もサビーナから人手不足だから手伝えと言われてここに来たのである。
 その代わりというわけではないが、カタカケはサビーナの弟子となる事が許された。
 これでサリアで学ぶことが続けられるようになったので、良かったいえる。
 この救護院に運ばれたチヂレゲもサビーナが預かってくれる事になり、チヂレゲもこのサリアに残る事が出来そうであった。
 救護院に入るとサビーナが弟子に指示を出していると所に出くわす。

「あら来たわね。カタカケにミツアミ」

 カタカケとミツアミを見たサビーナがこちらに来る。

「サビーナ様。この度は弟子にしていただいてありがとうございます」
「別に構わないわ。貴方には見どころがある。これから私の下で働きなさい」

 サビーナは笑う。
 カタカケは何と言って良いかわからなくなる。
 実はカタカケはこれまで見どころがあると言われたのは初めてであった。

「あの? サビーナ様。カタカケのどこに見どころがあるのでしょうか? 魔力も弱く、魔術の才もあるようには見えないですけど」

 側にいるミツアミが酷い事を言う。
 ただ、言っている事は事実なので黙っている。

「そうね。確かに魔力も魔術の才もないみたいね。でもね、どんなに強くても乱暴者の戦士を護衛にしたくはないでしょ。貴方はどん底にいても道を踏み外さず、さらに親友の心配もして、助けようとした。そんな魔術師は中々いないわ。あの御方が目をかけるだけの事はあるわね」

 サビーナは説明してくれる。
 そして、あの御方というのも誰なのかもわかる。
 
 凶悪なナルゴルの暗黒騎士。

 サリアの者達や他の者達もそう呼んでいる。 
 しかし、本当にそうだろうか?
 カタカケはクロキの事を思い出す。
 クロキはカタカケに優しかった。その優しさは本当にように思うのだ。

「貴方もそんな所が良かったのでしょう?」
「サビーナ様!」

 サビーナが笑いながら言うと、ミツアミが突然叫ぶ。

(急に叫んでどうしたんだろう)

 カタカケは急に叫んだミツアミを見て首を傾げる。
 カタカケとサビーナが話をしていると誰かが救護院に入って来る。

「ケプラー殿!? 何しに来たの?」

 サビーナは新たに入って来た者を見て眉を顰める。
 入って来たのは黄金の賢者ケプラーである。
 
「いえいえ、様子を見に来たのですよ。私の教え子もここにいますから」
「そう。それから、1つ聞きたいのだけど、貴方あの御方の事を知っていたわね!?」
「まあ、知っていましたよ。あの御方はトトナ様と共にジプシールに来られた事がありますからね」
「どうして教えてくれなかったのよ!」 

 サビーナは怒って言う。

「それは申し訳ないです。あの御方の素性を公言はさすがに難しいので仕方なかったのですよ。それに、あの御方の許可なく言う事もできませんから」
 
 黄金獅子の仮面で顔は見えないが、声の調子からケプラーは笑っているようであった。

「そういえばあの御方は今どこに?」
「あの方は勇者の妹と禁書庫にいるわ。私も調べものを手伝いたいのだけどね」

 サビーナは溜息を吐く。
 クロキとキョウカは禁書庫にいる。
 そもそも、何を調べているのだろうか?
 カタカケは少し気になるのだった。



 クロキは禁書庫で調べものをする。
 元々これが目的だった。
 
(混沌の霊杯か、これを読めばナルゴルが何をしようとしていたのかが何となくわかる筈だ)

 ナルゴルは今の世界を壊し、新しい自身にとって都合の良い世界を築こうとしていた。
 その鍵となるのが黒血の魔剣や混沌の霊杯等の四至宝である。
 混沌の霊杯はこの世界の始まりである混沌の海を呼び出す宝具なのだ。
 それをナルゴルの炎を宿した黒血の魔剣で制御して大地を作る。
 ザルキシスが持っていた宝珠で命を作り、オーディスの持つ王笏は大気を操り、世界を作る。
 しかし、ナルゴルはもういない。
 ディアドナはそのナルゴルの後を受け継いだように思える。
 そして、混沌の海の力だが、その力は何者にもなれる変化の力だ。
 ただし、その力は不安定で、制御できなければ何者にもなれず消えてしまう。
 
「嫌な力だな……」

 クロキは呟く。
 ディアドナはこの力を自身で使わず、配下となった者に与えて実験しているようであった。

「それに新たな世界を作るにも、今ある世界を壊さなければいけないし……。破壊できるのはモデスぐらいだろうし……」

 世界を作り直すには今の世界を壊すしかない。
 それが出来るのは破壊の力を受け継いだモデスぐらいだろう。
 つまり、モデスが協力しないかぎりディアドナの望みは敵わない。
 そして、モデスが協力するとは思えない。 

「どうするつもりだったのだろうか? モデスなしで世界を壊す方法があるのだろうか?」
「何かわかりましたか? クロキさん?」

 突然後ろにキョウカが立ち、クロキが読んでいる本を覗き込む。
 後ろにくっつかれて背中にキョウカの胸の感触がする。
 
「あ、あのキョウカさん……。近いです。胸の感触が」
「あら良いじゃありませんの、わたくし達の仲ですわ」

 キョウカの息が耳にあたる。
 クロキの動悸が激しくなる。
 そのため、近づいて来た者に気付かなかった。

「どのような仲なのでしょうか? お嬢様?」

 黄泉から来た鬼のような声。
 クロキは振り返る。
 そこにはカヤが立っている。

「申し訳ございません。クロキ様。止めようと思ったのですが……。そこの女性の知り合いのようだったので……」

 ダンタリアスが申し訳なさそうに言う。
 その姿は朧気だ。
 まだ、本調子ではないのだろう、だけど力を取り戻していてもカヤを止めるのは無理である。
 広い禁書庫でカヤがキョウカの位置がわかった事は不思議ではない。
 この2人の関係の深さをクロキは知っている。
 居場所ぐらいすぐにわかるのだろう。

「お嬢様。お迎えにあがりました」

 カヤは深々と頭を下げる。

「そう、カヤが迎えに来たのなら帰らないといけないわね。クロキさんまた会いましょう。楽しかったわ」

 キョウカはそう言って笑うと離れる。
 カヤが来るまでは一緒にいるつもりだったようだ。

「貴方とは後でゆっくりと話をしなければなりませんね。全く本来貴方には過ぎたる相手なのですよ……」

 カヤがクロキを睨む。
 相手を殺したい、でもどこか仕方がないと諦めているような表情。
 クロキは何とも言えなくなる。

「もう、カヤ。クロキさんをそんなに睨まないで、帰るのでしょう」

 キョウカはカヤを引っ張る。
 2人が去り、ダンタリアスも姿を消したのでクロキだけが残される。

「はあ、そんなのわかっているよ……」

 元の世界にいたらクロキとキョウカは出会わなかっただろう。
 それが何の因果かこの世界で出会ってしまったのである。
 本当に何が起こるかわからないとクロキは思う。

「さて、自分もそろそろ帰らないといけないな。クーナが待っている」
 
 キョウカもチユキもあるべき場所へと帰った。
 自分も戻らなければいけないだろうと思うのだった。

 
  


 
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


これで今章は最後になります。
今回色々と忙しくて、書くのが大変でした。まあ、他にも色々とありすぎて病みぎみにもなっていましたが……。

最後に次回予告。
そろそろ、コウキの物語をスタートさせようと思います。
つまり、次回はエルドが舞台になります。
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