暗黒騎士物語

根崎タケル

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第11章 魔術の学院

第23話 影の魔物2

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 カタカケ達は書庫でシャドウデイモンと対峙する。
 シャドウデイモンは霊除けの香が効かないようで、カタカケ達を明らかに認識している。
 侵入者を排除すると言っている以上、逃がしてくれるとは思えない。
 戦うしかないだろう。
 シャドウデイモンはデイモンの影であり、正当なデイモンに比べると弱いと聞いているが、それでも一般的な人間では太刀打ちは難しいだろう。
 カタカケ達の中でシャドウデイモンに対抗できるのはキョウカだけである。

「幻影の衣よ! 我が身を守れ!」

 シャドウデイモンがそう言うと、その姿が影に包まれる。

「させませんわ!」

 キョウカが掛け声と共に剣を振るう。
 剣はチヂレゲの元仲間が持っていた物の1つだ。
 チヂレゲによると、あれは青銅製で魔法を帯びているらしい。半ば実体がないシャドウデイモンでも斬れるだろう。
 ただ、キョウカの動きはぎこちなく、その剣は空を斬る。

「あ、当たりませんわ。シロネさんに剣を学んでおくべきでしたわ。まあ、後でクロキさんに学ぶ方が良いかもしれませんけど」

 キョウカは剣を見て残念そうに言う。

「ううむ、幻影の衣に惑わされずに見えているようだな……。技量が足りぬようだが、油断はできん。出でよ影の戦士達シャドウウォーリアよ!」

 シャドウデイモンは後ろに下がると叫ぶ。
 すると、シャドウデイモンの足元の影から何かが出てくる。
 それは戦士の姿をした影であった。
 その数は4体。
 それぞれが剣と盾を持ち、キョウカの前に立つ。

「ずるいですわ。これじゃあ剣が届かないじゃありませんの」
「お前からは強い魔力を感じるぞ。油断できぬ。侵入者は確実に殺す。影の獣シャドウビーストよ。お前達も動け」

 シャドウデイモンがそう言うと、後ろにいた影の獣シャドウビーストが前に出てくる。
 シャドウビーストもまたこちらを認識している。
 シャドウデイモンの力により霊除けの香の効力が無効かされているようであった。


「お、おいヤバいんじゃねえか」

 チヂレゲはそう言うと顔を青くする。
 シャドウビーストはカタカケ達を逃がすまいと左右から回り込もうとする。

「ああ、まずい状況だ。どうすれば良いんだ」

 カタカケは剣を構える。
 この剣もチヂレゲの元仲間が持っていたものだ。 
 鉄製でキョウカが持つ剣と違い魔法を帯びていない。
 実体がシャドウビーストにどれだけ効力があるかわからない。
 しかし、やるしかないだろう。

「た、確か光明の魔法が影の魔物に有効だったはず……。キョウカ様! 光明の魔法は使えませんか?」
 
 ミツアミが言うとキョウカは首を振る。

「お兄様と違いあまり得意ではありませんわ。ミツアミさん。貴方はどうですの?」
「閃光と光条ならなんとか……」

 ミツアミは自信なさそうに言う。
 閃光は強い光で相手の視力を奪う魔法で、光条は遠くを照らす魔法である。 
 より攻撃的な光弾の魔法が欲しいところだが、ミツアミは使えないようだ。
 それでもないよりましだろう。

「そう、貴方達はミツアミさんを補助なさい。全部の相手はできませんわ」

 キョウカはそう言って剣を構える。
 影の魔物達がこちらへと迫ってくる。

「杖に宿りし、魔力よ、光となりて行き先を照らせ!」

 ミツアミが光条の魔法を使い、シャドウビーストが回り込もうとするのを阻止する。
 
「ガアアア」

 それを見たシャドウウォーリアがミツアミに向かう。

「ミツアミさん! 安心して! 必ず守る!」

 カタカケは剣を構えミツアミの死角に陣取る。
 光の魔法を使えるのはミツアミだけだ。
 影の魔物に対抗するためにも彼女は守らなければならなかった。

「えっ、あっ、うんありがとう」

 ミツアミが驚いたように返事をする。
 横目で見ると彼女の顔が赤かった。

「全く何をやっているんだよ」

 チヂレゲが呆れた声を出して、カタカケに並ぶ。
 さすがのチヂレゲも戦わないとまずいと思ったのだろう。
 腰は退けているがしっかりと剣を持っている。

「かかれ! シャドウウォーリア!」
 
 シャドウデイモンの掛け声と共にシャドウウォーリアが襲ってくる。

「ちょっと! そんな一度に来たら対処できませんわ! もう! 良いですわ!」

 キョウカはそう言うと右手から魔法を放つ。 
 放たれた魔法はシャドウウォーリア1体とシャドウビースト2匹を消し飛ばす。
 影の魔物を吹き飛ばした魔法の爆風は消えず、そのまま本棚をゆらす。
 
「おのれ、よくも。ここで強力な魔法を使うな! 本が傷つくではないか!」
「しょうがないですわ! わたくしはまだ魔法の手加減ができませんのよ! そっちが来なければわたくしも魔法を使いませんわ!」

 キョウカとシャドウデイモンが罵り合う。
 そして、両者は睨み合う。
 本を傷つけられたくないためか、シャドウデイモンが動く気配はない。
 しばらく、互いに動けないでいるときだった。

「こっちから爆発する音が聞こえたから来たけど……。良かった無事だったのですね、キョウカさん」

 声がしてカタカケは驚く。
 さっきまでいなかったはずなのに、いつの間にかクロキが目の前に立っている。
 
「クロキさん!」

 キョウカが喜ぶ声を出す。

「ええと、シャドウデイモンか……。前に見た事あるけど」

 そう言ってクロキは前に出る。
 キョウカの代わりに戦うようだ。
 
「いえ、お待ちをクロキ様。まさか、この者達がクロキ様のお連れの方だと思わず、申し訳ございませんでした」

 しかし、予想に反してシャドウデイモンは片膝を床に付け、頭を下げる。
 どこか慌てている。
 その様子にカタカケとチヂレゲとミツアミは驚く。
 普通の人にしか見えないクロキにシャドウデイモンが頭を下げているのだ。驚くのもとうぜんであった。

「えっ、自分を知っているの?」
「はい、クロキ様の事はこの書庫を守る者達は全員知っております」

 そう言ってシャドウデイモンはさらに頭を下げる。
 周囲にいたシャドウウォーリアとシャドウビーストがいつの間にか消えている。
 本当に影のような存在だったようであった。

「全く、侵入者ではありませんと、言ってますのに」

 キョウカは腰に手を当てて怒る。

「ええと、それは許してあげて、キョウカさん」

 クロキは怒っているキョウカを宥める。
 非常に低姿勢だ。

「シャドウデイモン。下まで案内してくれないかな?」
「申し訳ございません。クロキ様、私はこの場所から動けないのです。しかし、下に行く正しい方角はわかります」

 シャドウデイモンは申し訳なさそうに言う。
 
「仕方がない。それで良いよ、教えて」
「はい、わかりましたクロキ様」

 クロキとシャドウデイモンが会話をする。

「本当に何者なんだよ、あいつ……」

 後ろのチヂレゲが小さく言う。
 シャドウデイモンが跪く相手、確かに普通ではない。
 見た目ははっきり言って地味であり、大した人物には見えなかった。
 しかし、今は大きく見えるのだった。



 チユキはサビーナを連れて、下へと進む。
 放置しなかったのは連れていれば何か役に立つかもしれないからだ。
 サビーナは魔法の手で拘束中である。
 もちろん暴れているが、無視して進む。
 マギウスの首飾りを持っているためか、特に何も事もなかった。
 
「ねえ、いい加減。解放してくれないかしら? もう、貴方に逆らわないから、ねえ良いでしょ」

 サビーナは微笑みながら言う。
 しかし、それを信じるチユキではない。
 助かるために嘘を吐き、肝心なところで裏切るのだ。
 
「ダメよ、サビーナ殿。信用できないわ。大人しくしてなさい。はあ、それにしてもかなり奥まで進んだと思うのだけど……、ん?」

 チユキは突然足を止める。

「ねえ、どうしたの?」

 突然足を止めたチユキにサビーナは不安そうな声を出す。

「前にヤバそうなのがいるわね…」

 チユキ達が進む先に巨大な剣を持っている者がいる。
 かなり離れているのにここまで強力な瘴気を感じる。
 これまで、瘴気を発する者はいなかった。
 
「何よ、あれ? 見るからにヤバそう? まさかあれが暗黒騎士様じゃないわよね」

 サビーナが前方にいる者を見て震える。

「安心しなさい。あれは違うから。それより、おそらく私達に気付いているわね。どうしようかしら?」

 チユキがそう言う前方にいる者が長い剣を向ける。

「良く来たな……。お前が我が母の言う者か? 我が名はザガート。さあ我と戦え」

 ザガートと名乗る者が嬉しそうな声を出す。
 強者と戦える事が嬉しそうであった。
 ただ、その声が変である。
 覆面をしているからだろうかとチユキは推測する。

「ね、ねえ? 勝てるの?」
「無理ね、勝てる気がしないわ……。何とかして逃げて、あれと合流しないと」

 チユキは杖を構えて首を振る。
 ザガートからは強力な圧力を感じる。勝てる気がしなかった。
 チユキは正面から戦うのが苦手だ。
 どちらからと言えば補助役であり、誰かと一緒に戦って初めて真価を発揮するのである。

「あれ? ああ、勇者の妹の事かしら? 彼女強いの? そうは見えなかったけど」
「違うわよ。サビーナ殿。はあ、まだ気付かないなんてね……。まあ仕方がないか」

 チユキはクロキの事を考えて頭が痛くなるのだった。
  





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