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第11章 魔術の学院
第11話 サリアの暗部
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魔術都市サリアはこの地域でもかなり大きな都市だ。
元々はマギウスが創設した学舎と住居が元ではあるが、その後多くの魔術師がマギウスの教えを得たくてサリアを訪れた。
魔術師達はドワーフと交渉して城壁を作り、サリアは学舎を中心とした都市となった。
そして、来たのは魔術師だけではない。
少し街道に外れているが、世にも珍しい魔術師の都市という特性が多くの人を惹きつけ、住みたいと思う者も集まった。
特に魔術を商売にしたいと思う者や、魔術師を相手に商売をしたいという商人が多い。
またマギウスは学ぶ者は魔術師に限らなかったので魔術師以外の学生も少なからずいる。
やがて、来る人はさらに多くなり、膨れ上がった人口は当初の住居に収まりきらず、城壁の外にも住居を作らなければならなかった。
そこで魔術師協会はさらに城壁を作り安心して住める地域を拡大した。
しかし、それでも増え続け、第2の城壁の外にも人が住み始めた。
さすがに新たに壁を作る事は地形的、財政的に難しく、第3の城壁が作られる事はなかった。
そして、クロキはそんな第2の城壁の外に作られた町へと来ていた。
クロキは舗装されていない道を歩く。
ここに住んでいるのは金のない者等であり、中には犯罪に手を染める者もいる。
(他の国の外街と雰囲気が同じだな)
クロキは周囲を見る。
粗末な木と土の建物に歩く者達の格好。
違うのは魔術師のなり損ないのような恰好をした者がいることぐらいだろう。
クロキがここに来たのはチヂレゲがここにいるからである。
カタカケが言うにはかなり治安が悪いらしい。
金のない魔術師の学生はここにしか住む所がなく、そのため自治体を作って身を守っていたりする。もしくは怪しい奴の仲間になり、協力する事で身を守る者もいる。
魔術師協会も何とかしようとしているらしいが、明らかに手が回っていないようであった。
ちなみにカタカケもここに住んでいるらしいが、ほとんどを図書館内で過ごすため戻っていないらしい。
チヂレゲはカタカケと部屋をシェアしていたらしいが、今はここにいないようだ。
「うん? あれは?」
クロキはあるものを見つける。
それは魔王モデスの聖印と魔宰相ルーガスの聖印が並べて掲げられた建物であった。
つもりこの建物は魔術の神であるルーガスを崇める教団が所有しているという事だ。
「いくらオーディス教団がないからと言って……。堂々と掲げられているなんて」
クロキは引きつった笑みを浮かべる。
サリアは神王オーディスの影響を受けない数少ない都市だ。
レーナの本拠地である聖レナリア共和国でさえオーディスの司祭はいる。
しかし、このサリアでは意図的にオーディスの影響を排除しているようであった。
そして、魔術師協会の規則では魔王信仰は禁じられていない。
いや、エリオスの神々以外の神であっても信仰そのものは禁じられていないのである。
これは普通の国ではありえない事であった。
おそらくトトナの影響だろう。
そのため堂々と聖印が掲げられているのである。
(さて、どうするか?)
クロキが身分を明かせばこの教団に属している者達から情報が得られるだろう。
もしかすると巨大吸血蝙蝠を操る者についてわかるかもしれない。
(だけど、今はやめておこう。賢者が2人でもその正体が判明しなかった相手だ。人間が相手にするのは不可能だろう)
クロキは首を振って横を通りすぎる事にする。
正体を明かせば協力してくれるかもしれないが、危険である。
巻き込むべきではない。
やがて、奥の地域へと行く。
半ば森に突き刺さるように入り組んだ区画は薄暗く、不気味であった。
(嫌な匂いだな。これは麻薬か?)
チヂレゲが住んでいる場所へと入ると怪しげな香りが漂ってくる。
魔法香に似ているが、漂う香りには有害そうな何かが含まれているようである。
魔法薬の中に様々なものがあるが、魔力を上げる事が出来る物もある。
一時的に使うのであればそこまで問題でもないが、常用すると体と精神が壊れてしまう。
質が悪い物になると中毒性があり、特に危険である。
それは麻薬と言っても良いだろう。
区画に入ると汚れた魔術師のローブを着た者が何人か座り込んでいるのが見える。
(一応協会に報告するけど、救ってもらえるかわからないな……)
クロキは眉を顰めてそう思う。
魔術師協会はあくまで互助組織だ。慈善団体ではなく、協会の負担になるよう事はしない。
そのため落ちる者はそのまま落ちぶれていくのである。
クロキなら何人かは救えるが、いちいち目に入る全ての人を救っていけばキリがない。
しかし、落ちた者を救う事はしないが、人体に危険な薬物を流通させる事は協会の規則に反するので、流した者を見つけ出そうとするだろう。
大元を絶てば落ちる者も少なくなるかもしれなかった。
(一体誰が流したんだ? 錬金術を扱える者が怪しいが、魔法香を調合できる心霊術師も怪しいからなあ……)
クロキはそんな事を考えながら奥へと行く。
「描いてもらった地図によるとここだな」
クロキは辿り着いた建物を見る。
木造で粗末ではあるが、かなり大きな建物であり、何か変な匂いを漂わせている。
建物の窓からクロキは視線を感じる。
カタカケはチヂレゲの事が心配でこの建物の近くまで来たらしい。
しかし、危険を感じ取り、帰ったそうだ。
その後チヂレゲは特に何事もなく過ごしていたのでカタカケは安心したそうだ。
そんな事を考えていると1人の男が門から出てくる。
歳は40歳ぐらいだろう、男の格好からして魔術師ではない。
そして、堅気に見えなかった。
男はクロキを睨みつける。
「誰だお前? ここに何か用か?」
建物の中からクロキを見ていたのだろう、男は強い口調でクロキを問い詰める。
「えっ、あっ、すみません。ここにチヂレゲという綽名の方が住んでいるらしいのですが、知りませんか?」
クロキがそう言うと男は少し考え込む。
「いるぜ。案内してやるよ。付いてきな」
そう言って男は再び建物に戻る。
クロキはその後に付いて行く。
建物の中に入ると1階は大きな広間であった。
そこには出て来た男と同じ格好をした男達が数名いる。
その全員がクロキを見ると取り囲むように動く。
「これは?」
クロキは取り囲んだ男達を見る。
「ふん、間抜けが、お前は何者なんだ? 何しに来たんだ?」
クロキを案内した男が言う。
「何と言われても、チヂレゲさんに会いに来たんですよ」
「そのチヂレゲに何のようだ?」
「ええと……」
クロキは考える。
取り囲んでいる男達の動きから見て、普通の人間だ。
束になってかかって来てもクロキの敵ではない。
「それは言えないよ……。彼はどこですか?」
クロキが首を振ってそう言うと男達は怒りを露わにする。
「残念だが、それは言えねえな。まあ、少し痛い目をみれば素直になるだろうぜ。やっちまいな!」
案内をした男の号令で四方から男達が襲って来る。
クロキからしたらあまりにも遅い動きだ。
クロキは右に少し移動して、後ろから来る者を避ける。
避けた男は前から来た男とぶつかり、濃厚なキスをする。
さらに横から来た男を後ろに下がりながら右足を出して、相手の足を引っかける。
引っかけられた男は転び左から来た男の股間に顔から突っ込む。
「やろう! ちょこまかと!」
男が2人がかりでクロキに挑む。
クロキは右に避けると右から来た男の手を取り、投げ飛ばし、左の男にぶつける。
2人の男は抱き合うように倒れる。
クロキはその後も前後左右に動き向かって来る男達を翻弄する。
やがて、1人を残して男達は床に倒れ動かなくなる。
「な、何なんだお前は!?」
最後に残った男が驚愕した表情でクロキを見る。
「チヂレゲさんはどこです? 正直に言わないなら痛い目に合わせますが」
クロキは少しだけ恐怖の魔法を使い、男に聞く。
「ひい!? 今はいねえ!? どこに行ったのかはわからねえ!」
「そうですか? では部屋に案内して下さい」
「わ、わかった! こっちだ!」
男は定まらない足取りで案内する。
「ここだ」
男の案内した部屋には扉がなく、入り口には布が掛けられている。
「これは……」
クロキは入り口の布を見て驚く。
布には上の方には死神ザルキシスの聖印ともう1つ見た事ない聖印が描かれていたのである。
クロキは布を潜り、中へと入る。
あまり多くない私物に、本が数冊置かれている。
本は死霊魔術に関する事であった。
(これは、キョウカさんの推測が正しかったのかな……)
吸血鬼蝙蝠はザルキシスの眷属でもある。
ザルキシスの聖印を掲げるチヂレゲが何か関与している可能性が出て来たのである。
キョウカの推測は正しかったようだ。
「チヂレゲさんが行きそうな所に心当たりはありませんか?」
クロキは部屋から出ると男に聞く。
「も、森だ! 森の中に行くのをよく見かける!」
「なるほど、ところで貴方達も死の教団ですよね。魔法香で隠しているようですが……」
クロキが言うと男は目を反らせる。
この建物は死の教団が所有しているようだ。
魔王を崇拝する教団以外にもエリオスの神々を崇拝する教団があったようだ。
ただ死の司祭らしき者が出て来てないので本拠地ではないのかもしれない。
「頼む、俺が言った事は秘密にしてくれ! バレたら殺される!」
男が嘆願する。
クロキとしてもこの事を言うつもりはない。
もはや、この建物にいた男達に興味はなかった。
「言うつもりはないですよ。それじゃあ行かせてもらいますよ」
クロキはそう言うと男に背を向ける。
森へ行ってみるつもりであった。
クロキは建物を出ると近くの森へと向かう。
「えっ? これは? 結界?」
森に近づいた時だった。
クロキは結界に気付く。
誰かが入れば気付かれるだろう。
(どうしようかな……。無理やり入っても良いけど……。いや、今はやめておくか……。マギウス殿に報告した方が良いだろうし)
クロキは迷ったあげく森に入るのを止める。
チヂレゲが住んでいた場所と違い、魔法を使う者がいる事は間違いない。
死の教団の本拠地があるかもしれなかった。
チヂレゲが死の教団と関りがある事がわかっただけでも収穫である。
マギウスに報告した方が良いだろう。
クロキは森に背を向けると来た道を戻るのだった。
元々はマギウスが創設した学舎と住居が元ではあるが、その後多くの魔術師がマギウスの教えを得たくてサリアを訪れた。
魔術師達はドワーフと交渉して城壁を作り、サリアは学舎を中心とした都市となった。
そして、来たのは魔術師だけではない。
少し街道に外れているが、世にも珍しい魔術師の都市という特性が多くの人を惹きつけ、住みたいと思う者も集まった。
特に魔術を商売にしたいと思う者や、魔術師を相手に商売をしたいという商人が多い。
またマギウスは学ぶ者は魔術師に限らなかったので魔術師以外の学生も少なからずいる。
やがて、来る人はさらに多くなり、膨れ上がった人口は当初の住居に収まりきらず、城壁の外にも住居を作らなければならなかった。
そこで魔術師協会はさらに城壁を作り安心して住める地域を拡大した。
しかし、それでも増え続け、第2の城壁の外にも人が住み始めた。
さすがに新たに壁を作る事は地形的、財政的に難しく、第3の城壁が作られる事はなかった。
そして、クロキはそんな第2の城壁の外に作られた町へと来ていた。
クロキは舗装されていない道を歩く。
ここに住んでいるのは金のない者等であり、中には犯罪に手を染める者もいる。
(他の国の外街と雰囲気が同じだな)
クロキは周囲を見る。
粗末な木と土の建物に歩く者達の格好。
違うのは魔術師のなり損ないのような恰好をした者がいることぐらいだろう。
クロキがここに来たのはチヂレゲがここにいるからである。
カタカケが言うにはかなり治安が悪いらしい。
金のない魔術師の学生はここにしか住む所がなく、そのため自治体を作って身を守っていたりする。もしくは怪しい奴の仲間になり、協力する事で身を守る者もいる。
魔術師協会も何とかしようとしているらしいが、明らかに手が回っていないようであった。
ちなみにカタカケもここに住んでいるらしいが、ほとんどを図書館内で過ごすため戻っていないらしい。
チヂレゲはカタカケと部屋をシェアしていたらしいが、今はここにいないようだ。
「うん? あれは?」
クロキはあるものを見つける。
それは魔王モデスの聖印と魔宰相ルーガスの聖印が並べて掲げられた建物であった。
つもりこの建物は魔術の神であるルーガスを崇める教団が所有しているという事だ。
「いくらオーディス教団がないからと言って……。堂々と掲げられているなんて」
クロキは引きつった笑みを浮かべる。
サリアは神王オーディスの影響を受けない数少ない都市だ。
レーナの本拠地である聖レナリア共和国でさえオーディスの司祭はいる。
しかし、このサリアでは意図的にオーディスの影響を排除しているようであった。
そして、魔術師協会の規則では魔王信仰は禁じられていない。
いや、エリオスの神々以外の神であっても信仰そのものは禁じられていないのである。
これは普通の国ではありえない事であった。
おそらくトトナの影響だろう。
そのため堂々と聖印が掲げられているのである。
(さて、どうするか?)
クロキが身分を明かせばこの教団に属している者達から情報が得られるだろう。
もしかすると巨大吸血蝙蝠を操る者についてわかるかもしれない。
(だけど、今はやめておこう。賢者が2人でもその正体が判明しなかった相手だ。人間が相手にするのは不可能だろう)
クロキは首を振って横を通りすぎる事にする。
正体を明かせば協力してくれるかもしれないが、危険である。
巻き込むべきではない。
やがて、奥の地域へと行く。
半ば森に突き刺さるように入り組んだ区画は薄暗く、不気味であった。
(嫌な匂いだな。これは麻薬か?)
チヂレゲが住んでいる場所へと入ると怪しげな香りが漂ってくる。
魔法香に似ているが、漂う香りには有害そうな何かが含まれているようである。
魔法薬の中に様々なものがあるが、魔力を上げる事が出来る物もある。
一時的に使うのであればそこまで問題でもないが、常用すると体と精神が壊れてしまう。
質が悪い物になると中毒性があり、特に危険である。
それは麻薬と言っても良いだろう。
区画に入ると汚れた魔術師のローブを着た者が何人か座り込んでいるのが見える。
(一応協会に報告するけど、救ってもらえるかわからないな……)
クロキは眉を顰めてそう思う。
魔術師協会はあくまで互助組織だ。慈善団体ではなく、協会の負担になるよう事はしない。
そのため落ちる者はそのまま落ちぶれていくのである。
クロキなら何人かは救えるが、いちいち目に入る全ての人を救っていけばキリがない。
しかし、落ちた者を救う事はしないが、人体に危険な薬物を流通させる事は協会の規則に反するので、流した者を見つけ出そうとするだろう。
大元を絶てば落ちる者も少なくなるかもしれなかった。
(一体誰が流したんだ? 錬金術を扱える者が怪しいが、魔法香を調合できる心霊術師も怪しいからなあ……)
クロキはそんな事を考えながら奥へと行く。
「描いてもらった地図によるとここだな」
クロキは辿り着いた建物を見る。
木造で粗末ではあるが、かなり大きな建物であり、何か変な匂いを漂わせている。
建物の窓からクロキは視線を感じる。
カタカケはチヂレゲの事が心配でこの建物の近くまで来たらしい。
しかし、危険を感じ取り、帰ったそうだ。
その後チヂレゲは特に何事もなく過ごしていたのでカタカケは安心したそうだ。
そんな事を考えていると1人の男が門から出てくる。
歳は40歳ぐらいだろう、男の格好からして魔術師ではない。
そして、堅気に見えなかった。
男はクロキを睨みつける。
「誰だお前? ここに何か用か?」
建物の中からクロキを見ていたのだろう、男は強い口調でクロキを問い詰める。
「えっ、あっ、すみません。ここにチヂレゲという綽名の方が住んでいるらしいのですが、知りませんか?」
クロキがそう言うと男は少し考え込む。
「いるぜ。案内してやるよ。付いてきな」
そう言って男は再び建物に戻る。
クロキはその後に付いて行く。
建物の中に入ると1階は大きな広間であった。
そこには出て来た男と同じ格好をした男達が数名いる。
その全員がクロキを見ると取り囲むように動く。
「これは?」
クロキは取り囲んだ男達を見る。
「ふん、間抜けが、お前は何者なんだ? 何しに来たんだ?」
クロキを案内した男が言う。
「何と言われても、チヂレゲさんに会いに来たんですよ」
「そのチヂレゲに何のようだ?」
「ええと……」
クロキは考える。
取り囲んでいる男達の動きから見て、普通の人間だ。
束になってかかって来てもクロキの敵ではない。
「それは言えないよ……。彼はどこですか?」
クロキが首を振ってそう言うと男達は怒りを露わにする。
「残念だが、それは言えねえな。まあ、少し痛い目をみれば素直になるだろうぜ。やっちまいな!」
案内をした男の号令で四方から男達が襲って来る。
クロキからしたらあまりにも遅い動きだ。
クロキは右に少し移動して、後ろから来る者を避ける。
避けた男は前から来た男とぶつかり、濃厚なキスをする。
さらに横から来た男を後ろに下がりながら右足を出して、相手の足を引っかける。
引っかけられた男は転び左から来た男の股間に顔から突っ込む。
「やろう! ちょこまかと!」
男が2人がかりでクロキに挑む。
クロキは右に避けると右から来た男の手を取り、投げ飛ばし、左の男にぶつける。
2人の男は抱き合うように倒れる。
クロキはその後も前後左右に動き向かって来る男達を翻弄する。
やがて、1人を残して男達は床に倒れ動かなくなる。
「な、何なんだお前は!?」
最後に残った男が驚愕した表情でクロキを見る。
「チヂレゲさんはどこです? 正直に言わないなら痛い目に合わせますが」
クロキは少しだけ恐怖の魔法を使い、男に聞く。
「ひい!? 今はいねえ!? どこに行ったのかはわからねえ!」
「そうですか? では部屋に案内して下さい」
「わ、わかった! こっちだ!」
男は定まらない足取りで案内する。
「ここだ」
男の案内した部屋には扉がなく、入り口には布が掛けられている。
「これは……」
クロキは入り口の布を見て驚く。
布には上の方には死神ザルキシスの聖印ともう1つ見た事ない聖印が描かれていたのである。
クロキは布を潜り、中へと入る。
あまり多くない私物に、本が数冊置かれている。
本は死霊魔術に関する事であった。
(これは、キョウカさんの推測が正しかったのかな……)
吸血鬼蝙蝠はザルキシスの眷属でもある。
ザルキシスの聖印を掲げるチヂレゲが何か関与している可能性が出て来たのである。
キョウカの推測は正しかったようだ。
「チヂレゲさんが行きそうな所に心当たりはありませんか?」
クロキは部屋から出ると男に聞く。
「も、森だ! 森の中に行くのをよく見かける!」
「なるほど、ところで貴方達も死の教団ですよね。魔法香で隠しているようですが……」
クロキが言うと男は目を反らせる。
この建物は死の教団が所有しているようだ。
魔王を崇拝する教団以外にもエリオスの神々を崇拝する教団があったようだ。
ただ死の司祭らしき者が出て来てないので本拠地ではないのかもしれない。
「頼む、俺が言った事は秘密にしてくれ! バレたら殺される!」
男が嘆願する。
クロキとしてもこの事を言うつもりはない。
もはや、この建物にいた男達に興味はなかった。
「言うつもりはないですよ。それじゃあ行かせてもらいますよ」
クロキはそう言うと男に背を向ける。
森へ行ってみるつもりであった。
クロキは建物を出ると近くの森へと向かう。
「えっ? これは? 結界?」
森に近づいた時だった。
クロキは結界に気付く。
誰かが入れば気付かれるだろう。
(どうしようかな……。無理やり入っても良いけど……。いや、今はやめておくか……。マギウス殿に報告した方が良いだろうし)
クロキは迷ったあげく森に入るのを止める。
チヂレゲが住んでいた場所と違い、魔法を使う者がいる事は間違いない。
死の教団の本拠地があるかもしれなかった。
チヂレゲが死の教団と関りがある事がわかっただけでも収穫である。
マギウスに報告した方が良いだろう。
クロキは森に背を向けると来た道を戻るのだった。
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