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第10章 紺碧の魔海
第23話 海の歌姫
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クロキ達は鬼岩城を泳ぎ急いで外に出ようとする。
しかし、壁から生えた触手が行く先を阻み脱出を阻害する。
「クソっ! キリがないな!」
そう言ってレイジは光弾を出し四方から襲って来る触手を消滅させる。
クロキも魔剣を振るいトヨティマを守る。
「変や! もう、そろそろ外に出られてもおかしくないはずなのにどういう事や!」
トヨティマが焦れている様子を見せる。
「確かに変ですね。直進しているはずなのですが……」
クロキも疑問に思う。
直進して戻っているので、既に外に出ていても良い頃であった。
「おそらく、結界が張られているわね……。ナオさん、感覚はどうなの?」
「少しだけ方向感覚がおかしくなっているみたいっす。チユキさん。でも、それだけじゃないっすよ、空間が動いてナオ達が逃げられないように進路を変えられているっすね」
ナオは壁を見て言う。
触手に覆われた壁は常に動き形を変えている。
「感覚だけじゃない。光砲の威力も落ちている。牛の迷宮の時と同じだな」
レイジは光砲を何度も放ち退却するための道を作っている。
本来なら外まで穴を開けるほどの威力のあるのだろうが、流石にそこまでは無理であった。
そのため、穴を開けるたびに触手が増えて穴を塞ぐ、そのためレイジは何度も光砲を撃たねばならなかった。
高威力の魔法を何度も使っているのに涼しい顔をしているのはさすがと言える。
「確かにそうだね。それに海の中だと戦いにくいよ」
シロネは触手を斬りながら言う。
シロネが得意とするのは空中戦である、海の中では分が悪い。
それはクロキやレイジも同じで海の中ではいつも通りには戦いにくい。
ある程度は慣れたが地上に比べると遥かに力が落ちていた。
そのため現状フェーギルの方が有利である。
少しだけクロキの中に焦りが出てくる。
「無駄だだああ。まだまだ命はあるぞおおお! 全ての取り込んだ命をお前らにぶつけるうううう!! 逃がすかああああ」
四方の壁からフェーギルの声がする。
クロキ達を逃がすまいと向こうも全力のようであった。
「こうなったら、根比べだな。やってやる」
レイジは光砲を連射して迫る触手の壁に穴を開ける。
クロキとシロネは剣を振り、チユキとナオはそれを補助する。
リノとマーメイドの姫は相変わらず魔法でトルキッソスを癒している。
目覚めるにはまだ何か足りないようであった。
(どうする? 竜の力を全て解放すれば自分だけは抜け出せるかもしれない……。だけど)
クロキはトヨティマとマーメイドの姫を見る。
竜の力はまだ制御が出来ない。
巻き込んで余計に危険にさらすかもしれなかった。
だから、なるべく使いたくない。
トヨティマは自身がどうすべきか考えているようであった。
父親から大切に育てられたトヨティマは戦う術を知らない。
魔力は高いみたいだが、クロキやレイジ達の邪魔になるかもしれず攻撃の魔法も使えずにいる様子であった。
「うちも手伝いたいけど……。どうすれば……。そうや、これを聞いて元気を出してや!」
何かを思いついたトヨティマが突然歌い始める。
「清き流れのセアードよ♪
大海にこぼれし我らの故郷♪
真珠と珊瑚で飾り立て♪
紺碧の海を輝かそう♪」
それは綺麗な歌声であった。
声は澄んでいてクロキ達の周囲を響かせる。
彼女もマーメイドと同じく歌の魔法が使えるようであった。
歌声を聞くとクロキは元気が出て来るような気がする。
「綺麗な歌声だな」
「ええ、元気が出てくるわ」
レイジとチユキは笑うと魔法を使う。
先程よりも威力が上がっているようであった。
「レイジ様! トルキッソスが!」
突然マーメイドの姫が大声を出す。
クロキは少し振り向くとトルキッソスが目を覚ましたようであった。
「綺麗な歌声……。ここは?」
「もうダラウゴンの娘の歌声で目を覚ますなんて……」
マーメイドの姫は目を覚ましたトルキッソスを見て呆れた顔をする。
歌の魔法は精神に作用するので、それが良かったようだ。
「あれ、何だか触手の動きが弱くなったっすよ」
ナオが不思議な顔をする。
確かに先程よりも動きが鈍い。
「うん、きっと無理矢理取り込まれた命が歌を聞いて反抗しているんだよ。命の流れを感じるよ」
リノが手を耳に添えて澄まして言う。
歌の魔法はフェーギルに取り込まれた命達に意思を呼び戻したのかもしれない。
もしそうならば歌は有効のようであった。
「なるほどなあ。それならもっと歌うわ」
「ダラウゴンの娘。私も手伝います」
トヨティマが再び歌おうとするとマーメイドの姫も横に並ぶ。
「へえ、うちについてこられるか? トライデンの娘はん」
「何を、歌では負けません!」
「そうかえ、それならいくでえ!」
2名の歌姫が並んで合唱する。
初めてのはずなのに綺麗に合わさる歌声が鬼岩城に響く。
「碧き流れは命を育み」
「白き泡は命を生み」
「暗き海底は安らぎを与え」
「輝く海面は活力を与え」
「銀の真珠は海の宝冠」
「紅い珊瑚は海の玉座」
「「悠久の時を海は流れる」」
トヨティマとマーメイドの姫の魔法の歌声はクロキ達の力を高め、迫る触手の動きを鈍くする。
「やめろおおおおおおお! その歌をやめろおおおおおお!」
フェーギルの慌てる声。
それと同時に衝撃波がクロキ達を襲う。
それは強力な音撃だ。
逃がすまいとするフェーギルの最後の手段のようであった。
フェーギルはトヨティマ達の歌声を消そうと躍起になっている。
「何です! この嫌な音は!」
たまらずマーメイドの姫は耳を塞ぐ。
「やめたらあかんで、頑張るんや」
トヨティマは衝撃波にも負けず歌を続ける。
それを見たマーメイドの姫も再び歌う。
「リノも歌うよ!」
「僕も歌います!」
リノとトルキッソスがトヨティマ達に加わる。
「これで歌姫は4名っすね。いけるっすよ」
ナオが歌姫達を見て笑う。
約1名、歌姫と言って良いか迷うが、トルキッソスは女装したままであり、見た目だけなら違和感がなかった。
4名の歌姫の合唱が響く。
「おのれれれれれれれれれれれれ! 逃がすかああああああああ!」
フェーギルはなおも衝撃波を放つ。
「クソ! しつこいな! いい加減に諦めろ!」
歌姫の合唱で触手の動きも鈍り、衝撃波も最初よりも小さい。
しかし、それでも戦況が良くなっただけだ。
まだまだ油断はできないのであった。
◆
クロキ達が脱出するために頑張っている時だった。
鬼岩城の外にいるポレン達はトリトンとマーマンが取って来てくれた果実を食べる。
果実はこの辺りでは一般的なもので沿岸には多く実を茂らせている。
良く熟していてとても美味しかった。
「地上ならお茶も出せたのですが、さすがに海の中では無理ですね」
「仕方がありませんわ、カヤ。それに海の中での会食も面白いですわよ」
キョウカは笑う。
少し上半身を揺らすとその大きな胸が揺れてマーマン達やトリトンの目を釘付けにする。
キョウカは薄着であり、その豊満な胸は何度見ても羨ましく思う。
(やっぱりでっかい! 師匠もすごいけど、クロキ先生に近づけたくないなあ)
キョウカを見ながらポレンはそう思う。
クロキは間違いなく大きな胸が好きだ。
やがては自分も大きくなると思っている。
それまでは出来るだけ大きな胸の女性をクロキに近づけたくない。
ポレンはそんな事を考える。
「殿下~。こんな事をして良いのさ~。閣下は今大変なのさ」
側にいるプチナがそんなポレンを見てため息を吐く。
「もう、そんな事を言って、ぷーちゃんだっていっぱい食べているでしょ!」
ポレンはプチナに睨み返す。
何だかんだ言ってプチナもまた食いしん坊である。
美味しい御菓子には目がない。
ポレンと同じだけ食べている。
何度も取りに行かせてマーマンとトリトンはへとへとになっている。
しかし、キョウカにお願いされると嫌とは言えないようで、疲れた顔を見せながらも頑張って何度も往復する。
ポレンは少し申し訳に気持ちになるが、する事もなく果実が美味しいので何も言えずにいる。
「それにさあ~、ぷーちゃん。先生が何かあるまで待機って言っていたし、他にする事もないんだから仕方がないじゃな……、あれ?」
そんな時だったポレンは異変に気付く。
鬼岩城が動いているのだ。
「カヤ!? 大変ですわ! 口が閉じていきますわよ!」
同じように異変に気付いたキョウカが城を指す。
「どうやら、何かあったようですね。様子を見て来ます」
「お待ちなさい、カヤ! わたくしも行きますわ!」
キョウカとカヤがこの場から離れる。
「ま、待って! 私も行く! 先生が心配だもの!」
ポレンは慌ててキョウカの後を追う。
クロキのために動く事で後れを取ってはいけなかった。
「ちょっと待って欲しいのさ、殿下~」
プチナも慌てて追いかける。
付いて来たのはプチナだけではない。
非常事態だと判断したトリトンとマーマンの戦士達も後に続く。
程なくして鬼岩城の近くへと辿り着く。
「完全に閉じてますわね」
キョウカは鬼岩城を見て言う。
キョウカの言う通り、クロキ達が入った口は閉じられ目も閉じられている。
つまり鬼岩城に入れなくなったのだ。
「どうするのさ? これじゃあ閣下達が出れないのさ」
プチナは閉じられた鬼岩城の口を叩く。
岩で出来ているはずなのに動くのはおかしい。
「確かにこれでは出られないですわね……。中で何があったのでしょう?」
「わかりません。お嬢様。しかし、もしかすると苦戦している可能性もあります。破れないか殴ってみましょう」
そう言うとカヤは拳を鬼岩城の口に叩きつける。
拳は鬼岩城の表面の岩を壊すが微々たるものだ。
「結構硬いですね。これでは時間がかかります」
「私も手伝いますわ。爆裂魔法は効くかしら? 皆さん。ちょっと離れて下さい」
キョウカの言葉で全員が離れる。
離れたのを確認するとキョウカは爆裂魔法を唱える。
しかし、海の中で威力が落ちているのかカヤと同じように表面を壊すだけであった。
「いけねえ! お嬢を助けねえと!」
「姫! 大丈夫ですか!」
今度マーマンとトリトンは各々の武器で鬼岩城の岩壁に穴を開けようとする。
しかし、ほんのわずかに傷をつけるだけであった。
「よし、ここは殿下の出番なのさ。殿下の剛力なら穴を開けるなんて大丈夫なのさ」
ここぞとばかりにプチナがポレンを前に出す。
「ちょっと、ぷーちゃん。あのねえ、私はか弱いお姫様のつもりなんだけど……」
「殿下。冗談を言っている場合じゃないのさ。閣下が危険かもしれないのさ。さあ、殿下がやるのさ。みんな下がるのさ」
冗談ではないとポレンは反論しようかと思うが、クロキが危険かもしれないのでやってみる事にする。
「うーん。ちょっと納得いかないけど先生を助けるためにやってみるよ」
ポレンは全員が下がったのを確認すると愛用の魔法の大鎚を呼び出す。
(さて、まずは軽く叩いてみるかな)
まずは鬼岩城の硬さを確かめ、その後本気で叩く。
ポレンはそう考えて大鎚を構える。
「えいっ!」
掛け声と共にポレンは大鎚を振るう。
その一瞬の後、轟音が響き渡る。
(あれ? 意外と脆い)
叩いた所は大きく穴を開け、その穴の空いた箇所からひび割れ、やがて鬼岩城の岩壁全体へと伝わる。
「何という力ですの。鬼岩城全体がひび割れましたわ」
「はい、魔王の姫の本気の一撃……。これほどとは」
キョウカとカヤの驚く顔。
(い、今のは軽く叩いただけなんですけど! 私が怪力なんじゃなくて、岩壁がもろいだけなんですよー!)
ポレンはそう言いたくなる。
驚いているのはキョウカとカヤだけではない。
マーマンとトリトンの戦士達も顔を青くしてポレンを見る。
「す、すげえ。さすがはあの魔王陛下の姫君だ……」
「何と言う剛腕……。恐るべし」
「俺達の渾身の一撃でもほとんど壊れなかったのによお、すげえぜ」
「私の自慢の槍を跳ね返した岩壁をいとも容易く、何と言う……」
「こ、これなら、お嬢を助けられる。さすが殿下だぜ……」
「姫を助けられるかもしれないが、何と言う怖しい」
小声でマーマンとトリトンは仲間同士で話し合う。
ただ、耳の良いポレンにはその話している内容ははっきりと聞こえていたりする。
そこにあるのは賞賛よりも恐怖であった。
(何だろう。か弱いお姫様のはずなのに……)
納得がいかないポレンは項垂れる。
そんな中、プチナだけは嬉しそうであった。
「ぬふふふ。殿下の力はこんなもんじゃないのさ。殿下が本気を出せば海を割り、空を砕くのさ」
しかし、壁から生えた触手が行く先を阻み脱出を阻害する。
「クソっ! キリがないな!」
そう言ってレイジは光弾を出し四方から襲って来る触手を消滅させる。
クロキも魔剣を振るいトヨティマを守る。
「変や! もう、そろそろ外に出られてもおかしくないはずなのにどういう事や!」
トヨティマが焦れている様子を見せる。
「確かに変ですね。直進しているはずなのですが……」
クロキも疑問に思う。
直進して戻っているので、既に外に出ていても良い頃であった。
「おそらく、結界が張られているわね……。ナオさん、感覚はどうなの?」
「少しだけ方向感覚がおかしくなっているみたいっす。チユキさん。でも、それだけじゃないっすよ、空間が動いてナオ達が逃げられないように進路を変えられているっすね」
ナオは壁を見て言う。
触手に覆われた壁は常に動き形を変えている。
「感覚だけじゃない。光砲の威力も落ちている。牛の迷宮の時と同じだな」
レイジは光砲を何度も放ち退却するための道を作っている。
本来なら外まで穴を開けるほどの威力のあるのだろうが、流石にそこまでは無理であった。
そのため、穴を開けるたびに触手が増えて穴を塞ぐ、そのためレイジは何度も光砲を撃たねばならなかった。
高威力の魔法を何度も使っているのに涼しい顔をしているのはさすがと言える。
「確かにそうだね。それに海の中だと戦いにくいよ」
シロネは触手を斬りながら言う。
シロネが得意とするのは空中戦である、海の中では分が悪い。
それはクロキやレイジも同じで海の中ではいつも通りには戦いにくい。
ある程度は慣れたが地上に比べると遥かに力が落ちていた。
そのため現状フェーギルの方が有利である。
少しだけクロキの中に焦りが出てくる。
「無駄だだああ。まだまだ命はあるぞおおお! 全ての取り込んだ命をお前らにぶつけるうううう!! 逃がすかああああ」
四方の壁からフェーギルの声がする。
クロキ達を逃がすまいと向こうも全力のようであった。
「こうなったら、根比べだな。やってやる」
レイジは光砲を連射して迫る触手の壁に穴を開ける。
クロキとシロネは剣を振り、チユキとナオはそれを補助する。
リノとマーメイドの姫は相変わらず魔法でトルキッソスを癒している。
目覚めるにはまだ何か足りないようであった。
(どうする? 竜の力を全て解放すれば自分だけは抜け出せるかもしれない……。だけど)
クロキはトヨティマとマーメイドの姫を見る。
竜の力はまだ制御が出来ない。
巻き込んで余計に危険にさらすかもしれなかった。
だから、なるべく使いたくない。
トヨティマは自身がどうすべきか考えているようであった。
父親から大切に育てられたトヨティマは戦う術を知らない。
魔力は高いみたいだが、クロキやレイジ達の邪魔になるかもしれず攻撃の魔法も使えずにいる様子であった。
「うちも手伝いたいけど……。どうすれば……。そうや、これを聞いて元気を出してや!」
何かを思いついたトヨティマが突然歌い始める。
「清き流れのセアードよ♪
大海にこぼれし我らの故郷♪
真珠と珊瑚で飾り立て♪
紺碧の海を輝かそう♪」
それは綺麗な歌声であった。
声は澄んでいてクロキ達の周囲を響かせる。
彼女もマーメイドと同じく歌の魔法が使えるようであった。
歌声を聞くとクロキは元気が出て来るような気がする。
「綺麗な歌声だな」
「ええ、元気が出てくるわ」
レイジとチユキは笑うと魔法を使う。
先程よりも威力が上がっているようであった。
「レイジ様! トルキッソスが!」
突然マーメイドの姫が大声を出す。
クロキは少し振り向くとトルキッソスが目を覚ましたようであった。
「綺麗な歌声……。ここは?」
「もうダラウゴンの娘の歌声で目を覚ますなんて……」
マーメイドの姫は目を覚ましたトルキッソスを見て呆れた顔をする。
歌の魔法は精神に作用するので、それが良かったようだ。
「あれ、何だか触手の動きが弱くなったっすよ」
ナオが不思議な顔をする。
確かに先程よりも動きが鈍い。
「うん、きっと無理矢理取り込まれた命が歌を聞いて反抗しているんだよ。命の流れを感じるよ」
リノが手を耳に添えて澄まして言う。
歌の魔法はフェーギルに取り込まれた命達に意思を呼び戻したのかもしれない。
もしそうならば歌は有効のようであった。
「なるほどなあ。それならもっと歌うわ」
「ダラウゴンの娘。私も手伝います」
トヨティマが再び歌おうとするとマーメイドの姫も横に並ぶ。
「へえ、うちについてこられるか? トライデンの娘はん」
「何を、歌では負けません!」
「そうかえ、それならいくでえ!」
2名の歌姫が並んで合唱する。
初めてのはずなのに綺麗に合わさる歌声が鬼岩城に響く。
「碧き流れは命を育み」
「白き泡は命を生み」
「暗き海底は安らぎを与え」
「輝く海面は活力を与え」
「銀の真珠は海の宝冠」
「紅い珊瑚は海の玉座」
「「悠久の時を海は流れる」」
トヨティマとマーメイドの姫の魔法の歌声はクロキ達の力を高め、迫る触手の動きを鈍くする。
「やめろおおおおおおお! その歌をやめろおおおおおお!」
フェーギルの慌てる声。
それと同時に衝撃波がクロキ達を襲う。
それは強力な音撃だ。
逃がすまいとするフェーギルの最後の手段のようであった。
フェーギルはトヨティマ達の歌声を消そうと躍起になっている。
「何です! この嫌な音は!」
たまらずマーメイドの姫は耳を塞ぐ。
「やめたらあかんで、頑張るんや」
トヨティマは衝撃波にも負けず歌を続ける。
それを見たマーメイドの姫も再び歌う。
「リノも歌うよ!」
「僕も歌います!」
リノとトルキッソスがトヨティマ達に加わる。
「これで歌姫は4名っすね。いけるっすよ」
ナオが歌姫達を見て笑う。
約1名、歌姫と言って良いか迷うが、トルキッソスは女装したままであり、見た目だけなら違和感がなかった。
4名の歌姫の合唱が響く。
「おのれれれれれれれれれれれれ! 逃がすかああああああああ!」
フェーギルはなおも衝撃波を放つ。
「クソ! しつこいな! いい加減に諦めろ!」
歌姫の合唱で触手の動きも鈍り、衝撃波も最初よりも小さい。
しかし、それでも戦況が良くなっただけだ。
まだまだ油断はできないのであった。
◆
クロキ達が脱出するために頑張っている時だった。
鬼岩城の外にいるポレン達はトリトンとマーマンが取って来てくれた果実を食べる。
果実はこの辺りでは一般的なもので沿岸には多く実を茂らせている。
良く熟していてとても美味しかった。
「地上ならお茶も出せたのですが、さすがに海の中では無理ですね」
「仕方がありませんわ、カヤ。それに海の中での会食も面白いですわよ」
キョウカは笑う。
少し上半身を揺らすとその大きな胸が揺れてマーマン達やトリトンの目を釘付けにする。
キョウカは薄着であり、その豊満な胸は何度見ても羨ましく思う。
(やっぱりでっかい! 師匠もすごいけど、クロキ先生に近づけたくないなあ)
キョウカを見ながらポレンはそう思う。
クロキは間違いなく大きな胸が好きだ。
やがては自分も大きくなると思っている。
それまでは出来るだけ大きな胸の女性をクロキに近づけたくない。
ポレンはそんな事を考える。
「殿下~。こんな事をして良いのさ~。閣下は今大変なのさ」
側にいるプチナがそんなポレンを見てため息を吐く。
「もう、そんな事を言って、ぷーちゃんだっていっぱい食べているでしょ!」
ポレンはプチナに睨み返す。
何だかんだ言ってプチナもまた食いしん坊である。
美味しい御菓子には目がない。
ポレンと同じだけ食べている。
何度も取りに行かせてマーマンとトリトンはへとへとになっている。
しかし、キョウカにお願いされると嫌とは言えないようで、疲れた顔を見せながらも頑張って何度も往復する。
ポレンは少し申し訳に気持ちになるが、する事もなく果実が美味しいので何も言えずにいる。
「それにさあ~、ぷーちゃん。先生が何かあるまで待機って言っていたし、他にする事もないんだから仕方がないじゃな……、あれ?」
そんな時だったポレンは異変に気付く。
鬼岩城が動いているのだ。
「カヤ!? 大変ですわ! 口が閉じていきますわよ!」
同じように異変に気付いたキョウカが城を指す。
「どうやら、何かあったようですね。様子を見て来ます」
「お待ちなさい、カヤ! わたくしも行きますわ!」
キョウカとカヤがこの場から離れる。
「ま、待って! 私も行く! 先生が心配だもの!」
ポレンは慌ててキョウカの後を追う。
クロキのために動く事で後れを取ってはいけなかった。
「ちょっと待って欲しいのさ、殿下~」
プチナも慌てて追いかける。
付いて来たのはプチナだけではない。
非常事態だと判断したトリトンとマーマンの戦士達も後に続く。
程なくして鬼岩城の近くへと辿り着く。
「完全に閉じてますわね」
キョウカは鬼岩城を見て言う。
キョウカの言う通り、クロキ達が入った口は閉じられ目も閉じられている。
つまり鬼岩城に入れなくなったのだ。
「どうするのさ? これじゃあ閣下達が出れないのさ」
プチナは閉じられた鬼岩城の口を叩く。
岩で出来ているはずなのに動くのはおかしい。
「確かにこれでは出られないですわね……。中で何があったのでしょう?」
「わかりません。お嬢様。しかし、もしかすると苦戦している可能性もあります。破れないか殴ってみましょう」
そう言うとカヤは拳を鬼岩城の口に叩きつける。
拳は鬼岩城の表面の岩を壊すが微々たるものだ。
「結構硬いですね。これでは時間がかかります」
「私も手伝いますわ。爆裂魔法は効くかしら? 皆さん。ちょっと離れて下さい」
キョウカの言葉で全員が離れる。
離れたのを確認するとキョウカは爆裂魔法を唱える。
しかし、海の中で威力が落ちているのかカヤと同じように表面を壊すだけであった。
「いけねえ! お嬢を助けねえと!」
「姫! 大丈夫ですか!」
今度マーマンとトリトンは各々の武器で鬼岩城の岩壁に穴を開けようとする。
しかし、ほんのわずかに傷をつけるだけであった。
「よし、ここは殿下の出番なのさ。殿下の剛力なら穴を開けるなんて大丈夫なのさ」
ここぞとばかりにプチナがポレンを前に出す。
「ちょっと、ぷーちゃん。あのねえ、私はか弱いお姫様のつもりなんだけど……」
「殿下。冗談を言っている場合じゃないのさ。閣下が危険かもしれないのさ。さあ、殿下がやるのさ。みんな下がるのさ」
冗談ではないとポレンは反論しようかと思うが、クロキが危険かもしれないのでやってみる事にする。
「うーん。ちょっと納得いかないけど先生を助けるためにやってみるよ」
ポレンは全員が下がったのを確認すると愛用の魔法の大鎚を呼び出す。
(さて、まずは軽く叩いてみるかな)
まずは鬼岩城の硬さを確かめ、その後本気で叩く。
ポレンはそう考えて大鎚を構える。
「えいっ!」
掛け声と共にポレンは大鎚を振るう。
その一瞬の後、轟音が響き渡る。
(あれ? 意外と脆い)
叩いた所は大きく穴を開け、その穴の空いた箇所からひび割れ、やがて鬼岩城の岩壁全体へと伝わる。
「何という力ですの。鬼岩城全体がひび割れましたわ」
「はい、魔王の姫の本気の一撃……。これほどとは」
キョウカとカヤの驚く顔。
(い、今のは軽く叩いただけなんですけど! 私が怪力なんじゃなくて、岩壁がもろいだけなんですよー!)
ポレンはそう言いたくなる。
驚いているのはキョウカとカヤだけではない。
マーマンとトリトンの戦士達も顔を青くしてポレンを見る。
「す、すげえ。さすがはあの魔王陛下の姫君だ……」
「何と言う剛腕……。恐るべし」
「俺達の渾身の一撃でもほとんど壊れなかったのによお、すげえぜ」
「私の自慢の槍を跳ね返した岩壁をいとも容易く、何と言う……」
「こ、これなら、お嬢を助けられる。さすが殿下だぜ……」
「姫を助けられるかもしれないが、何と言う怖しい」
小声でマーマンとトリトンは仲間同士で話し合う。
ただ、耳の良いポレンにはその話している内容ははっきりと聞こえていたりする。
そこにあるのは賞賛よりも恐怖であった。
(何だろう。か弱いお姫様のはずなのに……)
納得がいかないポレンは項垂れる。
そんな中、プチナだけは嬉しそうであった。
「ぬふふふ。殿下の力はこんなもんじゃないのさ。殿下が本気を出せば海を割り、空を砕くのさ」
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※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た
pelonsan
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※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。
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