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第9章 妖精の森
第11話 夢幻の都アルセイディア
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夢幻の都アルセイディアはエルフ達の国で、場所はエリオス山の麓に広がる大樹海に隠されている。
アルセイディアの周囲には複数の砦が建造され、魔法の結界で守られ、その1つがカータホフの砦である。
チユキ達はそこからアルセイディアへと向かう事にする。
妖精騎士タムリエルの先導の元、チユキ達は森の中に敷かれた白石の道をケリュネイアの鹿が牽く車に乗って進む。
カータホフの砦を抜けるまでは、木々が鬱蒼と茂っていたが、アルセイディアへと続く道はそうではない。
木々は多いが見晴らしは良く、晴れた空が広がっている。
「チユキさん! 見て、見て! すごいよ! 樹が黄金に輝いている! しかも、すごく大きい!!」
車の窓から巨大な黄金樹を見たリノが歓声を上げる。
チユキも窓から外を見ると、行く先に巨大な樹が見える。
その樹は黄金に光り輝いていて山のように大きい。
あれ程の巨大な樹を見るのはチユキも初めてであった。
「本当。すごいっすね」
「うん。あんな樹、初めて見る」
ナオもシロネも黄金樹を見て驚きの声を上げる。
「あれこそ、黄金樹です。太古より聳え立つ偉大なる樹なのですよ」
鹿車を操縦するタムリエルが説明する。
説明によると黄金樹はこの世界が生まれる太古の昔から存在する。
その麓にはエリオスの神々の盟友である黄金の神竜王が住み、黄金樹を守っている。
そして、エルフの都アルセイディアはそんな黄金樹と神竜王を世話するために建造されたのである。
しばらくすると壮麗な巨大な門が見える。
どうやら、アルセイディアへと辿り着いたようであった。
「うわ~! すごい、綺麗!」
リノは再び感嘆の声を出す。
門の中に入るとそこは別世界であった。
深緑の木々の中に白磁の建物が並んでいる。
その白磁の建物は金と銀を使った模様で飾られ光り輝く。
通りには美しいエルフ達が歩き。
所々に花園があり、小妖精達が飛んでいる。
その光景はまさに御伽の国である。
「本当に綺麗……」
「これは、中々っすね……」
リノだけでなくチユキにシロネやナオもその光景に魅入ってしまう。
「これぞ我らが都アルセイディアです、お嬢様方。さてこのまま我らが女王陛下がいる琥珀の宮まで案内したいのですが……。一応、お目通りの許可が必要です。申し訳ないのですが、しばらく別の館で待機をお願い致します」
タムリエルは申し訳なさそうに言う。
確かに鹿車は大通りから少し離れた道を走っている。
ここまで来て騒ぎを起こす必要はない。少し待っても良いだろうチユキは思う。
やがて、庭に綺麗な泉がある大きな館へと辿り着く。
「あれ?」
館に近づいた時だった、チユキは思わず声を出す。
エルフの乗り物とは思えない武骨な車が館に止まっていたからだ。
「あれは? 鎚の紋章? ということはドワーフ達が来ているのかしら?」
チユキは首を傾げる。
鎚の紋章は鍛冶と財宝の神ヘイボスの紋章である。
そして、ヘイボスは全てのドワーフの父であり、彼らから崇められている。
だから、あの車はドワーフのものである可能性が高い。
「賢者殿の推測通りです。あれはクタルに住む者達の車。彼らは生きていない金属は扱えても、生きている木々は扱えない。我々から作物を得るために、たまに来ることがあるのです。そして、申し訳ないですが少し待っていて下さい」
タムリエルが申し訳なさそうに言う。
館は広そうなので、チユキとしては相部屋でも構わない。
それはシロネやリノやナオも同じであろう。
チユキ達を乗せた鹿車がドワーフの車の横に止まると館から誰か出てくる。
10歳前後ぐらいの人間の子どもだ。
(女の子のように見えるけど、多分男の子よね。この館で働いているのかしら。コウキもエルフの国にいたら、彼のようになるのかもしれないわね)
チユキは子どもを見てそんな事を考える。
「これは、これは、タムリエル様。お客様ですか?」
「その通りだ、ヒュラス。急な事で申し訳ないが、確かドワーフ達しか来ていないのなら、最上級の部屋は空いているはずだ。そこにお嬢様方を案内しておくれ」
タムリエルがそう言うとヒュラスと呼ばれた少年は困った顔をする。
「申し訳ございません。タムリエル様。今あの部屋はドワーフの方々が使用されています。ですので、別の部屋をお願いいたします」
「何!? そんな馬鹿な!? ドワーフ達は常に最下級の部屋に案内するのが定めのはずだ! なぜ、そんな事になっている!? 早々に立ち退いてもらえ!」
タムリエルは驚いて言う。
(噂には聞いていたけど、本当にエルフとドワーフは仲が悪みたいね)
チユキは溜息を吐く。
エルフとドワーフは同じエリオスの神々の眷属であるが仲が悪い事で有名であった。
そのため、エルフはドワーフを来た時は必ず最下級の部屋にしか案内しないようであった。
タムリエルの言葉にヒュラスと呼ばれた少年は困った顔をする。
「駄目です! タムリエル様! あの部屋はあの方達が使うべき部屋です! 立ち退いてもらうなど出来ません!」
「なっ!?」
ヒュラスの言葉が信じられなかったのだろう、タムリエルは絶句する。
ヒュラスは一歩も引かない様子だ。
「ねえ、ちょっと待って」
そんな中、突然リノが出てくる。
リノはヒュラスの前に出ると身を屈めてヒュラスに顔をよせる。
「あの? 何を?」
ヒュラスが戸惑うのを感じる。
「ねえ、君。リノの眼を見て」
リノがそう言った瞬間だったヒュラスの眼が胡乱な状態に変わる。
「精神魔法!? ちょっと、何やってんの!? リノさん!?」
チユキは慌ててヒュラスに駆け寄る。
おそらくリノはヒュラスに精神魔法をかけたのだ。
人を操る精神魔法は軽々しく他者にかけて良いものではない。
だから、チユキはリノを止める。
「違うよ、チユキさん。この子、誰かに精神支配を受けていたの。それを解いたの」
リノの説明にその場にいた全員が驚く。
「精神支配!? ヒュラスは魔法を受けていたと言うのですか!? まさかドワーフが!? 馬鹿な!!」
タムリエルは信じられないと首を振る。
ドワーフは土系の魔法や付与魔法は得意だが、精神魔法は得意ではない。
チユキもドワーフが精神魔法を使ったとは思えなかった。
「どういう事なの? もしかして、ドワーフ以外の何者かが入り込んでいるんじゃ?」
シロネは不安そうに言う。
もしかするとエルフに良からぬ事を考える何者かがドワーフを騙り、侵入しているのかもしれないとシロネは不安を口にする。
「まさか!? そんな!? このアルセイディアに!? だが、他に考えようがない……。ドワーフは妻として猫女を連れてくる事があるが、彼女達も精神魔法は使えなかったはずだ……」
嫌な予感がしたチユキ達は顔を見合わせる。
今、この館に来ているのはドワーフとその仲間ではないかもしれないからだ。
「ねえ、様子を見に行ったほうが良いんじゃないっすか?」
ナオの提案に全員が頷く。
この館に来ている者が何者なのか確認をした方が良い。
チユキ達はタムリエルを先頭に館の中を進む。
広く趣味の良い内装だ。
特に荒らされている様子はない。
奥に進むと突き当りに壮麗な扉の前へと来る。
「ここが、この館で最上級の部屋です。良いですか? 開けますよ」
「ええ、良いわ。開けて」
チユキ達が頷きタムリエルが扉を開けると、そこは宴会場だった。
宴会をしているのはドワーフと猫人の女性、そして、わずかに人間の女性も混じっている。
そんな中を美少年達が忙しそうに動いている。
少年達はヒュラスと同じようにこの館で働いている者のようであった。
「うわ~。何だか楽しそうっすね。それにしてもドワーフさん達だけじゃないっすけど。どういう事っすかね?」
「彼女達はドワーフの妻となった者達です。彼女達の存在を姫様達は好ましく思っていないのですが……」
タムリエルが説明する。
姫様達というのはエルフの事に違いなかった。
エルフの女性は人間の娘や猫人の娘を下に見ている。
そのためタムリエル達も下に扱わなくてはいけない。
基本的に女性には紳士的なタムリエルも彼女達の扱いに困っている様子であった。
「という事は彼女達の中に、精神魔法を使える者がいるって事ね」
チユキはドワーフ達を見る。
見た感じドワーフ達は本物だ。魔法で何者かがドワーフに化けている感じはしない。
最下級の扱いに怒った誰かが魔法を使ったのかもしれない。
そんな事を考えているとチユキ達に気付いたドワーフの1名がこちらに来る。
「おや、タムリエルじゃないか? この館に、こんな上等な部屋があるとはな、いつもはみすぼらしく狭い部屋ばかりだから、エルフ達は貧しいのかと思っておったわ。がははははは」
酒瓶を持ったドワーフが酒臭い息で悪態をつく。
「ベレガール殿か、申し訳ないが貴方達の扱いは姫様方の指示なのだ。悪いが即刻この部屋から退去してもらいましょう」
「それはちっと難しいな、あの娘っ子が承諾するかどうか……ん? 後ろにいる娘っ子は誰じゃ? 性悪なエルフ共ではないようだが?」
ベレガールはタムリエルの後ろにいるチユキ達を見る。
「彼女達はあの女神レーナ様が認めた勇者レイジ様の御仲間達だ。訳有ってこの都へと来ている」
「何じゃと!? 勇者の仲間!? いや、これは……。不味いやもしれぬ」
ベレガールの言葉の最後の方が小さくなる。
(何が不味いのかしら?)
チユキがそんな事を考えているとシロネが突然前に出る。
「えっ? どうしたの、シロネさん?」
しかし、シロネはチユキの声に応えない。
まっすぐ部屋の奥を見ている。
釣られてチユキもその視線を追いかける。
広い部屋の真ん中、そこでこの部屋でもっとも豪華な長椅子に銀色の髪の少女が寝そべっている。
とんでもない美少女だ。
彼女の頭には黒い猫耳が付いているが、猫人ではないだろう。
猫耳は見るからに飾りだ。
その銀髪の少女の周りには少年達が待機している。
まるで御主人様の命令を待っているみたいだ。
銀髪の少女は大きな椅子に寝そべり、まるでこの部屋の主のようであった。
「ちょっと! あの子どこかで見た事があるよ!」
「確かにそうっす! アリアディア共和国で見た事があるっす!」
リノとナオが驚く声を出す。
ナオの言う通りチユキも彼女に会った事がある。
(あんな美少女は見間違えようがないわ。彼女とはアリアディア共和国で会った。なんで、彼女がここにいるのよ?)
チユキは白銀の髪の美少女の名を思い出す。
白銀の魔女クーナ。
それが彼女の名前である。
チユキが戸惑っていると、シロネはさらに歩き、彼女の元へと向かう。
「なぜ? 貴方がここにいるの?」
白銀の魔女クーナの前に来ると、シロネが怒ったような口調で問い詰める。
「シロネか? それはこちらの台詞だぞ。なぜ、お前達こそ、ここにいる? 全く面倒な奴らだ」
長椅子に横たわったままの状態で魔女クーナは面倒臭さそうにシロネを見る。
シロネとクーナが睨みあう。
チユキは何だか大変な事が起こりそうな気がするのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新しました。
クーナとシロネの合流です。
それから、2次創作ですが、基本的に歓迎です。
ただ、自分はその内容を考慮せずに続きや外伝を書くので、後々2次創作の内容と矛盾するかもしれません。
ですが、IFストーリーはそれはそれで面白いと思っているので、気にせず創作して下さると嬉しいです。
アルセイディアの周囲には複数の砦が建造され、魔法の結界で守られ、その1つがカータホフの砦である。
チユキ達はそこからアルセイディアへと向かう事にする。
妖精騎士タムリエルの先導の元、チユキ達は森の中に敷かれた白石の道をケリュネイアの鹿が牽く車に乗って進む。
カータホフの砦を抜けるまでは、木々が鬱蒼と茂っていたが、アルセイディアへと続く道はそうではない。
木々は多いが見晴らしは良く、晴れた空が広がっている。
「チユキさん! 見て、見て! すごいよ! 樹が黄金に輝いている! しかも、すごく大きい!!」
車の窓から巨大な黄金樹を見たリノが歓声を上げる。
チユキも窓から外を見ると、行く先に巨大な樹が見える。
その樹は黄金に光り輝いていて山のように大きい。
あれ程の巨大な樹を見るのはチユキも初めてであった。
「本当。すごいっすね」
「うん。あんな樹、初めて見る」
ナオもシロネも黄金樹を見て驚きの声を上げる。
「あれこそ、黄金樹です。太古より聳え立つ偉大なる樹なのですよ」
鹿車を操縦するタムリエルが説明する。
説明によると黄金樹はこの世界が生まれる太古の昔から存在する。
その麓にはエリオスの神々の盟友である黄金の神竜王が住み、黄金樹を守っている。
そして、エルフの都アルセイディアはそんな黄金樹と神竜王を世話するために建造されたのである。
しばらくすると壮麗な巨大な門が見える。
どうやら、アルセイディアへと辿り着いたようであった。
「うわ~! すごい、綺麗!」
リノは再び感嘆の声を出す。
門の中に入るとそこは別世界であった。
深緑の木々の中に白磁の建物が並んでいる。
その白磁の建物は金と銀を使った模様で飾られ光り輝く。
通りには美しいエルフ達が歩き。
所々に花園があり、小妖精達が飛んでいる。
その光景はまさに御伽の国である。
「本当に綺麗……」
「これは、中々っすね……」
リノだけでなくチユキにシロネやナオもその光景に魅入ってしまう。
「これぞ我らが都アルセイディアです、お嬢様方。さてこのまま我らが女王陛下がいる琥珀の宮まで案内したいのですが……。一応、お目通りの許可が必要です。申し訳ないのですが、しばらく別の館で待機をお願い致します」
タムリエルは申し訳なさそうに言う。
確かに鹿車は大通りから少し離れた道を走っている。
ここまで来て騒ぎを起こす必要はない。少し待っても良いだろうチユキは思う。
やがて、庭に綺麗な泉がある大きな館へと辿り着く。
「あれ?」
館に近づいた時だった、チユキは思わず声を出す。
エルフの乗り物とは思えない武骨な車が館に止まっていたからだ。
「あれは? 鎚の紋章? ということはドワーフ達が来ているのかしら?」
チユキは首を傾げる。
鎚の紋章は鍛冶と財宝の神ヘイボスの紋章である。
そして、ヘイボスは全てのドワーフの父であり、彼らから崇められている。
だから、あの車はドワーフのものである可能性が高い。
「賢者殿の推測通りです。あれはクタルに住む者達の車。彼らは生きていない金属は扱えても、生きている木々は扱えない。我々から作物を得るために、たまに来ることがあるのです。そして、申し訳ないですが少し待っていて下さい」
タムリエルが申し訳なさそうに言う。
館は広そうなので、チユキとしては相部屋でも構わない。
それはシロネやリノやナオも同じであろう。
チユキ達を乗せた鹿車がドワーフの車の横に止まると館から誰か出てくる。
10歳前後ぐらいの人間の子どもだ。
(女の子のように見えるけど、多分男の子よね。この館で働いているのかしら。コウキもエルフの国にいたら、彼のようになるのかもしれないわね)
チユキは子どもを見てそんな事を考える。
「これは、これは、タムリエル様。お客様ですか?」
「その通りだ、ヒュラス。急な事で申し訳ないが、確かドワーフ達しか来ていないのなら、最上級の部屋は空いているはずだ。そこにお嬢様方を案内しておくれ」
タムリエルがそう言うとヒュラスと呼ばれた少年は困った顔をする。
「申し訳ございません。タムリエル様。今あの部屋はドワーフの方々が使用されています。ですので、別の部屋をお願いいたします」
「何!? そんな馬鹿な!? ドワーフ達は常に最下級の部屋に案内するのが定めのはずだ! なぜ、そんな事になっている!? 早々に立ち退いてもらえ!」
タムリエルは驚いて言う。
(噂には聞いていたけど、本当にエルフとドワーフは仲が悪みたいね)
チユキは溜息を吐く。
エルフとドワーフは同じエリオスの神々の眷属であるが仲が悪い事で有名であった。
そのため、エルフはドワーフを来た時は必ず最下級の部屋にしか案内しないようであった。
タムリエルの言葉にヒュラスと呼ばれた少年は困った顔をする。
「駄目です! タムリエル様! あの部屋はあの方達が使うべき部屋です! 立ち退いてもらうなど出来ません!」
「なっ!?」
ヒュラスの言葉が信じられなかったのだろう、タムリエルは絶句する。
ヒュラスは一歩も引かない様子だ。
「ねえ、ちょっと待って」
そんな中、突然リノが出てくる。
リノはヒュラスの前に出ると身を屈めてヒュラスに顔をよせる。
「あの? 何を?」
ヒュラスが戸惑うのを感じる。
「ねえ、君。リノの眼を見て」
リノがそう言った瞬間だったヒュラスの眼が胡乱な状態に変わる。
「精神魔法!? ちょっと、何やってんの!? リノさん!?」
チユキは慌ててヒュラスに駆け寄る。
おそらくリノはヒュラスに精神魔法をかけたのだ。
人を操る精神魔法は軽々しく他者にかけて良いものではない。
だから、チユキはリノを止める。
「違うよ、チユキさん。この子、誰かに精神支配を受けていたの。それを解いたの」
リノの説明にその場にいた全員が驚く。
「精神支配!? ヒュラスは魔法を受けていたと言うのですか!? まさかドワーフが!? 馬鹿な!!」
タムリエルは信じられないと首を振る。
ドワーフは土系の魔法や付与魔法は得意だが、精神魔法は得意ではない。
チユキもドワーフが精神魔法を使ったとは思えなかった。
「どういう事なの? もしかして、ドワーフ以外の何者かが入り込んでいるんじゃ?」
シロネは不安そうに言う。
もしかするとエルフに良からぬ事を考える何者かがドワーフを騙り、侵入しているのかもしれないとシロネは不安を口にする。
「まさか!? そんな!? このアルセイディアに!? だが、他に考えようがない……。ドワーフは妻として猫女を連れてくる事があるが、彼女達も精神魔法は使えなかったはずだ……」
嫌な予感がしたチユキ達は顔を見合わせる。
今、この館に来ているのはドワーフとその仲間ではないかもしれないからだ。
「ねえ、様子を見に行ったほうが良いんじゃないっすか?」
ナオの提案に全員が頷く。
この館に来ている者が何者なのか確認をした方が良い。
チユキ達はタムリエルを先頭に館の中を進む。
広く趣味の良い内装だ。
特に荒らされている様子はない。
奥に進むと突き当りに壮麗な扉の前へと来る。
「ここが、この館で最上級の部屋です。良いですか? 開けますよ」
「ええ、良いわ。開けて」
チユキ達が頷きタムリエルが扉を開けると、そこは宴会場だった。
宴会をしているのはドワーフと猫人の女性、そして、わずかに人間の女性も混じっている。
そんな中を美少年達が忙しそうに動いている。
少年達はヒュラスと同じようにこの館で働いている者のようであった。
「うわ~。何だか楽しそうっすね。それにしてもドワーフさん達だけじゃないっすけど。どういう事っすかね?」
「彼女達はドワーフの妻となった者達です。彼女達の存在を姫様達は好ましく思っていないのですが……」
タムリエルが説明する。
姫様達というのはエルフの事に違いなかった。
エルフの女性は人間の娘や猫人の娘を下に見ている。
そのためタムリエル達も下に扱わなくてはいけない。
基本的に女性には紳士的なタムリエルも彼女達の扱いに困っている様子であった。
「という事は彼女達の中に、精神魔法を使える者がいるって事ね」
チユキはドワーフ達を見る。
見た感じドワーフ達は本物だ。魔法で何者かがドワーフに化けている感じはしない。
最下級の扱いに怒った誰かが魔法を使ったのかもしれない。
そんな事を考えているとチユキ達に気付いたドワーフの1名がこちらに来る。
「おや、タムリエルじゃないか? この館に、こんな上等な部屋があるとはな、いつもはみすぼらしく狭い部屋ばかりだから、エルフ達は貧しいのかと思っておったわ。がははははは」
酒瓶を持ったドワーフが酒臭い息で悪態をつく。
「ベレガール殿か、申し訳ないが貴方達の扱いは姫様方の指示なのだ。悪いが即刻この部屋から退去してもらいましょう」
「それはちっと難しいな、あの娘っ子が承諾するかどうか……ん? 後ろにいる娘っ子は誰じゃ? 性悪なエルフ共ではないようだが?」
ベレガールはタムリエルの後ろにいるチユキ達を見る。
「彼女達はあの女神レーナ様が認めた勇者レイジ様の御仲間達だ。訳有ってこの都へと来ている」
「何じゃと!? 勇者の仲間!? いや、これは……。不味いやもしれぬ」
ベレガールの言葉の最後の方が小さくなる。
(何が不味いのかしら?)
チユキがそんな事を考えているとシロネが突然前に出る。
「えっ? どうしたの、シロネさん?」
しかし、シロネはチユキの声に応えない。
まっすぐ部屋の奥を見ている。
釣られてチユキもその視線を追いかける。
広い部屋の真ん中、そこでこの部屋でもっとも豪華な長椅子に銀色の髪の少女が寝そべっている。
とんでもない美少女だ。
彼女の頭には黒い猫耳が付いているが、猫人ではないだろう。
猫耳は見るからに飾りだ。
その銀髪の少女の周りには少年達が待機している。
まるで御主人様の命令を待っているみたいだ。
銀髪の少女は大きな椅子に寝そべり、まるでこの部屋の主のようであった。
「ちょっと! あの子どこかで見た事があるよ!」
「確かにそうっす! アリアディア共和国で見た事があるっす!」
リノとナオが驚く声を出す。
ナオの言う通りチユキも彼女に会った事がある。
(あんな美少女は見間違えようがないわ。彼女とはアリアディア共和国で会った。なんで、彼女がここにいるのよ?)
チユキは白銀の髪の美少女の名を思い出す。
白銀の魔女クーナ。
それが彼女の名前である。
チユキが戸惑っていると、シロネはさらに歩き、彼女の元へと向かう。
「なぜ? 貴方がここにいるの?」
白銀の魔女クーナの前に来ると、シロネが怒ったような口調で問い詰める。
「シロネか? それはこちらの台詞だぞ。なぜ、お前達こそ、ここにいる? 全く面倒な奴らだ」
長椅子に横たわったままの状態で魔女クーナは面倒臭さそうにシロネを見る。
シロネとクーナが睨みあう。
チユキは何だか大変な事が起こりそうな気がするのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新しました。
クーナとシロネの合流です。
それから、2次創作ですが、基本的に歓迎です。
ただ、自分はその内容を考慮せずに続きや外伝を書くので、後々2次創作の内容と矛盾するかもしれません。
ですが、IFストーリーはそれはそれで面白いと思っているので、気にせず創作して下さると嬉しいです。
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