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第9章 妖精の森
第5話 緑人
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エリオスの大樹海は世界で最も高いエリオス山の麓に広がっている。
樹海は広く、チユキ達の住む広大なバンドール平野の3分の1近くもある。
この広い森の中からエルフの国を探さなければならない。
チユキとシロネとリノとナオの4人はその樹海の外れにいる。
コウキがエルフに連れ去られてからまだ一日しか経過していない。
チユキ達がこんなに早く樹海にたどり着く事が出来たのは、エリオスに行く事があるかもしれないと、近くの国に転移先を設定しておいたからだ。
そのため、1時間もかからずに樹海にたどり着く。
しかし、それはエルフ達も同じのようであった。
「ねえチユキさん? 見えた?」
「ええ、見えたわ、シロネさん。エルフ達はここを通ったみたいね」
チユキは過去視の魔法により、エルフ達がこの場所を通った事を確認する。
エルフ達がエルドを離れてすぐこの場所を通ったようだ。
過去視や探知を阻害する魔法を使ってはいない。
舐めているのか、そこまで気が回っていないのか、それとも使えないのかはわからない。
しかし、これなら追跡もできるだろう。
「さて、追いかけましょうか。ナオさん? ケリュネイアの通った道を辿れそう?」
「大丈夫っすよ、チユキさん。鹿さん達の匂いは消えていないみたいっす。これなら追えるっすよ。にししし」
ナオは笑う。
ナオは今、頭から獣の耳、お尻からは尻尾が生えている。
獣人形態になったナオの嗅覚はするどい。一度嗅いだケリュネイアの匂いを覚えていた。これなら追跡は出来るだろう。
「でも、エルフの国って、森のどこにあるんだろう? 遠かったらやだな」
リノは森を見て眉を顰める。
確かにリノの言う通りだ。森は広い。一日で辿りつけるとは限らない。
下手をすると野宿をしなければならないだろう。
空を飛ぶ事も考えたが、上空は何等かの結界が張られているみたいで、飛翔の魔法は使えない。
だから、森の中を行くしかない。
「でも行くしかないわ。ここまで来たら引き返せないないもの」
チユキ達が覚悟を決めて森へと入ると、木々は高く。緑の天井からは木漏れ日が差し込んでいる。
ナオを先頭にチユキ達は素早く進む。
野宿は出来る限りしたくない。
進む先は一応ケリュネイアの鹿車が通れるように少し開けている。
これなら迷う事はなさそうだ。
「すごい。風や土の精霊さんの力を強く感じる」
周囲を見ているリノが、驚きの声を出す。
この世界には至る所に精霊がいる。
一定の才を持つ者はその存在を感じる事が出来る。
リノの精霊使いの能力は高い。
そのリノがこれ程驚くと言い事はそうとう凄いのだろう。
ちなみにナルゴルでは闇の精霊が多い事に驚いていた。
精霊も地域によって種類が違い、精霊の種類によって住む生物も違う。
(この森にはエルフが多く住んでいるらしいけど、他にはどんな物が生きているのかしら?)
チユキがそんな事を考えているとナオが足を止める。
その顔が険しい。何か異変があったようだ。
「どうしたの? ナオさん?」
「視線を感じるっす。チユキさん」
「視線? 何者かが私達の様子を見ているの?」
「多分そうっす……。でも何処から見ているのかわからないっす」
「そう……。何者かが遠くから監視をしているのね」
ナオの感知する範囲は広い。
その感知範囲の外から見られているのだろうとチユキは推測する。
だとすれば、チユキの魔法で逆探知をすべきだろう。
「いや、これは違うっすね……。視線は近くから感じるっす。すぐ近くから見ているみたいっすね……」
「えっ!? そうなの!? ナオさん何処にいるのかわかる?」
「それが、わからないっす……」
「「「なっ!?」」」
ナオの言葉に私とシロネとリノが絶句する。
ナオの探知能力は高い。
近くにいるのなら、どんな隠密の能力を持つ者でも隠れる事は難しい。
そのナオがわからない。
つまり、チユキ達はすごく危険な状況にいるという事だ。
もし相手がその気なら何時でも奇襲が可能な状況なのである。
「シロネさん。貴方はどうなの? 何か感じない?」
シロネはこの中ではナオの次に感知能力が高い。
特に敵意を持つ相手を感知する能力ではナオに匹敵する。
「う~ん、何も感じないけど……。でも、ナオちゃんが見つけられない相手だよ。敵意を隠しているのかも」
シロネは不安そうに周りを見る。
その時、森がざわめいたような気がする。
見ると木々の枝が動き、木の葉が散っている。どうやら本当に何者かがいるようだ。
「駄目っすね……。隠れている奴を見つけられないっす」
ナオは指先から爪を伸ばす。
ナオの獣化による、特殊能力である。
近接戦闘ならブーメランよりも、爪を使った方が戦いやすい。
小剣並みに伸びた爪は鋭く、相手を容易く切り裂く。
シロネも剣の柄に手を置いて何時でも抜けるようにする。
「待って! みんな! 落ち着いて! 戦う姿勢にならないで!」
リノは声を出す。
チユキとシロネとナオはリノを見る。
リノは目を瞑り、手を添えて、耳を澄ましている。
「今、気づいたの、見ているのは森の木々だよ。リノ達の気が荒ぶったから、木々が警戒したみたい」
リノの言葉にチユキは首を傾げる。
(木々が見ているとはどういう事なの? だけど、リノさんは私達を見ている者がわかったみたいね)
リノはナオよりも感知の範囲は狭いが精神や感情等を感知する事に関してはナオよりも能力が高い。
その能力で相手が何者なのかがわかったようだ。
「ねえ、どうしてリノ達を見ていたの? どうして、そんなに不安そうにしているの? リノ達は貴方達を傷つけたりしないよ。お願い出てきて教えて」
そう言うとリノは魔法を使う。
平穏の魔法。
この魔法は相手の心を穏やかにさせて、会話のテーブルにつかせる事が出来る。
もっとも、最初から敵意を持っている相手に対しては効かない。
その時は魅了を使うしかない。
リノが平穏の魔法を使ったのは敵ではないと判断したからだ。
リノが魔法を使うと突然目の前の木が動く。
それはまるで意思を持っているかのようである。
チユキは目の前の動いた木を見る。
良く見るとその木は人型をしている。
二本足で立ち、両手がある。
ただ、普通の人と違いその全身から木の葉が生えている。
その木の葉が生えた人型は1つではなかった。2つ、3つ、かなりの数だ。
毛むくじゃらならぬ、葉むくじゃらの顔には人間と同じく目があり、チユキ達を見つめている。
ナオが感じていた視線はこの者のようであった。
「どうりで、見つけられないはずっす……。最初から目の前にいたっすね……。」
ナオは頭を掻く。
おそらく、存在は感知していたのだろう。ただし、普通の木々と同じと思っていたので、それが見ているとは思わなかったのだ。
「ねえチユキさん。この人達って……」
「ええ、そうよ、シロネさん。おそらく緑人だわ」
チユキは目の前の木々を見る。
目の前の木々は緑人という種族のようであった。
緑人は人間のような顔を持ち話す事ができる樹あり、人型の者もいれば、顔だけ人型で樹と変わらない者もいるらしい。
チユキは緑人に会うのは初めてである。
もしかすると、過去に何度か会っているかもしれないが、彼らは普段は普通の木のように動かない。
そのため、出会っても気付かなかった可能性もある。
チユキが書物で得た緑人の情報によると、全員髭のような葉っぱが生えている事から、男性しかいない種族に見えるが、性別は特にない。
ただ、本で読む限り、彼らは穏やかな種族のはずであり、森に危害を加えない限り、彼らは敵対する事はないはずであった。
その彼らがチユキ達を監視するように見て、取り囲む。
(どういう事なの? 私達は森に危害を加えていないのに)
チユキがそんな事を考えていると1名の緑人が前に出てくる。
緑人はとても大きく、まるで巨人のようであった。
ただ、両手両足を持っているが、所々から枝が生えている。じっとしていたら大木と見間違っていただろう。
緑人は樹と同じ寿命を持ち、成長すれば大木のように大きくなる。
長い年月を生きた古緑人は他の緑人の指導者となる。
おそらく、彼が取り囲む緑人のリーダーなのだろう。
「平原に住む者よ。この森に何のようだ? 森を枯らす者達の仲間ではないようだが」
古緑人が身を屈めてチユキ達に話しかける。
「私達はエルフに攫われた子どもを取り返しに来たのです。ここをエルフが通ったはずですが、教えていただけませんか?」
チユキがそう言うと古緑人は考え込む。
「確かに通ったぞ。黄金の角を持つケリュネイアの車に乗ってな。その中にそなたらの子がおったか? ならば心配だろう」
古緑人はコウキをチユキ達の誰かの子どもと勘違いしているようだ。
しかし、わざわざ訂正する気にもならない。
「そうですか、教えてくれてありがとうございます。それでは私達は行きますね」
「待ってチユキさん」
チユキが行こうとすると、リノが止める。
「どうしたの、リノさん?」
「ちょっと気になる事があるの」
そう言うとリノは古緑人を見る。
「ねえ、さっき貴方が言っていた森を枯らす者って何? 森の精霊達が騒いでいるのもそのせいなの?」
リノが言うと緑人達が騒ぎ出す。
何だか驚いているようであった。
「ほう、平原に住むそなたにも聞こえるか。森の悲鳴が。これは驚きだ。ならば教えよう。今森に異変が起こっているのだよ」
古緑人が説明する。
最近この樹海の西側で木々を枯らす者がいるそうだ。
その被害は西にいる彼らの同胞にも及んでいる。
同じ森に住む緑人は精神が共感しあうので、その痛みが伝わる。
そのため、この樹海住む緑人は外からの来訪者に対して警戒中であった。
チユキ達は顔を見合わせる。
「どうやら、大変な時に森に入って来てしまったみたいっすね」
「そうだね……。だから、外から来た私達を監視していたんだ。リノちゃんがいなかったら、大変な事になっていたかも」
シロネの言う通りだった。下手をすると緑人達と戦いになっていたかもしれない。
チユキ達の方が強いが、出来れば戦いたくはない相手なので、危ないところであった。
「ねえ、森を枯らす者達って何者なの?」
「わからぬ。しかし、強く怖ろしい者達だ。天上の者達でなければ敵わぬ程に」
リノが聞くと古緑人は首を振る。
天上の者とはエリオスの神や天使の事だろう。
彼らが相手でなければ敵わないのなら、かなりの強敵のはずだ。
チユキはその者達の事が気になる。
しかし、緑人達もわからない以上。これ以上聞く事はできない。
「教えてくれてありがとう。もし、そんな奴と出会ったらリノ達が追い払ってあげる」
リノが言うと緑人達は嬉しそうにする。
「そうか、それはありがたい。ならば秘密の風の道を教えよう。木々の隙間、風の精霊の通り道を抜ければ、日暮れまでにエルフ達の住むカータホフの砦にたどり着けるはずだ」
古緑人がある方向を指さすと、チユキはそこから風を感じる。
風の道が開いたようであった。
「ありがとうございます」
チユキは緑人達に頭を下げる。
これで、移動速度が上がる。
シロネにナオ、そしてリノもお礼を言うとチユキ達はその場を後にする。
「さらばだ、平原に住む者よ、森の精霊の加護があらん事を」
古緑人が手を振ると緑人達が歌い出す。
それはまさに風と木の詩であった。
「さやさや、さやさやと風が吹く、
我らの声を乗せて吹く、
緑の風が楽しく踊り、
森の精霊も笑い出す。
我らも楽しく踊り、
木の葉をそよそよと揺らしあう、
緑の風は我らがこころ、
木霊を森に響かせる♪」
そんな歌を聞きながらチユキ達は風の道へと入るのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
グリーンマン。中世ヨーロッパの建築物に描かれるレリーフです。元はケルトの文化。
この物語における指輪物語のエントやD&Dのトレントに相当します。
なるべく、伝承に出てくる幻想生物をだそうと思った結果、グリーンマンを採用しました。
しかし、グリーンマンで検索すると、とある特撮の画像ばかり出てきます。
こんな特撮があったんだΣ(゜ロ゜;)!
もし、伝承のグリーンマンの画像が欲しい時は「Greenman」で検索すると見つかります。
そして、今回の話ですが、チユキさん視点だけですね。
樹海は広く、チユキ達の住む広大なバンドール平野の3分の1近くもある。
この広い森の中からエルフの国を探さなければならない。
チユキとシロネとリノとナオの4人はその樹海の外れにいる。
コウキがエルフに連れ去られてからまだ一日しか経過していない。
チユキ達がこんなに早く樹海にたどり着く事が出来たのは、エリオスに行く事があるかもしれないと、近くの国に転移先を設定しておいたからだ。
そのため、1時間もかからずに樹海にたどり着く。
しかし、それはエルフ達も同じのようであった。
「ねえチユキさん? 見えた?」
「ええ、見えたわ、シロネさん。エルフ達はここを通ったみたいね」
チユキは過去視の魔法により、エルフ達がこの場所を通った事を確認する。
エルフ達がエルドを離れてすぐこの場所を通ったようだ。
過去視や探知を阻害する魔法を使ってはいない。
舐めているのか、そこまで気が回っていないのか、それとも使えないのかはわからない。
しかし、これなら追跡もできるだろう。
「さて、追いかけましょうか。ナオさん? ケリュネイアの通った道を辿れそう?」
「大丈夫っすよ、チユキさん。鹿さん達の匂いは消えていないみたいっす。これなら追えるっすよ。にししし」
ナオは笑う。
ナオは今、頭から獣の耳、お尻からは尻尾が生えている。
獣人形態になったナオの嗅覚はするどい。一度嗅いだケリュネイアの匂いを覚えていた。これなら追跡は出来るだろう。
「でも、エルフの国って、森のどこにあるんだろう? 遠かったらやだな」
リノは森を見て眉を顰める。
確かにリノの言う通りだ。森は広い。一日で辿りつけるとは限らない。
下手をすると野宿をしなければならないだろう。
空を飛ぶ事も考えたが、上空は何等かの結界が張られているみたいで、飛翔の魔法は使えない。
だから、森の中を行くしかない。
「でも行くしかないわ。ここまで来たら引き返せないないもの」
チユキ達が覚悟を決めて森へと入ると、木々は高く。緑の天井からは木漏れ日が差し込んでいる。
ナオを先頭にチユキ達は素早く進む。
野宿は出来る限りしたくない。
進む先は一応ケリュネイアの鹿車が通れるように少し開けている。
これなら迷う事はなさそうだ。
「すごい。風や土の精霊さんの力を強く感じる」
周囲を見ているリノが、驚きの声を出す。
この世界には至る所に精霊がいる。
一定の才を持つ者はその存在を感じる事が出来る。
リノの精霊使いの能力は高い。
そのリノがこれ程驚くと言い事はそうとう凄いのだろう。
ちなみにナルゴルでは闇の精霊が多い事に驚いていた。
精霊も地域によって種類が違い、精霊の種類によって住む生物も違う。
(この森にはエルフが多く住んでいるらしいけど、他にはどんな物が生きているのかしら?)
チユキがそんな事を考えているとナオが足を止める。
その顔が険しい。何か異変があったようだ。
「どうしたの? ナオさん?」
「視線を感じるっす。チユキさん」
「視線? 何者かが私達の様子を見ているの?」
「多分そうっす……。でも何処から見ているのかわからないっす」
「そう……。何者かが遠くから監視をしているのね」
ナオの感知する範囲は広い。
その感知範囲の外から見られているのだろうとチユキは推測する。
だとすれば、チユキの魔法で逆探知をすべきだろう。
「いや、これは違うっすね……。視線は近くから感じるっす。すぐ近くから見ているみたいっすね……」
「えっ!? そうなの!? ナオさん何処にいるのかわかる?」
「それが、わからないっす……」
「「「なっ!?」」」
ナオの言葉に私とシロネとリノが絶句する。
ナオの探知能力は高い。
近くにいるのなら、どんな隠密の能力を持つ者でも隠れる事は難しい。
そのナオがわからない。
つまり、チユキ達はすごく危険な状況にいるという事だ。
もし相手がその気なら何時でも奇襲が可能な状況なのである。
「シロネさん。貴方はどうなの? 何か感じない?」
シロネはこの中ではナオの次に感知能力が高い。
特に敵意を持つ相手を感知する能力ではナオに匹敵する。
「う~ん、何も感じないけど……。でも、ナオちゃんが見つけられない相手だよ。敵意を隠しているのかも」
シロネは不安そうに周りを見る。
その時、森がざわめいたような気がする。
見ると木々の枝が動き、木の葉が散っている。どうやら本当に何者かがいるようだ。
「駄目っすね……。隠れている奴を見つけられないっす」
ナオは指先から爪を伸ばす。
ナオの獣化による、特殊能力である。
近接戦闘ならブーメランよりも、爪を使った方が戦いやすい。
小剣並みに伸びた爪は鋭く、相手を容易く切り裂く。
シロネも剣の柄に手を置いて何時でも抜けるようにする。
「待って! みんな! 落ち着いて! 戦う姿勢にならないで!」
リノは声を出す。
チユキとシロネとナオはリノを見る。
リノは目を瞑り、手を添えて、耳を澄ましている。
「今、気づいたの、見ているのは森の木々だよ。リノ達の気が荒ぶったから、木々が警戒したみたい」
リノの言葉にチユキは首を傾げる。
(木々が見ているとはどういう事なの? だけど、リノさんは私達を見ている者がわかったみたいね)
リノはナオよりも感知の範囲は狭いが精神や感情等を感知する事に関してはナオよりも能力が高い。
その能力で相手が何者なのかがわかったようだ。
「ねえ、どうしてリノ達を見ていたの? どうして、そんなに不安そうにしているの? リノ達は貴方達を傷つけたりしないよ。お願い出てきて教えて」
そう言うとリノは魔法を使う。
平穏の魔法。
この魔法は相手の心を穏やかにさせて、会話のテーブルにつかせる事が出来る。
もっとも、最初から敵意を持っている相手に対しては効かない。
その時は魅了を使うしかない。
リノが平穏の魔法を使ったのは敵ではないと判断したからだ。
リノが魔法を使うと突然目の前の木が動く。
それはまるで意思を持っているかのようである。
チユキは目の前の動いた木を見る。
良く見るとその木は人型をしている。
二本足で立ち、両手がある。
ただ、普通の人と違いその全身から木の葉が生えている。
その木の葉が生えた人型は1つではなかった。2つ、3つ、かなりの数だ。
毛むくじゃらならぬ、葉むくじゃらの顔には人間と同じく目があり、チユキ達を見つめている。
ナオが感じていた視線はこの者のようであった。
「どうりで、見つけられないはずっす……。最初から目の前にいたっすね……。」
ナオは頭を掻く。
おそらく、存在は感知していたのだろう。ただし、普通の木々と同じと思っていたので、それが見ているとは思わなかったのだ。
「ねえチユキさん。この人達って……」
「ええ、そうよ、シロネさん。おそらく緑人だわ」
チユキは目の前の木々を見る。
目の前の木々は緑人という種族のようであった。
緑人は人間のような顔を持ち話す事ができる樹あり、人型の者もいれば、顔だけ人型で樹と変わらない者もいるらしい。
チユキは緑人に会うのは初めてである。
もしかすると、過去に何度か会っているかもしれないが、彼らは普段は普通の木のように動かない。
そのため、出会っても気付かなかった可能性もある。
チユキが書物で得た緑人の情報によると、全員髭のような葉っぱが生えている事から、男性しかいない種族に見えるが、性別は特にない。
ただ、本で読む限り、彼らは穏やかな種族のはずであり、森に危害を加えない限り、彼らは敵対する事はないはずであった。
その彼らがチユキ達を監視するように見て、取り囲む。
(どういう事なの? 私達は森に危害を加えていないのに)
チユキがそんな事を考えていると1名の緑人が前に出てくる。
緑人はとても大きく、まるで巨人のようであった。
ただ、両手両足を持っているが、所々から枝が生えている。じっとしていたら大木と見間違っていただろう。
緑人は樹と同じ寿命を持ち、成長すれば大木のように大きくなる。
長い年月を生きた古緑人は他の緑人の指導者となる。
おそらく、彼が取り囲む緑人のリーダーなのだろう。
「平原に住む者よ。この森に何のようだ? 森を枯らす者達の仲間ではないようだが」
古緑人が身を屈めてチユキ達に話しかける。
「私達はエルフに攫われた子どもを取り返しに来たのです。ここをエルフが通ったはずですが、教えていただけませんか?」
チユキがそう言うと古緑人は考え込む。
「確かに通ったぞ。黄金の角を持つケリュネイアの車に乗ってな。その中にそなたらの子がおったか? ならば心配だろう」
古緑人はコウキをチユキ達の誰かの子どもと勘違いしているようだ。
しかし、わざわざ訂正する気にもならない。
「そうですか、教えてくれてありがとうございます。それでは私達は行きますね」
「待ってチユキさん」
チユキが行こうとすると、リノが止める。
「どうしたの、リノさん?」
「ちょっと気になる事があるの」
そう言うとリノは古緑人を見る。
「ねえ、さっき貴方が言っていた森を枯らす者って何? 森の精霊達が騒いでいるのもそのせいなの?」
リノが言うと緑人達が騒ぎ出す。
何だか驚いているようであった。
「ほう、平原に住むそなたにも聞こえるか。森の悲鳴が。これは驚きだ。ならば教えよう。今森に異変が起こっているのだよ」
古緑人が説明する。
最近この樹海の西側で木々を枯らす者がいるそうだ。
その被害は西にいる彼らの同胞にも及んでいる。
同じ森に住む緑人は精神が共感しあうので、その痛みが伝わる。
そのため、この樹海住む緑人は外からの来訪者に対して警戒中であった。
チユキ達は顔を見合わせる。
「どうやら、大変な時に森に入って来てしまったみたいっすね」
「そうだね……。だから、外から来た私達を監視していたんだ。リノちゃんがいなかったら、大変な事になっていたかも」
シロネの言う通りだった。下手をすると緑人達と戦いになっていたかもしれない。
チユキ達の方が強いが、出来れば戦いたくはない相手なので、危ないところであった。
「ねえ、森を枯らす者達って何者なの?」
「わからぬ。しかし、強く怖ろしい者達だ。天上の者達でなければ敵わぬ程に」
リノが聞くと古緑人は首を振る。
天上の者とはエリオスの神や天使の事だろう。
彼らが相手でなければ敵わないのなら、かなりの強敵のはずだ。
チユキはその者達の事が気になる。
しかし、緑人達もわからない以上。これ以上聞く事はできない。
「教えてくれてありがとう。もし、そんな奴と出会ったらリノ達が追い払ってあげる」
リノが言うと緑人達は嬉しそうにする。
「そうか、それはありがたい。ならば秘密の風の道を教えよう。木々の隙間、風の精霊の通り道を抜ければ、日暮れまでにエルフ達の住むカータホフの砦にたどり着けるはずだ」
古緑人がある方向を指さすと、チユキはそこから風を感じる。
風の道が開いたようであった。
「ありがとうございます」
チユキは緑人達に頭を下げる。
これで、移動速度が上がる。
シロネにナオ、そしてリノもお礼を言うとチユキ達はその場を後にする。
「さらばだ、平原に住む者よ、森の精霊の加護があらん事を」
古緑人が手を振ると緑人達が歌い出す。
それはまさに風と木の詩であった。
「さやさや、さやさやと風が吹く、
我らの声を乗せて吹く、
緑の風が楽しく踊り、
森の精霊も笑い出す。
我らも楽しく踊り、
木の葉をそよそよと揺らしあう、
緑の風は我らがこころ、
木霊を森に響かせる♪」
そんな歌を聞きながらチユキ達は風の道へと入るのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
グリーンマン。中世ヨーロッパの建築物に描かれるレリーフです。元はケルトの文化。
この物語における指輪物語のエントやD&Dのトレントに相当します。
なるべく、伝承に出てくる幻想生物をだそうと思った結果、グリーンマンを採用しました。
しかし、グリーンマンで検索すると、とある特撮の画像ばかり出てきます。
こんな特撮があったんだΣ(゜ロ゜;)!
もし、伝承のグリーンマンの画像が欲しい時は「Greenman」で検索すると見つかります。
そして、今回の話ですが、チユキさん視点だけですね。
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