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第7章 砂漠の獣神
第21話 勝利の女神来る
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「お前はっ!!?」
レイジはクロキを見て呻く。
メジェドの正体が暗黒騎士だった事に驚いている。
そんな、レイジを見てクロキは溜息を吐く。
正体を見せるつもりはなかった。
出来る限り、後ろにいるつもりだった。
レイジがシロネを救ってくれるなら、クロキはレイジの眩い輝きが作る日陰者で良かったのである。
しかし、レイジはクロキの後ろで倒れているので、これ以上は戦えない。
ピラミッドは壊れたが目の前の奴らをそのままに撤退するのは難しい。
クロキも戦う必要がある。
だから、全力で戦うためにメジェドの姿から戦いやすい暗黒騎士の姿になったのである。
クロキは邪神達を見る。
邪神達は急に暗黒騎士が現れたので驚き動けずにいる。
「貴方があのアルフォスを倒した暗黒騎士ですか? 一体私に何の用なのです?」
蠍神ギルタルはクロキを見て鬱陶しそうに言う。
ギルタルはクロキとシロネの関係を知らない。
だから、クロキから敵意を向けられる事が不思議なのだろう。
「用はある。だけど、それを知る必要はないよ」
クロキは低い声で言う。
「ふん。何を怒っているのかわかりませんが。返り討ちにしてあげますよ。あのアルフォスを倒したらしいですが。とても信じられません。その嘘をここで暴いてあげましょう」
ギルタルはそれぞれの手に武器を構える。
ギルタルは四本の腕に四本の脚を持っている。
背中には巨大な蠍の2つの鋏が翼のように広がっている。
臀部の所から長い蠍の尾が伸びている。
体には鎧のように固そうな真紅の外骨格。
その形態から身を屈めれば巨大な蠍のように見えるだろう。
巨大な蠍が身を起こした姿こそが蠍人であり、その神がギルタルなのである。
「私の毒の尾で死になさい!! 暗黒騎士!! 死刺妖毒鞭打圏!!」
ギルタルの蠍の尾が何倍にも伸びて鞭のように撓る。
重心を崩さないように足を動かし、鞭となった尾を躱す。
「ほほう!! これではやられませんか?!! ですが、まだまだ行きますよ!! 暗黒騎士!! 双剛鋏刃斬!!!」
ギルタルの背中にある2つの巨大な鋏が動き風刃を発生させる。
クロキは背中にいるレイジに当たるかもしれないので、両腕を素早く回し風刃を受け流す。
「これでもやられないのですかっ!!? ならばこれならどうですっ!!!」
ギルタルはいらだつ声を出すと、それぞれの腕の武器を振るう。
しかし、クロキはこれ以上受け身に回る気はなかった。
クロキはギルタルの槍と剣を掻い潜り、間合いを詰める。
「へ!!?」
クロキに間合いを詰められた事で、虫と人間の顔となったギルタルは間抜けな表情になる。
一瞬で懐に入られた事が信じられないである。
「痛い目に会ってもらうよ……」
クロキは中に眠る大地の剛竜の力を解放する。
宝石の鱗を持つこの竜の力は凄まじく、ギルタルの蠍の外骨格を打ち砕けるはずであった。
クロキは竜の力を開放すると両腕の筋肉が膨れ上がるのを感じる。
そして、クロキは竜の力を感じ取ると大地に体重を乗せ、腋を締め、腰を回し、右腕を高速で突き出す。
「ぐえ!!」
腹を撃ち抜かれたギルタルの体がくの字に曲がり、巨大な牙が生えた口から吐瀉物を吐き出す。
真紅の外骨格がひび割れ、緑色の体液が浸みだしてくる。
「汚いな……」
クロキは吐瀉物を避けると、左腕を下から振るいギルタルの下あごを打ち砕く。
「!!」
ギルタルの声にならない呻き声を出す。
クロキは左腕を下げずに、そのまま体を回転させるとギルタルの体を地面に叩きつける。
その後、少し体を浮かせると両足に力を込めて鋏を踏み砕く。
「きひゃまあ!!!」
顎を砕かれたギルタルは叫ぶ。
クロキは素早く右腕を動かし、自身の背中に攻撃してきた毒の尾を掴む。
「これがシロネを刺した毒の尾か? 不意打ちを狙うならもっとうまくやりなよ」
「きひゃま!! なにを!!? ひゃめて!! ほねがい!!」
クロキが何をしようとしているのか理解したギルタルは泣きながら懇願する。
だけど、クロキは聞くつもりはない。
そのまま毒の尾を引き千切る。
「ひぎゃーーーー!!!!! たしゅけてー!!!!!!!!」
ギルタルは悲鳴を上げる。
その目には涙が溢れている。
クロキはそのギルタルの腹を蹴り、邪神達の元へと飛ばす。
受け止めてもらえずギルタルはそのまま地面に落ちる。
邪神達は信じられないという表情で自分とギルタルを見比べる。
「おい!! あのギルタルが簡単にやられたぞ!!」
「ああ!! 信じられねえ!! あの上から目線のギルタルが簡単にやられるなんて!!」
「澄ました顔で、俺達と一緒にされたくないとほざくギルタルがそんな簡単に……。」
「二枚目気取りで、アルフォスの次に美男のつもりのギルタルが負けるなんて信じられねえ」
「ちょっと体にぶつかったぐらいで、仲間であろうと半殺しするギルタルよりも怖ろしい奴がいるとはな」
「ああ、ギルタルは強くて怖ろしい。俺なんかあいつの女と話しただけで体を斬り刻まれたぜ、しかし、そのギルタルが全く敵わないなんて……」
邪神達は口々に言い合う。
(もしかしてギルタル嫌われている?)
邪神達の言葉を聞いてクロキはそんな考えが頭に浮かぶ。
しかし、今はそんな事はどうでもよいだろう。
クロキはザルキシスとディアドナを見る。
ザルキシスやディアドナは戦うつもりはないのか、先程からクロキとギルタルの戦いを見ているだけだ。
クロキはレイジの襟首を掴むと暴れるのを無視してトトナ達の所へと戻る。
「レイジ君!! 大丈夫!!」
クロキがレイジを地面に降ろすとチユキは駆け寄る。
「ああ、大丈夫だ。チユキ。それよりも……」
レイジはクロキを睨む。
助けて欲しくはなかったのかもしれない。
その気持ちをクロキはわかるつもりだ。
「この尾でもシロネを救えるはずだ」
クロキはレイジの視線を無視すると蠍の尾をチユキに渡す。
「貴方……。もしかして? シロネさんを助けるために来てくれたの?」
チユキは呟く。
しかし、クロキはそのチユキの言葉に答える気はなかった。
クロキは元々影に徹するつもりだった。だから、もう良いのである。
「クロキ、どうしたの?何だか怒っているみたいだけど?」
「何でもないですトトナ。心配をさせたのなら謝ります」
クロキはトトナに頭を下げる。
「レイジ? 大丈夫なの」
イシュティアはレイジの側に駆け寄る。
「ああ大丈夫だ。少し休めば回復する」
レイジは強がりを言う。
しかし、クロキは簡単に回復できないだろうと思っていた。
体の傷は癒せても、中の魔力は簡単には元に戻らないはずである。
(もう少し早く正体を見せるべきだったかもしれない。そうすれば、きっと……。いや、それは思い上がりだ)
クロキは首を振って、その考えを否定する。
世の中は思い通りにはならない。
それをクロキは何よりもわかっている。
ただ、その時々で全力を出せるように常日頃から努力をするしかない。
「そう、でも今は少しでも休みなさい。出来るだけ万全な体勢で戦えるようにするべきだわ。その方が良いはずよ。その間は彼が頑張ってくれるでしょうから……」
イシュティアもわかっているのかレイジに休むように言うとクロキを見る。
そのイシュティアの顔には意味ありげな笑みを浮かべている。
「それにしてもズルいわトトナちゃん。紹介してよ」
「駄目です」
トトナは即答する。
「ぶー。いいもん。彼に直接聞くから」
イシュティアがふくれる。
「もうしわけありませんが、今はそれどころではありません。蛇の女王が睨んでいます」
クロキはこちらに来ようとしているイシュティアを見ないようにして拒絶する。
まだ戦いが終わっていない時にあのおっぱいに近づかれるのは危険であった。
前屈みになったら戦い難い。
クロキはイシュティアから残念そうな気配を感じるが、今は蛇の女王達の様子が気になっていた。
「どうやらギルタルに用があったようだが!!? 気が済んだか!!? 暗黒騎士よ!! では答えてもらうか!! 何故貴様がここにいる!!? 何故エリオスの女神共と一緒にいる!!? 魔王とは敵対するつもりはないぞ!!!」
ディアドナは叫ぶ。
これまで動かなかった理由がわかる。
ディアドナはクロキに真意を確かめたかったのだ。
おかげで少しだけクロキ達は助かっていた。
「蛇の女王よ!! こちらも敵対するつもりはない!! このまま引かせてくれ!!」
クロキは蛇の女王に答える。
奪われたピラミッドはもうなく、蠍の毒も手に入れた。
これ以上は戦う理由はクロキにはない。
「ふん!! このまま引かせる事は出来ぬぞ!! 暗黒騎士!! 引くならエリオスの女神共を置いてもらおう!!」
「それは出来ない!!蛇の女王よ!!トトナを渡す事は出来ない!!」
蛇の女王の言葉にクロキは首を振り、そう言う。
「やはりお前もそうなのか!!? モデスと同じなのか!!? 惜しい!! 口惜しいぞ!! 暗黒騎士よ!!!」
クロキの言葉を聞くと、蛇の女王ディアドナは怒りですごい形相になる。
クロキはディアドナを見る。
蛇の女王の瞳に映る感情。
それはきっと彼女の過去に起因しているようであった。
「ふん!! だから言ったのだ! ディアドナ!! あの腑抜けのモデスの配下に期待すべきではない!! 今、ここで殺しておくべきなのだ!!」
ザルキシスは巨大な蝙蝠の翼を広げると瘴気を含んだ風が発生する。
その瘴気は強力で、生命力の弱い生き物はこの風を受けただけで死ぬだろう。
ザルキシスの瘴気により、ベンヌの力を抑えていたエクリプスの闇が濃くなる。
クロキはエクリプスと同じく闇の力を持つ、だからレイジ程には影響を受けない。
しかし、それでもエクリプスに力を吸われる感触があった。
レイジの回復には時間がかかる。
ただし、それは向こうも一緒で、時間をかければダハークやラヴュリュスが復活するかもしれない。
ザルキシスや蛇の女王は強そうであり、邪神の数も多い。
クロキ達にはトトナやチユキにイシュティア、そしてネルにハルセスやイスデスがいるが、戦力的には劣るようだ。
しかし、邪神達からこちらを攻めようとして来ない。
「さて? どうするの? 向こうの殿方のほとんどは貴方の戦いを見たから積極的に戦うつもりはないようよ。でも上空の闇の精霊にディアドナとザルキシスだけでも厳しいわよ」
イシュティアは邪神達が積極的に攻めてこない理由を教えてくれる。
どうやら邪神達の戦意は高くないようだ。
だとすれば勝機はある。
「自分が闇の精霊を抑えます。その間、蛇の女王達を抑える事はできませんか?」
「それは、ちょっと厳しいわね。ザルキシスとディアドナのどちらかなら多分大丈夫だけど両方は無理だわ。それぐらい彼らは強いわよ」
イシュティアの言葉にトトナも頷く。
「確かに厳しい。私達が劣勢だと知れたら邪神達も動く。そうなると王子達だけでは支えきれない」
トトナはハルセスを見る。
少しは強いかもしれないが、あの数の邪神は抑える事はできないみたいだ。
「わかりました……。ですが、まだ終わったわけではありません。レーナが近くに来ているみたいです。彼女が来てくれたなら勝機はあります」
そう言うとクロキは東の方角を見る。
クロキはレーナが近くまで来ている事を感じ取っていた。
そのレーナの香りをクロキは感じる。
なぜかクロキはそれがわかる。
盾の女神と呼ばれるレーナの防御能力は神族随一だ。
時間を稼ぐとしたら最適な能力であった。
「レーナが近くに来ているだって? なぜお前にそれがわかる!!」
レイジは激昂する。
トトナも不思議そうな顔をしている。
(えっ? 何でわからないの? すごく良い匂いなのに)
不思議に思いクロキは首を傾げる。
「もしかして? 敵感知? ナオさんと同じような」
チユキは首を傾げる。
クロキは違うと言いたいが、否定するのは面倒そうなので、あえて否定はしない。
「はい。ですがまだ少し遠いです。もっと早く来てくれれば……」
クロキはザルキシス達を見る。
すぐにもこちらに来そうだ。
大急ぎで来てくれたのならともかく、このままでは間に合わないかもしれない。
(レーナ!! 来てくれ!!)
だからクロキはレーナに祈る。
しかし、祈ったからと言ってすぐに来てくれるわけがない。
何とか時間を稼ぐ必要があるだろう。
「助けに来たわよ!!!」
突然空から何かが飛んでくるとクロキ達の所へと着地する。
クロキが振り向くとレーナがそこにいた。
槍を持ち、盾を持った完全武装の姿だ。
髪が少し乱れている。
かなり急いで来てくれたみたいであった。
「レーナ……。まさか俺のために?」
「おお!!我が勝利の女神よ!!このハルセスを助けに来てくれたのだな!!」
レイジとハルセスは感動の声を上げる。
感動の声を上げているのはレイジ達だけではなかった。
力を失い倒れかけていた犬人や鳥人の戦士達も歓声を上げている。
それに対してディアドナ達は突然のレーナの登場に戸惑っている。
特に邪神達は浮足立っているのがわかる。
「ふふ。レーナちゃんも女ね。レイジの危機を感じ取ったのね。好きな男を救いに急いで来るなんてね~」
イシュティアは楽しそうに笑う。
「そうなのレーナ? 以前の貴方なら考えられない」
「良かったわね~。レイジ。綺麗な女神様に愛されて」
トトナは信じられないと首を振り。
チユキは複雑そうな顔をする。
「全く。この私を急がせるなんて……」
一瞬クロキはレーナからものすごい目で睨まれる。
(何で? まさか、自分の祈りが通じた? いや、いや、まさかそんなはずないよね?)
クロキは一瞬だけ自惚れそうになる。
「くそ!! レーナまで来るとは!! 暗黒騎士もそうだが!! 次から次へと!! お前たち!! 浮足立つんじゃないよ!! ザルキシス!! 構う事はない!!エクリプスを奴らにぶつけろ!!」
「わかっておるディアドナ!! 行けエクリプス!!」
ザルキシスの声と共にエクリプスは咆哮する。
しかし、勝利の女神は来た。
ここからがクロキ達の反撃の時であった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
ギルタルの姿は文字だとわかり難いので、挿絵で表現したいのですが、絵のスキルが上がっていないので無理だったりします。絵心もないですし……。
ケンタウロスっぽい外見に、お尻の所から蠍の尻尾が生えて、翼のように蠍の鋏が生えている姿を思い浮かべて下さい。
そして、身を伏せると巨大な蠍の姿になるのです。わかり難いですね(´;ω;`)
レイジはクロキを見て呻く。
メジェドの正体が暗黒騎士だった事に驚いている。
そんな、レイジを見てクロキは溜息を吐く。
正体を見せるつもりはなかった。
出来る限り、後ろにいるつもりだった。
レイジがシロネを救ってくれるなら、クロキはレイジの眩い輝きが作る日陰者で良かったのである。
しかし、レイジはクロキの後ろで倒れているので、これ以上は戦えない。
ピラミッドは壊れたが目の前の奴らをそのままに撤退するのは難しい。
クロキも戦う必要がある。
だから、全力で戦うためにメジェドの姿から戦いやすい暗黒騎士の姿になったのである。
クロキは邪神達を見る。
邪神達は急に暗黒騎士が現れたので驚き動けずにいる。
「貴方があのアルフォスを倒した暗黒騎士ですか? 一体私に何の用なのです?」
蠍神ギルタルはクロキを見て鬱陶しそうに言う。
ギルタルはクロキとシロネの関係を知らない。
だから、クロキから敵意を向けられる事が不思議なのだろう。
「用はある。だけど、それを知る必要はないよ」
クロキは低い声で言う。
「ふん。何を怒っているのかわかりませんが。返り討ちにしてあげますよ。あのアルフォスを倒したらしいですが。とても信じられません。その嘘をここで暴いてあげましょう」
ギルタルはそれぞれの手に武器を構える。
ギルタルは四本の腕に四本の脚を持っている。
背中には巨大な蠍の2つの鋏が翼のように広がっている。
臀部の所から長い蠍の尾が伸びている。
体には鎧のように固そうな真紅の外骨格。
その形態から身を屈めれば巨大な蠍のように見えるだろう。
巨大な蠍が身を起こした姿こそが蠍人であり、その神がギルタルなのである。
「私の毒の尾で死になさい!! 暗黒騎士!! 死刺妖毒鞭打圏!!」
ギルタルの蠍の尾が何倍にも伸びて鞭のように撓る。
重心を崩さないように足を動かし、鞭となった尾を躱す。
「ほほう!! これではやられませんか?!! ですが、まだまだ行きますよ!! 暗黒騎士!! 双剛鋏刃斬!!!」
ギルタルの背中にある2つの巨大な鋏が動き風刃を発生させる。
クロキは背中にいるレイジに当たるかもしれないので、両腕を素早く回し風刃を受け流す。
「これでもやられないのですかっ!!? ならばこれならどうですっ!!!」
ギルタルはいらだつ声を出すと、それぞれの腕の武器を振るう。
しかし、クロキはこれ以上受け身に回る気はなかった。
クロキはギルタルの槍と剣を掻い潜り、間合いを詰める。
「へ!!?」
クロキに間合いを詰められた事で、虫と人間の顔となったギルタルは間抜けな表情になる。
一瞬で懐に入られた事が信じられないである。
「痛い目に会ってもらうよ……」
クロキは中に眠る大地の剛竜の力を解放する。
宝石の鱗を持つこの竜の力は凄まじく、ギルタルの蠍の外骨格を打ち砕けるはずであった。
クロキは竜の力を開放すると両腕の筋肉が膨れ上がるのを感じる。
そして、クロキは竜の力を感じ取ると大地に体重を乗せ、腋を締め、腰を回し、右腕を高速で突き出す。
「ぐえ!!」
腹を撃ち抜かれたギルタルの体がくの字に曲がり、巨大な牙が生えた口から吐瀉物を吐き出す。
真紅の外骨格がひび割れ、緑色の体液が浸みだしてくる。
「汚いな……」
クロキは吐瀉物を避けると、左腕を下から振るいギルタルの下あごを打ち砕く。
「!!」
ギルタルの声にならない呻き声を出す。
クロキは左腕を下げずに、そのまま体を回転させるとギルタルの体を地面に叩きつける。
その後、少し体を浮かせると両足に力を込めて鋏を踏み砕く。
「きひゃまあ!!!」
顎を砕かれたギルタルは叫ぶ。
クロキは素早く右腕を動かし、自身の背中に攻撃してきた毒の尾を掴む。
「これがシロネを刺した毒の尾か? 不意打ちを狙うならもっとうまくやりなよ」
「きひゃま!! なにを!!? ひゃめて!! ほねがい!!」
クロキが何をしようとしているのか理解したギルタルは泣きながら懇願する。
だけど、クロキは聞くつもりはない。
そのまま毒の尾を引き千切る。
「ひぎゃーーーー!!!!! たしゅけてー!!!!!!!!」
ギルタルは悲鳴を上げる。
その目には涙が溢れている。
クロキはそのギルタルの腹を蹴り、邪神達の元へと飛ばす。
受け止めてもらえずギルタルはそのまま地面に落ちる。
邪神達は信じられないという表情で自分とギルタルを見比べる。
「おい!! あのギルタルが簡単にやられたぞ!!」
「ああ!! 信じられねえ!! あの上から目線のギルタルが簡単にやられるなんて!!」
「澄ました顔で、俺達と一緒にされたくないとほざくギルタルがそんな簡単に……。」
「二枚目気取りで、アルフォスの次に美男のつもりのギルタルが負けるなんて信じられねえ」
「ちょっと体にぶつかったぐらいで、仲間であろうと半殺しするギルタルよりも怖ろしい奴がいるとはな」
「ああ、ギルタルは強くて怖ろしい。俺なんかあいつの女と話しただけで体を斬り刻まれたぜ、しかし、そのギルタルが全く敵わないなんて……」
邪神達は口々に言い合う。
(もしかしてギルタル嫌われている?)
邪神達の言葉を聞いてクロキはそんな考えが頭に浮かぶ。
しかし、今はそんな事はどうでもよいだろう。
クロキはザルキシスとディアドナを見る。
ザルキシスやディアドナは戦うつもりはないのか、先程からクロキとギルタルの戦いを見ているだけだ。
クロキはレイジの襟首を掴むと暴れるのを無視してトトナ達の所へと戻る。
「レイジ君!! 大丈夫!!」
クロキがレイジを地面に降ろすとチユキは駆け寄る。
「ああ、大丈夫だ。チユキ。それよりも……」
レイジはクロキを睨む。
助けて欲しくはなかったのかもしれない。
その気持ちをクロキはわかるつもりだ。
「この尾でもシロネを救えるはずだ」
クロキはレイジの視線を無視すると蠍の尾をチユキに渡す。
「貴方……。もしかして? シロネさんを助けるために来てくれたの?」
チユキは呟く。
しかし、クロキはそのチユキの言葉に答える気はなかった。
クロキは元々影に徹するつもりだった。だから、もう良いのである。
「クロキ、どうしたの?何だか怒っているみたいだけど?」
「何でもないですトトナ。心配をさせたのなら謝ります」
クロキはトトナに頭を下げる。
「レイジ? 大丈夫なの」
イシュティアはレイジの側に駆け寄る。
「ああ大丈夫だ。少し休めば回復する」
レイジは強がりを言う。
しかし、クロキは簡単に回復できないだろうと思っていた。
体の傷は癒せても、中の魔力は簡単には元に戻らないはずである。
(もう少し早く正体を見せるべきだったかもしれない。そうすれば、きっと……。いや、それは思い上がりだ)
クロキは首を振って、その考えを否定する。
世の中は思い通りにはならない。
それをクロキは何よりもわかっている。
ただ、その時々で全力を出せるように常日頃から努力をするしかない。
「そう、でも今は少しでも休みなさい。出来るだけ万全な体勢で戦えるようにするべきだわ。その方が良いはずよ。その間は彼が頑張ってくれるでしょうから……」
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そのイシュティアの顔には意味ありげな笑みを浮かべている。
「それにしてもズルいわトトナちゃん。紹介してよ」
「駄目です」
トトナは即答する。
「ぶー。いいもん。彼に直接聞くから」
イシュティアがふくれる。
「もうしわけありませんが、今はそれどころではありません。蛇の女王が睨んでいます」
クロキはこちらに来ようとしているイシュティアを見ないようにして拒絶する。
まだ戦いが終わっていない時にあのおっぱいに近づかれるのは危険であった。
前屈みになったら戦い難い。
クロキはイシュティアから残念そうな気配を感じるが、今は蛇の女王達の様子が気になっていた。
「どうやらギルタルに用があったようだが!!? 気が済んだか!!? 暗黒騎士よ!! では答えてもらうか!! 何故貴様がここにいる!!? 何故エリオスの女神共と一緒にいる!!? 魔王とは敵対するつもりはないぞ!!!」
ディアドナは叫ぶ。
これまで動かなかった理由がわかる。
ディアドナはクロキに真意を確かめたかったのだ。
おかげで少しだけクロキ達は助かっていた。
「蛇の女王よ!! こちらも敵対するつもりはない!! このまま引かせてくれ!!」
クロキは蛇の女王に答える。
奪われたピラミッドはもうなく、蠍の毒も手に入れた。
これ以上は戦う理由はクロキにはない。
「ふん!! このまま引かせる事は出来ぬぞ!! 暗黒騎士!! 引くならエリオスの女神共を置いてもらおう!!」
「それは出来ない!!蛇の女王よ!!トトナを渡す事は出来ない!!」
蛇の女王の言葉にクロキは首を振り、そう言う。
「やはりお前もそうなのか!!? モデスと同じなのか!!? 惜しい!! 口惜しいぞ!! 暗黒騎士よ!!!」
クロキの言葉を聞くと、蛇の女王ディアドナは怒りですごい形相になる。
クロキはディアドナを見る。
蛇の女王の瞳に映る感情。
それはきっと彼女の過去に起因しているようであった。
「ふん!! だから言ったのだ! ディアドナ!! あの腑抜けのモデスの配下に期待すべきではない!! 今、ここで殺しておくべきなのだ!!」
ザルキシスは巨大な蝙蝠の翼を広げると瘴気を含んだ風が発生する。
その瘴気は強力で、生命力の弱い生き物はこの風を受けただけで死ぬだろう。
ザルキシスの瘴気により、ベンヌの力を抑えていたエクリプスの闇が濃くなる。
クロキはエクリプスと同じく闇の力を持つ、だからレイジ程には影響を受けない。
しかし、それでもエクリプスに力を吸われる感触があった。
レイジの回復には時間がかかる。
ただし、それは向こうも一緒で、時間をかければダハークやラヴュリュスが復活するかもしれない。
ザルキシスや蛇の女王は強そうであり、邪神の数も多い。
クロキ達にはトトナやチユキにイシュティア、そしてネルにハルセスやイスデスがいるが、戦力的には劣るようだ。
しかし、邪神達からこちらを攻めようとして来ない。
「さて? どうするの? 向こうの殿方のほとんどは貴方の戦いを見たから積極的に戦うつもりはないようよ。でも上空の闇の精霊にディアドナとザルキシスだけでも厳しいわよ」
イシュティアは邪神達が積極的に攻めてこない理由を教えてくれる。
どうやら邪神達の戦意は高くないようだ。
だとすれば勝機はある。
「自分が闇の精霊を抑えます。その間、蛇の女王達を抑える事はできませんか?」
「それは、ちょっと厳しいわね。ザルキシスとディアドナのどちらかなら多分大丈夫だけど両方は無理だわ。それぐらい彼らは強いわよ」
イシュティアの言葉にトトナも頷く。
「確かに厳しい。私達が劣勢だと知れたら邪神達も動く。そうなると王子達だけでは支えきれない」
トトナはハルセスを見る。
少しは強いかもしれないが、あの数の邪神は抑える事はできないみたいだ。
「わかりました……。ですが、まだ終わったわけではありません。レーナが近くに来ているみたいです。彼女が来てくれたなら勝機はあります」
そう言うとクロキは東の方角を見る。
クロキはレーナが近くまで来ている事を感じ取っていた。
そのレーナの香りをクロキは感じる。
なぜかクロキはそれがわかる。
盾の女神と呼ばれるレーナの防御能力は神族随一だ。
時間を稼ぐとしたら最適な能力であった。
「レーナが近くに来ているだって? なぜお前にそれがわかる!!」
レイジは激昂する。
トトナも不思議そうな顔をしている。
(えっ? 何でわからないの? すごく良い匂いなのに)
不思議に思いクロキは首を傾げる。
「もしかして? 敵感知? ナオさんと同じような」
チユキは首を傾げる。
クロキは違うと言いたいが、否定するのは面倒そうなので、あえて否定はしない。
「はい。ですがまだ少し遠いです。もっと早く来てくれれば……」
クロキはザルキシス達を見る。
すぐにもこちらに来そうだ。
大急ぎで来てくれたのならともかく、このままでは間に合わないかもしれない。
(レーナ!! 来てくれ!!)
だからクロキはレーナに祈る。
しかし、祈ったからと言ってすぐに来てくれるわけがない。
何とか時間を稼ぐ必要があるだろう。
「助けに来たわよ!!!」
突然空から何かが飛んでくるとクロキ達の所へと着地する。
クロキが振り向くとレーナがそこにいた。
槍を持ち、盾を持った完全武装の姿だ。
髪が少し乱れている。
かなり急いで来てくれたみたいであった。
「レーナ……。まさか俺のために?」
「おお!!我が勝利の女神よ!!このハルセスを助けに来てくれたのだな!!」
レイジとハルセスは感動の声を上げる。
感動の声を上げているのはレイジ達だけではなかった。
力を失い倒れかけていた犬人や鳥人の戦士達も歓声を上げている。
それに対してディアドナ達は突然のレーナの登場に戸惑っている。
特に邪神達は浮足立っているのがわかる。
「ふふ。レーナちゃんも女ね。レイジの危機を感じ取ったのね。好きな男を救いに急いで来るなんてね~」
イシュティアは楽しそうに笑う。
「そうなのレーナ? 以前の貴方なら考えられない」
「良かったわね~。レイジ。綺麗な女神様に愛されて」
トトナは信じられないと首を振り。
チユキは複雑そうな顔をする。
「全く。この私を急がせるなんて……」
一瞬クロキはレーナからものすごい目で睨まれる。
(何で? まさか、自分の祈りが通じた? いや、いや、まさかそんなはずないよね?)
クロキは一瞬だけ自惚れそうになる。
「くそ!! レーナまで来るとは!! 暗黒騎士もそうだが!! 次から次へと!! お前たち!! 浮足立つんじゃないよ!! ザルキシス!! 構う事はない!!エクリプスを奴らにぶつけろ!!」
「わかっておるディアドナ!! 行けエクリプス!!」
ザルキシスの声と共にエクリプスは咆哮する。
しかし、勝利の女神は来た。
ここからがクロキ達の反撃の時であった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
ギルタルの姿は文字だとわかり難いので、挿絵で表現したいのですが、絵のスキルが上がっていないので無理だったりします。絵心もないですし……。
ケンタウロスっぽい外見に、お尻の所から蠍の尻尾が生えて、翼のように蠍の鋏が生えている姿を思い浮かべて下さい。
そして、身を伏せると巨大な蠍の姿になるのです。わかり難いですね(´;ω;`)
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