暗黒騎士物語

根崎タケル

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第7章 砂漠の獣神

第15話 中庭の猫達

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 アルナックの宮殿の背後にある黄金のピラミッド。
 その心臓の間の中心でレイジは瞑想する。
 周囲は光で満ち溢れ、部屋全体を輝かせている。
 その様子を傍らから見ているイシュティアは驚きを隠せなかった。
 これまでイシュティアは様々な男を見てきた。
 その中でもっとも才能のある男は歌と芸術の神アルフォスであった。
 美しさと強さを兼ね備えた美男神に勝る男はいなかった。
 しかし、そのアルフォスと互角の力を持つ男が現れたのである。
 イシュティアの目の前でレイジは瞑想する。
 光の精霊を身に宿したレイジは部屋と同様に黄金色に輝いている。
 やがて、部屋の光が小さくなり、レイジの中へと入っていく。
 光の精霊の力を得たレイジは立ち上がると、イシュティアの方を向く。
 その体には何も身に着けていない。
 長い手足に、無駄な贅肉がついていない、均整な体。
 そのレイジの体にイシュティアは久しぶりに目を奪われる。
 同時に寝台を共にしたいと思う。

「上手くいったな。ありがとうイシュティア。ここを教えてくれて」
「別に良いわ。男を奮い立たせるのは良い女の役目だもの。それよりも、大丈夫? 疲れていない?」
「大丈夫だ。イシュティア。むしろ、気力は充実している。ただ、ちょっと空腹かな」

 レイジは笑う。
 今朝早くに黄金のピラミッドに来たので何も食べていない。
 すでに時刻は昼になろうとしていた。
 空腹なのも当然である。

「そう、それじゃあ戻りましょ。それにチユキも起きているかもしれないしね」

 
 



 翌日になりクロキはメジェドの姿へと戻ると、アルナックの中庭へと来る。
 既に日は高い。
 中庭は広く、砂漠の中にあるにも関わらず水と花が豊富だ。
 泉には色鮮やかなスイレンが咲き、目を楽しませてくれる。
 陽光の中を蝶が舞い、穏やかな空気を運ぶ。
 その穏やかな中庭でクロキはメジェドの姿で鍛錬をする。
 布を被ったままだと戦いにくいからだ。
 それに戦っている最中に布がめくれる事があってはならない。
 特に下半身丸出しの状態でめくれれば、まいっちんぐな状態だ。
 正体がばれるわけにはいかない。
 そうならないように布を被った状態で戦えるようにならなければならない。
 昨晩飲んだお酒が体に残っているので、動きが鈍い。

(動きが鈍くなるなんて、本当に修行が足りない……)

 クロキは自身の修行不足を感じると、積極的に動く事で酒精を消す。
 まだ、頭は痛いが毎日の鍛錬を怠ってはいけない。
 それに、どのような時でも平常心を保つ努力をするべきであった。
 クロキは石畳の上をゆっくり動く。
 1つの動作にじっくりと時間をかけ、重心を崩さず、すり足で動く。
 すると側にいるネルと猫が同じ動作をしようとする。
 足をゆっくりと交差し回転する。
 すると、ネルと猫も同じ動きをする。

「あの……。ネル王女。何をしているのですか?」

 クロキは周りにレイジ達がいない事を確認して聞くと、ネルと猫達が可愛らしく首を傾げる。
 起きてから鍛錬をしようとすると、ネルたちも一緒について来たのだ。
 てっきり、トトナの側にいるものだとクロキは思っていた。
 ちなみにトトナは昨晩無理をしすぎて部屋で寝ている。
 今日は鍛錬をやめて、クロキはトトナの側にいようと思ったが、トトナの方から拒否された。
 何でも恥ずかしくて今日は顔を見る事ができないらしい。
 そのトトナの表情に萌えてしまったが、トトナは本当にダメそうだったので、外に出て鍛錬をする事にしたのだ。
 すると一緒に来たネル達が真似をしだしたのである。

「う~ん。クロキお兄さんがにゃにをしているのか気になったから真似したみたにゃ。新しい踊りかにゃ?」
「あのネル王女。今はメジェドでお願いします」

 本当の名を無邪気で言うのでクロキは慌てる。

「にゃ!? そうだったにゃあ。ごめんにゃあ」

 ネルは舌を出して謝る。
 その仕草は可愛らしい。

「そういえば、お兄さんはどうしてそんな格好をしているのにゃあ? 脱いだ方が格好良いのにゃあ」
「えーっと、それは前も説明しましたが、正体を悟られたくないからです。光の勇者と自分は喧嘩をしてますので」
「えー? お兄さんの方が強いって聞いているにゃあ。だったら堂々としていれば良いのにゃあ」

 ネルはうんうんと頷く。
 ネルは猫のように見えるが獅子の女王の娘。
 獅子のように堂々としろとでも教わっているのかもしれなかった。
 しかし、クロキは正体を明かすつもりはない。
 レイジと争えばシロネを助ける障害となる可能性もある。
 争う事で邪魔をするわけにはいかないのだ。

「いえ、それが実はこの恰好が気に入っているのですよ。可愛いでしょう」

 クロキは腰をふりふりして、嘘を言う。
 おそらく、傍から見たら変態だろう。
 しかし、他に言い訳が思い付かない。
 当然ネルは微妙な顔をする。

「う~ん。面白いけど、ちょっと可愛くないのにゃあ。そうだ!!ちょっと待つのにゃあ!!」

 突然ネルが走る。
 後にはクロキと猫達が取り残される。
 どうしようかとクロキが迷っていると、すぐにネルが戻ってくる。
 手に何かを抱えている。

「色々と持って来たのにゃあ!! これを付けると良いのにゃあ!!」

 そう言うとネルはクロキの頭にその何かを付ける。

「あの……。これは……」

 ネルの持っている物を見る。
 その内の1つをクロキの頭に付けたみたいだ。

「にゃはは!! これで、ちょっとは可愛くなったにゃあ」

 ネルは楽しそうに笑う。
 確かに怪しいのは変わらないが、少しは可愛くなったかもしれない。

「確かに可愛くなったのかもしれません。ありがとうございます。ネル」
「気にしなくて良いにゃあ。みんな仲間が出来たと思っているのにゃあ」
「「「「にゃーーーー!!」」」」

 ネルが言うと猫達が一斉に鳴く。
 本当に無邪気であった。
 ネルは踊り飲んで食べて、気が付くと真っ先に寝ていた。
 おそらく、クロキとトトナの昨晩の事に気付いていないだろう。

「ところで。昨晩はトトナんとどうだったのにゃ?」

 その質問にクロキはドキリとする。
 何て答えようか迷う。

「……2人で楽しくすごしました」

 クロキは取りあえず無難に答える。
 少なくとも間違いではない。
 しかし、冷や汗が出て来る。 
 クロキの脳裏にクーナの顔が浮かんでしまう。

「それは良かったのにゃあ!! トトナんはうまく行ったのにゃあ!! お母様の時もガンガン行って成功したから、きっとうまく行くと思ってたにゃあ」

 ネルは楽しそうに「にしし」と笑う。
 鍛冶と財宝の神ヘイボスと獅子の女王セクメトラの馴れ初めはセクメトラの方から積極的に迫って夫婦になった。
 ヘイボスは子供の頃にナルゴルとの攻撃により、足が不自由になり背が曲がるというエリオスの神々の中でもっとも醜い姿になった。
 モデスと違い、女性を完全に諦め、鍛冶場だけが自らの世界として引き籠った。
 そんなヘイボスに惚れる女性が現れたのは良い事であった。

「にゃはははは。トトナんが信頼するお兄さんならきっとピラミッドも取り戻せるのにゃ」
「あははは……」

 クロキは力なく笑う。
 取り戻せるかどうかわからない。
 しかし、トトナが信頼するのなら、それに応えたいと思う。

「全力を尽くします。ネル。トトナの信頼に応えます。それにケットシー達とも約束しましたので」

 その言葉に嘘はない。
 クロキはできる限りの事はするつもりだ。

「ありがとうにゃん!! もしうまくいったのならトトナんと一緒にネルもお兄さんを好きににゃるのにゃあ!!」

 そう言うとネルはクロキに抱き着き、頭をクロキの胸にこすりつける。
 無邪気な行動であった。
 穏やかな気持ちになる。
 ネルが顔を上げる。

「えっ?」

 思わずクロキは驚く声を出す。
 ネルの目を見た瞬間だった。
 一瞬だけ肉食獣が獲物を狙うような瞳に見えたのである。

「どうしたのにゃあ?」
「いえ……。何でもないですネル」

 クロキは慌てて首を振る。

(ええと、気のせいだよね)

 クロキは再びネルを見る。
 ネルは無邪気に笑っている。
 先程見せた肉食獣の目は見間違いのようであった。

「さあ!!みんなで踊りの続きをするのにゃあ!!」
「「「「にゃーーーーー!!!」」」」

 猫達が一斉に鳴く。
 どうやら踊りに付き合う事になりそうだった。






 昼になり、チユキはようやく、起きる気になる。

「ううん、それにしても良く寝たわね」

 チユキは背伸びをする。
 黒檀の寝台には美しい模様の布団が敷かれ、私を優しく包んでくれた。
 すでに日は高い。
 薄絹で遮られた窓からは陽光が柔らかく差し込んで来る。
 昨晩のお酒が抜けていなくて、チユキは気怠さを感じる。
 蠍の女神ブルウルが薦めてくれたお酒は口当たりが良くて飲みやすいが、度数が高く、後からじわりじわりと酔いが回り、途中でチユキ寝てしまった。
 そして、気が付くと寝台の上で寝かされていたのである。
 イシュティアから借りた装飾品は外されている。
 おそらく猫人の侍女がやってくれたのだろう。
 レイジはその後もイシュティアと一緒に飲んでいたようであった。

「あの後どうしたかしら?」

 チユキは寝台から起きる。
 側のテーブルに食事と水差しが置かれている。
 チユキの為に用意されたものである。
 用意されているのは薄く焼かれたパンに野菜と山羊のチーズと果物である。
 ジプシールといえども、食事の基本的な所は変わらないようであった。
 チユキは食欲がわかないので、果物だけいただく事にする。
 一口齧ると優しい甘さが口に広がる。

「うーん!! さて!! 行くか!!」

 チユキは果物を食べ終えると、レイジを探す事にする。
 用意された衣装に着替え、部屋を出る。
 廊下を歩くと、途中で猫人の侍女達とすれ違う。
 彼女達は会釈するとチユキに道を空けてくれる。
 とても忙しそうであった。
 やがて、チユキは広い中庭に出る。
 中庭は広く、緑が茂り、泉から水が流れている。
 とても、砂漠の中とは思えない光景であった。
 少し歩いてみようと思い、チユキは中庭に入る。
 そして中庭を歩いている時だった。

「げっ!!」

 チユキは思わず声を出す。
 中庭の隅でメジェドなまものと王女のネルフィティがいたからだ。
 チユキはメジェドにはどうしても苦手意識を持ってしまう。
 そのメジェドの足元にはたくさんの猫がいて、楽しそうに踊っている。

(何をしているのよ?)

 チユキはメジェドとネル達を見る。
 そして、トトナはいないようであった。

(やっぱり、隠れているのかしら?)

 実は昨晩の可憐な姿に心を奪われたハルセスや男神達が、再びトトナが現れるのを待っているのである。
 それに気付いたので隠れているかもしれなかった。

「おや? 光の勇者の仲間が来たのにゃあ? 名前は何だったのかにゃあ?」

 ネルはチユキに気付く。

「チユキです。ネル王女。何をしているのですか?」

 チユキは自己紹介をする。
 ネルとはほとんど話していない。
 名前を覚えられていなくても仕方がない事であった。

「見ての通り、ここでメジェドと踊っているのにゃん」

 ネルがそう言うとメジェドが腰をふりふりして踊る。

(おそらく布の下ではブルルルンが揺れているに違いなわね。って……何を考えている私)

 チユキは眉間を押さえる。
 昨晩の酒が抜けていないのかもしれなかった。
 チユキはメジェドの下半身をなるべく見ないように少し顔を上げる。
 そこで、メジェドの頭に付いている物に気付く。

「ネコミミ?」

 メジェドの頭には昨日と違いネコミミが付いていた。
 チユキは思わず「何で!!?」と叫びそうになる。

(何で? ネコミミモードになっているよ!?)

 メジェドは相変わらず腰をふりふりして踊っている。
 チユキは頭が混乱してくる。

「どうしたのにゃあ?」
「えーっと。その……あの」

 チユキは何と答えて良いかわからなくなる。

(ツッコミたい!!すごくツッコミたい!!!)

 そう言いたくなるのを何とか堪える。
 しかし、ネルはジプシールの王女。無礼な事はできない。

「ああ? なるほど。わかったのにゃあ。これが欲しかったのにゃあ」

 チユキがメジェドのネコミミを見ていると、ネルは手に持っているものをチユキの頭に付ける。

「えっと? これは?」

 チユキは頭に付けられた物を触る。
 どうやらネコミミを模した飾りのようだ。

「チユキはメジェドのネコミミが羨ましかったのにゃーね。これでお揃いにゃあ」

 ネルはうんうんと頷く。

(……そう私はメジェドのネコミミが羨ましかった。しかし、今の私もネコミミモードだ。ふふ、メジェド。これで負けないにゃん)

 ネコミミチユキはメジェドを見て不敵な笑みを浮かべる。

「って!!!ちがぁ------う!!!! んなわけあるかーーーー!!!」

 チユキはとうとう叫んでしまう。
 そして、頭を抱えて座り込む。
 ツッコミが追いつかない。
 ネルと猫達がどうしたのだろうと首を傾げる。
 
「急に座り込んでどうしたのにゃあ? チユキ?」
「いえ……。何でもありません。ネコミミありがとうございます。」

 チユキは何とか立ち上がる。

「どうしたんだ?!!何か大きな声が聞こえたが?!!」

 私の叫び声を聞いた誰かが駆けつけて来る。
 振り向くとレイジがチユキ達の方に来るのが見える。
 その後ろにはイシュティアがいる。
 どうやらレイジと一緒だったようだ。

「どうした!!? チユキ!!? 何かあったのか? ってネコミミ!!?」

 レイジはチユキの頭にあるネコミミを見て驚く。
 明らかに「何やってんだ?」という顔になっている。

「えーーと。特に何でもないわ」

 チユキはこほんと咳をする。
 イシュティアとブルウルはそんなチユキを見て笑っている。

「うふふ。良く似合っているわよチユキ。ネルに付けられたみたいね」
「ネル王女。ネコミミを誰にでも構わず付けるのはよした方が良いかと思います。チユキは似合っていますが、似合わない者もいますので」
「わかっているにゃあ。ブルウル。でもメジェドとチユキには良く似合っているのにゃあ」

 ネルは胸を張って言う。

(この王女様は誰にでもネコミミをつけるようにしているのかしら?)

 チユキはそんな事を考えレイジを見る。
 そのレイジは誰かを探すように周囲を見ている。

「ネル王女? 女神トトナはどこに? 姿が見えないようですが?」
「トトナんは昨日頑張りすぎたので部屋で寝ているのにゃあ」
「そうですか」

 レイジは残念そうな顔をする。
 それを見てチユキはほくそ笑む。

「それよりもレイジ君。イシュティアとブルウルとどこに行っていたの?」

 チユキはレイジを睨む。

「ああ。それなら黄金のピラミッドに行っていたんだ」
「黄金のピラミッド? 何でまたそんな所に?」
「それは光の上位精霊と契約するためよ。チユキ。レイジは強くなる方法を探していた。それを聞いたセクメトラが黄金のピラミッドに現れる光の上位精霊の事を教えたのよ。光の力を持つのなら契約できるかもって思ったの」

 レイジに変わりイシュティアが説明する。
 この世界には地水火風光闇等の精霊が存在する。
 それぞれの精霊を召喚するには生まれ持った才能が必要だ。
 数多の精霊達と仲良くなれるリノも光の上位精霊を呼ぶ事は出来なかった。

「ああ。そして、うまく行った。簡単だったぜ。チユキ」

 そう言ってレイジは「にっ」と笑う。
 レイジは地水火風と言った基本的な精霊の召喚は全くできない。
 しかし、光の上位精霊には適性があったようであった。

「にゃんと!? ハル君でも無理な事をやりとげるとはすごいのにゃあ!!」

 ネルも驚く。
 ハルセスもレイジと同じく光の力を持っているらしいが、上位精霊とは契約が出来なかったようであった。
 ハルセスの悔しがる姿がチユキには想像できた。
 ふと、ネルの隣のメジェドがチユキの目に入る。
 メジェドはじっとレイジを見つめているのだった。


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