暗黒騎士物語

根崎タケル

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第7章 砂漠の獣神

第13話 獣の饗宴

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「ああ~♪ 大いなるジプシール♪ 偉大なる獅子に治められし黄金の地よ♪ 永遠に輝き世界を照らす♪」

 チユキの前で可愛らしい猫人の踊り娘達が踊る。
 シャランシャランと手を動かすと鈴の付いた黄金の飾りがチリンチリンと可愛らしく鳴る。
 山羊人が弦楽器や笛を吹き、楽しげに音楽を奏でる。

「さあ、皆の者。前祝じゃ。存分に飲んで食べるがよいぞ」

 女王であるセクメトラがエール酒を片手に言うと獣神達から歓声が上がる。
 スフィンクスの女官達が猫人の侍女に指示を出し、酒と料理が次々に運ばれる。
 目の前には沢山の酒と肉料理が並べられている。
 ヒヒのような猿人の料理人が丸焼きにした牛を切り分けて、高位である獣神達に分けている。
 パン粉を付けた後、果実油で揚げた豚のバラ肉のカツレツ。
 豚の肩肉の煮物。
 岩塩を振りかけた羊肉の串焼き。
 鹿肉のロースト。
 兎肉と野菜のスープ。
 魚醤に付け込んだ鶏肉の照り焼き。
 多くの豪勢な料理が並んでいる。

「すごい御馳走だな。チユキ」

 隣にいるレイジが驚いた表情で言う。

「ええ……そうね」

 チユキも運ばれてくる料理に圧倒される。
 レイジの言う通り、すごい御馳走であった。
 チユキとレイジは神族の饗宴に参加するのは初めてである。
 一応レーナが神殿で宴を催してくれる事はあったが、ここまで多くはなかった。
 どれも美味しそうで、食欲を誘う香りを放っている。
 野菜もあるが、獅子の女王が主催するだけに肉料理の割合が多い。
 獣神達が肉を頬張り、別の肉の食べる合間に酒で口の中の肉汁と脂を洗い流す。
 こんな食事を続けていたら痛風待ったなしだろう。
 もっとも、この世界に痛風が有るのかチユキは知らなかったりする。

「まあ、良いさ。いただこうじゃないかチユキ」
「ええ、そうね。レイジ君。折角だからいただきましょう」

 チユキは目の前の料理を取る。
 魚醤と蜂蜜を付けて焼いた牛肉を食べると、熱い肉汁が口の中に広がる。
 この世界では羊肉が一般的で牛肉を食べる事は少ない。
 牛は農耕用に使われるからだ。
 食べる時は歳を取り働けなくなった後である。
 しかし、そのような牛肉は硬くて、あまり美味しくない。
 だけど、チユキが今食べている牛肉は柔らかくて、とても美味しかった。
 神族が食べるために用意された牛肉である。
 チユキはハグハグと牛肉を食べる。
 牛肉を食べ終えると、チユキは他の料理を眺める。
 ちょっと心配だったけど人肉はないようであった。
 チユキが聞いたところによると、セクメトラやスフィンクス達は昔人間も食べていたようであった。
 しかし、ある時、セクメトラは鉱石を求めて旅をするヘイボスとその眷属であるドワーフを捕まえた。
 セクメトラとスフィンクス達はドワーフを食べようとしたが、ヘイボスが持っている赤いエール酒を飲ませられて考えを変えた。
 こんなに美味しい飲み物を作る知恵と能力があるのなら食べるのをやめようと思ったのだ。
 以後セクメトラは何かを作り出す知恵ある生き者を食べる事を眷属達に禁じた。
 スフィンクスが謎を解けなければ食べるという逸話もここから来ている。

「ふふふ、貴方達、飲んでいるかしら?」

 チユキ達のいる所に誰かが来る。

「ブルウルさん?」

 チユキが振り向くとそこには蠍の女神ブルウルがいる。

「ブルウルで良いわ。そのかわり私も貴方をチユキと呼ばせてもらうわ。それにしても、イシュティアはいないみたいね? 一緒にはいないの?」
「イシュティアなら、お姫様に連れられて行ったよ」

 レイジはそう答える。
 理由は不明であるが、宴の始まる直前にイシュティアはネルに連れて行かれていた。
 そのため、この場にはいない。

「ネル姫様が? 珍しいわね。まあ良いわ。改めて挨拶するわね。光の勇者レイジに黒髪の賢者チユキ。ブルウルよ。さっきは御免なさいね。私は毒をあげても良かったのだけど、盟主が貴方にピラミッドを取り戻させるみたいだったからね」

 やはり、そうかとチユキは思う
 ブルウルはセクメトラの意図を知っていたのだ。

「別に構わないさ。例え、ただで毒を貰っても、そちらが大変な時に、はい、さよならは出来ないからな」
「そう、それなら、良かったわ」

 ブルウルはほっとした表情を見せる。

「それよりも、美味い酒を教えてくれないか? 色々とありすぎて、どれから飲もうか迷ってしまうよ。どれが美味しいか教えてくれるかい?」

 そう言って、レイジは並べられた酒を指差す。
 レイジの言う通り、料理だけでなく酒類も豊富であった。
 どれを飲むか迷うのも当然だった。
 ヘイボスと出会った以来セクメトラはお酒が大好きなった。
 ジプシールで作る以外にも世界中から様々なお酒を輸入している。
 一般的に飲まれているのは麦から作られるエール酒だ。
 実はこの世界でも居酒屋に入ったら、とりあえずエール酒と言うのである。
 しかし、ジプシールは麦の産地であり、すでにここに来るまでにチユキとレイジは特産のエール酒を充分に味わっていた。
 チユキは他の酒も飲んでみたいと思う。
 候補としては葡萄酒ワイン蜂蜜酒ミードやナツメヤシ酒がある。

「そうね。なら私のとっておきを教えて上げる」

 ブルウルはそう言うと猫人の侍女に何かを伝える。
 少し間をおいて侍女は水晶の杯に入った薄い黄色い飲み物を三つ持って来る。

「へえ、初めて見るお酒ね。何て言うの?」
「これは、蜜葦を原料にした蒸留酒を中心に、葡萄の蒸留酒を少量と甘酸っぱい果実の汁を混ぜたお酒よ。私が好んで飲むのでスコーピオンと呼ばれているわ。さあ飲んでみて」

 ブルウルは説明する。
 蜜葦というのはサトウキビの事である。
 この世界にもサトウキビがあり、一般的に蜜葦と呼ばれている。
 サトウキビがあるので、この世界にも砂糖は存在する。
 また、蒸留酒を作る技術もあり、ウィスキーやブランデーに似た酒もこの世界にはある。
 それに、色々と混ぜたという事は、このお酒はカクテルという事である。
 チユキとレイジは水晶の杯を受け取るとカクテルを飲む。

「あっ、美味しい」

 チユキは思わず声を出す。
 一口飲み、ほんのり甘酢っぱく、口当たりが優しい、女性が好みそうなお酒であった。

「確かに美味しいな。ありがとうブルウル。美味しいお酒を教えてくれて」

 レイジがお礼を言うとブルウルの顔が少し紅くなる。
 やっぱり、面食いのようであった。

「それにしても貴方達が来てくれて助かったわ。ハルセス王子や軍神のイスデスだけじゃ不安だもの」

 ブルウルはカクテルを手にレイジを見つめる。

「他の男神達も頼りにならない、そんな時に貴方が現れた。正に勇者ね。しかも、すごく良い男と来ている。ほら、ここの女神や女官達が貴方を見ているわよ」

 ブルウルはそう言って周囲を見る。
 チユキが周囲を見ると、ブルウル以外のジプシールの女神達がレイジを見ている。
 多くが人と同じ姿を取っているが、中には本当の姿のままの女性もいる。
 カバの女神、ハゲワシの女神は特に目立っている。
 彼女達はブルウルと同じように声を掛ける機会を狙っているみたいだであった。

「王子のいる前では言えないけど、イシュティアが狙うわけだわ」

 ブルウルは首を振りながら答える。

「私がどうしたというのですかな? ブルウル殿」

 チユキ達は再び声を掛けられる。
 噂をすれば影。
 やって来たのはハルセスであった。
 後ろには彼の愛妾である女性達と彼の眷属であるハヤブサ頭の鳥人バードマン達を連れている。

「王子? いえ、別に何でもないですよ」

 突然ハルセスが現れたのでブルウルは慌てる。
 さすがに母親が別の男を狙っていたら穏やかではいられないだろう。

「何か用かい? 王子様?」

 レイジは茶化すように言う。

「ふん。お前に用などない。このハルセスが合いに来たのは、そなただ」

 そう言うとハルセスはチユキの前に立つ。

「えっ? 私?」
「再びお会い出来て嬉しく思ぞ。姫君」

 ハルセスはチユキに穏やかな笑みを浮かべる。

「い、いや。そんな姫君だなんて……」

 顔が赤くなるのを感じる。
 ハルセスは翼のある獅子と人の姿を重ねた姿をしているが、どちらかといえば人間寄りである。
 そして、イシュティアに似て美形であった。
 その美男子が見つめるのでチユキの心臓の鼓動が早くなる。

「ふふ、前に見た時と違い。美しく着飾ったそなたを姫君と呼ばずして何と呼ぶ」

 ハルセスの言う通り、今のチユキの服装はいつもの魔術師の姿ではない。
 少し、露出の多い、ジプシール風のドレスだ。
 豪奢な衣装を好むイシュティアから借りたので、確かにお姫様っぽい格好だろう。

「ふっ、そなたと再び出会ってから目が離せぬ。どうだ、このハルセスの元に来ないか」

 ハルセスはチユキに顔を寄せる。
 しかし、途中でレイジが手で遮る。

「王子。人の仲間を勧誘するのはやめてもらえないか。君には後ろの彼女達がいるだろう」

 レイジが無理やり私とハルセスの間に入ると後ろの女性達を指差す。

「邪魔をするというのか貴様。この黒髪の娘こそ知識の女神。ぜひともジプシールに迎えたい」
「悪いがそういうわけにはいかないな。チユキは俺の知識の女神なんでね。渡すわけにはいかないな」

 レイジは不適な笑みを浮かべる。

「やはり、貴様とは戦う運命にあるようだな。前のようにたやすくやられるとは思うでないぞ」
「ふっ、何度でも倒してやろう」

 レイジとハルセスは睨み合う。

(どうしよう。争いが始まりそうだわ)

 チユキはセクメトラを見る。
 レイジならばチユキが止められるが、ハルセスはセクメトラでなければとめられない。
 彼女の仲裁が必要であった。
 レイジとハルセスが争おうとしている事に気付いたセクメトラがチユキ達の方へと来る。
 チユキは止めてくれる事を期待する。

「ほう? 黒髪の賢者をめぐり争っておるのか? 良いぞ!! ハルセス!! 危なくなったら止めてやる!! 双方とも存分にやるが良いぞ!!」

 しかし、チユキの願いとは逆の事をセクメトラは言う。

(駄目だった!!)

 チユキは頭が痛くなる。
 セクメトラは喧嘩そのものを止めるつもりはないようであった。
 周りにいた者達がレイジとハルセスから離れていく。

「盟主が止めないなら、私もやる事はないわね。さあチユキ。下がるわよ」
「ちょっと!? ブルウル!?」

 ブルウルによってチユキは引っ張られる。

(これは!! まずい何とかしないと!!)

 チユキは慌てる。
 しかし、周囲の神々は面白い余興だと思っているのか楽しそうにレイジとハルセスを見ている。
 チユキを除き止めようと思う者はいないようであった。

「あら? 何をやっているのかしら?」

 突然イシュティアの声がして、 その場にいた多くの者達がイシュティアの方を見る。

「「「「えっ?」」」」

 突然、複数の驚く声が上がる。
 イシュティアを見て驚いているのではない。
 イシュティアが連れている一人の少女を見て驚いているのだ。
 イシュティアはその少女の手を取り、レイジ達の方へと向かって行く。
 その場に、いる者達全員が少女に注目する。
 なぜなら少女が、とても綺麗だからだ。
 かく言うチユキも女の子から目が離せない。
 ジプシールの風の衣装に黄金の飾り、蒼黒い長い髪には黄金のハヤブサの髪飾り。
 背が低く、ホッソリとしているが出る所は出ている。
 その胸はチユキよりも明らかに大きかった。
 少女は露出が多い服を着ているので肌の白さが良くわかる。
 イシュティアと同じく、胸元が大きく開いているので、大きな胸が零れそうだ。
 顔は小さく整っていて、大きな目にはジプシール風の赤いシャドウで化粧をしている。

(えっ!? 誰なの!? この美少女はっ!?)

 チユキは大きく目を開いて少女を見る。
 少女は衣装が恥ずかしいのか顔を赤らめている。
 それが、とても初々しく、さらに注目を集めている。

「あの!! イシュティア様!! そんなに引っ張らないでください!!」
「良いから♪ 良いから♪ 何だか取り込み中だったみたいだけど、別に構わないわよね? じゃーん、この子は一体誰でしょう?」

 イシュティアは驚いた表情で固まっているレイジとハルセスに美少女を見せる。

「イ、イシュティア様……私は見世物では……」

 しかし、イシュティアは美少女の抗議に耳を貸さない。

「すっごく可愛いでしょ! まさか、こんなに変わるなんて思わなかったわ!」
「やめて下さい!! イシュティア様!! 私はもう行きます!! 待たせてしまっているので!!」

 美少女はイシュティアの手を振りほどくと入って来た扉の方へと早足で向かう。
 扉の所には王女であるネルが立っている。
 美少女はネルの所に行くと一緒に出て行ってしまう。
 突然現れた美少女に何がなんだかわからず、イシュティアを除く全員が固まってしまう。
 動けたのは出て行ってから、しばらくしてからだ。

「イシュティア!! 先程の綺麗な子は一体?!!」
「母上!! 先程の麗しい娘は誰なのですか!!?」

 レイジとハルセスは美少女が出て行った扉を見続けているイシュティアに詰め寄る。

「もう!! トトナちゃんたら!! 折角着替えたのに!!」

 イシュティアは扉を見ながら残念そうに言う。
 その言葉に全員が驚く。

(嘘!? 今のトトナだったの!?)

 チユキは普段のトトナとの違いに驚く。
 普段は厚いローブに、つばの広い帽子を被っているので全くわからなかったのである。

(着飾るとあんなに変わるのね。驚いたわ)

 トトナを見送った後、チユキは横にいるレイジとハルセスを見る。
 レイジもハルセスもチユキを全く見ていない。
 争いは止まったけど、チユキは何だか釈然としないのだった。







「にゃあ~♪ 大いにゃるナイアル川♪ 多くの魚が獲れる黄金の川にゃ♪ 永遠に僕達を満たす♪」

 可愛らしいケットシー達が踊る。
 ニャアニャアと体を動かすと鈴の付いた首飾りがチリンチリンと可愛らしく鳴る。
 すごく愛らしいけど、今クロキはそれどころではなかった。
 何しろトトナの前で思いっきりポロリをしてしまったのだ。
 トトナはそれを見て気を失いかけてしまった。
 すぐに意識を取り戻したので、クロキは「知らない間に脱げていたんだ!! 別に解放感を楽しんでいたんじゃないんだ!!」と言い訳をしたが納得をしてくれたかわからない。
 救いなのはジプシールの姫であるネルが特に気にした様子はないところだろう。
 野生動物は裸が基本なのだから、気にしないのが当然なのかもしれなかった。
 現にクロキの前で踊っている可愛いケットシー達も全裸である。
 クロキはケットシー達を見る。
 ケットシー達はキ〇タマをふりふりさせながら踊っている。

(猫は裸が基本なのだから、全裸である事は普通なんだ、……って猫と比べてどうする! 良いわけないじゃん)

 クロキは頭が痛くなる。
 現在クロキはメジェドの格好をやめて、ジプシール風の服を着ているので、全裸ではない。
 しかし、今更遅いだろう。

「どうしたのですかにゃあ? 踊りが気に入りませんでしたかにゃあ」

 ケットシーの一匹が不安そうに聞く。

「いや!! いや!! そんな事はないよ!! すごく可愛いよっ!!」
「そうですかにゃ?それではお酒でも飲みますかにゃ?」

 ケットシーがお酒の入った水晶の瓶を抱える。
 お酒は獅子の乳と呼ばれる、アルコールの度数が高い飲み物である。
 このお酒はナツメヤシ、もしくは葡萄を蒸留して、アニスで香りつけたものだ。
 水のように透き通っているが、水と混ぜると乳白色に変わる。
 それが乳に見える所から獅子の乳と呼ばれる。
 この獅子の乳は食前酒であり、前菜と一緒に給されるのが一般的だ。
 そのため、クロキの目の前には前菜が並べられている。
 山羊のチーズとレタス。
 挽肉を葡萄の葉でつつんだロールキャベツに似た料理。
 ひよこ豆をすりつぶし、ゴマと塩と胡椒を振りかけたもの。
 小魚を果実油で揚げたもの等が並んでいる。
 しかし、まだ食べるわけにはいかない。

「ありがとう。でも、まだ食べる事はできないよ。トトナやネル姫様が戻って来てないからね」

 意識を取り戻した後、トトナはネルと相談して着替えるために部屋から出て行った。
 そして、クロキに待っているようにお願いしたのだ。
 そういうわけでクロキは1人で猫達の接待を受けながらトトナとネルを待っているのだ。

「そうですかにゃ。それでは本でも読みますかにゃ?」
「えっ? 本があるの?」
「はい。トトナ様は本が好きなのにゃ。姫様に読んでもらいたい本をここに置いていかれるのにゃ」
「へえ、どんな本があるの?」
「そうですにゃあ、ちょっと待つにゃあ」

 そう言ってケットシーが一冊の本を持って来る。

「最近僕らの間で人気の本ですにゃあ」

 クロキは本を見せられるが、ジプシールの文字で書かれているので読めない。
 意志疎通は魔法でどうにかなるけど、文字は駄目である。
 表紙には猫の絵が描かれているので、猫が出て来る話なのだろうという事しかわからなかった。

「これは何て本なの?」

 クロキは興味深そうに聞く。

「これは、長靴を履いた猫という本にゃあ」

 それを聞いてクロキは吹き出しそうになる。
 実はクロキは少し前にトトナに長靴を履いた猫の話をした事があった。
 そもそも、クロキとトトナは本を通じて知り合った仲である。
 トトナはルーガスがエリオスに残した書物の管理者である。
 この世界を知りたいと思っていたクロキにルーガスが紹介してくれたのだ。
 その時にトトナと知り合った。
 クロキは今思い出しても、最初の頃はトトナには大変お世話になったと思う。
 まだ、文字を完全に覚えていなかったので、本で書かれている内容を何度もトトナに聞いたのだ。
 その時にトトナが少し迷惑そうにしていたのをクロキは覚えている。
 今でも悪い事をしたなあとクロキは思っているのであった。
 だけど物覚えの悪いクロキに嫌な顔はしても、トトナはきちんと教えてくれた。
 そして、トトナをほとんど頼らなくても本を読めるようになった頃には少しだけ打ち解けてくれるようになった。
 長靴を履いた猫の話をしたのも、その時であった。
 このケットシーはそのクロキとは気付いていないようだ。
 クロキはケットシーから本を受け取る。
 パラパラと本をめくると挿絵には長靴を履いた猫やオーガの王様が書かれている。
 クロキは思わず笑ってしまう。
 この話をした時のトトナはとても興味深そうだった。
 それが、ここまで仲良くなれたのに、ち〇こ丸出しの変態の烙印を押されて、嫌われてしまったら、元も子もない。
 なんとか弁解しなければならなかった。

「お待たせクロキ」

 クロキが本を眺めていると、扉が開きトトナの声がする。
 クロキは顔を上げ、声がした方を見る。
 その瞬間、クロキは固まってしまう。
 そこには、レーナやクーナに匹敵する美少女が立っていた。



★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

サトウキビは古代ギリシャでは蜜の葦と呼ばれ、古代エジプトでも砂糖はありました。
砂糖があるのなら、サトウキビが原料のラム酒に似たものが、あっても可笑しくないだろうという事でラム酒を出しました。

ちなみにラム酒をベースにしたスコーピオンというカクテルがあったりします。
口当たりの良くて、飲みやすいが、アルコール度数が高く。そのため、度数の高さに気づかずに飲んでしまい、結果として酔いが回る事があるため、それがサソリの毒に喩えられることもあります。

獅子の乳はトルコではラク、ギリシャではウーゾと呼ばれる蒸留酒で、実際にあります。
これも原料は古代からあったりします。どちらも食前酒でメゼと呼ばれる前菜と一緒に出されます。

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