201 / 431
第6章 魔界の姫君
第30話 みにくい魔王の子
しおりを挟む
「そして、あの御方は膝の上に乗せて私の毛並を優しく撫でたのでした」
「「「きゃー!」」」
イヌラが言うとセルキーの女の子達が黄色い声を上げる。
「いや~、撫でられた時は、もう頭の中が桃色で一杯になっちゃたわ~」
「「「きゃ~!! きゃ~!! イヌラやらし~!!」」」
再びセルキーの女の子達が恥ずかしそうに前足をバタつかせている。
イヌラと同じように全員がアザラシの姿なのでバタつかせるのは仕方がない事であった。
「イヌラ? 何をしているんだい?」
イヌラとその友人達が話していると兄であるイヌルがやって来る。
「あっ。イヌルお兄ちゃん。みんなにあの御方の事を話していたの」
イヌラがそう言うと兄のイヌルは微妙な顔をする。
イヌルはあの御方、つまりは暗黒騎士クロキの事を怖れている。
本来ならそれが正しい反応だろう。
怖ろしいナルゴルの悪魔達ですら、怖れているのだから。
しかし、クロキはイヌラにはとても優しかった。
だから、イヌラはまたクロキに会いたいのである。
「そうか……、それは良いとして、今から出かけるから伝えておこうと思ってね」
イヌルははぐらかすように用件を言う。
「どこに行くの!? あの御方の所!? もしそうなら一緒に連れて行って欲しい!」
「まあ、ちょっと近いかな。だけどダメダメ。お前を連れて行けるわけないだろう。お前は留守番」
「ぶう」
イヌルが冷たい事を言うとイヌラは頬を膨らませて不機嫌になる。
(まあ、仕方がないか。勝手に付いて行って怒られたばかりだ。今は我慢しよう。それに私はもうすぐ人間の姿になれるはずだ)
イヌラは人の姿になった自身を思い浮かべる。
セルキーは強い思いを持つ事で変身できる。
変わりたいと思わないセルキーはずっとアザラシのままだ。
イヌラは変わりたいと思っている。
だから、きっと変われるはずであった。
(変わったら、あの御方に真っ先に会いに行こうっと!)
だから、今は大人しくお留守番をしようとイヌラは思うのだった。
◆
クロキは魔王宮へとやってくる。
すでにアルフォス達との戦いから1日以上が経過している。
魔王宮に来たのはポレンが父親のためにクラーケンを獲ってきた事に感激したモデスが、小さな宴を開くことにしたからである。
モデスはクロキにも参加して欲しいと言われ、ここに来たのである。
「ふう、何とか大丈夫そうだな」
クロキは体を動かす。
竜の力を使った後遺症は収まっている。
竜の力を抑えきれず、クロキは暴れまくった。
もしレーナがいなかったら、大変な事になっていただろう。
レーナが前に立った瞬間。クロキの中で暴力的な感情とは別の違う感情が湧きあがった。
そのおかげで竜の力を抑制することが出来たのである。
悔しいけどレーナに感謝しなければならない。
もっとも、その後も問題だった。
ポレン達が御菓子の城を去り、クーナと二人きりになると、クロキは正気を保つことが出来なくなってしまった。
はっきりとクロキは覚えていないが、クーナに酷い事をしたかもしれない。
今クーナは御菓子の城で休んでいる。
クロキは戻ったら改めて謝ろうと思う。
そして、クロキはその時は朦朧としていたがクーナだけでなくレーナも来てくれた事を覚えている。
正直に言うと夢のような気がしてならないが、間違いなくレーナであった。
今度お礼を言うべきかとクロキは迷う。
そんな事を考えながらクロキは魔王宮に入る。
するとオークの門番が通してくれて、女官が案内してくれる。
女官は蘭花エンプーサと呼ばれる。エンプーサの中でも特に美しい種である。
彼女達は主に貴人の接待を行う。
一見人間の美女に見える。
だけど、エンプーサ達を誘うのはやめておいた方が良いだろう。
エンプーサ達は普段は人と変わらないが、その真の姿は青銅の足を持つ巨大なカマキリを合わせたような姿をしている。
そして、細い外見にも関わらずエンプーサ達はとても強い。
大魔女ヘルカートの眷属であるエンプーサ達の魔法は強力で並の魔物では太刀打ちできない。
そもそも、エンプーサ族を誘う事は死を意味する。
エンプーサにとって全ての男性は愛する相手であると同時に食糧である。
エンプーサは愛する男に情熱的に抱き着くと、腕を鎌に変化させて相手を捕らえ、より一つになろうとする。そして魔法で楽しい夢を見せている間に食べてしまうのだ。
クロキは蘭花エンプーサに案内されて、魔王宮の大広間へとやってくる。
すでに多くの者達が集まっている。
クロキは小さな宴会だと聞いていたが、魔王軍の幹部達がほぼ全て集まっているようであった。
魔王であるモデスがかなり喜んでいる事がわかる。
ちょっと呼びすぎなのではとクロキは思う。
クロキは女官にお礼を言って大広間へと入る。
すると大広間の入り口で、黒山羊の頭の男性と話をしていたダークエルフの侍女がクロキへとやって来る。
「これは閣下!! 良い所に来てくださいました!! 助けてください!!」
ダークエルフの侍女はそう言うとクロキの後ろに隠れる。
どういう事だろうと疑問にクロキは思うが、彼女と話をしていた黒山羊頭の男を見て納得する。
幻魔将軍ヴァーメッド。
人の上半身に黒山羊の頭と下半身、背中に黒い烏の翼を持つ彼は獣魔将軍プチナと同じく八魔将軍である。
そして、ヴァーメッドは宰相であるルーガスの眷属でもある。
ただ、知識欲の塊であるルーガスとは違ってヴァーメッドは性欲の塊だ。
自身の屋敷には捕らえた美しい人間の娘達を侍らせている。
当然美しい容姿を持つダークエルフも対象であった。
「これは、これは閣下。お久しぶりでございます。今日は白銀の美しい奥方を連れておられないのですね。姿を見るだけでも眼福なのですが。残念ですな」
そう言ってヴァーメッドは笑う。
「はあ、クーナなら来ていませんよ、ヴァーメッド将軍。それよりも彼女が困っているようなのですが?」
「いえいえ。彼女は恥ずかしがっているのですよ。ぬふふふふ」
それとなく彼女から離れるようにクロキは要求するが、ヴァーメッドは退かない。
もっと、強く言った方が良いのだろうかとクロキは思う。
「ヴァーメッド将軍!!」
突然ヴァーメッドの後ろから声がかけられる。
巨体であるヴァーメッドが振り返るとそこには女官が一名立っていた。
「こ、これは女官長殿!?」
ヴァーメッドが慌てた声を出す。
ヴァーメッドに声を掛けたのはエンシェマだ。
ヘルカートの忠実なる弟子にしてエンプーサロードである彼女はこの魔王城で働く女官や侍女達を統括する立場にある。
また、魔王や宰相に近い所にいるエンシェマの立場は八魔将軍よりも上だ。
エンシェマが現れた事でヴァーメッドは見るからにうろたえる。
「ヴァーメッド将軍。困りますね。彼女には別の仕事があるのですよ。それでもと言うのでしたら、わたくしが相手を致しますが」
そう言うとエンシェマの腕が鋭利な鎌へと変化する。
悪夢の魔女と呼ばれるエンシェマは強い。
ヴァーメッドの顔から大粒の汗が流れるのが見える。
「いえ! いえ! いえ!! それは申し訳なかった!! 私は退散する事にいたしましょう!!」
ヴァーメッドは首をぶんぶんと振るとそそくさとその場を離れる。
「た、助かりました。エンシェマ様」
「私は閣下に用があります。貴方は持ち場に戻りなさい」
「は、はい!!」
エンシェマに睨まれたダークエルフは素早く離れる。
エンシェマは決して優しい者ではないとクロキは聞いていた。
失敗をした者に対する懲罰はとんでもなくきつく、魔王宮で働く者達から怖れられている。
「閣下も困りますよ。侍女に手を出されては。この城で働く侍女達の全ては陛下のもの。許可なく手を出されてなりません」
エンシェマはクロキをきつく睨む。
「いえ、何もしていないですが……」
「それから閣下。プチナ将軍が閣下を探しておりました。それから、プチナ将軍がお会いしたいようです。熊の侍女を呼びますから少しお待ちください」
エンシェマは聞く耳は持たないのか用件を告げる。
熊の侍女とは熊人の侍女の事である。
主に魔王の姫であるポレンの身の回りの世話をするのが仕事だ。
腕力が強いポレンの世話がするには熊人のように頑丈な肉体が必要なのである。
しばらくすると直立した熊に侍女の服を着た女性が現れる。
「あらあらあら、貴方様が噂の暗黒騎士様ですね。うふふふ、聞いていた通り見目良い御方ね」
熊人の侍女は意味ありげにクロキの顔を見る。
「ええと……」
クロキは顔をじろじろと見られ後退する。
今クロキは暗黒騎士の姿だが、兜を外している。
そのため顔ははっきりと見えるはずだった。
「うふふ、それでは閣下。嬢ちゃまがお待ちですよ。付いて来て下さい」
熊人の侍女はクロキを案内する。
しばらく歩くと巨大な扉のある部屋の前まで来る。
この中でプチナが待っているようであった。
「プチナ嬢ちゃま~。連れて来ましたよ~」
熊人の侍女がのんびりした口調で扉の外で声をかける。
しばらくすると扉が開かれる。
「おばちゃん。嬢ちゃまはやめてほしいのさ。もう将軍なのさ」
扉から顔を出したプチナが頬を膨らませて抗議する。
全く迫力がない。
むしろ、その様子は可愛らしい。
「あらあら。ごめんなさい。それじゃあ、おばちゃんは行くわね~」
熊人の侍女は「ほほほ」と笑うと去って行く。
プチナの抗議なんか聞く耳がないようであった。
「はあ、まあ良いのさ……。さあ閣下入るのさ。ポレン殿下が待っているのさ」
プチナが扉を開けて入るように促す。
「えっ、殿下が? 自分を呼んだのはプチナ将軍ではないのですか?」
クロキがそう言うとプチナは首を振る。
「違うのさ。閣下に用があるのは殿下の方なのさ。さあ入るのさ。にししし」
プチナは意味有りげに笑う。
(どうしたのだろう?)
疑問に思いながらクロキは部屋に入る。
部屋はとても広く、調度品から誰かの私室だとわかる。
ポレンの私室に入っても良いのだろうか、と疑問に思いながらクロキは部屋の中を進む。
「あれ? 殿下は?」
クロキは周囲を見るがポレンの姿が見えない。
「ちょっと殿下!! 何をしているのさ!! 閣下が来たのさ!! 恥ずかしがらずに姿を見せるのさ!!」
プチナが大声を出すと窓際のカーテンが揺れる。
そこにポレンがいるようであった。
「殿下? そこに、おられるのですか? どうかしたのですか?」
クロキはカーテンの方に声をかける。
すると1人の少女がカーテンから姿を見せる。
ポレンではない。
しかし、すごく綺麗で可愛らしい少女であった。
クロキは少女を眺める。
綺麗なドレスの上からでもわかる、すらりとした体型。
ピンクの髪に少し薄紅色に染まった綺麗な白い肌。
クーナに匹敵する美少女がいる事にクロキは驚く。
少女のキラキラと輝く大きな瞳がクロキを不安気に見上げている。
(誰だろう? 初めて見る子だ)
クロキは少女が何者だろうかと首を傾げる。
「あの……クロキ先生?」
少女は不安そうな声でクロキの名を呼ぶ。
「何故自分の名を?」
クロキは少女を良く見る。
すると、少女の頭から生えた2本の角と少女が身に付けている首飾りにも見覚えがあった。
「もっ、もしかしてポレン殿下!? えええええ!!!?」
クロキは思わず驚きの声を出してしまう。
「はい。ピピポレンナです。クロキ先生」
少女は恥ずかしそうに頷く。
「えっ? でも姿が全く!? 頭身すらも!!? って? えええ!!?」
クロキが驚くのも無理のない事であった。
3頭身ぐらいでしかなかったポレンの体が7頭身以上になっている。
頭の大きさも、足の長さもすっかり変わってしまっている。
突然変異であった。
「今朝起きたら、急に変わっていたんです先生。私にも何故か良くわからないんです」
ポレンは戸惑うような声を出す。
「おそらく、殿下は姿を変える種族と同じだったのさ。それが、急に来たのさ。殿下と同じ匂いがなければわからない所だったのさ」
プチナはうんうんと頷く。
なるほど、プチナ等の人熊やアザラシと人の姿を持つセルキーのように2つの姿を持つ種族はこの世界では珍しくない。
そう考えればポレンが変身した事も不思議ではなかった。
ただ、ポレンは神族であり、同種族の者がいない。
だから、ポレンが2つの姿を持っている事に誰も気づかなかったのである。
「あの、この事を陛下は?」
「いえ、まだ誰も……。ぷーちゃん以外は誰も知りません。実は最初に先生に見せたかったんです」
ポレンは期待するような目でクロキを見る。
「自分にですか?」
「はい、クロキ先生にです。どうですか、おかしくないですか?」
そう言われてクロキはポレンを見る。
おかしい所なんて見当たらない。
どことなくモーナに似ている顔立ちはとても綺麗であった。
「おかしいなんて、とんでもない。とてもお綺麗ですよ殿下」
クロキは本心からそう言う。
まさか、こんな綺麗な子に変身するとは誰も思わないだろう。
「可愛いではなくて綺麗ですか!? 本当にそう思いますか!!?」
ポレンはぐいっとクロキに詰め寄る。
「はは、可愛くてお綺麗ですよ、殿下。思わず見惚れてしまいました」
クロキはポレンの頭を撫でる。
するとポレンの顔が桜色に染まり、嬉しそうに頬を抑える。
「にょ……」
「にょ?」
突然ポレンが変な声を上げたのでクロキは首を傾げる。
ポレンの様子が変であった。
「にょほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ! 先生に! 先生にっ!! 綺麗って言ってもらちゃったーーー!!!!!!!!!!!!」
ポレンは叫ぶと、尻尾をぶんぶんと左右に揺らす。
その勢いで部屋が壊れそうであった。
「あ、あの殿下?」
「にょほほほほほ! ありがとうございます!! クロキ先生! 全部先生のおかげです!!!」
ポレンはしてやったりという顔をしてクロキの手をがしっと掴む。
(えっ、自分のおかげ!? 何かやったかな!?)
クロキは特に何かした覚えはなかったので疑問に思う。
「よーし!! お父様にもこの姿を見せに行こう!! 行くよ、ぷーちゃん!!」
ポレンはクロキの手を離すとプチナの所に行ってその体を引っ張ると、部屋から出るために扉へと向かう。
「あっ!! そうだ先生!!」
部屋から出る前にポレンは振り返り、クロキを見る。
その目は意味ありげであった。
「私! 師匠に負けないぐらい綺麗になりますから! 覚悟してくださいね、先生! それじゃあ!!」
そう言ってポレンはプチナを連れて部屋を出る。
「覚悟って? 何を覚悟するの?」
クロキは首を傾げる。
しかし、ポレンが部屋から出るようになったのは良いことのはずであった。
それに貢献できたのならクロキは嬉しいと思う。
そう思い、クロキは大きく開かれた部屋の扉を見る。
みにくい魔王の子は、綺麗な御姫様になって羽ばたこうとしていた。
◆
宴が終わりポレンは部屋に戻る。
「また、元に戻っちゃったな……」
ポレンは鏡を見る。
そこには元のブタの姿をした自分がいる。
クロキに綺麗と言ってもらえて、父親であるモデスとその配下達に見せたら突然元に戻ってしまった。
「お父様達に見せて、気が抜けちゃったからかなあ?」
ポレンは残念に思う。
その後、どうやっても変身できなかった。
そのため結局宴には元のブタの姿で出席しなければいけなかったのである。
ポレンは変身した時の姿を思い出す。
最初に鏡を見た時、ポレンは信じられなかった。
母親であるモーナに似て、すごく綺麗な姿に変身していたのだ。
そして、次に変身した姿を見た時のクロキの顔を思い出す。
「にょほほほほほ!!」
ポレンは思わず踊ってしまう。
「ふふん。ほほん。そして、私は蝶へと変わる~♪」
ポレンは鼻歌を歌いながら、くるりん、くるりんと右から左へと部屋を跳びはねる。
「何をしているのさ? ポレン殿下?」
「えっ?」
ポレンは踊りをやめて振り返る。
いつの間にかプチナがすぐ近くに立っていた。
「何かの呪いの儀式でもやってたのさ? すごく珍妙な踊りだったのさ」
「もしかして……見てたの?」
「はいなのさ」
「はう~!!!!!」
恥ずかしさのあまりポレンは部屋をぐるぐると転げまわる。
「もう~。ぷーちゃん。いるならいると言ってよ~」
ポレンはプチナに抗議をする。
「それはないのさ殿下。片づけをしたいから来て欲しいと言ったのはポレン殿下なのさ」
「あっそうだった! ダティエからもらった絵を捨てようと思ってね。手伝ってくれるでしょう? ぷーちゃん?」
絵を捨てると聞いてプチナは驚いた顔をする。
「えっ、どうしたのさ!? 殿下!? 秘蔵の宝物を捨てるなんてさ!!?」
「良いのぷーちゃん。私は変わるの。だからね、一枚を残して他の絵はいらないの」
ポレンは部屋を片付けるつもりである。
明日でも良いが、速い方が良いだろうと思い、プチナを呼んだのだ。
(そう私は変わる。頑張ればまた変身できるはずだもの。みにくい魔王の子はもういないんだ)
ポレンは絶対に綺麗になってやろうと決意する。
アルフォスの周りの美女達から悪口を言われた時、ポレンはとても悔しかった。
そして、クロキが自身の為に戦ってくれた時、ポレンはとても嬉しかった。
真剣に戦うクロキを見てポレンは変わりたいと強く思ったのだ。
だから、一枚を残して他の絵はいらないのである。
ポレンはその一枚を部屋の中央に飾る予定である。
それはダティエがくれた絵の中にあった一枚である。
これだけは残そうとポレンは思う。
ポレンはその絵を取り出して見る。
そこには兜を脇に抱え、優しく微笑む暗黒騎士の姿があった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
これにて「第6章 魔界の姫君」は終了です。
折角変身できるようになったのですが、ポレンはしばらく登場しなかったりします。
いちおう10章でメインになる予定。
そして、すぐにでも「第7章 砂漠の獣神」を始めようと思うのですが、
実は神々もある程度出揃ったので設定資料集の続きも更新したかったりします。
無理をせず、そして、出来る限り急ぎたいと思います。
「「「きゃー!」」」
イヌラが言うとセルキーの女の子達が黄色い声を上げる。
「いや~、撫でられた時は、もう頭の中が桃色で一杯になっちゃたわ~」
「「「きゃ~!! きゃ~!! イヌラやらし~!!」」」
再びセルキーの女の子達が恥ずかしそうに前足をバタつかせている。
イヌラと同じように全員がアザラシの姿なのでバタつかせるのは仕方がない事であった。
「イヌラ? 何をしているんだい?」
イヌラとその友人達が話していると兄であるイヌルがやって来る。
「あっ。イヌルお兄ちゃん。みんなにあの御方の事を話していたの」
イヌラがそう言うと兄のイヌルは微妙な顔をする。
イヌルはあの御方、つまりは暗黒騎士クロキの事を怖れている。
本来ならそれが正しい反応だろう。
怖ろしいナルゴルの悪魔達ですら、怖れているのだから。
しかし、クロキはイヌラにはとても優しかった。
だから、イヌラはまたクロキに会いたいのである。
「そうか……、それは良いとして、今から出かけるから伝えておこうと思ってね」
イヌルははぐらかすように用件を言う。
「どこに行くの!? あの御方の所!? もしそうなら一緒に連れて行って欲しい!」
「まあ、ちょっと近いかな。だけどダメダメ。お前を連れて行けるわけないだろう。お前は留守番」
「ぶう」
イヌルが冷たい事を言うとイヌラは頬を膨らませて不機嫌になる。
(まあ、仕方がないか。勝手に付いて行って怒られたばかりだ。今は我慢しよう。それに私はもうすぐ人間の姿になれるはずだ)
イヌラは人の姿になった自身を思い浮かべる。
セルキーは強い思いを持つ事で変身できる。
変わりたいと思わないセルキーはずっとアザラシのままだ。
イヌラは変わりたいと思っている。
だから、きっと変われるはずであった。
(変わったら、あの御方に真っ先に会いに行こうっと!)
だから、今は大人しくお留守番をしようとイヌラは思うのだった。
◆
クロキは魔王宮へとやってくる。
すでにアルフォス達との戦いから1日以上が経過している。
魔王宮に来たのはポレンが父親のためにクラーケンを獲ってきた事に感激したモデスが、小さな宴を開くことにしたからである。
モデスはクロキにも参加して欲しいと言われ、ここに来たのである。
「ふう、何とか大丈夫そうだな」
クロキは体を動かす。
竜の力を使った後遺症は収まっている。
竜の力を抑えきれず、クロキは暴れまくった。
もしレーナがいなかったら、大変な事になっていただろう。
レーナが前に立った瞬間。クロキの中で暴力的な感情とは別の違う感情が湧きあがった。
そのおかげで竜の力を抑制することが出来たのである。
悔しいけどレーナに感謝しなければならない。
もっとも、その後も問題だった。
ポレン達が御菓子の城を去り、クーナと二人きりになると、クロキは正気を保つことが出来なくなってしまった。
はっきりとクロキは覚えていないが、クーナに酷い事をしたかもしれない。
今クーナは御菓子の城で休んでいる。
クロキは戻ったら改めて謝ろうと思う。
そして、クロキはその時は朦朧としていたがクーナだけでなくレーナも来てくれた事を覚えている。
正直に言うと夢のような気がしてならないが、間違いなくレーナであった。
今度お礼を言うべきかとクロキは迷う。
そんな事を考えながらクロキは魔王宮に入る。
するとオークの門番が通してくれて、女官が案内してくれる。
女官は蘭花エンプーサと呼ばれる。エンプーサの中でも特に美しい種である。
彼女達は主に貴人の接待を行う。
一見人間の美女に見える。
だけど、エンプーサ達を誘うのはやめておいた方が良いだろう。
エンプーサ達は普段は人と変わらないが、その真の姿は青銅の足を持つ巨大なカマキリを合わせたような姿をしている。
そして、細い外見にも関わらずエンプーサ達はとても強い。
大魔女ヘルカートの眷属であるエンプーサ達の魔法は強力で並の魔物では太刀打ちできない。
そもそも、エンプーサ族を誘う事は死を意味する。
エンプーサにとって全ての男性は愛する相手であると同時に食糧である。
エンプーサは愛する男に情熱的に抱き着くと、腕を鎌に変化させて相手を捕らえ、より一つになろうとする。そして魔法で楽しい夢を見せている間に食べてしまうのだ。
クロキは蘭花エンプーサに案内されて、魔王宮の大広間へとやってくる。
すでに多くの者達が集まっている。
クロキは小さな宴会だと聞いていたが、魔王軍の幹部達がほぼ全て集まっているようであった。
魔王であるモデスがかなり喜んでいる事がわかる。
ちょっと呼びすぎなのではとクロキは思う。
クロキは女官にお礼を言って大広間へと入る。
すると大広間の入り口で、黒山羊の頭の男性と話をしていたダークエルフの侍女がクロキへとやって来る。
「これは閣下!! 良い所に来てくださいました!! 助けてください!!」
ダークエルフの侍女はそう言うとクロキの後ろに隠れる。
どういう事だろうと疑問にクロキは思うが、彼女と話をしていた黒山羊頭の男を見て納得する。
幻魔将軍ヴァーメッド。
人の上半身に黒山羊の頭と下半身、背中に黒い烏の翼を持つ彼は獣魔将軍プチナと同じく八魔将軍である。
そして、ヴァーメッドは宰相であるルーガスの眷属でもある。
ただ、知識欲の塊であるルーガスとは違ってヴァーメッドは性欲の塊だ。
自身の屋敷には捕らえた美しい人間の娘達を侍らせている。
当然美しい容姿を持つダークエルフも対象であった。
「これは、これは閣下。お久しぶりでございます。今日は白銀の美しい奥方を連れておられないのですね。姿を見るだけでも眼福なのですが。残念ですな」
そう言ってヴァーメッドは笑う。
「はあ、クーナなら来ていませんよ、ヴァーメッド将軍。それよりも彼女が困っているようなのですが?」
「いえいえ。彼女は恥ずかしがっているのですよ。ぬふふふふ」
それとなく彼女から離れるようにクロキは要求するが、ヴァーメッドは退かない。
もっと、強く言った方が良いのだろうかとクロキは思う。
「ヴァーメッド将軍!!」
突然ヴァーメッドの後ろから声がかけられる。
巨体であるヴァーメッドが振り返るとそこには女官が一名立っていた。
「こ、これは女官長殿!?」
ヴァーメッドが慌てた声を出す。
ヴァーメッドに声を掛けたのはエンシェマだ。
ヘルカートの忠実なる弟子にしてエンプーサロードである彼女はこの魔王城で働く女官や侍女達を統括する立場にある。
また、魔王や宰相に近い所にいるエンシェマの立場は八魔将軍よりも上だ。
エンシェマが現れた事でヴァーメッドは見るからにうろたえる。
「ヴァーメッド将軍。困りますね。彼女には別の仕事があるのですよ。それでもと言うのでしたら、わたくしが相手を致しますが」
そう言うとエンシェマの腕が鋭利な鎌へと変化する。
悪夢の魔女と呼ばれるエンシェマは強い。
ヴァーメッドの顔から大粒の汗が流れるのが見える。
「いえ! いえ! いえ!! それは申し訳なかった!! 私は退散する事にいたしましょう!!」
ヴァーメッドは首をぶんぶんと振るとそそくさとその場を離れる。
「た、助かりました。エンシェマ様」
「私は閣下に用があります。貴方は持ち場に戻りなさい」
「は、はい!!」
エンシェマに睨まれたダークエルフは素早く離れる。
エンシェマは決して優しい者ではないとクロキは聞いていた。
失敗をした者に対する懲罰はとんでもなくきつく、魔王宮で働く者達から怖れられている。
「閣下も困りますよ。侍女に手を出されては。この城で働く侍女達の全ては陛下のもの。許可なく手を出されてなりません」
エンシェマはクロキをきつく睨む。
「いえ、何もしていないですが……」
「それから閣下。プチナ将軍が閣下を探しておりました。それから、プチナ将軍がお会いしたいようです。熊の侍女を呼びますから少しお待ちください」
エンシェマは聞く耳は持たないのか用件を告げる。
熊の侍女とは熊人の侍女の事である。
主に魔王の姫であるポレンの身の回りの世話をするのが仕事だ。
腕力が強いポレンの世話がするには熊人のように頑丈な肉体が必要なのである。
しばらくすると直立した熊に侍女の服を着た女性が現れる。
「あらあらあら、貴方様が噂の暗黒騎士様ですね。うふふふ、聞いていた通り見目良い御方ね」
熊人の侍女は意味ありげにクロキの顔を見る。
「ええと……」
クロキは顔をじろじろと見られ後退する。
今クロキは暗黒騎士の姿だが、兜を外している。
そのため顔ははっきりと見えるはずだった。
「うふふ、それでは閣下。嬢ちゃまがお待ちですよ。付いて来て下さい」
熊人の侍女はクロキを案内する。
しばらく歩くと巨大な扉のある部屋の前まで来る。
この中でプチナが待っているようであった。
「プチナ嬢ちゃま~。連れて来ましたよ~」
熊人の侍女がのんびりした口調で扉の外で声をかける。
しばらくすると扉が開かれる。
「おばちゃん。嬢ちゃまはやめてほしいのさ。もう将軍なのさ」
扉から顔を出したプチナが頬を膨らませて抗議する。
全く迫力がない。
むしろ、その様子は可愛らしい。
「あらあら。ごめんなさい。それじゃあ、おばちゃんは行くわね~」
熊人の侍女は「ほほほ」と笑うと去って行く。
プチナの抗議なんか聞く耳がないようであった。
「はあ、まあ良いのさ……。さあ閣下入るのさ。ポレン殿下が待っているのさ」
プチナが扉を開けて入るように促す。
「えっ、殿下が? 自分を呼んだのはプチナ将軍ではないのですか?」
クロキがそう言うとプチナは首を振る。
「違うのさ。閣下に用があるのは殿下の方なのさ。さあ入るのさ。にししし」
プチナは意味有りげに笑う。
(どうしたのだろう?)
疑問に思いながらクロキは部屋に入る。
部屋はとても広く、調度品から誰かの私室だとわかる。
ポレンの私室に入っても良いのだろうか、と疑問に思いながらクロキは部屋の中を進む。
「あれ? 殿下は?」
クロキは周囲を見るがポレンの姿が見えない。
「ちょっと殿下!! 何をしているのさ!! 閣下が来たのさ!! 恥ずかしがらずに姿を見せるのさ!!」
プチナが大声を出すと窓際のカーテンが揺れる。
そこにポレンがいるようであった。
「殿下? そこに、おられるのですか? どうかしたのですか?」
クロキはカーテンの方に声をかける。
すると1人の少女がカーテンから姿を見せる。
ポレンではない。
しかし、すごく綺麗で可愛らしい少女であった。
クロキは少女を眺める。
綺麗なドレスの上からでもわかる、すらりとした体型。
ピンクの髪に少し薄紅色に染まった綺麗な白い肌。
クーナに匹敵する美少女がいる事にクロキは驚く。
少女のキラキラと輝く大きな瞳がクロキを不安気に見上げている。
(誰だろう? 初めて見る子だ)
クロキは少女が何者だろうかと首を傾げる。
「あの……クロキ先生?」
少女は不安そうな声でクロキの名を呼ぶ。
「何故自分の名を?」
クロキは少女を良く見る。
すると、少女の頭から生えた2本の角と少女が身に付けている首飾りにも見覚えがあった。
「もっ、もしかしてポレン殿下!? えええええ!!!?」
クロキは思わず驚きの声を出してしまう。
「はい。ピピポレンナです。クロキ先生」
少女は恥ずかしそうに頷く。
「えっ? でも姿が全く!? 頭身すらも!!? って? えええ!!?」
クロキが驚くのも無理のない事であった。
3頭身ぐらいでしかなかったポレンの体が7頭身以上になっている。
頭の大きさも、足の長さもすっかり変わってしまっている。
突然変異であった。
「今朝起きたら、急に変わっていたんです先生。私にも何故か良くわからないんです」
ポレンは戸惑うような声を出す。
「おそらく、殿下は姿を変える種族と同じだったのさ。それが、急に来たのさ。殿下と同じ匂いがなければわからない所だったのさ」
プチナはうんうんと頷く。
なるほど、プチナ等の人熊やアザラシと人の姿を持つセルキーのように2つの姿を持つ種族はこの世界では珍しくない。
そう考えればポレンが変身した事も不思議ではなかった。
ただ、ポレンは神族であり、同種族の者がいない。
だから、ポレンが2つの姿を持っている事に誰も気づかなかったのである。
「あの、この事を陛下は?」
「いえ、まだ誰も……。ぷーちゃん以外は誰も知りません。実は最初に先生に見せたかったんです」
ポレンは期待するような目でクロキを見る。
「自分にですか?」
「はい、クロキ先生にです。どうですか、おかしくないですか?」
そう言われてクロキはポレンを見る。
おかしい所なんて見当たらない。
どことなくモーナに似ている顔立ちはとても綺麗であった。
「おかしいなんて、とんでもない。とてもお綺麗ですよ殿下」
クロキは本心からそう言う。
まさか、こんな綺麗な子に変身するとは誰も思わないだろう。
「可愛いではなくて綺麗ですか!? 本当にそう思いますか!!?」
ポレンはぐいっとクロキに詰め寄る。
「はは、可愛くてお綺麗ですよ、殿下。思わず見惚れてしまいました」
クロキはポレンの頭を撫でる。
するとポレンの顔が桜色に染まり、嬉しそうに頬を抑える。
「にょ……」
「にょ?」
突然ポレンが変な声を上げたのでクロキは首を傾げる。
ポレンの様子が変であった。
「にょほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ! 先生に! 先生にっ!! 綺麗って言ってもらちゃったーーー!!!!!!!!!!!!」
ポレンは叫ぶと、尻尾をぶんぶんと左右に揺らす。
その勢いで部屋が壊れそうであった。
「あ、あの殿下?」
「にょほほほほほ! ありがとうございます!! クロキ先生! 全部先生のおかげです!!!」
ポレンはしてやったりという顔をしてクロキの手をがしっと掴む。
(えっ、自分のおかげ!? 何かやったかな!?)
クロキは特に何かした覚えはなかったので疑問に思う。
「よーし!! お父様にもこの姿を見せに行こう!! 行くよ、ぷーちゃん!!」
ポレンはクロキの手を離すとプチナの所に行ってその体を引っ張ると、部屋から出るために扉へと向かう。
「あっ!! そうだ先生!!」
部屋から出る前にポレンは振り返り、クロキを見る。
その目は意味ありげであった。
「私! 師匠に負けないぐらい綺麗になりますから! 覚悟してくださいね、先生! それじゃあ!!」
そう言ってポレンはプチナを連れて部屋を出る。
「覚悟って? 何を覚悟するの?」
クロキは首を傾げる。
しかし、ポレンが部屋から出るようになったのは良いことのはずであった。
それに貢献できたのならクロキは嬉しいと思う。
そう思い、クロキは大きく開かれた部屋の扉を見る。
みにくい魔王の子は、綺麗な御姫様になって羽ばたこうとしていた。
◆
宴が終わりポレンは部屋に戻る。
「また、元に戻っちゃったな……」
ポレンは鏡を見る。
そこには元のブタの姿をした自分がいる。
クロキに綺麗と言ってもらえて、父親であるモデスとその配下達に見せたら突然元に戻ってしまった。
「お父様達に見せて、気が抜けちゃったからかなあ?」
ポレンは残念に思う。
その後、どうやっても変身できなかった。
そのため結局宴には元のブタの姿で出席しなければいけなかったのである。
ポレンは変身した時の姿を思い出す。
最初に鏡を見た時、ポレンは信じられなかった。
母親であるモーナに似て、すごく綺麗な姿に変身していたのだ。
そして、次に変身した姿を見た時のクロキの顔を思い出す。
「にょほほほほほ!!」
ポレンは思わず踊ってしまう。
「ふふん。ほほん。そして、私は蝶へと変わる~♪」
ポレンは鼻歌を歌いながら、くるりん、くるりんと右から左へと部屋を跳びはねる。
「何をしているのさ? ポレン殿下?」
「えっ?」
ポレンは踊りをやめて振り返る。
いつの間にかプチナがすぐ近くに立っていた。
「何かの呪いの儀式でもやってたのさ? すごく珍妙な踊りだったのさ」
「もしかして……見てたの?」
「はいなのさ」
「はう~!!!!!」
恥ずかしさのあまりポレンは部屋をぐるぐると転げまわる。
「もう~。ぷーちゃん。いるならいると言ってよ~」
ポレンはプチナに抗議をする。
「それはないのさ殿下。片づけをしたいから来て欲しいと言ったのはポレン殿下なのさ」
「あっそうだった! ダティエからもらった絵を捨てようと思ってね。手伝ってくれるでしょう? ぷーちゃん?」
絵を捨てると聞いてプチナは驚いた顔をする。
「えっ、どうしたのさ!? 殿下!? 秘蔵の宝物を捨てるなんてさ!!?」
「良いのぷーちゃん。私は変わるの。だからね、一枚を残して他の絵はいらないの」
ポレンは部屋を片付けるつもりである。
明日でも良いが、速い方が良いだろうと思い、プチナを呼んだのだ。
(そう私は変わる。頑張ればまた変身できるはずだもの。みにくい魔王の子はもういないんだ)
ポレンは絶対に綺麗になってやろうと決意する。
アルフォスの周りの美女達から悪口を言われた時、ポレンはとても悔しかった。
そして、クロキが自身の為に戦ってくれた時、ポレンはとても嬉しかった。
真剣に戦うクロキを見てポレンは変わりたいと強く思ったのだ。
だから、一枚を残して他の絵はいらないのである。
ポレンはその一枚を部屋の中央に飾る予定である。
それはダティエがくれた絵の中にあった一枚である。
これだけは残そうとポレンは思う。
ポレンはその絵を取り出して見る。
そこには兜を脇に抱え、優しく微笑む暗黒騎士の姿があった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
これにて「第6章 魔界の姫君」は終了です。
折角変身できるようになったのですが、ポレンはしばらく登場しなかったりします。
いちおう10章でメインになる予定。
そして、すぐにでも「第7章 砂漠の獣神」を始めようと思うのですが、
実は神々もある程度出揃ったので設定資料集の続きも更新したかったりします。
無理をせず、そして、出来る限り急ぎたいと思います。
1
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
無職になった元騎士の適性は『教育者』〜奴隷を教育して男爵領を改革〜
馬渡黒秋
ファンタジー
【あらすじ】
長き時を戦い続けたセグナクト王国は、ナスリク帝国を打ち破ったことで、大陸の覇者となる悲願を達成した。
セグナクト王国の大陸統一により、世は戦乱の時代から平和な時代へと切り替わり、平凡な騎士であったルシアンは、十年勤め上げた騎士の任を解かれることとなった。
しかしそれは戦闘系の適性を持たなかったルシアンにとっては、ようやく訪れた人生の始まりの合図だった。
ルシアンは恩人であるエドワード——セグナクト王国ミーリス男爵家当主、エドワード・ミーリスの言葉に従い、世界を知り、知識を蓄えるために騎士になったのだった。
世界を知り『賢人』と呼べるほどに賢くなったルシアンは騎士時代に、数多の奴隷の姿を見て考えていたことがある。
『たった金貨数枚で売られているこの者達が、まともな教育を受けて、知性と教養を手にしたのならば、一体いくら稼ぐ人間になるのだろうか』と。
——無職になった元騎士の本当の人生が、今始まる。
これは適性が『教育者』の元騎士が、奴隷を教育して男爵領を改革するお話。その過程で人生の真理に触れていきます。尚、自分が育てた奴隷にぐちゃぐちゃに愛される模様。
※三人称視点です。いずれもふもふが出てきます。基本的にはラブコメ調ですが、伏線がそれなりにあるのでミステリっぽい要素があります。章末ではカタルシスを感じてくれると嬉しいです。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で楽しめる短めの意味が分かると怖い話をたくさん作って投稿しているよ。
ヒントや補足的な役割として解説も用意しているけど、自分で想像しながら読むのがおすすめだよ。
中にはホラー寄りのものとクイズ寄りのものがあるから、お好みのお話を探してね。
さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」
戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。
周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。
「……わかりました、旦那様」
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる