暗黒騎士物語

根崎タケル

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第6章 魔界の姫君

第24話 暗黒騎士VS聖騎士

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「陛下! 大変です! グゥノの部隊が強力な結界に阻まれ! 姫様の下へたどり着けないそうです! さらに同じように入る事が出来ないでいる! 女神レーナの空船と睨み合いになっているそうです!!」

 魔王宮の謁見の間、慌てるように入って来たジヴリュスが報告する。
 クロキがポレンと共に御菓子の城に向かった後、クロキは念のために部下であるグゥノ達に後を追うように命じていた。
 しかし、グゥノ達が辿り着いた時にはクロキ達はアルフォスの作り出した魔道結界に捕らわれた後だったのである。
 驚いたグゥノは魔王宮に報告して助けを求めたのである。

「そうか、グゥノ卿には、こちらからレーナ達に手を出すなと伝えておいてくれ」

 モデスはそう命令するとジヴリュスが部下に指示を出す。
 おそらく、配下の近衛騎士達に出撃を命じたのだろう。
 近衛騎士団は女性のデイモン族で組織された戦士達だ。
 その力はランフェルドの配下の暗黒騎士達に匹敵する強さを持つ。

「全く! あの子と来たら!ようやく部屋から出たと思ったら陛下に心配をかけるなんて!!」

 モーナは不機嫌そうな顔をする。
 それを見てモデスは溜息を吐く。
 モーナとポレンの親子の仲はぎくしゃくしている。
 ポレンは自らの容姿を嫌っている、父親であるモデスに似ている事が嫌なのだ。
 それがモーナには気に入らない。
 そして、父親の容姿を嫌うポレンを強く叱ったのだ。
 その結果、ポレンはモーナと顔を合わさないようにしてしまった。
 本来なら父親のモデスが間に立たねばならない。
 しかし、引き籠ったポレンを前に何も出来なかった。
 魔王と呼ばれ、この世界でも最強と呼ばれた者が何て様だろうとモデスは思う。
 愛する者を前に何もできなかったのである。
 だから、モデスはクロキがポレンを表に連れ出してくれた時は嬉しかった。
 クロキには何から何まで世話になっているとモデスは感謝をしている。
 今魔王宮の玉座の間、上空の魔法の映像には美しい水晶の庭園が映し出されている。
 光り輝く氷華が咲き乱れ、鏡のような床が天空のオーロラを映し出し、幻想的な空間を作り出している。
 美しい雪の女王スノークィーンが綺麗な声で歌い、可憐な雪の乙女スノーメイデン達が空中を舞う。
 その庭園を純白の鎧を着た聖騎士が剣を振るい暗黒騎士に攻撃している。
 暗黒騎士は聖騎士の猛攻に防戦一方である。
 これはポレンに身に付けさせた魔法の首飾りから送られている映像であった。
 首飾りは心配だったので、クラ―ケンを獲りに行くときに身に付けさせていたのだ。
 もっともポレンは映像がこちらに送られている事は知らないだろう。
 アルフォスの結界の中でもきちんと魔法は働いているようであった。

「それにしても、まさか、あの閣下が苦戦するとは……。アルフォスは歌ってばかりで、強そうには見えなかったのですが……」

 部下に指示を出したジヴリュスは映像を見て驚く。
 ジヴリュスは近衛騎士団長。魔王宮を守る最高責任者まで出撃する事はできない。

「ほう。ジヴリュス卿は知らないのですな。白麗の聖騎士アルフォスの事を」

 横で聞いていたルーガスが白い髭を撫でてジヴリュスに説明をし始める。

 白麗の聖騎士アルフォス。

 最近のアルフォスは遊んでばかりと聞くが、かつては最強の聖騎士と呼ばれ、エリオスの神々を率いるオーディスがもっとも頼りにしていた男だ。
 オーディス達はこのモデスがエリオスを離れた後、天空の巨人タイタス族と空の支配権を賭けて戦った。
 天空の巨人タイタス族は大地の巨人ギガテス族や深海の巨人オアネス族と同じく、原初の始祖神エリオスが生み出した古の種族。その力は神族に匹敵する。
 エリオスの軍勢は苦戦し、もしアルフォスが天空の巨人王を倒さなければ、どうなっていたかわからないと聞く。
 美しさと強さを兼ね添えた天上の貴公子にして、神王の剣。
 アルフォスとはそう呼ばれる男だ。
 双子の妹の天上の美姫レーナと同じくとても優秀である。

「それほどとは……。それでは閣下はこのまま負けてしまうのでしょうか? 姫様はどうなるのでしょうか」

 そう言ってジヴリュスは不安そうな顔をする。

「確かに……、まずいかもしれませんな、陛下。何とか対策を取り、姫様だけでも助けなければいけないでしょうな」

 クロキが負けるだろうと考えたルーガスは冷徹な瞳で映像を見る。
 場合によってはクロキを切り捨てる。
 それが、ルーガスの判断であった。

「それは、どうかなルーガスよ。このモデスにはクロキ殿が負けるようには思えん」

 モデスがそう言うとルーガスとジヴリュスは顔を見合わせる。

「しかし、陛下。現にアルフォスに全く歯が立たないように見えますが……?」
「確かに苦戦しているように思えるな、ジヴリュス卿。しかしな、どうしてもクロキが負けるようには思えん。むしろ、このモデスにはアルフォスの方が追い詰められているように見える」

 モデスは映像を見る。
 アルフォスが神王の剣ならば、クロキは魔王の剣だ。
 クロキは必ず勝つとモデスは思っている。
 そのモデスの言葉を聞いたルーガスとジヴリュスが驚きの表情を浮かべる。
 それに対してモデスの横にいるモーナは特に驚いていない。
 モーナもモデスと同じように思っている様子であった。

「このモデスはクロキを信じる。必ずポレンを連れて戻って来てくれるとな。さあ、クロキよ。見せてくれ。最強の我が剣よ。アルフォスを打ち破り、逆転する姿を!!」





「幻光流星剣!!!!」

 聖騎士アルフォスの剣が輝くと、その斬撃が流星群のようにクロキに降り注ぐ。

「のわあああ!!!」

 クロキは身を屈めて床を這うようにしてアルフォスの剣から逃れる。
 その姿は傍から見るとゴキブリに見えるかもしれない。
 現にクーナ達を乗せた空船から美女達が大きな声で笑いだす。

「何あれ! ださ~い!!」
「きゃはは! ホ~ント! みっともな~い!!!」
「良くそれで、アルフォス様と戦う気になったわね~!!」
「ホント! ホント! 身の程を知れって~の!!」
「アルフォス様~! そんな害虫、早くやっちゃってください!!!」
「きゃはは!!」

 美女達はクロキがアルフォスから逃げ惑う姿がよほど面白いのか、笑い声が絶やさない。
 アルフォスが七色の幻影を残しながら再びクロキに迫って来る。
 クロキは魔剣を構え迎え撃つ。

「氷華天光乱舞十七連斬」

 アルフォスが目の前で分裂して舞うように剣を振るって来る。

「ちょおおおおお!! とわっ! とわっ!!!」

 クロキはそれぞれのアルフォスの剣の舞に合わせるように、魔剣を振るって舞う。
 しかし、アルフォスの剣の舞が優雅なワルツなら、クロキの剣の舞はどうみても奇妙な暗黒舞踊だ。
 素早いアルフォスに無理やり合わせたので滑稽な踊りになってしまう。
 空船の美女達が爆笑しているのがクロキにはわかる。
 喜んでいただけて、なりよりですと言いたくなる。

「中々しぶといね。暗黒騎士君。君はどう見ても、この美しい花園を虫食む害虫。害虫は害虫らしく大人しく駆除されてくれないかな」
「ぐぬぬぬぬ!」

 アルフォスの蔑むような物言いに、クロキは歯軋りするしかない。
 確かにアルフォスの作り出した水晶庭園クリスタルガーデンは美しかった。
 そんな美しい庭園の中でクロキだけが醜く振舞っている。

(でも害虫は酷いと思う!! 訂正を要求する!!)

 クロキは「せめて、害虫ではなく、芋虫ぐらいに言い直して欲しい!!」と心の中で涙を流しながら訴える。

「さあ!!害虫君! 美しい僕の華麗な剣技で、大人しく駆除されたまえ!!」

 そんなクロキの気持ちなんか知るはずがないアルフォスは剣を掲げて向かって来る。
 暗黒騎士君から害虫君に格下げされたみたいだけど、クロキにそれを嘆く暇を与えてくれない。
 アルフォスの怒涛の攻撃。

(速えええええ!!!!!)

 クロキは剣を振るって防ぎ、床を這いつくばって逃げ、奇妙な体勢になりながら躱す。
 その様子は我ながら恰好悪いとクロキは思う。
 美女達のさらに笑い声を出す。
 しかし、それも仕方がない事であった。
 アルフォスは間違いなく強く、レイジ以来の強敵であった。
 クロキはどうにもならず。情けない姿をさらしている。
 しかし、そんな状態になってもクロキは決して参ったとは言うつもりはない。
 そんな事は言えるわけがないのである。

「クロキ先生いいいいいい! お願いいいいいいい! 負けないでえええええ!!」

 先程から美女達の声に混じってポレンはクロキを応援している。
 声から泣いているのがクロキにはわかる。
 これでは、参ったなんて言えるわけがない。
 醜い姿のために引きこもっていたポレン。
 そんなポレンを外に出すためにクロキは頑張らせた。
 そのクロキがあっさり、参りましたなんて、言えるはずがない。
 全くもって、偉そうなことは言えないとクロキは。
 クロキは自身が誰かに説教なんてできるような、立派な人間だとは思っていない。
 それでも、ポレンに手を差し伸べたのは、ずっと閉じこもったままではポレン自身が苦しいのではないだろうかと思ったからだ。
 今でもクロキは思い出す。
 この世界に来て、モデスからレイジと戦って欲しいとお願いされた時の事を。
 あの時、逃げていたら、どうなっていただろうかと考えるのだ。
 多分ずっとレイジから逃げ続ける事になっていただろうとクロキは思う。
 それは、平和かもしれない。
 だけど、クーナに会う事は出来なかった。
 戦いを避ける事は間違っていない。
 戦えば負けるかもしれない。負ける事はとても苦しいし、死ぬかもしれない。
 逃げ続け、閉じこもっていれば負ける事はない。
 だけど、逃げ続けて、閉じこもってばかりでは勝つ事も出来ない。
 やみくもに戦う事は良くないのは確かだけど、戦うべきときに逃げていたら、それは負けるよりもみじめだとクロキは思うのだ。
 アルフォスの側の美女達がクロキ達を馬鹿にしたときに、へらへら笑って逃げていたらどうなっていただろうか?
 戦いにはならなかったかもしれない。だけどそれはみじめだ。
 だからこそクロキは戦うのである。
 ポレンの前で逃げる事はできない。

「しつこいね! 君も! いい加減に倒されたまえ!!」

 アルフォスの剣がクロキを襲う。
 そのアルフォスの口ぶりは少し焦れているようであった。

「負けてたまるか―――!!!!」

 クロキは必死になって剣を振るいアルフォスの攻撃を防ぐ。
 無駄かもしれないけど、どこまでも、どこまでも粘ってやる。
 そう思いクロキは歯を食いしばり戦うのだった。





 オーロラの浮かぶ空の上でポレンは暗黒騎士のクロキと聖騎士のアルフォスが戦いを見守る。
 戦況はクロキが一方的に嬲られている状態だ。
 クロキはアルフォスの剣を何とかしのいでいるけど何時までもつかわからない。
 ポレンはとても見ていられなくなる。

「何あれ~。みっともない~。ぷぷぷ」
「よくあれでアルフォス様と戦う気になったわね~。身の程をしれっての」
「ほんと馬鹿な奴。アルフォス様に敵うわけないでしょう」
「なんて、情けない姿なんだろう。まるで庭園にいる害虫よね~。アルフォス様と大違いだよね~」
「確かに言えてる~。ほんと害虫だわ~。きゃはははは」
「アルフォス様ぁ~! そんな害虫!! 早く駆除しちゃってくださ~い!!」
「やっちゃえ~! アルフォス様ぁ~!!!」

 美女達が楽しそうに笑う。

「あわわわわ。ポレン殿下。閣下が……閣下が負けそうなのさ」

 ポレンの横に座るプチナが不安そうに言う。
 だけど、不安なのはポレンも一緒だ。
 ポレンは涙が出そうになる。
 何も出来ず、応援することしかできないのがもどかしかった。

「クロキ先生いいいいいい! お願いいいいいいい! 負けないでえええええ!!」

 ポレンは必死になって大声を出す。
 届いているのかわからない。だけど、それでも声を出すしかない。
 ポレンに出来るのはこれだけであった。
 横にいるクーナは静かに戦いを見守っている。
 ポレンはなんとなくだけど、その表情が険しくなっているような気がした。
 怪我をして安静にしているグロリアスさえも首をもたげて戦いの行方を見ている。

「ねえ、あなた達。今どんな気持ち? 暗黒騎士が負けそうになっているけど、どんな気持ち?」

 美女達の一団が笑いながらポレン達の方に来る。
 全員小馬鹿にしたような態度だ。
 ポレンは思わず彼女達を睨んでしまう。

「な~に。ブタ。その目は?」
「きゃあ~。こわ~い。ブタが睨んでる~。でも残念でした~。アルフォス様が私達を助けてくれるもの。何も怖くないよ~だ」
「そうそう。アルフォス様があの暗黒騎士を倒したなら、次は貴方達の番よね~。そこの竜だって怖くないわ」
「ブタはブタらしく唸っていなさいよ。そこの銀髪の子はともかく、貴方達みたいな醜いブタが私達に勝負を挑もうってのが、間違っているの」
「そうそう。ほら見なさいよ。ブタを庇った暗黒騎士のBU☆ZA☆MAな姿をね」
「ブタの騎士なんて、所詮あの程度よね~。兜で顔は見えないけど、見たらドブネズミみたいな顔に決まっているわ」
「そうよ、絶対にブサイクだわ。だって醜いブタの所にいるのだもの」

 美女達が「きゃははは」と笑う。

(悔しい! 私だけじゃなく庇ってくれた先生まで悪く言うなんて、先生はブサイクじゃない!)

 ポレンはクロキの顔を思い浮かべる。
 確かにアルフォスに比べると華やかではない。
 たぶんエリオスの男神達と同じ所にいたら目立たないだろう。
 だけど、目立たないだけで、容姿は全く負けていない。
 地味だけど、とても整った顔立ちをしているとポレンは思っている。
 そして、そして、何よりも、こんなポレンにすごく優しくしてくれるのだ。
 だから、今クロキはポレンの中で一番の男性になっていた。
 もはや、どんな男神にも負けない存在であった。

「ううう……。先生は負けない……負けないもん」

 ポレンは必死に言いかえす。

「はあ? 何言ってんのよ、ブタ。あんたの暗黒騎士がアルフォス様に敵うわけないじゃん」
「そうそう。必死になって剣を振っているみたいだけど、アルフォス様には全く届いていないじゃない」
「そうよ、頑張っても無駄無駄。醜い暗黒騎士が美しい聖騎士のアルフォスに敵うわけないっての」
「ほ~んと。醜い奴の努力なんて見苦しいだけだよね~」
「無駄な努力なんかしないで、さっさとやられちゃえっての」

 美女達はポレンを嘲ると好き放題言う。

(悔しい! でも何も出来ない! クーナ師匠は悔しくないのだろうか?)

 ポレンはクーナを見る。

「?」

 そのクーナの顔を見た時だった。
 ポレンは思わず驚きの声を出してしまいそうになる。
 なぜならクーナが笑っているのが見えたからだ。
 ポレンは首を傾げる。

「全くうるさい奴らだな。静かに見る事が出来ないのか?」

 その言うクーナの顔は余裕の笑みを浮かべている。
 それは美女達を嘲っているようにポレンには見えた。
 クーナの様子に気付いた美女達が怪訝な表情を浮かべる。

「何が可笑しいのですか? 魔女よ? 貴方の暗黒騎士が負けそうだと言うのに」

 クーナの様子に気付いたミューサがこちらに来て問い詰める。

「クロキが負ける? 何を馬鹿な事を言っている。クロキはお前らの男を捕らえた。良く見ろ。クロキの剣が届くぞ」

 そして、クーナはクロキ達を指差す。

「何を馬鹿な事を……」

 ミューサが振り向いた時だった。


「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」


 美女達の驚く声が重なる。
 美女達の視線の先には剣を振り上げたクロキの姿。
 そして、その前には仰け反った状態のアルフォスが立っている。
 剥き出しになったアルフォスの顔が驚愕の表情を浮かべている。
 クロキの剣に弾き飛ばされたアルフォスの純白の兜が放物線を描き、水晶の床へと落ちる。
 美女達がざわめく。
 先程まで、かすりもしなかったクロキの剣が初めてアルフォスに届いたのだ。

「アルフォスと言ったか、なかなかやるではないか。ここまでクロキを手間取らせたのだからな。褒めてやるぞ。だが、それも終わり。ここからはクロキの時間だぞ」

 クーナは楽しげに笑うのだった。

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

アルフォスの技名は適当。
もっと中二病臭いのにしたかったのですが、良いのが思いつきませんでした。
少年まんがの王道的展開。次回はクロキのターンです。

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