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第3章 白銀の魔女
第35話 百腕の巨人
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(何とか間に合った)
クロキは抱きかかえたリジェナを見る。
クロキは色々とリジェナが危険な目に会わないように手を打ったつもりだったけど、事態は想定を超えていた。
(全く、自分のやる事はいつもダメダメだ。何とか無事だったから良かったものの、もう少しでリジェナは食べられる所だった)
クロキはリジェナに心の中で謝る。
そのリジェナはクロキにしがみついている。
よっぽど怖かったのだろう、そのしがみ付き方が尋常ではなかった。
グロリアスの体当たりでぶっ飛ばした巨人は、アルゴアから数十メートル離れた先にいる。
ぶっ飛ばされた巨人は立ち上がり、再びアルゴアへと向かってくる。
「グオオオオオオ!!」
咆哮と共にグロリアスが灼熱のブレスを放つ。
ブレスはそのまま巨人に向かっていき、その腕のいくつかを吹き飛ばす。
それを見てクロキは楽勝かなと思う。
しかし、吹き飛ばされた腕が再生され始めたのを見て考えを改める。
巨人は再生に力を使っているためか動きが止まっているが、すぐに動き出す様子を見せる。
(さてどうするか? 取りあえずリジェナをオミロスの所に返そう)
クロキはリジェナを抱えたままグロリアスの上から飛び、オミロスがいる所へと降り立つ。
「もう大丈夫だよ、リジェナ」
クロキはそう言ってリジェナを離す。リジェナは少しなごり惜しそうに離れる。
「貴方は……」
オミロスがクロキを見る。
「盾は役に立ちました、王子?」
クロキはそう言って兜を外す。
(ふふ、驚いただろう。まさかあのただの吟遊詩人が暗黒騎士だったのだから)
その場にいる者達を見るとクロキの狙い通り驚いているみたいであった。
「全ては貴方の思い通りというわけですね……。ははっ、敵わないな」
オミロスは首を振って答える。
その言葉はどこか乾いていた。
「吟遊詩人のおじさん! すごい!!本当に竜に乗れるんだ!!」
オミロスの側にいた小さな女の子が嬉しそうに言う。
(確か名前はリエットだったかな? あと、それからおじさんと言わないで欲しい……)
再びおじさんと言われクロキは傷つく。
「なんだ何があったんだ、オミロス?」
誰かが梯子を登ってくる。
登って来た者の顔にはクロキは見覚えがあった。
オミロスの従弟のマキュシスである。
「あっ、おめえは吟遊詩人? それにその鎧は?!!」
「マキュシス……彼が暗黒騎士なんだ」
「へっ……!? なっ、なに――――――!!」
マキュシスは口を大きく開けて驚く。
「何ですの、騒がしいですわね」
今度はレイジの妹、キョウカが登ってくる。
「あら、クロキさん。ここにいらしていたのね。シロネさんとお話はしたのかしら?」
キョウカは穏やかに言う。
特に敵意はないみたいなのでクロキは安心する。
レイジを傷つけた事で恨まれているかなと思っていたからだ。
「ぐおおおおおおおおおおおおおお」
巨人の咆哮。どうやら再び動き出したみたいだ。
「ところで、あれは何なのです? 誰か説明をなさい」
キョウカが巨人を指して言う。
「キョウカ様。あれはパルシスが……。いえゴズが呼び出したのです。アルゴアを滅ぼすために……」
オミロスの答えに事情を知らない全員が驚く。
オミロスはこれまでの説明をする。
「そんな事がありましたの……。そんな男だとわかっていたら、カヤに命じて絞めておいたのですが……」
キョウカは悔しそうにする。
正直に言ってクロキも驚く。
ゴズがあんなものを呼び出してくるとは想定の範囲外であった。
「そんな事よりもあれどうするんだよ! こっちに来てるぜ!!」
マキュシスが徐々に近づいてくる百腕の巨人を見て言う。
気が付けばアルゴアの人々が城壁に集まり、近づいてくる百腕の巨人を見て騒ぎになっている。
「あれぐらいだったら、貴方が倒せるでしょう?」
キョウカがクロキを指して言う。
「確かに、自分なら勝てると思うよ」
クロキはその問いに頷くとリジェナを見る。
「でもどうする、リジェナ? この国を助けたい? このままだとこの国が危険みたいだよ。君が望むなら自分はこの国を見殺しにするよ」
クロキはリジェナに問う。
その場にいる全員がリジェナを見る。
リジェナはその問いに首を横に振ると答える。
「いいえ、旦那様。今ここに住むアルゴアの人達と私の因縁があります。ですが、アルゴアにはたくさんの思い出があります。またオミロスのいるこの国を滅ぼしたくありません。ですから旦那様、お願いです。どうかこの国を助けてください」
リジェナはそう言うとクロキに頭を下げる。
「そう、リジェナがそう願うのならば自分はこの国を救う。グロリアス!!」
そう言ってクロキは飛ぶ。
そして、空を飛んでいたグロリアスに受け止めてもらう。
クロキとグロリアスは百腕の巨人へと向かう。
(この巨人は一体何なのだろう?)
クロキは巨人を見る。
巨人は敵意の塊であった。その敵意は特定の何かに向けられてはおらず、この世の全ての物に向けられているようにクロキは感じる。
なぜ、この巨人のような者が存在するのかはクロキにはわからないが、リジェナの願いに応えアルゴアを救うつもりであった。
「黒炎よ!!」
クロキは剣に黒い炎の力を込めると、背中に担ぎさらに魔力を込める。
「はっ!!」
クロキは勢いよく体を回転させて剣を振り下ろす。
黒い炎を纏った剣身は伸びていき、百腕の巨人を焼きつくした後、地面にぶつかり轟音を響かせる。
黒い炎が消えた跡にはもはや百腕の巨人の姿はない。
(即席の技だったがうまくいったみたいだ。以後この技は暗黒斬神剣と名付けよう。なかなか格好良いネーミングだ)
クロキは技に名前を付けて笑う。
(さて、馬鹿な事を考えてないでアルゴアに戻ろう。まだやらなければならない事がある)
クロキはグロリアスと共にアルゴアへと戻る。
まずはリジェナに確認を取らなければいけない。
そして、いなくなったゴズの事を考える。
(あの場にゴズはいなかった。またゴズが何かをするかもしれない。後でゴズを探す必要があるだろう。ゴズは今どこにいるのだろう?)
◆
アルゴアの近くの森の中で、ゴズは百腕の巨人が消えていくのを見る。
「馬鹿な……。百腕の巨人を一撃で倒すなんて、駄目だ……。いくらなんでもあんな奴を相手に勝てるわけがない」
ゴズは歯ぎしりする。
百腕の巨人は末端とはいえ神々に匹敵する強さである。
それを倒す事ができる者に挑むのは無謀であった。
リジェナはその暗黒騎士に保護されたので、ゴズはリジェナを諦めるしかなかった。
「ふん! メスならいくらでもいらあ!!」
ゴズは悪態をつくと、次に今度はどの国に行こうかと考える。
世界は広く、アルゴア以外にも人間の国はあるのだ。
「どこに行くんだい、ゴズ?」
ゴズが歩き始めた時だった。突然、呼び止められる。
その声はゴズがこの世でもっとも聞きたくない声だ。
振り向くと、一匹の巨大なゴブリンがいた。
「は……母上。なぜここに?」
その醜い顔をゴズは見間違えるはずがない。
間違いなくゴズの母親であるダティエであった。
そして、ゴズが周りを見るとゴブリンに取り囲まれている。
完全武装のゴブリンは南側の頭の悪い連中ではない。カロン王国の正規兵である。
「なぜここにだって? それはお前が一番わかっている事だろう、ゴズよ。よくも魔王陛下から預かった大切な物を勝手に持ち出してくれたねえ…… 」
ダティエの顔は怒りに染まっている。
(まずい逃げなければ)
ゴズは逃げようとするが、完全に囲まれている。
「ゴズお前には死よりもきつい責め苦をあたえてやるよ……。ひっ捕らえな!!」
ダティエがそう言うと四方から縄が飛んできてゴズを締め上げる。
この縄は魔法の縄のようであり、ゴズはまったく身動きができなかった。
このまま暗いゴブリンの国に戻されたくないゴズは必死で縄から抜け出そうとする。
「いやだ! 助けてくれ―――!! あんな暗い所になんか戻りたくない!!」
ゴズは助けを呼ぶが誰も答えてくれない。
縄は無慈悲にもゴズを締め上げ引っ張っていく。
「いやだ――――――! リジェナ――――――! 助けてくれ―――――!!!」
暗い森の中、欲望にまみれた男の悲鳴が響くのだった。
クロキは抱きかかえたリジェナを見る。
クロキは色々とリジェナが危険な目に会わないように手を打ったつもりだったけど、事態は想定を超えていた。
(全く、自分のやる事はいつもダメダメだ。何とか無事だったから良かったものの、もう少しでリジェナは食べられる所だった)
クロキはリジェナに心の中で謝る。
そのリジェナはクロキにしがみついている。
よっぽど怖かったのだろう、そのしがみ付き方が尋常ではなかった。
グロリアスの体当たりでぶっ飛ばした巨人は、アルゴアから数十メートル離れた先にいる。
ぶっ飛ばされた巨人は立ち上がり、再びアルゴアへと向かってくる。
「グオオオオオオ!!」
咆哮と共にグロリアスが灼熱のブレスを放つ。
ブレスはそのまま巨人に向かっていき、その腕のいくつかを吹き飛ばす。
それを見てクロキは楽勝かなと思う。
しかし、吹き飛ばされた腕が再生され始めたのを見て考えを改める。
巨人は再生に力を使っているためか動きが止まっているが、すぐに動き出す様子を見せる。
(さてどうするか? 取りあえずリジェナをオミロスの所に返そう)
クロキはリジェナを抱えたままグロリアスの上から飛び、オミロスがいる所へと降り立つ。
「もう大丈夫だよ、リジェナ」
クロキはそう言ってリジェナを離す。リジェナは少しなごり惜しそうに離れる。
「貴方は……」
オミロスがクロキを見る。
「盾は役に立ちました、王子?」
クロキはそう言って兜を外す。
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その場にいる者達を見るとクロキの狙い通り驚いているみたいであった。
「全ては貴方の思い通りというわけですね……。ははっ、敵わないな」
オミロスは首を振って答える。
その言葉はどこか乾いていた。
「吟遊詩人のおじさん! すごい!!本当に竜に乗れるんだ!!」
オミロスの側にいた小さな女の子が嬉しそうに言う。
(確か名前はリエットだったかな? あと、それからおじさんと言わないで欲しい……)
再びおじさんと言われクロキは傷つく。
「なんだ何があったんだ、オミロス?」
誰かが梯子を登ってくる。
登って来た者の顔にはクロキは見覚えがあった。
オミロスの従弟のマキュシスである。
「あっ、おめえは吟遊詩人? それにその鎧は?!!」
「マキュシス……彼が暗黒騎士なんだ」
「へっ……!? なっ、なに――――――!!」
マキュシスは口を大きく開けて驚く。
「何ですの、騒がしいですわね」
今度はレイジの妹、キョウカが登ってくる。
「あら、クロキさん。ここにいらしていたのね。シロネさんとお話はしたのかしら?」
キョウカは穏やかに言う。
特に敵意はないみたいなのでクロキは安心する。
レイジを傷つけた事で恨まれているかなと思っていたからだ。
「ぐおおおおおおおおおおおおおお」
巨人の咆哮。どうやら再び動き出したみたいだ。
「ところで、あれは何なのです? 誰か説明をなさい」
キョウカが巨人を指して言う。
「キョウカ様。あれはパルシスが……。いえゴズが呼び出したのです。アルゴアを滅ぼすために……」
オミロスの答えに事情を知らない全員が驚く。
オミロスはこれまでの説明をする。
「そんな事がありましたの……。そんな男だとわかっていたら、カヤに命じて絞めておいたのですが……」
キョウカは悔しそうにする。
正直に言ってクロキも驚く。
ゴズがあんなものを呼び出してくるとは想定の範囲外であった。
「そんな事よりもあれどうするんだよ! こっちに来てるぜ!!」
マキュシスが徐々に近づいてくる百腕の巨人を見て言う。
気が付けばアルゴアの人々が城壁に集まり、近づいてくる百腕の巨人を見て騒ぎになっている。
「あれぐらいだったら、貴方が倒せるでしょう?」
キョウカがクロキを指して言う。
「確かに、自分なら勝てると思うよ」
クロキはその問いに頷くとリジェナを見る。
「でもどうする、リジェナ? この国を助けたい? このままだとこの国が危険みたいだよ。君が望むなら自分はこの国を見殺しにするよ」
クロキはリジェナに問う。
その場にいる全員がリジェナを見る。
リジェナはその問いに首を横に振ると答える。
「いいえ、旦那様。今ここに住むアルゴアの人達と私の因縁があります。ですが、アルゴアにはたくさんの思い出があります。またオミロスのいるこの国を滅ぼしたくありません。ですから旦那様、お願いです。どうかこの国を助けてください」
リジェナはそう言うとクロキに頭を下げる。
「そう、リジェナがそう願うのならば自分はこの国を救う。グロリアス!!」
そう言ってクロキは飛ぶ。
そして、空を飛んでいたグロリアスに受け止めてもらう。
クロキとグロリアスは百腕の巨人へと向かう。
(この巨人は一体何なのだろう?)
クロキは巨人を見る。
巨人は敵意の塊であった。その敵意は特定の何かに向けられてはおらず、この世の全ての物に向けられているようにクロキは感じる。
なぜ、この巨人のような者が存在するのかはクロキにはわからないが、リジェナの願いに応えアルゴアを救うつもりであった。
「黒炎よ!!」
クロキは剣に黒い炎の力を込めると、背中に担ぎさらに魔力を込める。
「はっ!!」
クロキは勢いよく体を回転させて剣を振り下ろす。
黒い炎を纏った剣身は伸びていき、百腕の巨人を焼きつくした後、地面にぶつかり轟音を響かせる。
黒い炎が消えた跡にはもはや百腕の巨人の姿はない。
(即席の技だったがうまくいったみたいだ。以後この技は暗黒斬神剣と名付けよう。なかなか格好良いネーミングだ)
クロキは技に名前を付けて笑う。
(さて、馬鹿な事を考えてないでアルゴアに戻ろう。まだやらなければならない事がある)
クロキはグロリアスと共にアルゴアへと戻る。
まずはリジェナに確認を取らなければいけない。
そして、いなくなったゴズの事を考える。
(あの場にゴズはいなかった。またゴズが何かをするかもしれない。後でゴズを探す必要があるだろう。ゴズは今どこにいるのだろう?)
◆
アルゴアの近くの森の中で、ゴズは百腕の巨人が消えていくのを見る。
「馬鹿な……。百腕の巨人を一撃で倒すなんて、駄目だ……。いくらなんでもあんな奴を相手に勝てるわけがない」
ゴズは歯ぎしりする。
百腕の巨人は末端とはいえ神々に匹敵する強さである。
それを倒す事ができる者に挑むのは無謀であった。
リジェナはその暗黒騎士に保護されたので、ゴズはリジェナを諦めるしかなかった。
「ふん! メスならいくらでもいらあ!!」
ゴズは悪態をつくと、次に今度はどの国に行こうかと考える。
世界は広く、アルゴア以外にも人間の国はあるのだ。
「どこに行くんだい、ゴズ?」
ゴズが歩き始めた時だった。突然、呼び止められる。
その声はゴズがこの世でもっとも聞きたくない声だ。
振り向くと、一匹の巨大なゴブリンがいた。
「は……母上。なぜここに?」
その醜い顔をゴズは見間違えるはずがない。
間違いなくゴズの母親であるダティエであった。
そして、ゴズが周りを見るとゴブリンに取り囲まれている。
完全武装のゴブリンは南側の頭の悪い連中ではない。カロン王国の正規兵である。
「なぜここにだって? それはお前が一番わかっている事だろう、ゴズよ。よくも魔王陛下から預かった大切な物を勝手に持ち出してくれたねえ…… 」
ダティエの顔は怒りに染まっている。
(まずい逃げなければ)
ゴズは逃げようとするが、完全に囲まれている。
「ゴズお前には死よりもきつい責め苦をあたえてやるよ……。ひっ捕らえな!!」
ダティエがそう言うと四方から縄が飛んできてゴズを締め上げる。
この縄は魔法の縄のようであり、ゴズはまったく身動きができなかった。
このまま暗いゴブリンの国に戻されたくないゴズは必死で縄から抜け出そうとする。
「いやだ! 助けてくれ―――!! あんな暗い所になんか戻りたくない!!」
ゴズは助けを呼ぶが誰も答えてくれない。
縄は無慈悲にもゴズを締め上げ引っ張っていく。
「いやだ――――――! リジェナ――――――! 助けてくれ―――――!!!」
暗い森の中、欲望にまみれた男の悲鳴が響くのだった。
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