暗黒騎士物語

根崎タケル

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第3章 白銀の魔女

第30話 おかしな城のおかしな戦い1

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「ちょ!? どうなってんの!! オーガが来たと思ったらクーナが来たでゴザル!!」

 クロキは自分自身何を言っているのかわからなくなり、恐ろしいものの片鱗を味わってしまう。
 ダイガンがオーガが来たと言うから外に出て見てみれば、御菓子の城からクーナ映像が出て来てシロネに勝負を挑み、その後シロネが御菓子の城に飛んでいくのが見えたのである。
 クロキは一体何がどうなっているのかわからなくなる。

「まずい、止めないと……。2人が戦いを始めてしまうかもしれない。」

 クロキは飛び上がり暗黒騎士の姿になると、シロネの後を追いかける。

「何っ!?」

 しかし、アルゴアの城壁を越えてシロネの後を追いかけているときだった。
 突然攻撃をされてクロキは体をひねる。
 避けた所を大きな何かが通りすぎる。
 クロキは慌てて地面に降りる。
 続けて誰かが上空から降りてくる。
 クロキと同じ歳くらいの女性である。その顔に見覚えがある。

(確かカヤとかいう名前だったかな)

 攻撃して来た女性カヤはクロキに冷たい瞳を向ける。

「まさか、すでに潜入していたとは思いませんでした。あの白銀の子が私達を引き寄せている間に、リジェナさんを連れ去るつもりだったのでしょう。ですが、そうはさせません」

 カヤはクロキに拳を突き付けて言う。

(うう、こんな事をしている場合じゃないのに)

 クロキは焦る。
 一刻も早くシロネとクーナを止めなければならないからだ。

「少しあなたの行動に疑問を覚えます。あなたは自由意思があるようですが、なぜ魔王に味方をするのですか?」

 カヤは強い口調でクロキを問い詰める。

「ええと、何というか……」
「魔王は人々を苦しめているのですよ! あなたは何とも思わないのですか!!」

 カヤは怒ったように言う。

「そ、それは違うよ。別に魔王は人間を苦しめるつもりなんかないよ。そもそも、ずっとナルゴルに籠っていたのにどうやって苦しめる事ができる?」

 モデスが悪く言われたのでクロキは反論する。

「そうですね、確かに魔王はナルゴルから動いていません。ですが、魔物達が人間を襲っています。それは魔王が人々を苦しめているのと同じではないのですか?」
「別に魔王が命じたわけじゃない……」
「配下が勝手にやった事ですか……。それは無責任なのではないのですか? 統制ができたのにしない。それでは苦しめているのと何も変わりは無いではありませんか」

 その問いにクロキは何も答えられない。
 別にこの世界の全ての魔物はモデスの配下ではない。
 だからその事は反論できる。
 だけど、統制しないのが悪いと言われると何も答えられない。
 モデスならば世界の大半の魔物を支配することができる。それをしないのはそうする利益がないからだ。
 では、モデスに魔物を支配して統制する義務があるのだろうかとクロキは考える。
 エリオスの神々だってそうだ。神々は人間の上に君臨しているが支配まではしていない。
 神々は人々を強制的に支配する力があるみたいだが、そんな事はしない。
 多分面倒くさいからだろう。
 そして、例えばある人が罪を犯した時に、その人を統制しなかった神が悪いと言えるのだろうか?
 それではロボットのように人々を支配する事が正しい事になってしまう。
 モデスは魔物を支配して、人間に危害が及ばないようにしなければならないのだろうか?
 モデスは人間のために存在しているわけではない。
 また、人間を苦しめたいと思っているようにも感じられない。
 モデスの願いは単純であった。
 好きな女と生きられる場所を守りたいだけだ。
 クロキはナルゴルの王としてそれはどうかと思うが、それはナルゴルに生きる者が非難する事であってナルゴルの外の者には関係ないだろう。
 でも、カヤの考えもクロキにはわかる。

(もし、自分がモデスではなくレーナに召喚されていたら、彼女と同じように考えていたかもしれない)

 クロキはそんな事を考える。
 だけどクロキは人間の側ではなく、魔物の側に召喚されてしまった。
 人々の敵になりたいとまでは思わないが、この世界の人間の側の視点に立って見る事が難しくなっている。

「悪いけど統制しなかった事が悪いとは思えない……。だから、あなたの主張を聞き入れられない」
「そうですか……。では、最初の質問をもう一度聞きましょう。なぜ、あなたは魔王に味方するのですか? あなたに何のメリットがあるのですか?それともあの白銀の髪の子のせいですか?」

 クロキはカヤの言葉に頷きそうになる。
 クロキがモデスに従っているのはクーナを貰ったからだ。
 可愛い女の子を貰ったらから、味方をしている。

(白銀の髪の子といえばクーナの事だろう。確かにクーナの存在があるから魔王に味方をしている)

 クロキの願いもモデスと同じように単純なのだ。
 聖竜王の山で見た光景をクロキは思い出す。
 レイジ達はとても楽しそうだった。

(うらやましかった。本当にうらやましかったよ……)

 クロキは兜の下で涙が出そうになる。
 クロキにはこの世界で仲間と言える存在がいなかった。
 モデスやナットはちょっと違う。
 クロキが欲しいのはレイジ達みたいに一緒に冒険をして笑いあい、互いを一番大切に思い合い、支え合える仲間だ。それが可愛い女の子ならもっと良い。
 そして、その望みがかなったのだ。白銀の髪の可愛い女の子。

(この世界に来なければクーナに出会えなかっただろう。きっと元の世界にいたなら、ずっと自分は1人だったに違いない。クーナと一緒にこの世界を冒険できたらきっと楽しい)

 一緒に楽しく冒険している様子を思い浮かべ、クロキは兜の下でにやけてしまう。
 やっぱり可愛い女の子と旅をするのは良いものであった。

「確かにそうだね……」

 クロキは彼女の問いに頷く。

「そうですか。やはりあの子が原因ですか。ならばあのクーナという白銀の髪の女の子を倒さねばならないようですね」

 そのカヤの言葉にクロキの中の黒い何かが吹き出すのを感じる。

「悪いけど……、そうはさせないよ」

 クロキはそう言って一歩踏み出す。
 彼女は拳を構えたまま後ずさる。
 なぜ、クーナを倒そうと言う結論に達したのかはクロキにはわからない。
 だけどクーナを傷つけさせる訳にはいかなかった。
 だから、クロキは進む。
 クーナがいるかぎり、クロキは魔王に味方する。

(もう暗黒騎士で良い。自分の欲望の為に魔王に味方して、人々に背を向ける。本当に悪役だ。もうそれで良い……)
 
 クロキは覚悟を決める。
 カヤと話をしている暇はなかった。
 御菓子の城に向かわなくてはいけない。御菓子の城は目の前の彼女の向こう側にある。

「これ以上、問答は無用! 押し通らせてもらう!!」

 クロキは彼女に向けて歩き始める。





 透き通った砂糖菓子の窓ガラスを割って、シロネは御菓子の城の中心にある一番大きな尖塔から中に入る。
 中に入るとそこは寝所であった。
 そこには巨大な天蓋付きのベッドがある。
 触ってみると布団は綿菓子のようであり、下は柔らかいお餅のような感触がする

(前にレイジ君の家で御馳走になった、ロクムという御菓子と同じ物じゃないかな?)

 シロネはそんな事を考える。
 ロクムは砂糖とデンプンを使った御菓子で、この世界にもあるようであった。
 シロネはこんな時でなければ思いっきりベッドにダイブしたくなるが、今はそんな事をしている暇はないので我慢する。

(おそらくここは城主の部屋ね。もし、あの子がいるとしたらこの下の階層にあるであろう、玉座の間に違いない)

 シロネはクッキーのような焼き菓子が敷き詰められた床を歩く。
 下に降りる階段の所で蟻人ミュルミドンの兵隊と遭遇する。
 ミュルミドンを改めてよく見る。蟻と人間を掛け合わせたような姿だ。
 御菓子の城に蟻の兵隊とは良く似合っているようにシロネは思う。
 ミュルミドン達は手に持っている槍を構えて襲いかかってくる。

「邪魔よ!」

 シロネは剣に炎を宿らせると、ミュルミドン達を斬り裂いて、先へと進む。
 城内には透き通った飴細工でできた照明があって明るい。
 白砂糖でできた大理石の通路を進む。
 しばらくすると焼き菓子にクリームでデコレーションされた巨大な扉の前に出る。
 おそらく、この扉の向こうが玉座の間である。
 シロネは目を閉じ、意識を集中すると、中に巨大な人影を複数感じる。
 間違いなくオーガ達であった。
 シロネを待ち伏せしているのだ。
 しかし、シロネは気にすることなく扉をあけて中に入る。

「ぐおおりゃあああああああ!!」
「であああああ!!」

 扉の影に隠れていた2匹のオーガがシロネに襲い掛かる。
 もちろん、そんな事は予測済みだ。
 シロネは少しステップを踏んで、攻撃を躱し剣を振るう。
 体を袈裟懸けに斬り裂かれた2匹のオーガは、そのまま倒れ動かなくなる。

「レツグ! ザイグ!!」
「おのれ! 良くも兄弟を!!!」

 残ったオーガ達はシロネを睨む。
 だけど、シロネにとってオーガ達はどうでも良い存在だ。無視してシロネは正面を見る。
 広い部屋の奥に巨大な玉座がある。
 様々なお菓子でデコレーションされた綺麗な玉座。その玉座に座る小さな少女。
 少女の体は玉座に比べて小さいが、その態度はすごく大きい。
 
 白銀の魔女クーナ。
 
 彼女の名前をシロネは思い出す。そして、彼女こそクロキを操っている張本人のはずであった。

(一度ヴェロスで会ったけど、あらためて見るとすごい美少女だわ……)

 シロネは改めてクーナを見る。
 深い青を基調にしたドレスに、銀の飾りが付いている。赤紫の髪留めが彼女の白銀の髪をさらに美しく魅せている。
 クーナは何も喋らず、見下すようにシロネを見ている。

「お前達、何をしてるんだい! クーナ様が見ているんだ! 早くあの人間を倒すんだよ!!」

 オーガの女性の言葉に、他のオーガ達がシロネに向かう。
 オーガ達の手には槍や剣に斧が握られている。
 どれも魔法の武器である。
 シロネは槍を構えて突っ込んできたオーガを身を捻って躱し、剣を振るう。
 そして、槍を持ったオーガを倒すと今度は3方向から別のオーガが襲って来る。
 シロネは剣を持ったオーガの攻撃を軽いステップで躱して斧を持ったオーガの攻撃を剣で弾き、別のオーガにぶつける。
 そして、体を回転させながら移動してオーガを斬り刻む。
 残るはクーナとオーガの女性だけになる。

「よくもやってくれたね! これならどうだい!!」

 オーガの女性が両手を上げる。その袖から黒い靄みたいな物が出て来る。

「くらいな、爆砕蟲!!」

 オーガの腕から放たれた小さな蟲達がシロネに向かって来る。

「そんな物! 効かないわよ!!」

 シロネは翼を広げると羽を矢のように放ち蟲達を撃ち落とす。
 撃ち落とされた蟲達は小さく爆発して消えていく。

「なら、これならどうだい!!」

 オーガの手に電気が走る。

「雷の蛇よ! 汝の敵を絞め殺せ!!」

 手の電気が蛇の形を取りシロネに向かって来る。

「えい!!」

 シロネは掛け声と共に雷の蛇を剣で受け止める。

「このまま返してあげる! ライトニングブレード!!」
「なにっ!!」

 オーガが驚きの声を出す。
 雷の蛇はシロネの剣に吸収されて蒼白い光を放つ。

「はっ!!」

 気合と共にシロネは剣を振り下す。
 雷の斬撃は真っ直ぐに進みオーガにぶつかる。

「馬鹿な! このクジグがーーー!!」

 オーガの女性の断末魔の悲鳴。
 オーガを焼き尽くした雷の斬撃はそのまま進み、白銀の魔女へと向かって行く。
 しかし、クーナに当たるその一歩前で斬撃は弾かれて消える。
 当然、クーナは無傷だ。

「これであなただけよ!!」

 シロネは剣をクーナに向ける。

「弱い……」

 クーナはそう言って玉座から立ち上がる。

「当たり前でしょ! こんなオーガ達が何匹いたって私は倒せないわよ!!」

 シロネはオーガの残骸を指して言う。
 しかし、クーナは首を振る。

「クロキよりもはるかに弱い……」

 クーナはそう言って冷たい瞳でシロネを見る。

「同じ所で剣を学んだと聞いていたけど……。クロキの剣はもっと鋭い。強いのなら、撤退するつもりだった……。だけどそうではない。オーガ達はお前の力を計るのに役に立ってくれた」

 そう言うとクーナは大鎌を構える。

「来るが良いぞ、シロネ。お前はクーナが消してやる」
「馬鹿にして!!」

 シロネはその言葉にカチンと来ると、床を蹴り一気に距離を詰める。

「はっ!!」

 直前まで来るとステップを踏み上段から剣を振り下す。
 クーナは大鎌で受け止めながら体を少し動かし、斬撃を受け流す。

「えっ?」

 受け流されたシロネは驚いた声を出し、態勢をを崩す。

(やばい!?)

 シロネはそう思い体を捻る。
 次の瞬間、大鎌がシロネを襲う。
 避けきれないと思ったシロネは、翼を出して大鎌の軌道を変える。
 わずかに斬り裂かれた翼から羽が舞い落ちる。

「何の!!」

 シロネは態勢を直すと剣を突き出す。

「ふっ……」

 クーナは少し笑うと大鎌を回転させて剣の軌道を変える。

「ぐっ!!」

 その直後、大鎌の柄の部分がシロネの腹部を直撃する。鎌の刃の部分ばかり見てたから油断した。

「刃先ばかり見てはいけない……。クロキの教えだ」

 クーナは馬鹿にするようにシロネを見て言う。
 シロネは後ろに飛びのき、距離を取る。

(この子強い!)

 シロネはクーナを睨む。

「クロキとの鍛錬が役に立った……」

 白銀の魔女は嬉しそうに笑う。

(私がいない所でクロキは何をやっているのよ! すごく腹が立つ!)

 シロネは苛立つ。
 クーナの態度もクロキのやっている事もシロネはすごく気に入らなかった。

「何よ!!」

 シロネは翼を広げると羽を矢のように放つ。
 しかし、羽矢はクーナの作りだした魔法の盾で弾かれる。
 だけど、それはフェイントであった。
 シロネは飛び上がると天井を蹴り、白銀の魔女の後ろに回ると、さらに魔力を高め加速する。

「くらいなさい、千翼飛燕刃!!!」

 シロネは一瞬の間に千を越える斬撃を繰り出す。
 しかし、クーナに剣はまったく届かない。全て魔法の盾に阻まれる。

「嘘……。魔法盾マジックシールドを同時に複数展開させるなんて……。チユキさんでもここまでの防御魔法は使えないのに」

 シロネは驚く声を出す。
 普通、魔法盾はどんなに強力であっても1つぐらいしか出す事ができない。
 だけどクーナは複数の魔法盾を同時に展開させている。
 シロネはこれほどの魔法盾の使い手はレーナぐらいしか知らなかった。
 レーナはあまり戦う事をしないけどかなり強い。
 特に防御に関する魔法と技に優れていて、一度シロネはお願いして手合せさせてもらったが、全く攻撃が届かなかった事を思い出す。

「九重魔法盾だ。クーナは最大で九つの魔法盾を同時に出す事が出来る。クロキが言うにはクーナは回復と防御魔法に特化しているそうだ。それにしても、今の攻撃は少し焦ったぞ……。クロキならば全て避ける事ができるだろうが、クーナでは今のは避けられないな」

 クーナの言うとおり、確かに過去にクロキはこの技を避けた。
 この技だけではない。聖レナリア共和国で戦った時にクロキは、シロネのもてる全ての技を簡単に避けてしまった。

(本当に何時の間にあんなに強くなったの?)

 シロネはしばらく見ない間に強くなった幼馴染を思う。

「だが、それでもクーナの方がお前よりも強い。いや、強さだけではない。お前より胸が大きく、腰も細い。美しさにおいてもクーナが勝っている!!」

 クーナはシロネを見て続けて言う。

「ななな、何よ、それ! そっちが大きすぎるんでしょ!!」

 シロネは胸を押さえて言う。
 確かにクーナの方がシロネよりも背が低いのに胸が大きく、腰も細かった。
 悔しいけどシロネはスタイルでは負けている事を認めざるを得ない。
 実の所を言えばシロネの胸は平均よりも大きく、クーナが大きすぎるのである。

「シロネ! お前はもう必要がない! だから、このクーナがお前を消してやろう!!」

 クーナはそう言うと魔力を高めると、大鎌を構えてシロネに向かう。

「何よ、絶対に負けないんだから!!」

 シロネは剣を構え迎え討つ。
 なぜかわからないが負けたくないと思うのだった。
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