暗黒騎士物語

根崎タケル

文字の大きさ
上 下
71 / 431
第3章 白銀の魔女

第17話 ヴェロスの舞踏会2

しおりを挟む
 美しい曲が会場に流れている。
 ゴブリンが聞けば一目散に逃げてしまうような曲であった。
 もっとも、ゴブリンの母を持つとはいえゴズは人間である。そのため、何も影響はない。
 その曲で色とりどりのドレスを着た人間のメス達が踊っている。
 どれも良いメス達ばかりだが、ゴズの目の前にいるメスには敵わない。
 キョウカという人間のメスは、この中のどの人間のメスよりも美しい。
 そのメスと踊れる事にゴズは優越感を感じる。
 周りの人間のオス共が羨望のまなざしで見ているのがわかる。

(まさか、あの勇者の妹を紹介されるとは思わなかったぜ。ぐふふふ)

 ゴズは心の中で笑いながら、勇者の事を思い出す。
 美しく強い男。
 勇者を見て羨ましく思わぬ男はいないだろう。
 そして、反感を覚えずにはいられない男であった。
 勇者は様々な美女を侍らせている。それだけでも悔しいのに、ゴズが狙っていたリジェナにも手を出そうとしたのだ。
 だからこそ、ゴズは許せなかった。
 だけど勇者は強い。
 許せないからといってどうにかできる相手ではない。
 目の前のメスを見る。その顔は勇者に何となく似ていた。
 このメスをベッドの上で屈服させたらさぞ愉快だろうとゴズは考える。
 その光景はまるで勇者を屈服させているみたいではないか。
 勇者を敵に回すかもしれないがその欲望は押さえられそうにない。
 ゴズの覚えている限り、キョウカはあの時にアルゴアに来てはいなかった。
 だから、キョウカに会うのは初めてである。
 だが、ゴズはシロネは見たことがある。
 勇者と一緒にアルゴアに来ていたメスだ。
 そのシロネと言うメスは何かあったのか、どこかに行ってしまった。
 そして、踊る相手がいなくなった不運なオミロスはどこかに行ってしまった。
 ゴズはシロネの事も気になるが、今は目の前のキョウカの事が重要だ。
 再びキョウカというメスを見る。
 キョウカのドレスは胸元が大きく開いており、豊かな谷間が見えている。
 ゴズその胸を揉みしだきたくなるが今は我慢する。

(このメスは俺の事が好きではないみたいだ。先程から自分を見ようともしない。仕方が無いから踊っている。そんな感じだ……)

 ゴズは心の中で舌打ちをする。
 昨日ダンスの練習で踊ったメスはゴズを熱っぽい目で見ていた。
 そのメスは誘い、一晩中可愛がった事をゴズは思い出す。
 ゴズは今美しいパルシスへと姿を変えている。
 その姿は人間のメス共に魅力的に映るはずなのだ。
 しかし、キョウカの目は冷たかった。

(もしかすると、俺様の本当の顔が見えているのかもしれないな。くそ! だとしたら、懐にある媚薬を使わなければならないだろうぜ)

 ゴズは懐にある薬を触る。
 この薬を使えば本当の顔が見えていようが、ゴズの下で喘ぐようになるはずであった
 ゴズはこの踊りが終わったら別室の食事や飲み物がある部屋に誘う事にする。
 隙を見て媚薬をたっぷり飲ませるつもりだ。
 この薬はゴズも過去に飲んだ事がある。
 2日間メスなしでは生活できず、また薬が抜けきるまで5日間もかかり、その間にゴブリンのメスを数十匹も孕ませてしまったのである。

(きっと、このメスにも効くだろうぜ)

 ゴズが悪だくみを考えていると1曲目のダンスが終わる。
 すると、オス共がこちらに寄って来る。
 目当てはキョウカと踊るためである。
 ゴズはかばうようにキョウカの前に出る。

「もうしわけないですが、この後キョウカ姫は私と食事の予定です。遠慮していただけますか?」

 ゴズはキョウカを守る騎士のように人間のオス達を牽制する。
 もちろん、本当はそんな予定はない。
 だが、キョウカは誰とも踊りたくなさそうにしている。
 ここを抜け出すためにゴズについて来てくれる可能性は高い。
 そう思ってゴズはキョウカを見る。
 しかし、キョウカはゴズや誘いに来たオス共を見ていない。
 キョウカは別の所を見ている。
 そこにはキョウカに集まったオス達よりもさらに多くのオスが集まっている。
 ゴズはそのオス共の間から辛うじて何が有るのか見える。
 その中心にいるのは1組のオスとメス。
 そのメスの顔を見た瞬間にゴズは衝撃を受ける。

「白銀の魔女……」

 ゴズは思わず呟く。
 最初に出会った時と違う恰好をしているが、銀色の髪とその美しい顔を間違えようがなかった。
 ゴブリンの巣穴で出会った白銀の魔女に間違いなかった。
 曲が始まる直前まではいなかったはずであった。
 あれほどの美しいメスがいたら、ゴズはすぐに気付くはずだからだ。

(何故ここにいる? まさか、俺様を追いかけて来たのか?)

 ゴズの背筋に冷たい汗が流れる。
 母に敵意が無い事を言ったはずなのに連絡が届かなかったのかもしれない。
 この場を離れた方が良いだろうとゴズは判断する。

「あの方。どこかで見た事がありますわ……」

 キョウカが呟く。
 その視線の先には白銀の魔女と踊っているオスがいる。
 ゴズはその男に見覚えがなかった。

(一体何者だ? あの怖ろしい白銀の魔女と踊るなんて?)

 ゴズは一瞬疑問に思ったが、そんな事を気にしている場合ではなかった。
 急いでこの場を離れなければならない。

「あちらに行きますわ。付いて来なさい」

 しかし、キョウカはゴズの腕を掴むと、白銀の魔女の所に行こうとする。
 もちろんゴズは抵抗しようとするがすごい力であり、無理をすれば腕が引きちぎれそうであった。
 周りにいたオス達はキョウカの迫力に負けて道をあける。
 キョウカは白銀の魔女に向かって1直線に進んでいく。

(誰か助けてくれ)

 ゴズは心の中で叫ぶが当然誰も助けてくれない。
 そして、そのまま引っ張られて行くのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無職になった元騎士の適性は『教育者』〜奴隷を教育して男爵領を改革〜

馬渡黒秋
ファンタジー
【あらすじ】 長き時を戦い続けたセグナクト王国は、ナスリク帝国を打ち破ったことで、大陸の覇者となる悲願を達成した。 セグナクト王国の大陸統一により、世は戦乱の時代から平和な時代へと切り替わり、平凡な騎士であったルシアンは、十年勤め上げた騎士の任を解かれることとなった。 しかしそれは戦闘系の適性を持たなかったルシアンにとっては、ようやく訪れた人生の始まりの合図だった。 ルシアンは恩人であるエドワード——セグナクト王国ミーリス男爵家当主、エドワード・ミーリスの言葉に従い、世界を知り、知識を蓄えるために騎士になったのだった。 世界を知り『賢人』と呼べるほどに賢くなったルシアンは騎士時代に、数多の奴隷の姿を見て考えていたことがある。 『たった金貨数枚で売られているこの者達が、まともな教育を受けて、知性と教養を手にしたのならば、一体いくら稼ぐ人間になるのだろうか』と。 ——無職になった元騎士の本当の人生が、今始まる。      これは適性が『教育者』の元騎士が、奴隷を教育して男爵領を改革するお話。その過程で人生の真理に触れていきます。尚、自分が育てた奴隷にぐちゃぐちゃに愛される模様。 ※三人称視点です。いずれもふもふが出てきます。基本的にはラブコメ調ですが、伏線がそれなりにあるのでミステリっぽい要素があります。章末ではカタルシスを感じてくれると嬉しいです。  

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で楽しめる短めの意味が分かると怖い話をたくさん作って投稿しているよ。 ヒントや補足的な役割として解説も用意しているけど、自分で想像しながら読むのがおすすめだよ。 中にはホラー寄りのものとクイズ寄りのものがあるから、お好みのお話を探してね。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

処理中です...