68 / 431
第3章 白銀の魔女
第14話 北の都2
しおりを挟む
「初めまして、姫君。私はパルシスと申します。あなたのような美しい方と踊れるとは光栄でございます」
パルシスがキョウカに頭を下げる。
パルシスの顔を見てキョウカの顔が引きつる。
カヤが額に手を当てている。
シロネも人の顔をあまり悪く言いたくはないが、パルシスという男性の顔はゴブリンに似ていた。
はっきり言ってすごいブサイクだ。
ブサイクだけなら我慢もできるが、いやらしそうな目でキョウカの全身を嘗め回すように見ているので、正直に言えば、あまり一緒にいたい相手ではない。
(うう、彼も好きでこんな顔に生まれたわけではないのだから、あまり悪く思うのはやめよう)
シロネはそう思いながらキョウカに同情する。
また、シロネには気になる事が1つあった。
パルシスという男性は、魔法で姿を美しく見えるようにしているみたいなのである。
シロネ達程の魔力の持ち主なら彼の本当の姿を見る事が出来るので、パルシスのいやらしく欲望に満ちた顔がはっきりとわかる。
シロネ達には及ばないまでも人間にしてはかなりの魔力を持っている事は間違いない。
シロネはこの世界に来た時からなんの修行もせずに魔法が使える。
だけど、この世界の一般的な人間はかなり魔力を持っている者でも、かなりの修行をしないと魔法は使えない。
きっと彼もかなりの魔法の修行をしたに違いないとシロネは推測する。
容姿を変える魔法を習得する事は難しかったのかもしれない。
パルシスは、優雅な動作でキョウカさんに礼をしている。
嬉しそうなパルシスに対してキョウカは自分の好みとあまりにもかけ離れた男性を紹介された事で顔が強張っている。
舞踏会のパートナーがいないシロネ達にエカラスが紹介したのが、このパルシスと横のオミロスである。
エカラスはパルシスをキョウカにオミロスをシロネのパートナーとした。
エカラスの目ではパルシスは美男子に見えている。
キョウカがシロネ達のリーダーとなっているからエカラスはキョウカに一番良い男性を紹介したつもりなのである。
しかし、真実の姿なら、パルシスよりそれなりの容姿のオミロス方が良いと誰もが思うだろう。
「これで美男美女のカップルの誕生です。明後日の舞踏会が楽しみですな」
エカラスは笑いながら言う。
パルシスを美男子だと思って疑っていない。
シロネはエカラスにパルシスの本当の姿をいうべきだろうかと思う。
だけど、今まで彼は容姿で苦労したかもしれないので言わないでおく。
しかし、相手をするキョウカとしては嫌だろう。
「申し訳ございませんお嬢様」
カヤがキョウカに謝る。
ちなみにカヤは踊らない。
シロネはズルいと思うが、裏方だから出ないと聞かなかった。
参加すると言い出したのに1人だけ舞踏会に出席しない。キョウカと同じくシロネも少し納得できなかったりする。
「ねっ!ねえ!!シロネさんパートナーを交換してもよろしくてよ」
「ごめんなさい、キョウカさん……。私もちょっと……」
相手の交換をお願いしてきたキョウカに頭を下げてシロネは断る。
パルシスには悪いがシロネもパルシスは遠慮したい。
キョウカがシロネに恨めしそうな目を向けるが知らぬ顔をする。
「ううっ……」
キョウカがうなる。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありませんわ……。舞踏会はよろしくお願いしますわ……パルシス卿」
観念したキョウカが、うな垂れながら言う。
善意でパルシスを紹介されただけに文句も言えない。
その言葉を聞いたパルシスが嬉しそうに笑う。
嘘の顔ならきっと爽やかなのだろうけど、真実の顔が見えるシロネ達にはいやらしい笑いにしか見えなかった。
「それでは後は若い方でお話をされてください。では私はこれで」
エカラスは笑いながら部屋をでる。
後にはシロネ達5人が残された。
パルシスがキョウカに楽しそうに話かけている。
(よほどキョウカさんと踊れる事が嬉しいのかな? 確かにキョウカさんはとても美人だし。前から綺麗だったけど、この世界に来てからさらに美しさに磨きがかかったのじゃないかな?)
シロネはキョウカを見る。
明るい髪の色はこの世界に来てから黄金に輝き、白い肌はさらに艶を増した。
パルシスで無くてもキョウカと踊りたいという男性はきっと多いだろう。
もっとも、今のキョウカの顔色は悪く、美しさに少し陰りが出ていたりする。
シロネは心の中でキョウカさんに合掌をして自身のパートナーの方を向く。
「よろしくね……。えーと、オミロスさんで良かったかな?」
「はい、よろしくお願いします、シロネ姫。私はアルゴアのオミロスです」
オミロスがシロネに頭を下げる。少し気になる事を言った。
「アルゴア? リジェナ姫の所の?」
「リジェナを知っているのですか!!」
シロネがリジェナの名を口にするとオミロスが大声を出す。
「ええ……。前にアルゴアに行った時に少し見た事があるぐらいだけど」
「そうですよね、勇者様と一緒だったのなら会った事はありますよね。私はその時にアルゴアにいなかったので……」
オミロスが俯きながら言う。
顔の表情がとても暗い。その様子はただ事ではない。
「ねえ、オミロスさん。もしかしてリジェナ姫に何かあったの?」
一応シロネはレイジがリジェナの事を気にしていたから、聞いておこうと思う。
「はい、実は……」
オミロスがアルゴアで起こった事を話始める。
「そんな事があったの……」
シロネはオミロスの話を聞いて茫然とする。
まさか、リジェナ姫がそんな酷い事になっているとは思わなかったのである。
「本当に悲しい話ですわね」
横で話を聞いていたキョウカが涙ぐみながら言う。
「敵対し合う家、引き裂かれた2人。過去に読んだ事のある物語みたいですね」
カヤもまたしんみりと言う。
「ええ、私も読んだ事がありますわ……。とても悲劇的なお話でしたわ」
「私も読んだ事がある。確か10人ずつ代表を出して殺し合う忍者の話だよね……。悲しい話だよね……」
シロネがそう言うとキョウカとカヤが変な顔をする。
「私の読んだ話とずいぶん違いますわね……」
「はい、そんな魔界じみた話ではなかったと思います」
「えっ!? 何でそんな残念そうな目で見るの!?」
2人から残念そうな視線を向けられシロネは慌てる。
当然、何が違ったのかわかっていない。
「リジェナ姫の事は私も残念に思いますよ、王子。それを忘れるためにも舞踏会を楽しもうじゃありませんか!!そう思いませんか、キョウカ姫」
パルシスがキョウカの手を取って言う。
手を取られたキョウカの顔が青ざめる。
「えええええ、そうですわね」
キョウカが手を振りほどきながら言う。
シロネはさすがにパルシスに悪いのではと思うが、言わないでおく。
もし、自身が当事者なら同じ事をしたかもしれないからだ。
オミロスは少し離れた所で違う所を見ていた。
(リジェナ姫の事を考えているのかな?)
パルシスではないが、舞踏会で少しでも元気がでたら良いなとシロネは思うのだった。
◆
白銀の髪を持つ美少女、クーナは再びカロンの女王の間に立つ。
クーナがこの国に来たのは女王のダティエから直接お伝えしたい事があると、クロキに連絡が来たからだ。
嫌がるクロキのためにクーナが代理で来たのである。
「あの……閣下は?」
ゴブリンの女王ダティエがクロキの姿を探す。
「クロキは来ていない。用件はクーナが聞く」
クーナがそう言うとゴブリンの女王は残念そうな顔をする。
(当り前だ。愛しいクロキをお前のような女の前に連れて来れる訳がない。そもそも、使者を送れば済むことをわざわざ会いたいなどと、お前の企みなどお見通しだ!)
冷たい目でクーナはダティエを見る。
ダティエも目論見が外れたので、とても残念そうだ。
「話はなんだ、ゴブリンの女王?」
ゴブリンの女王は溜息を吐くと用件を話し出す。
「実は先日報告したアルゴアの英雄パルシスの件なのですが……。実はパルシスは姿を変えたわたくしの息子であるゴズだったのです。息子はナルゴルに敵対する気はないと言って来たのです」
ゴブリンの女王の言葉でクーナはパルシスの事を思い出す。
姿を変えているみたいだったが、クーナの目はごまかせなかった。
「確かに、あの醜い顔はゴブリンだったな。それで? どういう事だ?」
「折角、閣下が動いてくれたにもかかわらず、申し訳ないのですが……、この件は終わりとしたいのです」
ゴブリンの女王は頭を下げる。
クーナは少し考える。
(悪いが、この件から手を引く気になれないぞ。あの時、あの者達はリジェナの名を口にしていた。なぜだ?)
クーナにはパルシス達がリジェナの名を口にしていたのかまではわからなかった。
そして、何とかその理由を確認したいと思う。
なぜなら、理由によってはリジェナをクロキの側から排除できるかもしれないからだ。
「わかった、それはクロキに伝えておくぞ。それでお前の息子は何をしている?」
クーナは内心を隠し聞く。
女王の息子が何をしようとしているのか?
それを聞いておかなくてはならない。
「何をしているのかまでは聞いていないのですが……。そういえば、今度ヴェロスとかいう人間の国で舞踏会に行くと言っておりましたわ」
そのゴブリンの女王の言葉をクーナは気になる。
(舞踏会だと?)
クーナは前にクロキが読んでくれた物語に舞踏会が出てきたのを思い出す。
その物語にクーナは何故か心が魅かれた。
クーナはその舞踏会にクロキと一緒に踊る光景を思い浮かべる。
中々良い光景だった。
「舞踏会か……」
「はい、舞踏会です。その舞踏会に行くから媚薬が欲しいとも言っておりましたわ」
「媚薬?」
「はい、男を奮いたたせる薬です。魔王城の西にある闇の森に住む妖蜂の蜜を元に作られた物です。それを男が飲めば、さかりのついたケンタウロスのように腰を振り、もし女が飲めばさかりがついたエルフのように腰を振るでしょう」
その言葉にクーナは興味が出て来る。
「もしよろしければお1つ差し上げますが?」
「本当か!!!」
「ただし、条件があります」
「むっ……なんだ……?」
ただではないと知って少し警戒する。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ただその御髪を一本いただきたいだけですわ」
ゴブリンの女王の言葉にクーナは拍子抜けする。
そして、髪の毛一本ぐらいならあげても良いだろうと思う。
「わかったぞ。髪の一本ぐらいならやろう」
クーナは髪を一本引き抜くとゴブリンの女王に渡す。
「確かにいただきました。薬は後で持って来させますわ。その薬をお茶に混ぜて閣下に飲ませると良いでしょう。グフフフフ」
ゴブリンの女王がいやらしく笑う。
(おそらくクロキの事を考えているのだろう。その笑みは不快だが今は我慢してやるぞ)
クーナは斬り殺したいのを我慢する。
やがて、一匹のゴブリンが薬を持ってくる。綺麗な小瓶に入った透明な薬だ。
「薬の事は礼を言うぞ、ゴブリンの女王」
クーナはそう言うと薬を受け取りカロン王国を後にしたのだった。
パルシスがキョウカに頭を下げる。
パルシスの顔を見てキョウカの顔が引きつる。
カヤが額に手を当てている。
シロネも人の顔をあまり悪く言いたくはないが、パルシスという男性の顔はゴブリンに似ていた。
はっきり言ってすごいブサイクだ。
ブサイクだけなら我慢もできるが、いやらしそうな目でキョウカの全身を嘗め回すように見ているので、正直に言えば、あまり一緒にいたい相手ではない。
(うう、彼も好きでこんな顔に生まれたわけではないのだから、あまり悪く思うのはやめよう)
シロネはそう思いながらキョウカに同情する。
また、シロネには気になる事が1つあった。
パルシスという男性は、魔法で姿を美しく見えるようにしているみたいなのである。
シロネ達程の魔力の持ち主なら彼の本当の姿を見る事が出来るので、パルシスのいやらしく欲望に満ちた顔がはっきりとわかる。
シロネ達には及ばないまでも人間にしてはかなりの魔力を持っている事は間違いない。
シロネはこの世界に来た時からなんの修行もせずに魔法が使える。
だけど、この世界の一般的な人間はかなり魔力を持っている者でも、かなりの修行をしないと魔法は使えない。
きっと彼もかなりの魔法の修行をしたに違いないとシロネは推測する。
容姿を変える魔法を習得する事は難しかったのかもしれない。
パルシスは、優雅な動作でキョウカさんに礼をしている。
嬉しそうなパルシスに対してキョウカは自分の好みとあまりにもかけ離れた男性を紹介された事で顔が強張っている。
舞踏会のパートナーがいないシロネ達にエカラスが紹介したのが、このパルシスと横のオミロスである。
エカラスはパルシスをキョウカにオミロスをシロネのパートナーとした。
エカラスの目ではパルシスは美男子に見えている。
キョウカがシロネ達のリーダーとなっているからエカラスはキョウカに一番良い男性を紹介したつもりなのである。
しかし、真実の姿なら、パルシスよりそれなりの容姿のオミロス方が良いと誰もが思うだろう。
「これで美男美女のカップルの誕生です。明後日の舞踏会が楽しみですな」
エカラスは笑いながら言う。
パルシスを美男子だと思って疑っていない。
シロネはエカラスにパルシスの本当の姿をいうべきだろうかと思う。
だけど、今まで彼は容姿で苦労したかもしれないので言わないでおく。
しかし、相手をするキョウカとしては嫌だろう。
「申し訳ございませんお嬢様」
カヤがキョウカに謝る。
ちなみにカヤは踊らない。
シロネはズルいと思うが、裏方だから出ないと聞かなかった。
参加すると言い出したのに1人だけ舞踏会に出席しない。キョウカと同じくシロネも少し納得できなかったりする。
「ねっ!ねえ!!シロネさんパートナーを交換してもよろしくてよ」
「ごめんなさい、キョウカさん……。私もちょっと……」
相手の交換をお願いしてきたキョウカに頭を下げてシロネは断る。
パルシスには悪いがシロネもパルシスは遠慮したい。
キョウカがシロネに恨めしそうな目を向けるが知らぬ顔をする。
「ううっ……」
キョウカがうなる。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありませんわ……。舞踏会はよろしくお願いしますわ……パルシス卿」
観念したキョウカが、うな垂れながら言う。
善意でパルシスを紹介されただけに文句も言えない。
その言葉を聞いたパルシスが嬉しそうに笑う。
嘘の顔ならきっと爽やかなのだろうけど、真実の顔が見えるシロネ達にはいやらしい笑いにしか見えなかった。
「それでは後は若い方でお話をされてください。では私はこれで」
エカラスは笑いながら部屋をでる。
後にはシロネ達5人が残された。
パルシスがキョウカに楽しそうに話かけている。
(よほどキョウカさんと踊れる事が嬉しいのかな? 確かにキョウカさんはとても美人だし。前から綺麗だったけど、この世界に来てからさらに美しさに磨きがかかったのじゃないかな?)
シロネはキョウカを見る。
明るい髪の色はこの世界に来てから黄金に輝き、白い肌はさらに艶を増した。
パルシスで無くてもキョウカと踊りたいという男性はきっと多いだろう。
もっとも、今のキョウカの顔色は悪く、美しさに少し陰りが出ていたりする。
シロネは心の中でキョウカさんに合掌をして自身のパートナーの方を向く。
「よろしくね……。えーと、オミロスさんで良かったかな?」
「はい、よろしくお願いします、シロネ姫。私はアルゴアのオミロスです」
オミロスがシロネに頭を下げる。少し気になる事を言った。
「アルゴア? リジェナ姫の所の?」
「リジェナを知っているのですか!!」
シロネがリジェナの名を口にするとオミロスが大声を出す。
「ええ……。前にアルゴアに行った時に少し見た事があるぐらいだけど」
「そうですよね、勇者様と一緒だったのなら会った事はありますよね。私はその時にアルゴアにいなかったので……」
オミロスが俯きながら言う。
顔の表情がとても暗い。その様子はただ事ではない。
「ねえ、オミロスさん。もしかしてリジェナ姫に何かあったの?」
一応シロネはレイジがリジェナの事を気にしていたから、聞いておこうと思う。
「はい、実は……」
オミロスがアルゴアで起こった事を話始める。
「そんな事があったの……」
シロネはオミロスの話を聞いて茫然とする。
まさか、リジェナ姫がそんな酷い事になっているとは思わなかったのである。
「本当に悲しい話ですわね」
横で話を聞いていたキョウカが涙ぐみながら言う。
「敵対し合う家、引き裂かれた2人。過去に読んだ事のある物語みたいですね」
カヤもまたしんみりと言う。
「ええ、私も読んだ事がありますわ……。とても悲劇的なお話でしたわ」
「私も読んだ事がある。確か10人ずつ代表を出して殺し合う忍者の話だよね……。悲しい話だよね……」
シロネがそう言うとキョウカとカヤが変な顔をする。
「私の読んだ話とずいぶん違いますわね……」
「はい、そんな魔界じみた話ではなかったと思います」
「えっ!? 何でそんな残念そうな目で見るの!?」
2人から残念そうな視線を向けられシロネは慌てる。
当然、何が違ったのかわかっていない。
「リジェナ姫の事は私も残念に思いますよ、王子。それを忘れるためにも舞踏会を楽しもうじゃありませんか!!そう思いませんか、キョウカ姫」
パルシスがキョウカの手を取って言う。
手を取られたキョウカの顔が青ざめる。
「えええええ、そうですわね」
キョウカが手を振りほどきながら言う。
シロネはさすがにパルシスに悪いのではと思うが、言わないでおく。
もし、自身が当事者なら同じ事をしたかもしれないからだ。
オミロスは少し離れた所で違う所を見ていた。
(リジェナ姫の事を考えているのかな?)
パルシスではないが、舞踏会で少しでも元気がでたら良いなとシロネは思うのだった。
◆
白銀の髪を持つ美少女、クーナは再びカロンの女王の間に立つ。
クーナがこの国に来たのは女王のダティエから直接お伝えしたい事があると、クロキに連絡が来たからだ。
嫌がるクロキのためにクーナが代理で来たのである。
「あの……閣下は?」
ゴブリンの女王ダティエがクロキの姿を探す。
「クロキは来ていない。用件はクーナが聞く」
クーナがそう言うとゴブリンの女王は残念そうな顔をする。
(当り前だ。愛しいクロキをお前のような女の前に連れて来れる訳がない。そもそも、使者を送れば済むことをわざわざ会いたいなどと、お前の企みなどお見通しだ!)
冷たい目でクーナはダティエを見る。
ダティエも目論見が外れたので、とても残念そうだ。
「話はなんだ、ゴブリンの女王?」
ゴブリンの女王は溜息を吐くと用件を話し出す。
「実は先日報告したアルゴアの英雄パルシスの件なのですが……。実はパルシスは姿を変えたわたくしの息子であるゴズだったのです。息子はナルゴルに敵対する気はないと言って来たのです」
ゴブリンの女王の言葉でクーナはパルシスの事を思い出す。
姿を変えているみたいだったが、クーナの目はごまかせなかった。
「確かに、あの醜い顔はゴブリンだったな。それで? どういう事だ?」
「折角、閣下が動いてくれたにもかかわらず、申し訳ないのですが……、この件は終わりとしたいのです」
ゴブリンの女王は頭を下げる。
クーナは少し考える。
(悪いが、この件から手を引く気になれないぞ。あの時、あの者達はリジェナの名を口にしていた。なぜだ?)
クーナにはパルシス達がリジェナの名を口にしていたのかまではわからなかった。
そして、何とかその理由を確認したいと思う。
なぜなら、理由によってはリジェナをクロキの側から排除できるかもしれないからだ。
「わかった、それはクロキに伝えておくぞ。それでお前の息子は何をしている?」
クーナは内心を隠し聞く。
女王の息子が何をしようとしているのか?
それを聞いておかなくてはならない。
「何をしているのかまでは聞いていないのですが……。そういえば、今度ヴェロスとかいう人間の国で舞踏会に行くと言っておりましたわ」
そのゴブリンの女王の言葉をクーナは気になる。
(舞踏会だと?)
クーナは前にクロキが読んでくれた物語に舞踏会が出てきたのを思い出す。
その物語にクーナは何故か心が魅かれた。
クーナはその舞踏会にクロキと一緒に踊る光景を思い浮かべる。
中々良い光景だった。
「舞踏会か……」
「はい、舞踏会です。その舞踏会に行くから媚薬が欲しいとも言っておりましたわ」
「媚薬?」
「はい、男を奮いたたせる薬です。魔王城の西にある闇の森に住む妖蜂の蜜を元に作られた物です。それを男が飲めば、さかりのついたケンタウロスのように腰を振り、もし女が飲めばさかりがついたエルフのように腰を振るでしょう」
その言葉にクーナは興味が出て来る。
「もしよろしければお1つ差し上げますが?」
「本当か!!!」
「ただし、条件があります」
「むっ……なんだ……?」
ただではないと知って少し警戒する。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ただその御髪を一本いただきたいだけですわ」
ゴブリンの女王の言葉にクーナは拍子抜けする。
そして、髪の毛一本ぐらいならあげても良いだろうと思う。
「わかったぞ。髪の一本ぐらいならやろう」
クーナは髪を一本引き抜くとゴブリンの女王に渡す。
「確かにいただきました。薬は後で持って来させますわ。その薬をお茶に混ぜて閣下に飲ませると良いでしょう。グフフフフ」
ゴブリンの女王がいやらしく笑う。
(おそらくクロキの事を考えているのだろう。その笑みは不快だが今は我慢してやるぞ)
クーナは斬り殺したいのを我慢する。
やがて、一匹のゴブリンが薬を持ってくる。綺麗な小瓶に入った透明な薬だ。
「薬の事は礼を言うぞ、ゴブリンの女王」
クーナはそう言うと薬を受け取りカロン王国を後にしたのだった。
11
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
【R18 】必ずイカせる! 異世界性活
飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。
偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。
ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる