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第3章 白銀の魔女
第12話 パルシスの正体
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汚らしい南のゴブリンの集落を抜けて、パルシスはアケロンの北側へとたどり着く。
パルシスがカロン王国に戻るのは久しぶりだ。
相変わらず汚らしい場所だと思う。
他のゴブリンの巣穴に比べると、まだましと言えるがそれでもゴブリンの巣穴だ。
「トマレ、人間! 何者ダゴブ?」
ゴブリン共がパルシスを取り囲む。
取り囲まれたがパルシスは慌てる事はなかった。
こうなる事は想定済みだ。
そして、奥から体格の良いゴブリンが出て来る。
パルシスの知っている顔であった。
「貴様の事は魔法の映像で見たことあるゴブ。確かパルシスとかいう人間ゴブね。何故ここにいるゴブ?」
「久しぶりです、ケンエオ将軍」
その問いには答えず、パルシスが名前を呼ぶとケンエオは驚く。
「何故、名前をゴブ?」
「さすがのケンエオ将軍でもわからないみたいですね」
ケンエオはゴブリンの中でもかなりの力を持つ。
しかし、それでもパルシスの本当の姿はわからないようだ。
魔法を解き本当の姿を見せる。
パルシスはできればこの姿を見せたくなかった。だが見せなければ話が進まない。
「あ! あなたはゴ、ゴズ王子ゴブーー!!」
姿が変わった事でケンエオと他のゴブリン達が驚く。
当り前であった、人間の英雄パルシスが女王の息子だったのだから。
「そうです。ゴズですよ、ケンエオ将軍。おひさしぶりです。母の所に行きたいのですが、通してもらえないでしょうか?」
そう言ってパルシス改めゴズは頭を下げる。
ケンエオはゴズの姉の夫だ。
無礼な事はあまりできない。姉はゴズよりもはるかに強く、危険な存在だ。
ゴズは礼を尽くさなくてはならなかった。
ケンエオは少し考え込み答える。
「ちょっと待ってくださいでゴブ! ちょっと、女王陛下に確認するゴブ」
ケンエオ将軍が言うと、その部下が母の所に行きしばらくして戻って来る。
「どうぞお通りくださいゴブ」
ケンエオの言葉を聞くとゴズはカロンの廊下を歩き女王の間へと進む。
通路の奥、巨大な門をくぐり女王の間へと入る。
ゴズは膝をつき頭を下げる。
母はたとえ我が子であっても無礼者には容赦はしない。
だから礼を尽くさなくてはならなかった。
「お久しぶりです、母上」
「面を上げな、ゴズ」
母から許可が出たのでゴズは頭を上げる。
そして、母である女王ダティエの姿を見る。
相変わらず醜い。
ゴブリンの女王と人間の男との間に生まれた子がゴズである。
異種族で子を作るとオスなら父親の種族、メスなら母親の種族として生まれる。
だからゴズは人間のはずであった。
ゴブリンのメスは、基本的に巣穴から出る事はない。
出るのはオスだけだ。そのオスが人間のオスをメスのために連れてくる事はまずない。また、醜いゴブリンのメスが人間の男に相手にしてもらえる訳が無い。
だから、普通ならゴブリンの腹から人間のオスは生まる事は無い。
だけど、何事にも例外がある。それがゴズである。
女王と言う権力者である母の為なら、ゴブリンも人間のオスを連れて来る事がある。
連れてこられた人間のオスは母の寝床で相手をさせられる。
そして、生まれたのがゴズだ。
ゴズは父親は物心つく前に死んでいたからどんな奴だったのかは知らない。
だけど想像はできる。面食いな母の事だかなりの美男子だったのだろう。
母が持つ強力な媚薬を飲まされれば、どんな醜い女が相手でも勃ってしまう。
そして、死ぬまで精をしぼり取られるのだ。
ゴズは自身の顔を触る。
鏡はないが母親に似た醜い顔だ。
エルフから生まれた人間のオスが強い魔力を持って生まれる事が有るように、種族の違う片親の性質をある程度は受け継いで生まれる。
だから、片親がゴブリンなら種族は違うが、ゴブリンの性質を持って生まれる。
なので、ゴズは醜いゴブリンのような顔つきだ。すぐに死んだ弟も同じような顔だった。
たとえ、ゴブリンが片親でも、人間にとってゴブリンの巣穴は生きるにはあまり良い環境ではない。
体力のない人間の子供はすぐに死んでしまう。
母親から魔力を受け継いで生まれたから何とか生きていける。
だが弟や、存在したであろうゴズの兄は魔力を受け継がなかった。
母から生まれたオスで、まともに成長できたのはゴズだけであった。
他の男子はすぐに死んでしまった。
ゴズは母を見る。おそらくゴブリン最強だろう。
その魔力は魔族に匹敵すると言うのだから。
遥かに及ばないとはいえ、この魔力だけは母に感謝しても良いとゴズは思う。
「最近姿を見ないと思ったら……。まさかパルシスの正体がお前だったなんてね。報告した者の魔力じゃ魔法は見破れなかったようだね」
ダティエが笑いながら言う。
ゴズは母と縁を切りたいがために、姿を変えて人間の国に行っている事を伝えていない。
だからこそこのような問題が起こったのである。
「母上……。私はパルシスになっている時に銀髪の魔女に襲われました。あれは母上の差し金なのではありませんか?」
問うとダティエは少し考え込む。
「銀髪の魔女……。ああ思い出した。あの凛々しい閣下の隣にいたメスだね。確かに最近南の奴らの集落を荒らしまわっている奴がいる事をお伝えしたよ。また、閣下にお会いしたいねえ……」
母がうっとりした表情で言う。
その母の言葉を聞き、やはりと思う。あの白銀の魔女は母の差し金だったのだ。
母が閣下と呼ぶ者の事はゴズも知っている。
あの怖ろしい勇者に勝った暗黒騎士の事だ。
あの美しい白銀の魔女は、閣下の部下だったのだろう。
「母上。私は逆らう気はございません。もちろん魔王陛下にもです。どうかその事を閣下に伝えてはいただけないでしょうか?」
ゴズは前回は見逃してもらったが、また会わないとも限らない。
その時に殺されてはたまらない。
「わかったよ。この事は閣下に伝えておくよ。今日来た用件はそれだけかい?」
これでゴズがここに来た1番の目的は達成した。
だけど、もう1つ目的があった。
「もう1つあります。母上の持つ媚薬をいただけないでしょうか?」
「あの薬を? 何に使うんだい?」
「3日後にヴェロスという人間の国で、なんでも舞踏会とかいう祭りが開かれるようです。そのときに人間のメスに使いたいと思いまして」
ゴズは笑いながら言う。母の持つ秘薬はオスだけでなくメスにも効くはずだ。3日後の舞踏会は面白い事になるだろう。
「ふふん、あの薬をね。まあ良いさ、いくつかくれてやるよ」
「ありがとうございます、母上」
ゴズはお礼を言うと女王の間を退出する。
通路を歩きかつての自身の部屋だった場所へと行く。
途中、ゴブリンのメス共に色目を使われるが蹴り飛ばす。
ゴズは人間のメスを抱いてからは、醜いゴブリンのメスを抱く気にはならない。
カロン王国の自身の部屋だった場所に戻ると、出て行った頃と変わっていなかった。
この部屋はこのカロン王国の中で唯一人間が生活できる場所だ。
通常のゴブリンの巣穴のように暗くジメジメしていない。
ゴブリンの女王であるダティエから生まれた男の子はここで育てられる。
ゴズは人間でありながらゴブリンの王子として育った。
だけど、女王の子供は沢山いるため、王子とはいえそこまで権力は強くない。
それでも王子であるため、ゴズはカロン王国では不自由をした事はあまりなかった。
人間にとってはゴブリンのような醜い顔立ちだが、ゴブリンの中では美男子のゴズはゴブリンのメスを抱き放題だった。
だけど、少しやりすぎてダティエから折檻を受けた。
その時は許してもらったが、以後カロン王国内では自粛するよう心掛けた。
そのかわり、カロン王国ではない、アケロン山脈の南側のゴブリンの領域で好き勝手に行動をする事にした。
南側のゴブリンはダティエの支配下にはないが、ゴブリンの女王を怖れているため、敵対する者はいなかったので好きに行動できた。
ただ、南の頭の悪い連中の巣穴はカロンに比べて臭く、メスもカロンよりもブサイクでゴズは面白くなかった。
そこで、ゴズは南の頭の悪い奴らの何匹かを手下にしてアケロン山脈から離れて、人間の領域まで行くことにした。
そして、奴らを率いて人間の住処の近くたまたま通りかかった時だった。
ゴズはリジェナに出会ってしまったのである。
運命の出会いだとゴズは思った。
人間のメスは何度か遠目で見た事があった。
だけど、あれ程自身のメスにしたいと思ったのはゴズは初めてだった。
だから唾をつけた。
そして、リジェナをどうやったらの自分の物にできるかを考えた。
無理やり連れ去りたいが、人間の子供は死にやすいからある程度大きくなってから攫った方が良いだろうと結論付けた。
だから、その場は彼女を見逃して力をつけて攫う事にした。
そして、魔法を猛烈に勉強した。
その甲斐もあって数年後には母には及ばないまでも強力な魔法を使えるようになった。
そして、リジェナを攫うためにアルゴアへと向かったのである。
いくら力を付けたとはいえ、アルゴアの人間全員を相手にする事は危険だ。
だからまずは、アルゴアに潜入して機会を窺う事にした。
調べた所によるとアルゴアは強い者ならば戦士として入国を認めるらしいから簡単に入国できるはずだった。
だけど、最初にアルゴアに行った時は門前払いを喰らった。
理由はあまりにもブサイクすぎるからだ。
だから魔法で姿を変えてアルゴアに潜入する事にした。
魔力の強い者には効かないが、弱い者には魅力的に見えるはずであった。
名前もゴブリンぽい名前ではなく、パルシスと名乗る事にした。
運の良い事にアルゴアの人間共には魔術師はおらず、姿を見破れる者はいなかった。
ただ、見破る程ではないが姿に違和感を感じる者がいるようなので油断はできない。
そして、自由戦士としてアルゴアに潜入する事に成功したゴズは、リジェナに近づく機会を窺った。
だけど、近づきたい当のリジェナが俺の姿に違和感を感じたみたいなので、近づくのは難しかった。
こうして、リジェナに近づきあぐねている時だった。あの忌々しい勇者が来たのは。
なんと、あの勇者は事もあろうにリジェナに手を出そうとしたのである。
それを阻止すべく、ゴズは行動を起こした。
魅了の魔法は使えないが、性格を攻撃的にする魔法を使う事ができる。
その魔法を使い、勇者に反感を持つアルゴアの若者達を攻撃的な性格にした後で、勇者を攻撃するように仕向けた。
怒った勇者はアルゴアの戦士達と争いになった。
結果はアルゴアの戦士達が一方的に勇者に倒されて、ほとんどが戦闘不能状態となった。そして、一通り暴れた後に勇者達はアルゴアを離れた。
だがそこで問題が起こった。元々アルゴアは血こそ流さないが国内で争いがあったのだ。
そして、ゴズの魔法で攻撃的になったアルゴアの戦士達は争いを始めたのである。
争いが始まったのは想定外だったが、ゴズはこの争いを利用する事にした。
小さい争いをさらに拡大させ、リジェナの一族と対立する一族を全面戦争にまで発展させた。
劣勢だったリジェナの一族と対立していた一族に味方して、リジェナの一族と戦った。
結果はゴズが味方した事により、対立していた一族が勝利した。
そして、リジェナの父親である王を処刑した後に、リジェナをゴブリンの巣穴に送るように誘導したのだった。
そこをゴズが助け、カロンに連れ去れば、リジェナを完全に物にする事ができるはずであった。
だが、問題が起こった。ゴブリンの巣穴でリジェナを助ける前に何者かによって連れ去られたのだ。
連れ去った者が何者かは不明であった。
配置して置いた部下達の話では、竜に乗った何者かが連れ去ったらしい。
何にせよ、リジェナをとり逃したのは間違いなかった。
リジェナを手に入れるために他の手段を使うべきだったのかもしれないが、後の祭りだ。
ゴズは悔しく思ったが、どうにもならない。
リジェナの事はひとまず忘れる事にするしかなかった。
ゴズはその代わりに正体がばれるまで他の人間のメスを抱きまくる事にした。
今度の舞踏会にはかなりの上玉が来るはずである。
ゴズは舞踏会が今から楽しみであった。
◆
「ゼング……なんて姿に……」
オーガのクジグは骨だけとなった息子を見る。
ゼングはクジグが生んだ子どもの末っ子だ。
末の息子のゼングが誕生日に来ないから、8男のザイグを迎えに行かせたら、変わり果てたゼングの姿を発見した。
そして、連絡を受けたクジグは魔法を使って急いで駆け付けたのだ。
「まさか……こんな事になっているなんてな。どいつがやりやがったんだ!!」
長男のリングが言う。弟が殺された事で怒りが抑えきれないようだ。
「母ちゃん! 兄ちゃん! 大変だこっちに来てくれ!!」
次男のピョウグが何かを見つける。
クジグ達が行って見るとそこには壁に何かが書かれていた。
「どうやら、ゼングを殺した奴は北に行ったみたいだね」
壁に書かれた文字を見て言う。
そこにはゼングを殺した勇者の妹が書置きを残していた。
勇者の妹共はここから北へ向かうつもりらしかった。
用があるなら北に来いという内容である。
嘘かもしれないが、あの勇者の妹を名乗るぐらいだ、本当だとクジグは思う事にする。
息子を殺した奴が誰だろうがクジグは容赦をするつもりはない。
必ず殺すと古の巨人王に誓う。
「リング兄ちゃん、大変だこっちに来てくれ!!」
今度は5男のカイグが何かを見つけたようだ。
「今度はなんだ!!」
リングとピョウグがカイグの方へと向かう。
クジグはその場に残る。犯人がわかった以上、これ以上の探索は必要ないからだ。
「これは―――! 俺がゼングに貸してたお宝本じゃねえか! 全部燃やされてやがる―――!!」
「俺の大好きなイヴァリアさんの絵が――――!!!!」
「くそ! 誰がこんな事を! 残っているのはこれだけか!」
「ひでえよ……。俺なんかまだ見てないのに――――!!!」
息子たちが向こうで叫んでいるのが聞こえる。
他にも何か奴らが行った痕跡が見つかるかもしれないが、犯人がわかった以上、ここにいつまでもいる訳にはいかない。
奴らを追いかけるべきだろう。
幸い奴らはクジグの本拠地、蒼の森がある北へと向かったようであった。
クジグは息子達がそろっている暖炉へと向かう。
「お前達! そろそろ行くよ! ゼングを殺した勇者の妹達にその報いを受けてもらうんだ!!」
そう言うと息子達は頷く。
「わかっているぜ、母ちゃん!!」
「ああ! 俺達の大切な宝を燃やした報いは受けてもらうぜ!!」
「ああ! 同じように燃やしてやろうぜ!!」
「まだ見てない俺の哀しみをどうしてくれるんだ!!」
「灰に……灰に……なっちまった……」
「あれを……もう見る事ができないなんて辛すぎるぜ……」
「俺のイヴァリアさんが――――!!」
「あれはもう2度と手に入らないんだぞ―――!!」
「必ずぶっ殺してやる!!」
息子達が口々に怒りを口にする。
弟が殺された事に怒りが収まらないようにクジグには見えた。
当然、クジグもだ。
「行くよ、息子達! 勇者の妹だが何だが知らないが、このオーガのクジグ一家が必ず殺してやる!! 首を洗って待っていな!!」
パルシスがカロン王国に戻るのは久しぶりだ。
相変わらず汚らしい場所だと思う。
他のゴブリンの巣穴に比べると、まだましと言えるがそれでもゴブリンの巣穴だ。
「トマレ、人間! 何者ダゴブ?」
ゴブリン共がパルシスを取り囲む。
取り囲まれたがパルシスは慌てる事はなかった。
こうなる事は想定済みだ。
そして、奥から体格の良いゴブリンが出て来る。
パルシスの知っている顔であった。
「貴様の事は魔法の映像で見たことあるゴブ。確かパルシスとかいう人間ゴブね。何故ここにいるゴブ?」
「久しぶりです、ケンエオ将軍」
その問いには答えず、パルシスが名前を呼ぶとケンエオは驚く。
「何故、名前をゴブ?」
「さすがのケンエオ将軍でもわからないみたいですね」
ケンエオはゴブリンの中でもかなりの力を持つ。
しかし、それでもパルシスの本当の姿はわからないようだ。
魔法を解き本当の姿を見せる。
パルシスはできればこの姿を見せたくなかった。だが見せなければ話が進まない。
「あ! あなたはゴ、ゴズ王子ゴブーー!!」
姿が変わった事でケンエオと他のゴブリン達が驚く。
当り前であった、人間の英雄パルシスが女王の息子だったのだから。
「そうです。ゴズですよ、ケンエオ将軍。おひさしぶりです。母の所に行きたいのですが、通してもらえないでしょうか?」
そう言ってパルシス改めゴズは頭を下げる。
ケンエオはゴズの姉の夫だ。
無礼な事はあまりできない。姉はゴズよりもはるかに強く、危険な存在だ。
ゴズは礼を尽くさなくてはならなかった。
ケンエオは少し考え込み答える。
「ちょっと待ってくださいでゴブ! ちょっと、女王陛下に確認するゴブ」
ケンエオ将軍が言うと、その部下が母の所に行きしばらくして戻って来る。
「どうぞお通りくださいゴブ」
ケンエオの言葉を聞くとゴズはカロンの廊下を歩き女王の間へと進む。
通路の奥、巨大な門をくぐり女王の間へと入る。
ゴズは膝をつき頭を下げる。
母はたとえ我が子であっても無礼者には容赦はしない。
だから礼を尽くさなくてはならなかった。
「お久しぶりです、母上」
「面を上げな、ゴズ」
母から許可が出たのでゴズは頭を上げる。
そして、母である女王ダティエの姿を見る。
相変わらず醜い。
ゴブリンの女王と人間の男との間に生まれた子がゴズである。
異種族で子を作るとオスなら父親の種族、メスなら母親の種族として生まれる。
だからゴズは人間のはずであった。
ゴブリンのメスは、基本的に巣穴から出る事はない。
出るのはオスだけだ。そのオスが人間のオスをメスのために連れてくる事はまずない。また、醜いゴブリンのメスが人間の男に相手にしてもらえる訳が無い。
だから、普通ならゴブリンの腹から人間のオスは生まる事は無い。
だけど、何事にも例外がある。それがゴズである。
女王と言う権力者である母の為なら、ゴブリンも人間のオスを連れて来る事がある。
連れてこられた人間のオスは母の寝床で相手をさせられる。
そして、生まれたのがゴズだ。
ゴズは父親は物心つく前に死んでいたからどんな奴だったのかは知らない。
だけど想像はできる。面食いな母の事だかなりの美男子だったのだろう。
母が持つ強力な媚薬を飲まされれば、どんな醜い女が相手でも勃ってしまう。
そして、死ぬまで精をしぼり取られるのだ。
ゴズは自身の顔を触る。
鏡はないが母親に似た醜い顔だ。
エルフから生まれた人間のオスが強い魔力を持って生まれる事が有るように、種族の違う片親の性質をある程度は受け継いで生まれる。
だから、片親がゴブリンなら種族は違うが、ゴブリンの性質を持って生まれる。
なので、ゴズは醜いゴブリンのような顔つきだ。すぐに死んだ弟も同じような顔だった。
たとえ、ゴブリンが片親でも、人間にとってゴブリンの巣穴は生きるにはあまり良い環境ではない。
体力のない人間の子供はすぐに死んでしまう。
母親から魔力を受け継いで生まれたから何とか生きていける。
だが弟や、存在したであろうゴズの兄は魔力を受け継がなかった。
母から生まれたオスで、まともに成長できたのはゴズだけであった。
他の男子はすぐに死んでしまった。
ゴズは母を見る。おそらくゴブリン最強だろう。
その魔力は魔族に匹敵すると言うのだから。
遥かに及ばないとはいえ、この魔力だけは母に感謝しても良いとゴズは思う。
「最近姿を見ないと思ったら……。まさかパルシスの正体がお前だったなんてね。報告した者の魔力じゃ魔法は見破れなかったようだね」
ダティエが笑いながら言う。
ゴズは母と縁を切りたいがために、姿を変えて人間の国に行っている事を伝えていない。
だからこそこのような問題が起こったのである。
「母上……。私はパルシスになっている時に銀髪の魔女に襲われました。あれは母上の差し金なのではありませんか?」
問うとダティエは少し考え込む。
「銀髪の魔女……。ああ思い出した。あの凛々しい閣下の隣にいたメスだね。確かに最近南の奴らの集落を荒らしまわっている奴がいる事をお伝えしたよ。また、閣下にお会いしたいねえ……」
母がうっとりした表情で言う。
その母の言葉を聞き、やはりと思う。あの白銀の魔女は母の差し金だったのだ。
母が閣下と呼ぶ者の事はゴズも知っている。
あの怖ろしい勇者に勝った暗黒騎士の事だ。
あの美しい白銀の魔女は、閣下の部下だったのだろう。
「母上。私は逆らう気はございません。もちろん魔王陛下にもです。どうかその事を閣下に伝えてはいただけないでしょうか?」
ゴズは前回は見逃してもらったが、また会わないとも限らない。
その時に殺されてはたまらない。
「わかったよ。この事は閣下に伝えておくよ。今日来た用件はそれだけかい?」
これでゴズがここに来た1番の目的は達成した。
だけど、もう1つ目的があった。
「もう1つあります。母上の持つ媚薬をいただけないでしょうか?」
「あの薬を? 何に使うんだい?」
「3日後にヴェロスという人間の国で、なんでも舞踏会とかいう祭りが開かれるようです。そのときに人間のメスに使いたいと思いまして」
ゴズは笑いながら言う。母の持つ秘薬はオスだけでなくメスにも効くはずだ。3日後の舞踏会は面白い事になるだろう。
「ふふん、あの薬をね。まあ良いさ、いくつかくれてやるよ」
「ありがとうございます、母上」
ゴズはお礼を言うと女王の間を退出する。
通路を歩きかつての自身の部屋だった場所へと行く。
途中、ゴブリンのメス共に色目を使われるが蹴り飛ばす。
ゴズは人間のメスを抱いてからは、醜いゴブリンのメスを抱く気にはならない。
カロン王国の自身の部屋だった場所に戻ると、出て行った頃と変わっていなかった。
この部屋はこのカロン王国の中で唯一人間が生活できる場所だ。
通常のゴブリンの巣穴のように暗くジメジメしていない。
ゴブリンの女王であるダティエから生まれた男の子はここで育てられる。
ゴズは人間でありながらゴブリンの王子として育った。
だけど、女王の子供は沢山いるため、王子とはいえそこまで権力は強くない。
それでも王子であるため、ゴズはカロン王国では不自由をした事はあまりなかった。
人間にとってはゴブリンのような醜い顔立ちだが、ゴブリンの中では美男子のゴズはゴブリンのメスを抱き放題だった。
だけど、少しやりすぎてダティエから折檻を受けた。
その時は許してもらったが、以後カロン王国内では自粛するよう心掛けた。
そのかわり、カロン王国ではない、アケロン山脈の南側のゴブリンの領域で好き勝手に行動をする事にした。
南側のゴブリンはダティエの支配下にはないが、ゴブリンの女王を怖れているため、敵対する者はいなかったので好きに行動できた。
ただ、南の頭の悪い連中の巣穴はカロンに比べて臭く、メスもカロンよりもブサイクでゴズは面白くなかった。
そこで、ゴズは南の頭の悪い奴らの何匹かを手下にしてアケロン山脈から離れて、人間の領域まで行くことにした。
そして、奴らを率いて人間の住処の近くたまたま通りかかった時だった。
ゴズはリジェナに出会ってしまったのである。
運命の出会いだとゴズは思った。
人間のメスは何度か遠目で見た事があった。
だけど、あれ程自身のメスにしたいと思ったのはゴズは初めてだった。
だから唾をつけた。
そして、リジェナをどうやったらの自分の物にできるかを考えた。
無理やり連れ去りたいが、人間の子供は死にやすいからある程度大きくなってから攫った方が良いだろうと結論付けた。
だから、その場は彼女を見逃して力をつけて攫う事にした。
そして、魔法を猛烈に勉強した。
その甲斐もあって数年後には母には及ばないまでも強力な魔法を使えるようになった。
そして、リジェナを攫うためにアルゴアへと向かったのである。
いくら力を付けたとはいえ、アルゴアの人間全員を相手にする事は危険だ。
だからまずは、アルゴアに潜入して機会を窺う事にした。
調べた所によるとアルゴアは強い者ならば戦士として入国を認めるらしいから簡単に入国できるはずだった。
だけど、最初にアルゴアに行った時は門前払いを喰らった。
理由はあまりにもブサイクすぎるからだ。
だから魔法で姿を変えてアルゴアに潜入する事にした。
魔力の強い者には効かないが、弱い者には魅力的に見えるはずであった。
名前もゴブリンぽい名前ではなく、パルシスと名乗る事にした。
運の良い事にアルゴアの人間共には魔術師はおらず、姿を見破れる者はいなかった。
ただ、見破る程ではないが姿に違和感を感じる者がいるようなので油断はできない。
そして、自由戦士としてアルゴアに潜入する事に成功したゴズは、リジェナに近づく機会を窺った。
だけど、近づきたい当のリジェナが俺の姿に違和感を感じたみたいなので、近づくのは難しかった。
こうして、リジェナに近づきあぐねている時だった。あの忌々しい勇者が来たのは。
なんと、あの勇者は事もあろうにリジェナに手を出そうとしたのである。
それを阻止すべく、ゴズは行動を起こした。
魅了の魔法は使えないが、性格を攻撃的にする魔法を使う事ができる。
その魔法を使い、勇者に反感を持つアルゴアの若者達を攻撃的な性格にした後で、勇者を攻撃するように仕向けた。
怒った勇者はアルゴアの戦士達と争いになった。
結果はアルゴアの戦士達が一方的に勇者に倒されて、ほとんどが戦闘不能状態となった。そして、一通り暴れた後に勇者達はアルゴアを離れた。
だがそこで問題が起こった。元々アルゴアは血こそ流さないが国内で争いがあったのだ。
そして、ゴズの魔法で攻撃的になったアルゴアの戦士達は争いを始めたのである。
争いが始まったのは想定外だったが、ゴズはこの争いを利用する事にした。
小さい争いをさらに拡大させ、リジェナの一族と対立する一族を全面戦争にまで発展させた。
劣勢だったリジェナの一族と対立していた一族に味方して、リジェナの一族と戦った。
結果はゴズが味方した事により、対立していた一族が勝利した。
そして、リジェナの父親である王を処刑した後に、リジェナをゴブリンの巣穴に送るように誘導したのだった。
そこをゴズが助け、カロンに連れ去れば、リジェナを完全に物にする事ができるはずであった。
だが、問題が起こった。ゴブリンの巣穴でリジェナを助ける前に何者かによって連れ去られたのだ。
連れ去った者が何者かは不明であった。
配置して置いた部下達の話では、竜に乗った何者かが連れ去ったらしい。
何にせよ、リジェナをとり逃したのは間違いなかった。
リジェナを手に入れるために他の手段を使うべきだったのかもしれないが、後の祭りだ。
ゴズは悔しく思ったが、どうにもならない。
リジェナの事はひとまず忘れる事にするしかなかった。
ゴズはその代わりに正体がばれるまで他の人間のメスを抱きまくる事にした。
今度の舞踏会にはかなりの上玉が来るはずである。
ゴズは舞踏会が今から楽しみであった。
◆
「ゼング……なんて姿に……」
オーガのクジグは骨だけとなった息子を見る。
ゼングはクジグが生んだ子どもの末っ子だ。
末の息子のゼングが誕生日に来ないから、8男のザイグを迎えに行かせたら、変わり果てたゼングの姿を発見した。
そして、連絡を受けたクジグは魔法を使って急いで駆け付けたのだ。
「まさか……こんな事になっているなんてな。どいつがやりやがったんだ!!」
長男のリングが言う。弟が殺された事で怒りが抑えきれないようだ。
「母ちゃん! 兄ちゃん! 大変だこっちに来てくれ!!」
次男のピョウグが何かを見つける。
クジグ達が行って見るとそこには壁に何かが書かれていた。
「どうやら、ゼングを殺した奴は北に行ったみたいだね」
壁に書かれた文字を見て言う。
そこにはゼングを殺した勇者の妹が書置きを残していた。
勇者の妹共はここから北へ向かうつもりらしかった。
用があるなら北に来いという内容である。
嘘かもしれないが、あの勇者の妹を名乗るぐらいだ、本当だとクジグは思う事にする。
息子を殺した奴が誰だろうがクジグは容赦をするつもりはない。
必ず殺すと古の巨人王に誓う。
「リング兄ちゃん、大変だこっちに来てくれ!!」
今度は5男のカイグが何かを見つけたようだ。
「今度はなんだ!!」
リングとピョウグがカイグの方へと向かう。
クジグはその場に残る。犯人がわかった以上、これ以上の探索は必要ないからだ。
「これは―――! 俺がゼングに貸してたお宝本じゃねえか! 全部燃やされてやがる―――!!」
「俺の大好きなイヴァリアさんの絵が――――!!!!」
「くそ! 誰がこんな事を! 残っているのはこれだけか!」
「ひでえよ……。俺なんかまだ見てないのに――――!!!」
息子たちが向こうで叫んでいるのが聞こえる。
他にも何か奴らが行った痕跡が見つかるかもしれないが、犯人がわかった以上、ここにいつまでもいる訳にはいかない。
奴らを追いかけるべきだろう。
幸い奴らはクジグの本拠地、蒼の森がある北へと向かったようであった。
クジグは息子達がそろっている暖炉へと向かう。
「お前達! そろそろ行くよ! ゼングを殺した勇者の妹達にその報いを受けてもらうんだ!!」
そう言うと息子達は頷く。
「わかっているぜ、母ちゃん!!」
「ああ! 俺達の大切な宝を燃やした報いは受けてもらうぜ!!」
「ああ! 同じように燃やしてやろうぜ!!」
「まだ見てない俺の哀しみをどうしてくれるんだ!!」
「灰に……灰に……なっちまった……」
「あれを……もう見る事ができないなんて辛すぎるぜ……」
「俺のイヴァリアさんが――――!!」
「あれはもう2度と手に入らないんだぞ―――!!」
「必ずぶっ殺してやる!!」
息子達が口々に怒りを口にする。
弟が殺された事に怒りが収まらないようにクジグには見えた。
当然、クジグもだ。
「行くよ、息子達! 勇者の妹だが何だが知らないが、このオーガのクジグ一家が必ず殺してやる!! 首を洗って待っていな!!」
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