暗黒騎士物語

根崎タケル

文字の大きさ
上 下
2 / 431
第1章 勇者を倒すために魔王に召喚されました

第1話 勇者を倒すために魔王に召喚されました

しおりを挟む
 薄暗い闇の中、クロキは目を覚ます。

(ここはどこだろう?)

 考えるが、前後の記憶がはっきりとしない。

(自分の部屋じゃない事だけは、確かだよな……)

 床が固く、石畳のようだった。
 クロキはその石畳の上で寝かされているようだった。
 背中にあたる石が少し冷たい。そこで、クロキは気付く。

(えっ? 裸になっている?)

 胸と股間を触ると服の感触がない。
 クロキは何と裸になっていた。

(いつの間に脱いだんだ!)

 クロキは裸族になったつもりはない。それとも目覚めてしまったのだろうか?
 クロキはそんな事を考える。
 薄暗い上空を見ると、天井は高く、部屋が広い事がわかる。
 クロキは上体を起こす。
 顔を下に向けると床には薄く光る円や図形が書かれ、クロキはそこに寝かされていた。
 そして、周りを見た時だった。

(えっ!?)

 クロキは思わず声が出そうになる。
 部屋は暗いが周りに何者かがいるのが見えたのである。しかも、その姿は人間ではなかった。
 犬の顔をした化け物、鳥のような姿をした者、触手が生えた者、大きな目だけの者。人間に近いような恰好をした者も少数いたが大半は人間からかけ離れた姿をしている。
 どれも、醜くて怖ろしい外見であった。
 だからこそ、クロキは声が出そうになってしまったのである。

(こういう時、映画とかだったら恐怖のあまり絶叫とかするのだろうか?)

 クロキはそんな事を考える。
 しかし、実際にそういった状態に置かれると、どうして良いかわからず、固まってしまう。

(本当に何がどうなっているんだ!?)

 クロキはあまりにありえない光景に脳がショートしてしまいそうだった。
 化け物達を見る。
 遠巻きに見ているだけで近づいてくる気配はない。
 もし、そのまま包囲をせばめてきたら、今度こそさすがに絶叫しただろう。
 しかし、近づいてこないことで、クロキは少しだけ思考を取り戻す。

(どうして、こうなったのだろう? これは、夢なのだろか……?)

 しかし、冷たい床の感触が、クロキにこれが夢ではないことを教えてくれる。

(夢でないならここはなんだ、地獄なのか? だとしたら自分は死んでしまったのだろうか?)

 様々な考えがクロキの頭をよぎる。

「よくぞ来られた! 我が救世主よ!」

 突然ななめ上の頭上から声がする。
 その声は明らかにクロキに投げかけられていた。

(救世主? 自分の事なのか?)

 クロキは声のした方に顔を向ける。周りを取り囲む化け物達、その中で化け物がいない隙間があった。
 クロキは暗がりの奥に何かがいるのを感じる。
 そして、目を凝らして見ると、そこには巨大な化け物がいる事に気付く。
 闇の中であるにもかかわらず、なぜかはっきりと見ることができた。
 その巨大な化け物は直立に立った豚のような姿をして、頭には巨大な角、口には逆さに生えた牙。巨大な鼻からは黒い炎のようなものを吹いている。
 漆黒の上品なローブを着こんでいるが、その身から発する暴力的な気配は隠しようもない。
 その巨大な化け物がクロキの方へと近づいてくる。
 巨大な化け物が通ると、クロキを取り囲んでいた化け物達が頭を下げる。
 そして、巨大な化け物はクロキの目の前まで来ると頭を下げる。

「我が名はモデス。魔王と呼ばれる者である。そして、このナルゴルの地を治める者。救世主殿、名前を聞いて良いですかな?」

 魔王を名乗る化け物がクロキに顔を寄せる。

「あっ……はい……クロキ。行崎イクサキ黒樹クロキで……す」

 クロキは魔王の迫力に負けて馬鹿正直に答えてしまう。

「おお、クロキ殿と申されるのか! どうかクロキ殿! このモデスをどうかお助けくだされ!」

 モデスと名乗った化け物が、さらに頭を下げる。
 クロキを簡単に殺せてしまえそうな巨大な化け物が、クロキに対して頭を下げる。
 クロキはますます訳がわからなくなる。

「あの、すみません……、意味が良くわからないのですが……、なぜ自分の助けが必要なのですか?」

 クロキはおそるおそる尋ねる。

「おお、そうですな……。いきなり召喚されて助けてくれと言われても訳がわかりませんでしょうな」

 モデスは頭を上げ、少し顔をそらし説明を始める。

「実は今現在、このモデスの治めるナルゴルは侵略を受けているのですよ」
「侵略?」
「そう、侵略です。エリオスの女神アルレーナ、通称レーナが異界より召喚した勇者によって……。このモデスをエリオスの地から追放しただけにあきたらず我が宝までも奪おうと……」

 モデスは顔に哀しみの表情を浮かべる。
 そして、再びクロキを見て不気味な笑みを浮かべる。

「クロキ殿には、その勇者と戦っていただきたいのです」

 モデスはクロキを指差し宣告する。

(勇者だって? ゲームやマンガでしか聞いたことのない単語だ)

 まるで、ゲームの世界に入ったようだとクロキは思う。

「勇者ですか……」
「そう勇者です。この世界の勇者や英雄ではこのモデスには敵わない。だからレーナは異界の地から勇者を召喚したのです」

 クロキはモデスの話を聞き、なんじゃそりゃと声を出しそうになる。

(異世界から勇者、まるで昔読んだファンタジー小説だ! 確か、現代の日本に住む少年が女神に召喚されて魔王を倒しに行く話だったはずだ)

 ただし、クロキの置かれた状況はそれとはまったく逆。

(どうやら自分は勇者と戦うために、この魔王を名乗るモデスによって、この世界に召喚されたようだ。魔王に召喚され勇者と戦う……。これじゃ悪役じゃないか!)

 クロキは頭を抱える。そして、これが夢なら、早く覚めて欲しいと願う。

「クロキ殿、その勇者の姿をお見せしましょう。モーナ!」
「はい、あなた」

 モデスの呼び声で一人の女性が化け物達の中から出てくる。
 クロキは声の主を見た時、世界が止まったような気がした。それは、とても美しい女性だった。
 黒絹のような艶をもった腰まである美しい髪。
 横を向いた非常に整った美しい顔。目を奪われる胸の豊かなふくらみ、
 白いローブにうっすら透けたシルエットは、彼女のスタイルが良いことをしらしめている。
 クロキはあまりの美しさに目が離せなくなる

(すごい、なんて美しいんだ!)

 醜い化け物の中、その女性の周りだけ光輝いて見えた。
 クロキは急いで股間を隠す。
 見苦しいモノを美女に見せるわけにはいかない。

「どうです、クロキ殿、美しいでしょう。彼女の名はモーナ。私の最愛の妻でございます。モーナ、クロキ殿に挨拶をなさい」

 クロキの様子を気にせず、モデスが自慢げにモーナと呼ばれた女性を紹介する。
 クロキはかなりの衝撃を受けていた。

(こんなものすごい美女がモデスの奥さんだなんて! モデスと彼女では完全に美女と野獣だ。正直うらやましい!)

 怖ろしい外見をしたモデスはモーナの前でデレデレしている。

(外見と違って、そんなに怖くないのかも)

 モデス達の様子を見て、クロキは自分の中で恐怖が和らいでいくのを感じた。

「初めましてクロキ様、モーナと申します。以後お見知りおきを」

 モーナが挨拶し、微笑む。
 その笑顔はまるで桜の花が咲いたようだった。クロキは思わず見惚れてしまう。

「モーナ、君の魔力でクロキ殿に勇者の姿を見せるのだ」
「はい、あなた」

 モーナは両手を広げ何かをつぶやく。すると頭上が光り輝きどこかの映像が映し出される。
 その映像の中で、戦いが繰り広げられていた。
 化け物の大群がたった数人の人間に襲い掛かっている。
 しかし、少数にもかかわらず、優勢なのは人間の方だ。
 よく見ると自分と大体同じ年齢の男女だ。どう見ても二十代よりも年上ということはないだろう。
 男が一人に女が五人という構成である。
 男は光輝く剣を振り、化け物達と戦っている。その恰好はファンタジー小説に出てくる騎士のような恰好だ。
 その後に続く女達の恰好も、またファンタジーであった。
 女の恰好は剣士のようなのが一人、魔法使いのような恰好が三人、忍者のようなのが一人だ。
 その彼らは男を先頭に化け物達を相手に獅子奮迅の戦いぶりを見せている。

「クロキ殿、あれが勇者レイジとその仲間の女達でございますぞ」

 モデスはその人間の中心で戦っている一人の男を指す。すると、その男を中心に画像が拡大されていく。

「なっ? あれ、あいつは? それにレイジって……」

 その男を見た瞬間思わず声が出る。
 クロキの知っている顔だった。そしてその名前にも聞き覚えがあった。

 美堂怜侍ミドウレイジ。通称レイジ。
 
 それが、魔王が勇者と呼ぶ者の名だ。
 クロキにとって、あまり思い出したくない人間だった。
 後ろにいる女性達の顔も見るが、いずれも知った顔である。
 クロキの覚えている記憶の中の姿と少々変わっているが、間違いはなかった。
 長く美しい黒髪が特徴の魔法使いのような恰好をしている、水王寺スイオウジ千雪チユキ
 その後ろにいる、白いローブを着たあま色の髪の少女は、吉野沙穂子ヨシノサホコ
 髪をツインテールにして手から炎を出している少女、佐々木ササキ理乃リノ
 小柄でショートカットの髪で、元気にはねて小剣を振るっているのは、トドロキ奈緒美ナオミ
 そして最後に長い髪をポニーテールにした女剣士は、クロキの幼馴染の赤峰アカミネ白音シロネ
 いずれもクロキが通う学園で有名な美少女達だ。
 そんな彼らが映像の中で戦っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...