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第8章 鳴らされた終の音

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 俺は眠り、そして朝起きて、
「今日が最後の日か」12月15日。桜の災害が起こる前の日。そんな日が、遂に始まってしまった。いつもと同じ平穏な日。桜が変に光っていることを抜きにすれば今日という日は何もない日に他ならない。
 そう言えば、12月24日に那由他がクリスマスパーティーに誘ってくれていたことで少し俺の中で考えが改まったという話をしておこう。前は絶対に無理だと思っていたが、今回の場合災害の対策が、俺の知っている未来とはレベルが違ったのだ。だからこそ、俺は軽めの希望を抱いている。
「もし、那由他と無事にクリスマスを過ごせたら最高だろうな」

 いつものように5時に集合する。その日はやはり皆緊張が高まった表情で先生を見ている。ちなみにその先生も少しばかり緊張を孕ませている。
「今日から交代で桜の監視を行ってもらう。今から紙を配るからその時間に桜に着いているようにしろ」そして、紙が配られた。俺の担当は、
「おい、マジかよ」明日の午後4時からその真夜中までだった。つまり、俺の担当時間に未来なら災害が起こったわけで、近くに居た霰と同じ担当時間だった。どうやらクラスXは全員が近い時間に配置されているらしく、そのところから考えると先生も大体分かっているのだろう。
 全員部屋に戻ってゆっくりしているときに俺は廊下でぶらぶらと歩いていると後ろから声を掛けられた。
「三郎!いつでした?私は明日の夜です!」那由他がそう言って俺に紙を見せてくる。
「俺も一緒だ」そして紙を見せる。マズいな。那由他は出来れば別の時間であって欲しかった。なんなら、先生は明後日の深夜から朝までなので、その時間であってほしかった。その方が担当時間的には安全だから。
 しかし、那由他は顔を輝かせ
「三郎と同じ時間なら安心です!」と、そう言ってくれた。
「でも、お前を守れるかは知らないぞ。実際災害が始まって最初は俺達は動かなくて良いって言われてるけど、動いた方が良いだろ?」その事をこの前先生に聞くと、
「まあ、もちろんそうだが、体力と集中力の問題があるからな。現段階でそれを長持ちさせられている人間は教師陣でも少ない」だそうで、更に聞くと、本当に大丈夫なら少しだけ前線を張るのも良いと言われていた。その事も那由他に言うと、
「君は、動いちゃダメです」重々しくそう言われた。
「なんでだ?」すると、少し目を伏せ、
「絶対三郎には死んでほしくないんですよ!確かに災害がどれだけ凄惨なのかも知ってます。それを止めるために皆頑張ってるのも知ってます。でも、私はお父さんとおじいちゃんを失ってるんです!これ以上私の大切な人を死なせたくないんです!」その言葉が胸を打つ。嬉しい。ただ、それだけだ。俺を心配してくれている。大切な人だと思われている。
 なら、大丈夫だ。那由他の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ありがとう。嬉しいよ。だけど、大丈夫だ。俺は死なない。それに、目的を果たすために俺はこの災害を絶対に止める必要がある」那由他に背を向け、歩き出す。
 すると、
「何で分かってくれないんですか!いっつも君は私の想いなんて無視して、ずっと色んな人のために戦ってる!自分のことも正直どうだって良いと思ってるんでしょ!?目的がどうとか言ってますけど、それよりも自分の命だったり想いを大事にして下さい!」那由他の絶叫が、俺に突き刺さる。
「っ」そして、俺はそれに何も答えることが出来ず
「一体、君は何を考えているんですか…」そのまま立ち去るのだった。
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