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第二章 騎士学園編
116「決勝トーナメント準決勝(2)」
しおりを挟む「ゲェ! は、初めてみたぞ、カイトが攻撃をまともに喰らったところなんてっ!!!!」
「は、はい⋯⋯! イグナスがいきなり『切り札』を出したことがカイトにとっては予想外の攻撃だったので、完全に虚をつかれたのでしょう」
カイトがイグナスの攻撃に吹き飛ばされたのを見て、カート・マロンとディーノ・バレンチノが話す。
「何っ!? カイトがまともに攻撃を喰らっただと!!!!」
レイア姫がカイトが攻撃を喰らったことに衝撃を受けている横で、
「そ、それもすごいのだけれど⋯⋯今のイグナス君の『合体魔法』って⋯⋯これ、今まで見せていなかった⋯⋯いわば『切り札』の魔法を、試合開始早々放つなんて⋯⋯?! あの子、天才でしょ!」
レコ・キャスヴェリーはイグナスの『戦術』に感嘆していた。
また観客席にいる一般の者たちや貴族たちもまた、今までカイトの圧倒的勝利を見てきていただけに、まともに攻撃を喰らったカイトの光景に衝撃を受けていた。
「やるじゃん、イグイグ。正直、今のはかなりビックリしたわ」
「フン! 切り札の合体魔法でもピンピンしているのかよ⋯⋯⋯⋯化け物め」
カイトは先ほどのイグナスの魔法攻撃による『かまいたち』の傷がついた状態だが、本人自体は特に大きなダメージは受けていないようだった。
カイトは立ち上がると、ゆっくりと舞台へと戻りながらイグナスに話しかける。
「さすがの魔力コントロール⋯⋯といったところか」
「お前に言われても嫌味なだけ⋯⋯」
「炎球」
「なっ!? くっ⋯⋯爪弾き!?」
カイトが会話の途中でほぼ瞬間に近い速度で魔法を放つ。今度はイグナスがそのカイトの魔法に驚愕するも咄嗟に『爪弾き』を発動。カイトの『炎球』を無効化する。
「お返しだ」
「チッ?! デタラメな発動速度だっつーの」
「お前もな」
ワァ⋯⋯。
「「⋯⋯?」」
「ワァァァァァァァァァァァァァァーーーー!!!!!!!」
突然、観客席から大歓声が上がり、カイトとイグナスがその歓声に困惑する。その困惑する二人に、
「何、ポカーンとしているんだ!? お前らの戦いぶりに観客が興奮して歓声を上げてんだよ!」
ガス・ジャガーが嬉しそうに状況を説明した。
「フ、フン⋯⋯っ!? 見せ物じゃねーっ!!」
「「安定のツンデレ!」」
「二人でハモってんじゃねーっ!!!!」
イグナスのブレないツンデレ反応に、カイトとガスがシンクロ率100%の勢いで見事にハモった。
********************
「イグナス・カスティーノか。これは⋯⋯予想以上の強さだったね」
カイトとイグナスの試合を遠目で眺めていたリュウメイ・ヤマトがボソッと呟く。
「ウキョウが負けたのもわかるよ」
「イグナスの奴⋯⋯俺との対戦でもこの『切り札』の合体魔法は出さなかった。結局、俺は完敗だったってことか」
「⋯⋯だね。正直、ウチの同年代で最強のウキョウが完敗だなんて。いまだに信じられないよ」
「いや、若。あいつはもっと伸びますよ。俺よりもずっとね⋯⋯」
「ウキョウ?」
「それよりも若。あのカイト・シュタイナーのほうがイグナスよりもやばいですよ」
「そうだね。イグナス・カスティーノの不意打ちはほぼ成功していた⋯⋯⋯⋯にも関わらず、ほぼ一瞬に近い速度で魔力を魔法防御に全振りして防いだ」
「はい。それにその次に繰り出した『炎球』の発動スピードも同じです。おそらく若と同等くらいには早いのではないでしょうか⋯⋯信じられません」
「そうだね。ただ、その程度なら僕には勝てないし、僕を倒せない時点で『異界者』という可能性は⋯⋯⋯⋯ゼロになる」
「そうですね。カイト・シュタイナーが『異界者』であって欲しいですが、ただ、それは⋯⋯⋯⋯若がカイト・シュタイナーに負けるということになります」
そう言って、ウキョウが苦い顔をする。
「いやはや⋯⋯まったく困った役回りだよ」
そう言って、リュウメイは苦笑いする。
「さてさて⋯⋯その前にカイト・シュタイナーはイグナス・カスティーノを倒せるのかな? 試合を見る限り、カイト・シュタイナーにはまだ余裕はあるようだけど、イグナス・カスティーノは、まだ何かを隠しているような雰囲気もある。ワクワクする試合だね、ウキョウ!」
「はい、若!」
********************
「いいぞー、イグナスぅー! ベクター先輩の子供だからって遠慮すんなー! ブチのめせぇぇぇーーーっ!!!!」
観客席では、イグナスパパのルドルフ・カスティーノが大声を上げて声援を送っていた。
「や、やめてください、父上! そんな大きな声でイグナスに声援送ったら、イグナスが困惑するじゃないですか!」
「なぜだ?」
「いや、だって⋯⋯! これまでイグナスにしたことを考えたらわかるでしょ?! イグナスの魔力量が少ないからといって、このまま上級貴族のままだと将来苦しむことになるっていって、『子供教室へ行かせたり、突き放すようにワザと厳しいこと』を言って、自分や私を含めた家族を嫌うよう仕向けたじゃないですか!」
「うむ、そうだな。魔力量が少ない上級貴族の子供の将来は厳しく悲惨だからな。あいつが我々家族に愛想を尽かして、冒険者として自立するよう仕向けたな。⋯⋯⋯⋯あぁっ!?」
「それですっ! 父上がイグナスに仕向けたこれまでのことを考えたら、イグナスは父上や私でさえも憎悪、または恐怖の対象のはずです! 実際、イグナスはこれまでずっと我々と距離を置いていたわけですし⋯⋯」
「で、でもだぞ! でも、イグナスのことを考えてのことだし、冒険者として自立できたら陰ながらちゃんとフォローするつもりだったんだぞ!」
「それを私に言ってどうするんですか! はぁ⋯⋯とにかく大会が終わったらイグナスと話しましょう。膨大な魔力量を有した今のイグナスであれば、上級貴族の子供として将来が悲惨になることはもうないのですから! それどころか、カスティーノ家では収まりきれないほどの成長と活躍する未来が待っているでしょう。イグナスに父上の想いをちゃんと伝えてください」
「そうだな⋯⋯。すでに俺のことは相当に嫌っていると思うが、ちゃんと伝えるさ。それでもイグナスが俺を許せないのならそれでも構わん。ちゃんとその後も変わらず陰から見守ることには変わりはないのだからな」
そう言うと、ルドルフは『イグナスが小さい頃に、自分の魔力が少ないことを知って絶望した時のこと』を感慨深げに思い出す。
「本当に⋯⋯本当によかった⋯⋯誰かは知らねーが、本当に、ありがとう⋯⋯」
そう呟くルドルフの目からは一筋の涙が零れた。
「というわけで、今は静かにしていてください。応援禁止です」
「あぁああぁあぁあぁ~~~~!!!! あの時の俺のバカぁぁぁ~~~!!!!!」
今度は別の理由で号泣するルドルフであった。
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