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第二章 騎士学園編

074「予選トーナメント一回戦(3)」

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 イグナスの試合の後、氷漬けとなったマルーク・マキアートは先生らの火属性魔法で解凍。その後、すぐに第二試合が始まるが、イグナスの試合に比べると余りにもレベルが低すぎて観客は微妙な空気となっていた。

 決して、誰が悪いわけでもないのだが、そんな空気の中で試合をする一回生はたまったものじゃないなと個人的に同情しながら試合を観戦していた。

 そんな中、ザックが登場した。

「さあ、どんどん進めていくよーん! 続いて、第四試合。ザック・カーマイン、ロバート・ダウナー選手の入場でーす! キャピーン!」
「「「「「パチ⋯⋯パチパチ⋯⋯パチ⋯⋯」」」」」

 フェリシアの掛け声が響くが、観客はイグナスの試合以降、低レベルの試合が続いたためか、だいぶテンションが落ちていた。

「ザッきゅんー! 頑張れー!」

 俺はザックの登場にテンションアゲアゲで声援を送る。

「ザッきゅん、言うなし!」

 ザックが即座にツッコむ。悲しい。

「ほう? ロバート・ダウナーか?」
「何? ガス知ってるの?」
「ん? ああ。下級貴族ではあるが奴もマルーク同様、魔力量が多いと有名な生徒の一人だ」
「ええ、そうですね。でも、マルークと違うのはロバートは身体強化ビルドを主体とした『武闘術』の得意な方でして」
「そうそう。俺もガキの頃、貴族の子供同士の模擬試合出た時に、あいつの武闘術による物理攻撃で圧倒されて負けたわ」
「え?! カートが負けたの?」
「ああ。まーでも、魔力量が上がった九歳の時の模擬試合では魔法で返り討ちにしたけどな」
「へー」

 ロバート・ダウナー。ハリウッド映画なアベン○ャーズを彷彿とさせる名前だが、得意攻撃は物理による武闘術か。いや、ある意味、名前のイメージに合っているかな?

「ふふ。カートはそんなこと言ってますが、実際、九歳の模擬試合で勝ちはしましたがギリギリの勝利でしたけどね」
「ふ、ふふふ、ふざけんじゃねーよ、ディーノ! お、俺はちゃんと勝ったじゃねーか! 余計な情報付け足すんじゃねーよ!」
「ふふ⋯⋯そういうことにしておきますか」

 ディーノが笑いながら補足情報を付け足すと、カートがディーノに慌てて補足情報の流出を止めようとする。それにしても出会った頃、カートはディーノに対して『様』付けで呼ぶなど、同じ上級貴族でも身分差があったのに、いつの間にか二人にはそれが無くなったようだ。以前よりもだいぶ仲良しになっている。

「ということは、かなりの強敵ってこと?」
「まあ、そうですね。カイト式魔力コントロールでザックもかなり成長しましたので勝機はあるかと。ただ、それでも彼の⋯⋯ロバートの武闘術ランク『拳闘士』の腕は伊達じゃありませんので」
「でもよー、ザックも本来は魔法よりも剣術の戦い方をメインにしたいと言って、魔法も武闘術も両方バランスよく特訓していたからよ、もしかしたら良い勝負するかもしれないぜ?」

 ディーノとカートの話を聞いていると、どうやらザックの対戦相手のロバート・ダウナーはかなり強そうだ。それにしても武闘術ってランクがあるんだな。

「その⋯⋯武闘術ランク『拳闘士』て、どのくらいの強さなんだ?」
「そうですね。武闘術ランクは『拳士』から始まって、その次が『拳闘士』となるので、下から二番目のレベルとなります。本来、武闘術ランク『拳闘士』は成人した十五歳くらいで得られるくらいの称号ですので、十歳の時点で『拳闘士』であれば、かなりのモノです。おそらく単独でDランクの魔獣くらいは倒せるレベルでしょうね」

 ふむ。たしか、Eランクの魔獣で大人が単独で倒せるレベルだったな。ということは、十歳ですでに大人以上に強いということか。二人の説明を聞くと、どうも『ロバート有利』という雰囲気があるんだよな~。こりゃ、ザックはかなり分が悪いのでは?

「⋯⋯俺はお前らとはちょっと違う評価だな」
「「ガス様?」」
「ザックの身体強化ビルドを使った武闘術と魔法を組み合わせたあの戦い方は、イグナスとは違うが、かなり器用に魔力を操れる才能が高いと感じた。だから、もしかすると、あの脳筋バカのロバートの武闘術に対抗できると思っている」
「ああ、たしかに⋯⋯ザックの魔力コントロールはかなり精細ですね」
「そうっすね。ザックのあの戦闘スタイルは精細な魔力コントロールができてなんぼ・・・て感じですからね」
「ああ。ある意味、誰もマネができない『ザックオリジナル』の戦闘スタイルだからな」

 ガスの話を聞くと、ザックのあの戦闘スタイル・・・・・・・・は独特らしい。ていうか、俺もどっちかというとザックの戦闘スタイルに近いのだが。

 いずれにしても、ザックにはぜひ頑張って欲しい! 頑張れ、ザッきゅん!


********************


「それでは、第四試合、はじめーーーっ!!!!」

 ゴーーーーーーーン!

 フェリシアの元気な掛け声と共に銅羅・・が鳴り、第四試合が始まった。

「よ、よろしくお願いします!」

 ザックは、いつもの・・・・独特の構えを見せる。すると、

「ザック・カーマインとやら⋯⋯」
「え? は、はい」

 いきなり、ロバート・ダウナーがザックに話しかけた。

「その構えから見るに⋯⋯武闘術は素人なのか?」
「え? あ、はい。でも、俺なりに考えた構えです」
「⋯⋯いかん。それじゃあダメだ、ザック・カーマイン。そんな我流など武闘術を舐めているとしか言いようがない!」
「え? い、いえ!? べ、別に、俺は武闘術を舐めているとかそういうことは決して⋯⋯」
「言い訳無用! 不愉快だ! そんな舐めた態度の君には少しお灸を据えてやろう!」
「え!? ちょ、ちょっと!? 話を聞いて⋯⋯!!!!!」
「破拳・一ノ型『直烈破ちょくれつは』っ!」

 ドン⋯⋯!

 ロバートが武闘術の技名を言った瞬間——一瞬でザックの懐に入ると同時に、鳩尾みぞおち目掛けて掌底を放つ。観客もロバート本人も誰もがザックに掌底が入ったと思った。しかし、

「あービックリした」
「⋯⋯なっ?! ざ、残像⋯⋯っ!? しかも、いつの間に⋯⋯背後に!?」

 ザックはロバートや観客に『残像』を見せるレベルの速度でその場から移動。なんと、ザックは一瞬でロバートの真後ろまで移動していた⋯⋯⋯⋯とわかったのは、俺たちくらいだろうか。少なくとも、ほとんどの一回生や観客もザックがロバートの真後ろに移動したのは気づいていないようだった。

「くっ!?」

 ロバートは急いでザックから離れようとした。しかし、

「逃がさないよ」
「え⋯⋯?」

 ザックはロバートの動きにシンクロさせる。つまり、『常にロバートの真後ろにいる状態』でピタリと離れないでいた。

「う、うわ⋯⋯うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 ロバートがいくら逃げても、まるで移動先がわかっている・・・・・・・・・・・・・かのように、ピタリと真後ろに張り付くザックに悲鳴を上げた。無理もねー。

「えい!」
「かはっ!?」

 ドタっ⋯⋯。

 ザックはロバートのうなじに手刀を軽く叩き込んで失神させた。

「や、やった⋯⋯。勝てた⋯⋯」
「勝負あり! ザック・カーマイン選手の圧倒的勝利ぃぃぃーーーっ!!!!」
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!!!!」」」」」

 特にザックに期待することなどなく、むしろ、雰囲気的にはロバートが強そうだったこともあり、本人含め観客の誰もがロバートの圧倒的勝利を確信する中、まさかのザックの圧倒的勝利に観客のボルテージが一気に上がった。

 ちなみに、このザックの第四試合が、予選トーナメント一回戦の中で一番の大歓声とベストバウトに選ばれた。

——その後、試合は進み、イグナスもザックも二回戦の相手を圧倒し勝利を獲得。見事、予選トーナメント三回戦へとコマを進めた。
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