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第二章 騎士学園編
060「ガス・ジャガーの思い」
しおりを挟む「よっ! 元気そうじゃねーか、カイト・シュタイナー」
「お前⋯⋯あ、いや、あなたは⋯⋯ガス・ジャガー様」
「十歳の子供がいます」と言われても何ら違和感のない『身長190センチの十歳』ことジャガー財閥のガス・ジャガーが、手下1、手下2のディーノ・バレンチノとカート・マロンを連れて俺たちのテーブルへやってきた。
「カイト。『シャテー』と認めてくれてありがとな! イグナスから聞いたよ」
「あ、いえ、どう⋯⋯いたしまして⋯⋯」
俺はいつもどおり猫をかぶる。
「はっはっは。本当に普段はそうやって『猫かぶり』するんだな、お前。なんでまた、そんな面倒くさいことを?」
「まあ、いろいろと⋯⋯このほうが都合がいいかなと」
「ほー? 色々考えているんだな? やっぱ面白い奴だな、お前」
「? ど、どうも?」
何が、どこで、どうしたらそうなったのかわからんが、ガスは俺のことをかなり評価してくれている。まあ、試合で圧倒したのが主な理由かもしれんが、それ以上に評価してくれているように感じる。
「あ、でも、二人はどうなんですか? 僕の舎弟になることには反対じゃないんですか?」
「いや、別に反対なんてねーよ。実際、お前はアホみたいに強かったしな」
「ええ、私としても、あなたの力は素直に認めています。といいますか、それ以上にあなたの『まだ見せていない何か』のほうに私は個人的に興味を引いていますけどね。⋯⋯まあ、いずれにしても、私とカートに異論はございません」
カートとディーノは、そう言って俺の舎弟になることに異論はないようだ。というか、ディーノに関しては、相変わらずの鋭い洞察力に改めて感心する。
********************
「ところでよー、カイト・シュタイナー⋯⋯」
「カイトでいいよ」
「わかった。じゃあ、俺のこともガスでいい」
「うん」
「それでな、カイト。実はお前にお願い⋯⋯というか、もし可能なら⋯⋯という話なんだが、いいか?」
「? 何?」
「実は⋯⋯(チラっ)」
「っ?!」
ガスはそう言うと、一度、イグナスのほうに含みのある視線を送ったあと、一拍、間を置いて話を始めた。
「⋯⋯ザックから聞いていると思うが、俺はイグナス⋯⋯イグナス・カスティーノの才能を昔から買っている。尊敬していると言ってもいい」
「う、うん。今朝、ザックから聞いたよ」
「それでなんだが、お前ほどバカみたいに豊富な『魔力量』を持っている奴なら、もしかして、魔力の容量を急激に引き上げる練習とかコツとかを知っているんじゃないかと思ったんだが⋯⋯どうだ?」
「え? そ、それって、もしかして⋯⋯」
「⋯⋯イグナスはただ単に魔力量が少ないだけで、魔法センスはずば抜けているんだ。だから、もし、カイトが『魔力量』を急激に増やす何か『秘策』のようなものを知っているなら、イグナスに教えて欲しいんだ!」
「ガス⋯⋯君は⋯⋯」
「お、おい! いきなり何、勝手なことほざいてんだ、ガス!」
「勝手でも何でもねーよ! お前だって本当は自覚してるだろうが! もし、お前に豊富な『魔力量』があれば、上級貴族の中でも俺と同等かそれ以上の実力だってことをよ!」
「⋯⋯くっ! うっせーよ! ていうか、そんな『秘策』あるわけねーだろが! そもそも魔力量は生涯を通して修行しても最大で三倍程度しか量は増えない。しかし、今の俺の魔力量と上級貴族の平均の魔力量の差は十倍近くも差がある。⋯⋯話にならねーよ」
イグナスは「何を今さら⋯⋯」とでも言うかのように、ガスへ一気に捲し立て、そして一瞬、落ち込んだ顔を覗かせる。しかし、
「わからねーだろが! カイトは下級貴族だがこれだけ魔力量が豊富なんだぞ?! 聞いてみる価値はあるだろうが!」
ガスもまた、イグナスの勢いを正面から受け止め、さらにそれ以上の熱意を持って言い返す。
「それで⋯⋯⋯⋯どうなんだ、カイト?」
「「「「⋯⋯(ごくり)」」」」
ガスの問いかけに対する俺の返事に、他の四人もまた緊張した面持ちで耳を傾けた。
「結論から言えば⋯⋯⋯⋯可能性はあると思います」
「何っ!?」
「この世界では『魔力量』の増加には天井があるし、その天井もさほど高くない。まさにイグナスの言うとおりです。ただ、それは⋯⋯⋯⋯あくまで、この世界の魔力コントロールを前提とした常識の話です」
「え? それって、つまり⋯⋯」
「僕は、独自の魔力コントロールを行っています。そして、あくまで『仮説』ではありますが、そのおかげで『魔力量』と『魔力の質』が急激に向上したと思っています」
「「「「「え?⋯⋯ええええええええっ!!!!!!!!!!」」」」」
俺の言葉に皆が驚きの表情を浮かべる。まあ、当然だろう。この世界で生きていく上で重要な才能とは『魔力量』だからな。
「そ、そんな⋯⋯そんなバカなことがあるわけ⋯⋯あるわけねーだろが!」
イグナスは驚きと非常識な内容に期待する表情と、変な期待は絶望しか産まないからと否定しようとする表情の両方が混ざり合ったような困惑した顔と態度を示す。しかし、
「し、しかし! カイトの魔力量は下級貴族のそれより多いことはたしかです。そんな彼が言っていることであれば⋯⋯にわかには信じられませんが期待はできるのではない⋯⋯かと」
ディーノがそこで自己分析も交えた意見を口にする。すると、ザックがディーノの意見を賛同する形で入ってきた。
「お、俺もそう思う。同じ下級貴族なのに、ここまで尋常じゃないカイトの魔力量が元々の保有量ではなく、『僕らとは異なる魔力コントロールで増加した保有量』であるのなら、そのカイトの独自の魔力コントロールで他の人でも魔力量を増やせることはできるかもしれない。ていうか、そんなことが、もしも⋯⋯もしも本当に可能ならば、それはもはや歴史上においても類を見ない『偉大な大発見』と言っても過言じゃないっ!?」
ザックが『急激な魔力量の増加』が、もし本当に可能ならそれがいかに凄いことなのかを興奮混じりに語った。
そう⋯⋯そうなのだ。ザックの言った内容は何の誇張でもない。というのも『魔力量』とは、イグナスの言うように生涯を通して魔力増加の修行をしても、せいぜい『三倍』程度で頭打ちとなるのだ。そして、さらに『身分差による魔力量の差』は実に『十倍』以上もの開きがある。
結果、以上のことを踏まえると『身分差による魔力量の差』というのが、この世界で『いかに絶対的なものなのか』『いかに絶望的なものなのか』ということがわかるだろう。だからこそ、ザックの反応は至極当然なリアクションなのである。
そして俺もまた、この自分のやっている魔力コントロールが『いかに特殊なのか』は五歳の頃にレコと会話である程度想定はしていたので、うすうす感じてはいた。
「そ、そんなことが⋯⋯本当にできるのか、カイト?」
「わからない。まだ、あくまで『仮説』に過ぎないからね。だけど、やってみる価値はあると思うよ」
今、俺はイグナスに「まだ『仮説』に過ぎない」と話しているが、それ⋯⋯⋯⋯実は大嘘である。
本当はもうすでに、その先の実験を俺はやり終えていた。つまり、『俺以外の人がこの俺独自の魔力コントロールを身につけると魔力が急激に増えるのか』という実験だ。そして、その実験はすでに成功を収めている。
ちなみに、その実験を試した相手は⋯⋯⋯⋯まあ、それはまた今度話すとして、つまり、俺が言いたいのは『ほぼ間違いなく、イグナスの魔力量を急激に引き上げることは可能だ』ということである。
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