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第二章 騎士学園編

035「イグナス・カスティーノ」

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——ザックたちを舎弟にした次の日、俺は一日学校を休んだ。

 そして、その次の日の朝。

 ガラ⋯⋯。

「え⋯⋯っ!?」
「ちょ、ちょっと⋯⋯何あれ⋯⋯」
「ほ、包帯だらけ⋯⋯じゃない」

 そう。俺は右腕とひたいに包帯を巻き、あと頬にはガーゼを貼っていた。周囲がザワつく中、俺は自分の席へと向かう。すると、

「おい、カイト。どうしたんだ~、その顔は?」

 ザックが俺にニヤニヤしながら絡んできた。

「お、おはよう、ザック。あ、これは、その⋯⋯こ、転んだんだよ」
「な、なんだ~、転んだのか~。お、お前もドジな奴だな~⋯⋯は、ははは」
「う、うん⋯⋯」

 俺はザックに「おいザック! お前、セリフに気持ちがこもってないぞ! もっとしっかりやれっ!」とアイコンタクトでダメ出し&脅しをかける。

「⋯⋯ひっ!? ま、まあ⋯⋯次からは気をつけろよ~。あまり入学早々、派手に目立つとケガするってこともあるからな~」
「う、うん⋯⋯気をつけるよ、ありがとう」
「い、いいってことよ。じゃあ、また後でな⋯⋯」

 そう言って、ザックは席に戻った。

 おいおい、あいつ下手くそかよ! 全然、昨日と迫力が違うじゃねーか! これはアレだな⋯⋯放課後、ザックの奴に演技指導が必要だな。こんなんじゃ、周囲に演技がバレて⋯⋯⋯⋯って、あれ?

「お、おい⋯⋯やっぱりあれって⋯⋯あのカーマイン家の次男が⋯⋯」
「そうよ。ザック・カーマインよ。彼がやったんだわ⋯⋯」
「いや、でもそれ⋯⋯ザックは⋯⋯あいつ・・・に命令されてやったらしいぞ」
「え? あいつ・・・って?」
「イグナス様だよ! イグナス・カスティーノ様!」
「え?! あの上級貴族の!」
「何、お前知らないの?! ザックのやっているカーマイン商会のバックにはカスティーノ家がいてだな⋯⋯王都の子供教室ではイグナス様とザックの関係は有名だぞ」
「ば、馬鹿! やめろよ、お前! そんなのザックやイグナス様の耳に入ったら俺たちも目ぇ付けられるぞ!」
「⋯⋯だな。しかし、まあ、あのカイト・シュタイナーも可哀想だよな。入学早々⋯⋯」
「ああ、でも、俺たちじゃどうすることもできないしな⋯⋯あのカスティーノ家じゃ⋯⋯」

 野次馬諸君、ありがとう。

 思っていた以上に周囲はちゃんと俺の期待通りの反応を示してくれたか。

 これで「俺がイグナスの手下のザックにリンチされた」という噂が流れるだろう。とりあえず、予定通りに事が運んだので、放課後のザックへの演技指導は大目に見てやるか。

 俺は二日前、あの古びた屋敷でこれからの計画についてザックに話をしていた。


********************


——二日前 作戦会議

「いいか、ザック。段取りはこうだ⋯⋯」

 そう言って俺は、ザックに明日からの段取りを説明する。

「まず、俺は明日学園を休む。そして、次の日、包帯を巻いて登校する。そして、教室に入ったらザックが俺に声を掛ける。感じとしては⋯⋯」

 と、俺はザックに「昨日リンチしたけど誰にも言うなよ。あと、あまりに派手なことするとケガするぞ」的なイメージで声をかけろと指示する。

「え、ええ!? ど、どうして、わざわざ、そんなことを⋯⋯?」
「周囲に俺が『イグナスの手下であるザックにリンチされた』という印象を与えたいからだ。そうすることで、生徒の噂がイグナスの耳にも届くはずだ。そうすっとだな、次に⋯⋯」


********************


 そして、現在、俺の計画通りに事は順調に進んでいた。

——一時限目 終了

「おい、カイト・シュタイナー!」
「ん?」
「俺はBクラスの者だ。イグナス様がお呼びだ。すぐにBクラスに来い。あと、ザック⋯⋯お前もだ」
「おいおい、ついに呼び出しかかったぞ⋯⋯カイト。大丈夫か?」
「もちろん。すべて⋯⋯⋯⋯計画通りっ!(クワッ)」

 俺とザックはイグナスの手下にBクラスへお呼ばれされた。

 ガラ⋯⋯。

「!」
「うっ⋯⋯!?」

 Bクラスのドアを開けると、教室の右奥の窓際の席にふんぞり返る一人の男と、その男の少し後ろに四~五人ほどの生徒が立っていた。他の生徒は、見ないフリをしながらその男の席から離れた場所で静かに座っている。

「よぉ~、カイト・シュタイナー。随分な格好してるじゃねーか。魔獣でも狩りに行って返り討ちにでもあったか?」
「「「「「ぎゃはははははははははははははは!!!!」」」」」

 一人、席に座る異世界らしいライトグリーンの髪色をした、いかにもクソ生意気そうな男が声を掛け、その周囲で下品な笑いを振りまく手下連中。

「俺の名はイグナス・カスティーノ。カイト・シュタイナー、お前、これから俺の⋯⋯⋯⋯奴隷な?」
「⋯⋯」

 上級貴族カスティーノ家次男『イグナス・カスティーノ』が、下卑た笑みを浮かべながら俺に奴隷宣告をした。
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