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闇医者に相応しい断罪を
しおりを挟む「シャーロット・クラリスさん。 末期ガンですね」
私にそう告げたのは、レイブ・アメリア
私はレイブの診断に絶句したのです。末期の胃がんであり、複数に渡って転移していてもう手の施しようが無いという。
余命宣告の後、レイブは私にある提案を持ち掛けた。
「治療はハッキリ言って難しいでしょう。 ですが隣国に行けばまだ可能性があるかもしれません。 あの国は設備が整っていますからね」
「そうなんですか!? 私は治療の為ならどんなことでもしてみせます!」
治る可能性が少しでもあるのならと、小さな望みに託すしかなかった。
でも私はこの時までは知らなかったのです。
医者のレイブ・アメリアが、臓器売買を生業としている闇医者だということを。藁にもすがる思いを悪用するようなこの男に騙されて、医学と称して人殺しをしていたという事を後に知ることになりました。
ーー少しでも信じた私が馬鹿だったのです。
♦︎
「エミア・ローラン! 婚約を破棄する!!」
国王の都合により宮殿に呼び出されていた私は、様々な階級の貴族に笑者にされ、後ろ指を刺されながら婚約破棄の宣告をされた。
彼の名はメンディー・ゾルアス
貴族などではなく、一般庶民である彼は凄腕の名医である。
外科を中心に多種多様の難病や大手術を施し、そして治療するプロなのである。そんな彼のと婚約をしていたのだが、今回は余りに唐突であった。
婚約を締結してから一週間すら経っていないし、まだ式の話しすら煮詰まってなかったのですから。まぁ別に婚約破棄されても構わないのですけれどね。
今回、宮殿にお呼ばれされたのには理由がある。
その理由は、メンディー・ゾルアスは名前を偽り闇医者として手術と称して人を殺し健康な臓器を闇のルートで売り捌いている悪党である可能性が高いと国王からの命により、偽装で婚約しメンディーの素性を偵察して黒であれば断罪する様、頼まれているのだ。
その事実をこの宮殿内で追求出来れば、すぐにでも死罪にすることが出来るので国王にとってもこの宮殿に呼んだ意味はあるのだろう。そういう配慮も今の私には慣れてしまったようだ。
もういい加減に好きでもない人と婚約するのは嫌なんだけど、私のことは一切配慮しないみたいですね。
自分自身に可哀想と言ってやることしか出来なかった。
「婚約破棄とはどういうことですか?」
「そのままの意味だが? まさか言葉が伝わらない訳あるまいよ。 私は貴族ではない。 だが人々を守る医者なのだ。 婚約をしている場合ではないと悟ってしまったのさ」
「仕事熱心ですわね。 何か大きいことに携わっているのですか?」
「そうとも。 私は胃がんの末期患者を受け持っていてね。 隣国に行かなければ行けなくなったんだ。 婚約はあきらめてくれ!」
想定内のホラ吹きが始まった。
だが私は知っている。
メンディー・ゾルアスは、レイブ・アメリアと名を偽り闇医者として臓器売買を行なっている悪党だということを。この後に及んでこの大嘘つきは、また人を殺し臓器を売るカモでも見つけ国外逃亡でも図るつもりなのだろう。そんなことは断じて国王が、いや私が許してなるものか。必ず断罪し殺された人々の怨みを晴らすしか他はない。
ここで私は、ある揺さぶりをメンディーにかけることにした。多少なりにも顔に出てくれると良いのだけれどね。
「新しく臓器でも見つかりましたか?」
「ーー何!? 今なんと?」
動揺し、慌てのたまう姿はまさに滑稽であった。明らかに嘘つきの顔。その醜い醜態をみた私は、間違いなくメンディーが黒であると確信したのです。もう言い逃れはさせませんよ。
ニヤリと口角を上げて、私は更に挑発を加える。
「貴方のしていることは事前に国王から話しを聞いていたんです! 難しい臓器の移植手術をされるのですよね? 男性として魅力を感じます」
「ーーそ、そうなんだ! 難しい手術になるんだよ! だから婚約は諦めてくれ!」
まんまと引っかかってくれて、私は非常に助かったと言わざるを得ない。メンディーも意外と馬鹿なんだと思ったからだ。
人は嘘をつくと絶対にボロが出てしまうもので、例え医者でも例外では無いということであろう。順調過ぎて笑いを我慢するのが精一杯だ。
ここで私はとっておきを披露する。
その『毒』はメンディーの首元に喰らいつき必ず服毒させるだろう。
だったらいいでしょう。
私が華麗に断罪致します。
「貴方は闇医者のレイブ・アメリアで間違いありませんね!」
私はビシッと、人差し指を突き刺して真実の宣言をした。その真実の宣言によりレイブは、恐怖で顔を歪めて震え上がっていた。
ここで言い逃れをしようものなら、こっ酷く惨めな醜態を晒そうと私は決意を堅くする。
「ーーな、な、なんの話しだ!! 俺は知らない!」
「ふふ、国王から聞いた話し。 実は全部嘘なのです。 貴方が嘘をつくのを見破る為の、そんな嘘です」
「俺が嘘をついている証拠があって言っているんだよな? 虚言であれば幾ら貴族の娘だろうと懲罰ものだぞ!」
「ーー証拠があればよいのでしょ?」
これが最後になるのだろうと思うと、残念だが彼には罪を償って貰おう。偵察を頼んだとはいえ、私の家族を喰い物にしようとしたんですからね。
ーー私はあの男を絶対に許さない!!
「あるって言うのかい!? 馬鹿馬鹿しい!」
「勿論。 決定的な証拠なら」
メンディーは生唾を呑み込み、脂汗が止まらなくようでずっと私から視線を合わせたまま蛇に睨まれた蛙のように動かなくなってしまった。
ここで私は最後のとっておきを披露しよう。
とっておきとは、私の妹マリーである。
先日、マリーに健康診断と称してレイブ・アメリアに名前を偽り接触させていた。マリーが健康なことなどは、最初から分かっていたのでレイブの診断が嘘であるとすぐに見抜くことが出来て、そこから芋づる式に彼の素性がバレたのだ。
私は決定的な証拠をこの場に召喚した。
「来て下さいマリー」
「はい、お姉様。 どうしましたか?」
ひょっこりと顔を出した若い女性を見たメンディーは、気が動転し慌ててその場で尻もちをついてしまった。
無理もない。
ハメようとした女が実は、婚約者の妹だと今この瞬間発覚したのだ。言い逃れの出来ない状況にメンディーは、ぐうの音も出ないんでしょうね。
「お前は……」
「申し遅れました。 私 シャーロット・クラリス…… ではないんです。 お姉様の妹マリー・ローランです。 私を殺そうとしていたのですね。 最低です!」
「く、クソ女ぁ!! 俺をハメたのか!!」
宮殿内で彼の罪を暴露されたレイブ・アメリアは、態度が大きくなり言葉を荒げて叫んでいた。苛立ちを通り越した私は、彼の胸元に掴みかかり一喝した。
「よくも私の大切な家族を喰い物にしようとしましたね! 私は貴方を絶対に許さない! 今までに殺した人々を悔みながら処刑台の上で死になさい!!」
レイブに平手打ちをかますと、膝から崩れ落ちたかの様に地面に頭から倒れ、口から泡を吹き痙攣していたのです。
「服毒、致したようですわね」
パンッ! と広げた扇子を片手て閉じ込めて私は宮殿を後にした。
♦︎
ーーこれより後日談。
妹マリーを可愛いがりながら帰路についていると、私はお屋敷にサンブルク伯爵家からお便りが届いていたのでそれを読み上げる。
拝啓 陽春の候、闇医者への断罪において健闘して頂いたこと誠に立派であったと申し上げます。 平素は格段のご厚情を賜り、厚くお礼申しあげます。 末筆ながら、エミアお嬢様を筆頭にご多幸をお祈り申しあげます。
只今、私は闇医者の被害に遭われた遺族に犯人を突き止めたと連絡した後に、臓器売買のオークション会場を突き止めてその場を弾圧。そして闇医者の処刑を済ませて、今は被害者のお墓を供養しておりました。私も医者です。このようなことは絶対にあってはなりません。今一度精進し医療現場を誠実なものにしていきますね。
ところで、国王とはまだ進展がないのですか。あんなに溺愛されているのに、意味が分かりません。早く既成事実を作っちゃえばいいのですよ? 淡々と事を致せばよいだけです。 赤ちゃんが出来たら、私にいち早く連絡を下さい。
敬具 マリエル・サンブルグ
「うるさーい!! もういつもいつもなんなのよマリエルは!!」
「お姉様 今日も騒がしいですわね。 どうしましたの?」
「ーー何もないわよマリー?」
|(何もないような顔じゃないー!私が服毒してしまいますわ!)
呆れた私は、グレイを呼びつけていつものお茶会を始めたのらだけど考えることが山積みだ。
「国王のこと。 どうしましょうグレイ」
「お嬢様は国王に惚れてはいないのですか?」
「惚れるまではないけど良い殿方だとは考えています」
「であれば簡単ですね。 明日、国王とお二人でお茶をされて下さい。 お茶係は私が同行しますから」
もう逃げられないか。
逃げている場合でもない。
国王とは一度、この国の内政や今後についても話しておかねばならないことが沢山ある。この国に罪人が多いこと、私が婚約をして罪人の偵察しなければいけないこと。全部纏めて話しを練り直す必要があるからだ。
国王の話しをしようと思う。 私と国王の出会いの話しだ。
「今日も紅茶が美味しいですわね」
紅茶を飲み干して、私はグレイに照れ隠しをしてみせた。
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