上 下
7 / 15

すれ違う

しおりを挟む
 あたしは魔法の習得、ジグは剣の稽古でその後も会いに行く暇なんて全然無い。
 たまに時間を作ってもマリン様に先を越されてしまう。
 でもマリン様はあたしの所にも時々遊びに来て差し入れをくれた。

「甘いもの好き?勉強にはやっぱ糖分よねー」

 凄く高そうな紅茶に豪華なお菓子は、魔法の勉強に必死になっているあたしには凄く有難くて…。
 マリン様は、あたしが寝込んでいるときにもお見舞いに来てくれていたらしい。
 あまりにも辛そうだから部屋には入らず、花と精の付く飲み物を差し入れてくれていたそうだ。
 ジグも訓練の予定がぎっちり詰まっていたのでお見舞いこそ来れなかったが、お城に勤めている人にあたしの様子を聞いてたそうだ。
 
 でもこんなに親切にしてくれてる聖女様のことをちょっと恨みそうになったりして、自己責任でしかない疲れが溜まっていった。

 ――あたしがジグを好きな事、なんとなくわかるでしょ?
 ――なんでそんなにジグにべったりするの。あたしは全然話せてないのに。

 無理やり付いて来て、勝手に苦労して、挙げ句に優しい聖女様に向かってこんな卑屈な事を考えてしまっている自分に嫌気が差す。
 でも、どんなに感情を制御しようとしても仲良さそうなジグと聖女様の姿が焼き付いて離れない。

 あたしがしっかり魔法を使えるようにならなければ、このまま置いてかれてしまう。
 そうなると、ジグとマリン様で旅に…。
 見えない不安に急き立てられるようにあたしは魔法の練習をした。
 
 ジグの方は正式に選ばれた勇者ゆえか、短期間でめきめき実力を付けているって話が入って来る。
 あたしはアーノルドに助けられながら、なんとか使い物になるくらいに魔法が使えるようになった。
 そして訓練を終え、三か月が経過した頃。
 
 王様から直々に挨拶をされた後、大勢の王都の人々に見守られながら旅立った。
 
 身の回りの世話をしてくれる侍女さんが数人と、何十人もの兵士さんもお供に付いて来てくれたが、その人たちはマリン様とジグ様と訓練中に仲良くなった人たちばかり。
 ここへ来てもあたしは除け者ような気分を味わっていた。

 でも別に兵士さんたちもあたしに積極的に話しかけてくれたり気を遣ってくれたりして、別に不便があった訳じゃない。ただただあたしの気持ちの問題。
 せめてアーノルドがいてくれたらなあ。もうちょっと気が楽だったかも。
 
 大体ただくっ付いて来た村娘と聖女様と勇者様となれば扱いに差が生まれるのは当然だし。
 だからこそどうしようもなくて辛い。

 更に追い打ちで、侍女さんたちはジグとマリン様がくっついたら素敵なんて考えてそうなのだ。
 休憩や食事の時間には度々二人きりにしようとしている。

 あたしだって自分に無関係の話だったら、勇者と聖女が恋人になるなんてロマンチックって思ったかもしれない。
 けど、ジグは……。

「どうしたのアンヌ、ぼーっとして。もしかして調子悪い?」
「い、いえ!ちょっと考え事を…」

 あーあ。
 せめて、マリン様が嫌いになれるくらい嫌な人だったら良かったのに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

たとえこの想いが届かなくても

白雲八鈴
恋愛
 恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。  王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。 *いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。 *主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。

拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜

みおな
恋愛
 子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。  この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?

バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。 カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。 そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。 ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。 意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。 「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」 意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。 そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。 これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。 全10話 ※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。 ※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】婚約解消ですか?!分かりました!!

たまこ
恋愛
 大好きな婚約者ベンジャミンが、侯爵令嬢と想い合っていることを知った、猪突猛進系令嬢ルシルの婚約解消奮闘記。 2023.5.8 HOTランキング61位/24hランキング47位 ありがとうございました!

近すぎて見えない

綾崎オトイ
恋愛
当たり前にあるものには気づけなくて、無くしてから気づく何か。 ずっと嫌だと思っていたはずなのに突き放されて初めてこの想いに気づくなんて。 わざと護衛にまとわりついていたお嬢様と、そんなお嬢様に毎日付き合わされてうんざりだと思っていた護衛の話。

処理中です...