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疎外感
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魔法を使えるようになる薬を飲んでから二週間。
高熱とめまいと吐き気と頭痛が絶え間なく襲い掛かってくるので意識が朦朧とし、日常生活すらままならなかった。
アーノルドや侍女さんたちに助けて貰わなければ薬の効果よりも飲まず食わずで死んでいただろう。
やっと熱も落ち着きベッドから出られるようになったが、まだ足に力が入らない。
「どう?体に動かし辛い部分はある?指先とか、顔とか、足の指とか」
「ん……いいえ。まだだるいけど、動かし辛い所は無いわ」
「そうか、良かった…。熱も下がったし、あとは体の調子を整えながら魔法の使い方を覚えなくちゃね」
そうだ、やっと一山越えたというのにまだ次の課題があるんだ。
萎れそうになったところで、アーノルドが慰めるように優しく肩を叩いてくれた。
「勇者…ジグ殿が剣の練習のために稽古場にいるそうだ。見学しに行くかい?」
「良いの?邪魔になっちゃわないかな」
「見学するだけなら大丈夫さ。けど、絶対無理はしないこと。少しでも具合が悪くなったらすぐ僕に言うんだよ」
「うん!ありがとうアーノルド!」
落ちていた気分が一気に上を向く。
二週間もジグの顔を見ないなんて初めてで、なんだか凄く久しぶりに会うような感じ。村に居た時はお隣の家だったから、外出するだけで度々顔を合わせてたもの。
アーノルドが杖を持って来てくれて、それを支えに大きくて広いお城の廊下を進む。
途中でアーノルドに少し年下の婚約者が居て、アーノルドと結婚することを渋っているんだという話をした。
「仕事に没頭したら家に帰って来なさそうで嫌だって言われちゃったよ」と肩を竦めるアーノルド。婚約者さんは彼の事をよく見ているんだなと思った。
城の端まで歩くと、兵士さんたちが足場が砂場になってる、中庭の開けた場所で訓練をしている場所に辿り着く。
杖を付きながらなのでかなり時間が掛かった。もう城の中だけでうちの村より広いんじゃないのと心の中で愚痴を零す。
そこにはジグが素振りをしていて、あたしたちを迎えに来た例の厳つい隊長さんが横で時折喝を入れている姿があった。
(なによ、かっこいいじゃない)
兵士さんの訓練用の格好だろうか、皆で揃って簡易的な鎧を纏っている。
真剣な表情で剣を振るジグは、村の女の子たちがここに居たら頬を赤く染めながらきゃーきゃー言いそうな程凛々しい。
なんて客観視気取ってるあたしも、そのジグのかっこよさに心臓がどくどくとうるさい。
「そこに椅子があるから座って見学しようか」
「あ、うん。ありがとう」
アーノルドが日陰にある椅子まで誘導してくれて、そこに座ってジグに話しかけるタイミングを待つ。
叱られているような声とそれに対してジグのはい!という鋭い返事が何度も聞こえてきてはらはらしてしまう。
やっぱりお城で稽古を付けて貰うとなると物凄く厳しいんだろうな。
話しかけたいのと心配なのとでそわそわしている間に、お供を連れた女性が訓練中のジグに駆け寄って行くのが見えた。
「ジグ!」
「マリン様?」
ジグが名前を呼んだことで、駆け寄った女性がマリン様だとわかった。
いつのまに呼び捨てにさん付けになったのだろう。なんだか胸が苦しくなる。
「なんか偉い人たちからお菓子いっぱい貰っちゃったからお裾分けしに来たの!皆で食べて」
「マリン様、稽古中に突然来られては困りますと何度申し上げれば…」
「もーう、お菓子休憩くらい良いじゃない!」
「いいじゃないっすか隊長、優しい聖女様の頼みを断るなんて不躾ですよ」
「ねー?そうよねー?」
どうやらこういうことは日常茶飯事のようだ。慣れたように兵士さんたちがマリン様の周りに集まり、談笑し始めた。
隊長さんは納得いっていないようで、マリン様が持って来たお菓子を受け取らずに難しい顔で黙っている。
「はい、ジグの分」
「ありがとうございます。いつもすみません」
「どう?訓練捗ってる?」
「対人訓練は終えましたが、ここには俺より強い人ばかりなので…負けっぱなしで成果が出ている実感があまり感じられません」
「当たり前だっての!いくら聖女様に選ばれた勇者とはいえ、剣を握って二週間そこらの奴に負けたら俺らの立つ瀬がねえよ!」
「ったく、ちょっと練習したらすぐに勝てる気でいるのかこいつ」
「い、いえそういう訳じゃ!」
「そんな勘違い野郎には直々に稽古つけてやろうかなー?」
「あははははっ!皆いじわるなんだから」
すでに親しい人たち同士で出来上がっている空気。
あたしがいない間に、随分仲良くなったみたい。
呆然とそれを眺めていたら、アーノルドがあたしの視線の前に立って遮った。
「今日はもう帰ろうか。病み上がりで疲れてるだろ?また今度来よう」
優しい人。
婚約者の人、アーノルドは仕事の虫かもしれないけど、こんなに紳士でいい男よ。
アーノルドから差し出された手にそっと自分の手を添える。
高熱とめまいと吐き気と頭痛が絶え間なく襲い掛かってくるので意識が朦朧とし、日常生活すらままならなかった。
アーノルドや侍女さんたちに助けて貰わなければ薬の効果よりも飲まず食わずで死んでいただろう。
やっと熱も落ち着きベッドから出られるようになったが、まだ足に力が入らない。
「どう?体に動かし辛い部分はある?指先とか、顔とか、足の指とか」
「ん……いいえ。まだだるいけど、動かし辛い所は無いわ」
「そうか、良かった…。熱も下がったし、あとは体の調子を整えながら魔法の使い方を覚えなくちゃね」
そうだ、やっと一山越えたというのにまだ次の課題があるんだ。
萎れそうになったところで、アーノルドが慰めるように優しく肩を叩いてくれた。
「勇者…ジグ殿が剣の練習のために稽古場にいるそうだ。見学しに行くかい?」
「良いの?邪魔になっちゃわないかな」
「見学するだけなら大丈夫さ。けど、絶対無理はしないこと。少しでも具合が悪くなったらすぐ僕に言うんだよ」
「うん!ありがとうアーノルド!」
落ちていた気分が一気に上を向く。
二週間もジグの顔を見ないなんて初めてで、なんだか凄く久しぶりに会うような感じ。村に居た時はお隣の家だったから、外出するだけで度々顔を合わせてたもの。
アーノルドが杖を持って来てくれて、それを支えに大きくて広いお城の廊下を進む。
途中でアーノルドに少し年下の婚約者が居て、アーノルドと結婚することを渋っているんだという話をした。
「仕事に没頭したら家に帰って来なさそうで嫌だって言われちゃったよ」と肩を竦めるアーノルド。婚約者さんは彼の事をよく見ているんだなと思った。
城の端まで歩くと、兵士さんたちが足場が砂場になってる、中庭の開けた場所で訓練をしている場所に辿り着く。
杖を付きながらなのでかなり時間が掛かった。もう城の中だけでうちの村より広いんじゃないのと心の中で愚痴を零す。
そこにはジグが素振りをしていて、あたしたちを迎えに来た例の厳つい隊長さんが横で時折喝を入れている姿があった。
(なによ、かっこいいじゃない)
兵士さんの訓練用の格好だろうか、皆で揃って簡易的な鎧を纏っている。
真剣な表情で剣を振るジグは、村の女の子たちがここに居たら頬を赤く染めながらきゃーきゃー言いそうな程凛々しい。
なんて客観視気取ってるあたしも、そのジグのかっこよさに心臓がどくどくとうるさい。
「そこに椅子があるから座って見学しようか」
「あ、うん。ありがとう」
アーノルドが日陰にある椅子まで誘導してくれて、そこに座ってジグに話しかけるタイミングを待つ。
叱られているような声とそれに対してジグのはい!という鋭い返事が何度も聞こえてきてはらはらしてしまう。
やっぱりお城で稽古を付けて貰うとなると物凄く厳しいんだろうな。
話しかけたいのと心配なのとでそわそわしている間に、お供を連れた女性が訓練中のジグに駆け寄って行くのが見えた。
「ジグ!」
「マリン様?」
ジグが名前を呼んだことで、駆け寄った女性がマリン様だとわかった。
いつのまに呼び捨てにさん付けになったのだろう。なんだか胸が苦しくなる。
「なんか偉い人たちからお菓子いっぱい貰っちゃったからお裾分けしに来たの!皆で食べて」
「マリン様、稽古中に突然来られては困りますと何度申し上げれば…」
「もーう、お菓子休憩くらい良いじゃない!」
「いいじゃないっすか隊長、優しい聖女様の頼みを断るなんて不躾ですよ」
「ねー?そうよねー?」
どうやらこういうことは日常茶飯事のようだ。慣れたように兵士さんたちがマリン様の周りに集まり、談笑し始めた。
隊長さんは納得いっていないようで、マリン様が持って来たお菓子を受け取らずに難しい顔で黙っている。
「はい、ジグの分」
「ありがとうございます。いつもすみません」
「どう?訓練捗ってる?」
「対人訓練は終えましたが、ここには俺より強い人ばかりなので…負けっぱなしで成果が出ている実感があまり感じられません」
「当たり前だっての!いくら聖女様に選ばれた勇者とはいえ、剣を握って二週間そこらの奴に負けたら俺らの立つ瀬がねえよ!」
「ったく、ちょっと練習したらすぐに勝てる気でいるのかこいつ」
「い、いえそういう訳じゃ!」
「そんな勘違い野郎には直々に稽古つけてやろうかなー?」
「あははははっ!皆いじわるなんだから」
すでに親しい人たち同士で出来上がっている空気。
あたしがいない間に、随分仲良くなったみたい。
呆然とそれを眺めていたら、アーノルドがあたしの視線の前に立って遮った。
「今日はもう帰ろうか。病み上がりで疲れてるだろ?また今度来よう」
優しい人。
婚約者の人、アーノルドは仕事の虫かもしれないけど、こんなに紳士でいい男よ。
アーノルドから差し出された手にそっと自分の手を添える。
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