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第八話 悪魔を刈る者
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熱風を撒き散らしながら、鱗の怪物となった浅沼医師大きく右腕を振り上げ、一気に振り下ろした。
とてつもないスピードだ。
学は私のウエストに腕を伸ばし、抱え込む。そのまま右後ろに飛び退いた。
私たちがいたところにはクレーターのような穴が空いていた。
文字通り、浅沼医師は人知を超えた存在になっていた。
一言で言えば、やつは怪物だ。
「アン、ワルサーは持ってきているか?」
学は訊いた。
私のウエストから手を話す。少し名残惜しい。いや、今は怪物となった浅沼医師をどうするかだ。
「イエス、持ってきているわ」
私は言い、上着のボタンを外す。
私の豊かな胸の左脇のホルスターには愛用のワルサーがぶら下がっている。
「よし、アン。悪魔退治といこうか」
学はそう言うと鬼斬丸を抜刀した。
流れるような動作だ。
無駄というものが一つもない、美しい動作だ。
薄暗い病室の電灯の光を受け、鬼斬丸の銀の刀身は鈍く輝く。
学は床を蹴り、黒鱗の怪物にむかって駆け出す。
ひゅっという風切り音が鳴る。
次にがつんという鈍い音がした。
学は鬼斬丸で斬りつけたのだが、傷一つつけることはできなかった。
あれほどの苛烈な斬撃をもってしてもやつには毛ほどの傷をおわすことができないのか。
だが、学はあきらめることなく何度も斬撃をうちつける。
黒鱗の怪物は拳を小柄な学にむけて、叩きつける。
また床にあのクレーターが出現する。
学は紙一重で避けていた。
驚くべき学の身体能力だ。
「帝国陸軍屈指の剣客がこの程度なのか。はははっっ!!」
鱗の悪魔はあざ笑う。
「さてそれはどうかな……」
学は数歩下がり、怪物から距離をとる。
そして左足を引き、深く腰をおとす。なれた動作で納刀する。
「力を貸せ、朱天童子」
静かに学は言った。
「応よ」
どこからともなく不思議な声が聞こえた。老若男女が入り混じったような奇妙な声であった。
その声のすぐ後、学の紫色の瞳がらんらんと輝く。
「うおおっっ!!」
低い啼き声であった。それは鬼の啼き声であった。
裂帛の気合とともに学は病室の床を蹴る。
学の姿が消えた。
瞬きよりも早く、学は黒鱗の怪物に肉薄した。
「和泉斬鬼流抜刀術三日月!!」
学が叫び、鬼斬丸は理想的な弧を描く。
黒鱗の怪物の胸板が三日月の形に避けた。
おそらくだが、学はこの必殺の斬撃の道筋をつくるために何度も事前に攻撃していたのだ。
その傷口もすぐにふさがろうと肉がもりあがり、鱗が再生していく。
その傷口の向こう側にどくどくと脈打つ心臓が見えた。
「アン、今だ撃て!!」
学が指示する。
「Yessir!!」
私は答え、ワルサーの引き金を引いた。
ワルサーから発射された弾丸は傷口がふさがる寸前に着弾した。心臓から血飛沫をあげながら、黒鱗の怪物は後ろに倒れた。
血の池に倒れた怪物は人間の姿に戻る。
断末魔の表情を浮かべ、浅沼医師は絶命した。
その口から不気味な鱗の虫が這い出る。
学はその虫をべちゃりと軍靴で踏み潰した。
とてつもないスピードだ。
学は私のウエストに腕を伸ばし、抱え込む。そのまま右後ろに飛び退いた。
私たちがいたところにはクレーターのような穴が空いていた。
文字通り、浅沼医師は人知を超えた存在になっていた。
一言で言えば、やつは怪物だ。
「アン、ワルサーは持ってきているか?」
学は訊いた。
私のウエストから手を話す。少し名残惜しい。いや、今は怪物となった浅沼医師をどうするかだ。
「イエス、持ってきているわ」
私は言い、上着のボタンを外す。
私の豊かな胸の左脇のホルスターには愛用のワルサーがぶら下がっている。
「よし、アン。悪魔退治といこうか」
学はそう言うと鬼斬丸を抜刀した。
流れるような動作だ。
無駄というものが一つもない、美しい動作だ。
薄暗い病室の電灯の光を受け、鬼斬丸の銀の刀身は鈍く輝く。
学は床を蹴り、黒鱗の怪物にむかって駆け出す。
ひゅっという風切り音が鳴る。
次にがつんという鈍い音がした。
学は鬼斬丸で斬りつけたのだが、傷一つつけることはできなかった。
あれほどの苛烈な斬撃をもってしてもやつには毛ほどの傷をおわすことができないのか。
だが、学はあきらめることなく何度も斬撃をうちつける。
黒鱗の怪物は拳を小柄な学にむけて、叩きつける。
また床にあのクレーターが出現する。
学は紙一重で避けていた。
驚くべき学の身体能力だ。
「帝国陸軍屈指の剣客がこの程度なのか。はははっっ!!」
鱗の悪魔はあざ笑う。
「さてそれはどうかな……」
学は数歩下がり、怪物から距離をとる。
そして左足を引き、深く腰をおとす。なれた動作で納刀する。
「力を貸せ、朱天童子」
静かに学は言った。
「応よ」
どこからともなく不思議な声が聞こえた。老若男女が入り混じったような奇妙な声であった。
その声のすぐ後、学の紫色の瞳がらんらんと輝く。
「うおおっっ!!」
低い啼き声であった。それは鬼の啼き声であった。
裂帛の気合とともに学は病室の床を蹴る。
学の姿が消えた。
瞬きよりも早く、学は黒鱗の怪物に肉薄した。
「和泉斬鬼流抜刀術三日月!!」
学が叫び、鬼斬丸は理想的な弧を描く。
黒鱗の怪物の胸板が三日月の形に避けた。
おそらくだが、学はこの必殺の斬撃の道筋をつくるために何度も事前に攻撃していたのだ。
その傷口もすぐにふさがろうと肉がもりあがり、鱗が再生していく。
その傷口の向こう側にどくどくと脈打つ心臓が見えた。
「アン、今だ撃て!!」
学が指示する。
「Yessir!!」
私は答え、ワルサーの引き金を引いた。
ワルサーから発射された弾丸は傷口がふさがる寸前に着弾した。心臓から血飛沫をあげながら、黒鱗の怪物は後ろに倒れた。
血の池に倒れた怪物は人間の姿に戻る。
断末魔の表情を浮かべ、浅沼医師は絶命した。
その口から不気味な鱗の虫が這い出る。
学はその虫をべちゃりと軍靴で踏み潰した。
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