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しおりを挟む「日高、……日高、そろそろ起きないと間に合わないよ」
軽く肩を揺すぶられ、意識が浮上する。
疲れて重い瞼を上げると珍しく髪をセットした幸が視界に入った。
長めの前髪は全て後ろにラフな感じで撫で付けられていて、スタンドネックの白シャツにクリーム色のセーターがよく似合う。
前髪を下ろしているいつものアイドル風も好きだが、かき上げているのも色っぽくてすごく良い。
俺が同じスタイルにしたら七五三だな、と若干のやっかみを感じつつ、眼福眼福、とぼんやり見つめていると、幸は目を細めて俺の頭を撫でた。
「良かった。この頭、日高の好みみたいだね」
「……俺の……?」
「そうでしょ? そんなにじぃっと見てくれるの、久々だもん」
笑う幸の目に責められているようで、何度か瞬きしてからハッとして目を逸らして起き上がった。
「す、すみません」
「なんで謝るの?」
ベッド横の目覚まし時計を見ると、もう二十三時三十五分だった。
今夜は大晦日。
ユキト波田夫婦──出退勤時にたまにマンション内で会う度ユキトへの愚痴に見せかけた惚気を吐く波田に、最近ではもうカップルを通り越して夫婦にしか見えなくなった──に近くの神社へ二年参りに行こうと誘われていたのだが、あまりの疲労に時間ギリギリまで寝させてもらったのだ。
仕事の疲れではない。二十九日には無事仕事納めをして、昨日今日は家から一歩も出ていない。
なのにどうして疲れているのかと言えば。
「日高。こっち見て。好きなだけ見ていいんだよ?」
ベッドを降りて身支度を整えようとする俺の顎下を鷲掴み、強引に目線を合わせてくる幸の唇を見て一気に顔が熱くなる。
この二日、そう、ほぼ丸二日、俺は幸に身体を弄り回されていた。
内側も外側もふやけるほど舐められて、干からびるかと思うくらい色んな体液を出させられ。起き上がる体力も無くすほど延々責められて、抵抗出来ないのをいいことに何度か幸の口に放尿させられもした。上手く飲めなくて咳き込んで吐いた幸を見て湧いたのはただただ死にたくなるほどの羞恥心で、俺にはそういう趣味は無い、と確信した。
「こ、幸、もう、これ以上は」
「ん? これから初詣行くんだから、今からはしないよ?」
今から『は』。
帰ってきたらまたするのか、と察して顔が引き攣る。
性処理ならまだ良かった。俺で幸の相手が出来るならいくらでも奉仕したい。けれど、どれだけ俺をよがらせようが幸の性欲が俺に向くことはない。
幸がしているのはただの八つ当たりのストレス解消だ。
好きな人に会えないストレスと、好きな人は自分のことなど眼中に無く、おそらくは今頃恋人と仲良く過ごしているというストレスと。それらを遠慮無くぶつけて発散する方法として、俺が利用されているだけ。
わざわざ一緒に初詣に行って仲睦まじい彼らを見に行くような真似をしなければいいのに、どうして自分で自分を傷付けるような真似を……と考えてから、自分も人の事を言えた義理ではないな、と思考を切った。
「用意しますから、……離して下さい」
おそらくは俺の反応で自分の魅力を再確認して自信を付けたいんだろう。少しでも好きな人に良く思われたいのは理解出来るが、俺の好みが好きな人とかけ離れていたら意味がないのに。
幸の手をやんわり剥がそうとして、けれどガッチリ掴んできていて叶わない。
「幸」
「キスしてくれたら離す」
え、と硬直した俺の顔に間近まで寄ってきた幸は、拗ねたような表情で「日高からしてくれた事ないじゃん」とキスを強請ってきた。
「いや、あの……それは、まだ、恥ずかしいので」
「キス以上のこと散々したのに?」
「……それでも、です」
勝手に赤くなる頬を止めることは出来ず、けれどそれを見て幸は肩を竦めて手を離してくれた。
恥じらっているからキスが出来ないわけじゃない。けれど、恥じらうフリをすれば幸はそれ以上無理強いしてこない。
優しいところはいつまでも変わりない、と思いつつ、ベッドから降りてクローゼットを開ける。
どうせ俺はオマケだ。暖かければいいだろう、とボトルネックのスウェットとダウンコートを出そうとしていると、後ろから伸びてきた手がそのどちらも取り上げてしまった。
「幸?」
「俺が格好つけてるんだから、日高もおめかししてよ」
代わりに渡されたのは白の裏ボアセーターと濃茶のノーカラーコート。どちらも俺のじゃなく幸の物だ。
新居に越してから少しずつ服を増やした幸は、今ではもう俺が買った量販店のロンTなんか部屋着でしか着ない。
ここ数ヶ月は俺からの小遣いも受け取ってもらえなくなってしまって、着々と幸は『普通の大人』になりつつある。
「……寒そうなので、マフラーを巻いてもいいですか」
サイズは問題無いだろうが、上も下も幸の服だと窒息しそうだ。
せめて一つくらい自分の持ち物を、といつも通勤に使っているマフラーを出そうとしたのだが、即座に却下された。
「ダメ。寒そうなら下に重ね着して。それか手袋貸してあげるからそれ着けて」
どうやら好きな人の居る場に連れて行く俺がダサいのは許せないらしい。あの二人には普段から飾り気も何もない格好を見せているんだから今さらな気がするが、恋する人間にとっては些細なことでも気になるんだろう。
スウェットの下に極厚の肌着を重ねたうえで手袋を貸してもらうことにして、寝癖の付いているだろう髪を整えに洗面所へ行こうとすると、慌てて幸が付いてきて「俺がやるから!」と居間のローテーブルの前に座らされた。
「髪型までキメなきゃ駄目なんですか?」
「新年一発目なんだから綺麗にしていった方がいいでしょ」
ワックスと櫛を持った幸に頭を弄られ、寝て起きた直後なのにまだ気怠い腰を撫でる。
「あんなにしたのに、もう欲しいの?」
「っ、違います!」
延々と指を出し入れされて擦られたソコは熱を持ったようにじんわり熱く、座っていると違和感で身体がむずむずしてくるだけだ。
さすがにこれ以上遊ばれるのは御免だと全力で否定すると、幸は口角を上げて「まだまだ休みはあるからね」と言った。
まさか、連休中ずっとする気なのか。空笑いするが、俺の髪を丁寧に梳かす幸から冗談だよという答えは返ってこない。
「幸、あの、これ以上は本当に身体が保たないので……」
言い掛けた所で、ピンポーン、とチャイムの音が鳴った。
居間の壁掛け時計を見上げれば、四十五分。目的地までは歩いて十分ほどだが、同じように初詣客で列が出来ているだろうから、お参り出来るのは新年が明けてからになるか。
「行きましょうか」
「待って、まだ完璧じゃない」
「俺を完璧にしたって幸の足下にも及びませんし、暗いんだからそこそこでいいですよ」
寒い中待たせるのは悪いのでもう出ましょう、とちまちま俺の髪の毛先を摘まんで捻っていた幸を宥めて立ち上がる。
「日高はもっと自分の見た目に気を遣うべきだと思う」
「十分遣ってるつもりですが」
「清潔感全振りじゃなくて、もっとお洒落的な意味で」
「必要性を感じないですねぇ」
「感じてよ、俺の彼氏なんだから」
「…………………………はあ」
一瞬ドキッとして、それから今日は『そういう設定』なんだろう、と自分の心を落ち着けようとする。
幸の彼氏。俺が。
きっと、波田さんかユキトか、どちらかに自分を意識してもらう為の策なのだろう。確かに、相手が少しでも自分に気があれば嫉妬の火種になる。よくある駆け引きの一種だ。
居間から玄関までの短い廊下を歩く数秒間がひどく長い。
仕方ない、仕方ない。俺はそういう存在として傍に置いてもらっているんだから。
視界が白黒に歪むような目眩がしてきて、しばらくしたらまた偏頭痛がくるな、と静かにため息を吐く。
「ばんわー」
「こんばんわ、ヤス、日高さ、ん……」
靴を履いて玄関ドアを開けると、今日も夜道を歩くのに便利なくらい眩いユキトと波田さんが立っていた。
夜闇に紛れられると思っているのか二人が手を繋いでいるのを見て、そんなに見せつけないでやってくれ、と複雑な思いで俺も「こんばんは」と返したのだが、何やらユキトは俺を見て目を丸くした。
「……あの?」
「え、日高さん、その格好で行くの?」
何度か波田さんと顔を合わせるうち、筑摩と苗字で呼ばれるのは好きじゃないと言ったら、いつの間にかユキトも俺を名前で呼ぶようになっていた。
マンション内で見掛けても向こうから話し掛けてくることは滅多に無いが、以前のように完全に敵視されることは無くなったと思っていたのだが。
「変ですか?」
幸が見繕ったのだ、そんなにおかしいという事も無い筈なのに、ユキトはまるで俺がこの格好で外出するのは非常識だとでも言いたげなほどあからさまに顔を顰めている。
そんなに俺が同行するのが嫌なら、連れてくるなと事前に幸に言えば良かったのに。
「変っていうか……」
「日高はこれでいいのー」
口ごもるユキトに、横から俺の腕に抱き付くように幸が口を挟んできて「ほら行くよ」と俺の腕を引っ張った。
「あの、お邪魔なら俺は遠慮しますが」
「違う違う。ユキトは気にしなくていいから」
「いや幸、お前それもしかして」
「ユキト~、余計なこと言うとこの前のこと波田さんにバラすよ~」
幸がすれ違い様にユキトに耳打ちすると、彼は顔を引き攣らせて口を閉じた。
セーターとコート、黒のスキニー。再度見下ろしてみても、特におかしな点は無い。服装に問題が無いということは、やはり俺自体が嫌なんだろう。
ただでさえ気が向かない場なのに、歓迎されていないとなれば更に億劫だ。
初詣に行くのは数年ぶりだとはしゃぐ幸は可愛らしいが、後ろについてくる二人がこちらに聞こえないよう声を落として会話するのに胃がキュウキュウ痛んでくる。
さっさと行ってさっさと帰ってこよう。
そう決めて幸やユキトが話すのに適当に相槌を打ちつつ神社に着くと、予想外に人がごった返していた。
普段は前を通り掛かっても参拝の人っ子一人見ないような小さな神社なのに、今夜は神社の外までずらりと人が並び、商店街へ続く歩道には露店まで出ていて、警察官が車と歩行者が事故らないように横断の誘導までしている。
「うわー、すごい人」
「うん、ここ地元民が来る神社だからね。都外からの人とか若い子はもう一駅先のおっきい神社の方に行くから、これでも穴場な方だよ。並んでから一時間くらいで参拝出来るし」
ユキトも波田さんも当然のような顔をしているが、田舎育ちの俺はそれを聞いて帰りたくなった。
近所の神社で初詣、に列なんか出来無かった。何せ人自体が少ないから、二十一時くらいから近所の男衆が集まって鍋で甘酒と日本酒を煮始めて、それを呑みながらちらほらと来る参拝客に振る舞って雑談するような、そんな感じだったのだ。
正直、今の疲労具合で一時間も牛歩の中で立ちっぱなしは辛い。やっぱり来るんじゃなかったな、と思いつつも四人で参拝列に並んだ。
元気に喋るのは専ら幸とユキトだけで、俺と波田さんは相槌を打つ程度。だからか、気が付けば前後が入れ替わって、そのうえ別のルートからの参拝列もあったのか社がすぐ目の前になる頃には列が合流して押しくら饅頭のような様相になっていた。
「うっ……苦し……」
「日高さん、大丈夫ですか。こっちこっち、とりあえずはぐれないように俺のコート掴んどいて下さい」
「すみません、そうさせて貰います」
人が多すぎて幸とユキトを見失い、探そうとして波田さんとすらはぐれそうになったので有り難くコートを掴ませてもらうことにした。
「ここまで来たんで、お参りだけはして行きましょう。あいつら探すのはそれからで」
「はい」
いつの間にか押されに押された所は鈴の前で、ちょうど前の人がはけたので二人並んで鈴を鳴らし、二礼二拍してから手を合わせる。祈る内容はもう決めていた。
──幸が幸せになれますように。
波田さんとユキトを見ている限り、彼らが近いうちに破局するとは考えにくい。だから今の幸の恋を応援することは出来ないけれど、人を好きになれるようになった幸なら、そのうち別な相手を好きになれるはずだ。
だから、長期的な意味で、限りなく広い意味で、幸せになれますように。
幸が幸せなら俺も幸せだから、一個の願いで二人分叶ってお得だ。
最後にもう一度礼をして、それからまた波田さんのコートを掴んで列から横に逸れた。
おみくじを引く人と、破魔矢やお守りを買う人、神社の外へ出て行こうとする人らがそれぞれの方向にてんでバラバラに進もうとする人波に揉みくちゃにされ、歩道の辺りまで出てきた頃には脱水された後の洗濯物になったような気分だった。
「大丈夫ですか」
「はい……」
さすがに疲れて塀にもたれ掛かって一度休ませてもらうと、波田さんは気まずそうな表情で首に掛けていたマフラーを外し始めた。
「あの、他人の体温とか気になるタイプじゃなければ、これ」
「え? えっと、そんなに寒くないですよ。下に厚着してきたので」
ふわふわした手触りの暖かそうなマフラーを巻かれそうになり、大丈夫です、と遠慮しようとするとぐっと波田さんの顔が間近に寄ってくる。
驚いて彼を見ると、気遣うように小さく「首、すごいです」と囁いてきた。
「首?」
「キスマークが……。呪いかってくらい、びっしり」
「キッ……びっしり!?」
「びっしりです」
思わず首を撫でるが、下を向いても視界に入るのはギリギリ鎖骨の下まで。
首をびっしり埋め尽くす鬱血を想像して思わず「こわ……」と呟くと、波田さんは大きく頷きながら俺の首を覆い隠すようにマフラーを巻いてくれた。
「やっぱあいつ、言ってなかったんですね」
「あいつ?」
「ヤスでしょう、それ付けたの。そんな状態で平気な顔で外に出られるのはおかしい、ってユキトと話してたんですよ」
言われて初めて、それを付けた相手が幸しかいないことに気付く。「ナンパ避けにしてもやり過ぎですね」と苦笑する波田さんになんとか俺も苦笑を浮かべ「そもそも付ける相手を間違ってますしね」と返した。
「……どういう意味です?」
苦笑いから数度瞬きしたあと真顔になった波田さんに、良い機会だから訂正しておこう、と肩を竦めた。
「すみません、訂正しそびれてしまっていたんですが、俺と幸は付き合ってなんかないんです」
「え?」
「幸には他に好きな相手がいるみたいで。……俺はたぶん、その人の代わり、ですかね」
客観的に説明するとひどく自分が滑稽に思える。
いや、事実滑稽なのだ。見ないように、考えないようにしてきただけで、俺が甘んじている状況は、普通ならよくもそんな実の無い事をと顔を顰めるようなものだろう。
真実を聞かされた波田さんも狐につままれたような表情で黙りこくってしまった。
気持ちは分かる。なんと言っていいか、俺だってきっと逆の立場なら掛ける言葉が見つからない。
「日高さん、それは」
「あーっ! やっと見つけた! 日高! ひだか~っ!」
人混みの中から飛び出してきた幸が俺の名前を呼びながら走ってきて、可愛らしい姿に目を細める。
いつ見ても幸は世界で一番可愛い。俺を好きじゃなくても、そんな些末なことでそれが変わることはない。
「びっくりしたよー、気が付いたら日高いないんだもん。ちゃんとお参りした? おみくじ引いた? お守りは……」
どうやらはぐれてからも初詣をしっかり堪能してきたらしい幸とユキトがこちらに来るので、俺たちもと歩き出すと、やおら幸がスッと顔色を変えた。かと思えば、走り寄ってきた勢いのまま俺の首元を掴み、巻かれていたマフラーを剥ぎ取っていく。
「波田さん、余計なことしないで」
一目見ただけでそれが波田さんの物だと分かったのか、丸めたそれをすぐさま波田さんの胸に押し付けた。
「ヤス。それ見られて歳の割に非常識だと思われるのは日高さんなんだぞ」
「余計なお世話だよ。……日高に言ったの?」
眦を釣り上げた幸は波田さんに食ってかかる勢いで、慌てて間に入ろうとすると幸に二の腕を掴まれた。
「イッ……」
「日高。それ、隠したいの? 恥ずかしいから波田さんにマフラー借りたの?」
薄暗がりでも分かるほどキツく睨み付けられ、落ち着いて下さい、と食い込む指を撫でながら首を横に振る。
「幸。俺が幸のすることを嫌がると思いますか。マフラーは俺が寒がっているのを見掛けて波田さんが貸して下さっただけです。もっと重ね着してくれば良かったですね」
こんなに寒いと思いませんでした、と笑ってみせると、幸はゆるゆると表情を緩め、そしてぎゅっと抱き付いてきた。
「日高~……」
「こ、幸っ。ここ、外ですよ」
「うん、ごめん。急に怒ってごめんね、日高」
俺に謝った幸はすぐに身体を離し、それからまた笑顔を浮かべて露店の方を指差した。
「階段降りてくるときに、あっちに樽酒売ってるのが見えたんだ。お酒呑めばきっと身体温まるよ。行こ?」
「はい」
何か言いたげな波田さんの視線をあえて気付かないフリで受け流し、手を繋いで出店へ誘う幸に付いていく。
同情されたくない。──ましてや、幸の本命なんかに。
「幸」
「ん~?」
「すみませんでした。波田さんの物を、俺が身に着けて」
後ろについてくる二人に聞こえない声量で話し掛けると、幸は一瞬不愉快そうに顔を顰め、けれどすぐまた笑顔を作った。
「いーよもう」
吐き捨てるような言い方に、やはり、と確信を強める。
ユキトの方が本命なら、せっかく二人きりになれたのにこんなに早く合流しようとしない。本命が波田さんだから、探して合流してから出店の方に行きたかったんだろう。
加えて、波田さんのマフラーを着けた俺へ怒ったこと。好きな人からマフラーを借りる、なんてシチュエーション、羨ましいに決まってる。怒って当然だ。
「二つくださーい」
「はいよ」
隣に甘酒の店があるからか女性や子供はそっちに並んでいるようで、樽酒の前で呼び込みをしていた店員に幸が声を掛けるとすぐに紙コップになみなみ注がれたのを渡された。
新年だからか景気が良いのはいいことだが、これでは少し減らさないと持ち歩けない。
その場でくいっと半分ほど飲むと、疲れている所為かくらりと目眩がした。
「……っと」
「わ、日高、大丈夫?」
よくなる世界が数センチずつズレては戻るような目眩と違って、ぐるりと視界が回るような感じで、よろけたところを幸に支えられて恥ずかしい。
「すみません。あまり日本酒は飲み慣れてなくて」
「日高、もしかしてお酒弱いの? だったら甘酒の方にすれば良かったね」
「いえ、そんなに弱いわけでは……」
ビールと同じようなつもりで飲むものではなかったらしい。
喉が熱い、と一気に火照った頬を手で扇いでいると、酒を注いでくれた中年の店員が見苦しいものでも見たように顔を顰めているのに気付いて慌てて幸から距離を取った。
「日高?」
「すみません、……あ、波田さんたちは甘酒の方に並んだんですね。買い終わるまで、向こうで待ちましょうか」
自分の首元がどんな状態か、そしてその有様で男と密着していたら他人からどう見えるか。俺が蔑まれるのは別にいい。が、幸まで一緒にされるのは駄目だ。
足早に露店から離れてひとけのない方へ向かいながら、すれ違う人の目がどれも俺の首を見ている気がして俯きがちに唇を噛む。
「日高! 待って、日高……っ!」
違う。違うんです。幸は俺をこんなに愛してない。呪いかと思うほど思われているのは俺じゃないんです。この綺麗な男は俺の物なんかじゃないんです。
俺を見る全員へ言い訳して回りたい気分で、とにかく露店の照明が届かない端の端まで行こうと人を掻き分けて進んでいたら、気が付けばすっかり幸とはぐれてしまっていた。
ざわめく人集りを他人事のように眺め、思い出したように息を吸う。
……このまま帰ってしまってもいいかな。
手に持ったままだった紙コップの酒を飲むと鉄くさい味がした。唇を舐め、歯で噛み切った所がジンジンと痺れるのをまた酒で潤す。痛い。それでいい。痛みがあれば考えが纏まらない。まともな思考力なんて今は欲しくなかった。
「……何やってるんだ、俺」
しばらく歩道沿いの縁石に座って酒を呑んで待っていたが、幸が来る様子はない。
初詣に行く人がまばらに目の前を通っていくが、酒片手の明らかな酔っ払いの俺を見ても新年だからか誰も気にも留めないようだ。
家まで一番近いのはこの道しかない。ここで待っていればそのうち幸も追いつくと思っていたが、……もしかしたら、波田さんたちの所へ戻ったのかもしれない、と遅ればせながら気が付いた。
スマホを探してコートのポケットを探ったが、そういえば出がけは急いでいたから家に忘れてきたらしかった。
家の鍵を持っているのは幸だし、迷子になったらとにかくその場から動かないのが鉄則だ。三人が戻ってくるまでここにいればいい、と決めてちびちびと酒を進める。
酔いのおかげで寒くはなく、どころか厚着のおかげで汗ばむくらいだ。
たまに吹く風が気持ちいい、とウトウトし始めていると、一度前を通って行った足が戻ってきて声を掛けてきた。
「おにーいさん、大丈夫?」
心配して声を掛けてくれたようだ。
顔を上げ、にこ、と笑って「大丈夫です」と答えるが、何故か男は俺の前にしゃがんで下から覗き込むようにしてくる。
「酔っ払いってみんなそう言うんだよねー。名前言える?」
「……筑摩、日高」
「日高さんね。年齢は?」
「にじゅう、よん」
「家はこの辺?」
「そうです」
「うん、ちゃんと大丈夫そうだね」
にかっ、と犬歯を見せて笑う童顔に、そうでしょうとも、と胸を張った。
「俺、トウマ。二十歳。よろしく~」
「はあ、よろしくお願いします」
ぎゅ、と勝手に手を握られ、随分フレンドリーな子だな、と苦笑する。
歳は四歳しか違わないが、まだ学生なのか雰囲気が若々しい。明るい茶髪は短く、耳には無数のピアスが付いている。今も昔も、あまり関わりのないタイプだ。
見慣れない容姿をぼんやり眺めていると、トウマと名乗った男は握手していない方の手の中の紙コップの中を覗き、「残ってるの飲んじゃいなよ」と言った。
「え、あぁ……」
「へーい、一気して、一気して~っ」
「一気も何も、残りなんてほとんど無いですよ」
「細かいことはいいのー。へい、一気、一気」
軽いノリで急かされ、仕方ない、と残りを飲み干すとぐらりと地面が揺れるような感覚になった。
「だいじょぶー?」
「ええ、すみません……」
「ツレ待ち?」
「ツレ? ……えっと……ええ、そうです。友人たちと、はぐれてしまって……」
握手で握った手を引いてもらったおかげで地面に倒れることはなく、けれどほんの僅かがトドメになってしまったのか、ふわふわと世界がうねり始めた。
額にトウマの冷たい手が乗って、熱い身体に心地良くて目を細める。傾いだ俺の身体を支えるように横に座ってきたトウマは、俺の手から紙コップを抜き取って握り潰すとその辺にポイと投げ捨てた。
「あ、こら、不法投棄……」
その辺にゴミを捨てる人間を初めて目の当たりにして、驚いて拾いに行こうとしたのにトウマはさしたる罪悪感も無さそうな態度で俺の手を離してくれない。
見知らぬ酔っ払いより、平気でゴミをポイ捨てする自分の倫理観を心配した方がいい。
俺が嫌悪感丸出しに睨み付けると、トウマは肩を竦めて地面の紙コップを摘まみ上げ、俺のコートのポケットの中に押し込んだ。
「分かった分かった、ほら、拾ったでしょ。これでいい? ……それより、ツレの人一緒に探そ? 立てる?」
「いや、ここで待ってればそのうち……」
「来る前に倒れちゃ大変でしょ。ほら、一緒に探してあげるから。歩ける? 肩貸してあげるから立って立って」
酔いのせいで頭の回転が遅く、トウマの申し出を断りたいのだが呂律が回らない。
片腕を引っ張り上げるようにして持ち上げられて、膝に力が入らずよろけると腰に腕が回ってきた。
すり、と撫でる掌の動きが意味ありげに感じて身を捩るが、トウマは「はいはい、暴れないでねー、迷子の可愛いおにーさん」と笑うだけだ。
「あの、ほんとに大丈夫なので」
「本当~? じゃあ俺の名前は?」
「トウマさん……でしょ」
「あー、いいね、『さん』付け。周りにあんまいない感じで新鮮。……ほんと美味しそ」
唇を舐めながら笑う表情に、何故だか悪寒がしてトウマの胸を押す。
「本当に、大丈夫ですから……」
「日高!」
善意は有り難いが本当に必要ないので、と遠慮がちに離してくれるよう頼む俺をトウマは引き摺るように歩き出し、けれど露店が立ち並ぶのとは別方向の路地へ入ろうとした所で背後から幸の声がした。
「幸、……あ、友人です」
振り返って幸を見つけてからトウマに視線を戻すと、彼は小さく舌打ちして、けれど笑顔のまま幸の方へ向き直った。
「あー、良かったですねぇ、早速見つかって。じゃ、俺はもう行きますから」
「え、あ、はい」
軽く突き飛ばされるようにトン、と背中を押され、ふらつきながら数歩行った所で幸に抱き留められる。
振り向いた時にはもうトウマは雑踏の中に消えていて、急に現れて急に消えて行ったな、と首を傾げた。
「日高、今の誰?」
「えっと……、俺が酔ってるのを心配して、一緒に幸たちを探してくれるって」
酔いからくる眠気で瞼が重く、目を擦りつつそう答えると幸は路地と露店を順番に指差した。
「日高が今行こうとしてたのはこっち。俺が今来たのはあっち。……どういう意味か分かる?」
「……?」
幸の指が動くのを見つめて考えようとするが、幸が何を言わんとしているかまで辿り着けない。ふわふわした頭を振ってみると、ぐらっと大きな目眩がしてもっと悪化したような気がする。
「すみません……。意味、というのは……?」
幸の胸に寄り掛かりながら訊ねると、幸は眦を釣り上げて「日高はどうしてそう……」と顔を歪めた。
怒らせたらしい、というのは表情で分かった。慌てて寄り掛かるのをやめて謝ろうとするが、俺の手首を掴んだ幸は踵を返して家に向かう道へ歩き始めた。
「幸、あの」
「帰るよ」
「……波田さん、たちは」
「日高見つけたら先に帰るって言ってきた」
「…………、すみません……」
せっかく新年を好きな人と過ごせる筈だったのに、俺が身勝手な行動に出たから幸の楽しみを奪ってしまった。
早足で歩く幸に縺れる足で必死でついて行きながら、どうして俺はこうなんだ、と泣きそうになる。
幸の邪魔をしたいわけじゃなかった、と言って信じてもらえるだろうか。……いや、あっそ、と流されて終わりだろう。俺の信用度なんて所詮その程度だ。それも自業自得。過去に積み重ねてきた俺の言動がそう思わせるのだから仕方ない。
家に帰り着き、玄関のドアを閉じるやいなや幸は俺の首の後ろを掴んで唇を合わせてきた。
「……っん」
さっき自分で噛み切った下唇の傷口を舐められ、微かな痛みとくすぐったさに声が洩れる。ちろ、と一度舐められた後にわざとそこを抉るように舌先で擦られ、口の中にまた錆の味が広がった。
「ん、ぃ」
痛い、と言おうとしたのに、次の瞬間にはさらにそこに幸の前歯が刺さってくる。背筋にぞくぞくしたものが駆け、離れようと反りながら幸の胸を押したのに彼は片手で俺の股間を撫でて口角を上げた。
「日高、噛まれて興奮してる」
「ち、違……」
「この傷、なに? さっきまで無かったよね? さっきの男に噛ませたの?」
「…………は?」
予想外のことを言われてポカンと止まった俺のセーターの襟首を掴んだ幸は、寝室のドアを開けるとそこへ俺を放り込んだ。
「わ……っ」
ボールでも転がすみたいに投げられた俺は千鳥足で受け身が取れるわけもなく。よろめいて躓き、ベッドの上に顔面からダイブした。
硬めのスプリングで頭が跳ね、ぐらぐら、とまた瞑った瞼の中で真っ暗闇が揺れる。
「──もう、ほんと嫌になる」
背後で呟かれた声に、心臓が大きく跳ねた。
一瞬で鳥肌が立ち、その先を聞きたくなくて耳を塞ぎたかったのに近付いてきた幸はそのまま俺の上に覆い被さってきて両の手首を布団に押さえつける。
背中に密着した彼は息を荒くして俺の耳を噛んできた。ガリ、と尖った犬歯が刺さる音が耳に響いて腰が跳ねる。たったそれだけで股間が熱を持ち、さんざ弄ばれたはずのソコがまた触れて欲しがるみたいに震え出した。
「っ……幸、幸、ごめんなさい。謝りますから、今日はもう……っ」
「ゴメンナサイもスミマセンも聞き飽きた!」
急に怒鳴られ、驚きに身体が硬直する。
本気だ。今夜の幸は、これまでにないほどの本気で怒っている。これはもう、覚悟するしかない。――捨てられる、覚悟を。
「ちょっと目離しただけで、また男引っ掛けてさぁ。なんなの? まだ足りないの? あれだけ何回も出させて、泣くまで責めてあげたのに、……ちんぽ入れてもらえなきゃ足りないわけ?」
最後ならどれだけ非難されても受け入れよう、と拳を握ったのに、掛けられた言葉は全くの予想外のもので、意味を理解するまでに十数秒を必要とした。
男を引っ掛ける? 足りない? ……ちんぽ?
まるで俺が色狂いの浮気性みたいな言い方に思わず素に返って首を傾げるが、無言を肯定と取ったのか幸は俺の手首を折る気かというような強さでギリギリと握ってきた。
「俺だって、……俺だって、出来るならしたいってのにさあ。なんでそうやって俺に言わずに勝手に他で済まそうとすんの? なんで日高は俺になんにも望まないの? 俺には期待してないってこと?」
「こ、幸……?」
「あーあー、そうだよねぇ。俺じゃあいつに勝てないよねぇ。俺は正社員で働いたこともないし、っていうかスーツすら着たことないし、働いてるって言ったって水商売みたいなもんだし。オマケにちんぽも使い物にならないもんねぇ? あんな、……あんな、甘えた声でもっと、なんて強請る気にならないよねえ!」
涙声で激高した幸は、俺の手首を離すとその横に拳を叩き付けた。ふんわりと沈んだ羽毛布団に埋まる手が、暗闇の中でもぶるぶると震えているのが分かる。
──何を言ってる?
あまりに理解不能で、脳みそが理解に向けて動くことを放棄しかけているのを感じる。
考えようにも取っ掛かりが見つからず、途方に暮れそうになりながら一つ一つ単語を拾い上げて繋げていく。
まず、おそらく幸は俺がさっきの男──名前はなんだっけ、もう思い出せない──を自ら誘ったと思い込んでいる。それから、どうしてか俺が男のアレを欲しがっていると思っている。それを幸は怒っていて、……あと、『あいつ』。幸がそう呼ぶのは坂原しか思い付かないから奴だと仮定して、坂原と比べて自分が勝てないと……は? どういうことだ? 有り得ない。坂原なんて幸の足下にも及ばない。比べるだけ無駄なのに、どうして幸が負けるなんてことになるのか。
もしや幸も酔っているのだろうか。だから訳の分からないことを言い出した? だから俺が坂原にしたように甘えた声で「もっと」と強請ったなんて──。
「……な、んで……、幸が、そのことを」
気付いて、ぞわっ、と全身に鳥肌が立った。
あの夜のことは、俺ですら記憶が曖昧なのに。どうして幸が知っているのか、と息を乱し、そして坂原に見せられたスマホの動画が脳裏に過った。
一気に青褪めた俺の顔は背後の幸から見えないだろうに、彼は握り締めた俺の拳の指の間に自分の指を捻じ込んできながら小さく笑う。
「ご丁寧に見せに来てくれたからだよ。日高とセックスしたぞ、って自慢げにさぁ」
「……っ」
坂原の奴、そんなことしてたのか!
なんて事を、と思う反面、それを見ても幸へのダメージはそんなに無かっただろうとも思う。俺が坂原と何をしようが、幸には関係ないことだ。波田さんの身代わりにしている今はともかく、あの頃は俺を捨てて出て行った直後なんだし。
俺がそう判断して冷静になろうとするのに、幸はそれを否定するみたいに今度は首の付け根に噛み付いてきた。
「イッ! 痛い、幸!」
「言い訳すらしねぇのかよ!! ……ねぇ、ほんとさぁ、俺って日高のなんなの? 彼氏がいるのに、どうして俺以外とヤッたの、日高。寂しかった、なんて普通なら納得出来る理由じゃ無いよ?」
「は……? 彼氏……?」
俺に彼氏がいるなんて初耳だ。
やっぱり幸も酔っているんだ、と判断して、彼の下から這い出ようと身を捩った。
「幸、あなた俺より酔ってるでしょう。もう寝ましょう。これ以上話を続けてもなんの意味も……」
「はぁ? なに、酔ってる所為だって? お酒のせいにすればいいと思ってんの?」
最低だね、と呟かれ、自覚はある、と自嘲しつつ頭を横に振った。
「幸。俺が坂原と……その、そういう関係になってしまったのは一度だけですし、かなり酔っていたので正直ほとんど覚えていません。それに、そもそも俺に彼氏はいないです。彼氏がいるなら幸と暮らしていないですし、俺が好きなのは幸なので今後も彼氏が出来ることは無いです」
「……え」
「幸が波田さんとセックスしたい気持ちは痛いほど分かりますが、それを八つ当たりされても俺にはどうも出来ませんよ」
俺が正直な気持ちを吐露すると、幸はしばらく黙り込み、それから俺の上から重みが消えた。
落ち着いて怒りが収まったのか、と安堵しつつ身体を起こすと、幸が怪訝そうな表情で顔を寄せてきて、何かを確かめるように俺の頬に触れて揉んでくる。
「……うん、明日にしよっか。酔っ払って訳わかんないこと言ってるし」
「はい」
良かった、どうやらすぐに思い返して自覚出来る程度の酔い加減らしい。
着たままだったコートから腕を抜いていると幸がベッド脇に置いている小さなフロアランプを点けて、オレンジ色の柔らかい灯りの中で二人して外出着から寝間着に着替えてベッドに入った。
靴下を脱いだ足先が寒く、軽く足を曲げると横の幸に膝がぶつかる。「すみません」と避けようとしたそこに幸の足が絡まってきて、暖をとるように抱き寄せられた。
「日高。好きだよ」
「……」
暖かい体温に包まれると耐えがたい眠気に襲われ、瞼を閉じた瞬間から意識が薄れていく。有り得ない言葉が聞こえた気がしたが、酔って相手を間違えてるんだろう、とそのまま落ちた。
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