上 下
23 / 52

23 笑顔プレィ・ごまだんご・トングカチカチ(威嚇)・HAYATO0418

しおりを挟む


「なんだよ」
『なんだじゃないわよ! アンタ達ふたりとも状態がって事は練習なんてしてないんじゃないの!』

 ブラパが応答するとすぐに鹿花さんの怒り声が響いて、「今すぐギルドルームに戻ってらっしゃい!」という命令と共にブチッと向こうから通話が切られた。

「俺はある意味練習中だったんだけどなあ」

 横目でこちらを見ながらニヤつかれ、何を示しているか気付いて思わずブラパの横っ腹をグーで殴った。

「ウッ……おい」
「い、今のはブラパが悪いです!」

 片鱗を思い出すだけでみるみる顔が熱くなってきて最中より恥ずかしい。
 ゴシゴシ顔を擦って表情を普通に戻そうとしているのに、ブラパは「あーそーかい」と半笑いで頬に唇をぶつけ、ぐしゃぐしゃっと乱暴に俺の頭を撫でた。

「ちょっ、ブラパ!」
「こわーいサブマス様のお呼びだからな。行くぞ」

 ぎゅっと横から腹に腕を回されたかと思えばそのまま荷物みたいに小脇に抱えられ、目を丸くしている間にローディングドアをくぐっていた。
 移動した先はギルドルームの応接室ではなく、反省部屋の方だ。
 数人がめいめいカーペットの上に座ったり寝転がったりしている。
 俺とブラパが出現すると彼らの前で一人立っていた鹿花さんが振り向き、「あら」と意外そうな顔をした。

「真っ最中だと思ったから用件だけ言って切ってあげたのに。シてなかったのねぇ?」
「お預けされてっからな」
「ふぅん? 意外と遊び上手じゃないの、亀ちゃん」

 あけすけな鹿花さんに対してブラパが冗談で答えるのに、鹿花さんはそれを信じてしまったようで俺に過大評価が下される。
 訂正したいけれど、すると実際どこまでしているのか、なんて言わなきゃならなくなる。それは嫌だ。
 仏頂面の俺を床に置いたブラパはそのまま当然のように鹿花さんの隣に立ち、メンバーと向かい合う。

「んで? どういう方向性でいくかは決まったかよ」
「方向性なんて防衛一択よ。とにかく今保有してる西城を奪われないようにするのが最優先。今までの運営の傾向からするに、本当にお城が報酬になるなら正式発表されるのは一ヶ月前よ」

 報酬目当ての蝗を蛇蝎の如く嫌ってるから、と鹿花さんが言うと、ブラパも同意するように頷いた。

「なら何も問題ねぇだろ。なんで俺らを呼んだ?」
「メンバーをどうするかで揉めてるのよ」
「ブラパサァン。俺ら、防衛なんかでチマッチマ弱い者イジメしたくないでェ~す」
「ですー」

 ため息を吐く鹿花さんが答えるのと同時に腕が2本挙手されて、背中に羽の生えた2人がゆらゆら揺れる。
 パッと見違う所を見つけられない同じ垂れ目の童顔で、首から下をすっぽりケープマントで隠しているのも同じ。
 違う所といえば、黒いマントが白い羽、白いマントが黒い羽なくらいか。
 カールしたショートヘアはどちらも金髪で、頭身の高い天使のようなアバターだが、言葉遣いは違和感を覚えるような間延びしたものだった。

笑顔ラフとごまは棄権。トングは?」
「俺はどっちでもいいよ。やる事変わんないし」

 ブラパに話しかけられた人は大きなクッションにうつ伏せで埋まったままそう答えた。
 アフロ頭で、背中にでかでかと『謹賀新年』と書かれたTシャツとデニムの半ズボン、ウツボに食われているように見える靴。横には大きな鮭の切り身が転がっている。
 ……全部公式配布の無課金ネタアイテムだ。

「チョ、棄権とは言ってないけど!」
「けどー」

 さっきの2人がゆらゆら揺れて抗議しているが、ブラパは無視して「HAYATOは?」と一人だけ離れた壁際で体育座りしている黒ずくめの青年に話しかけた。

「強き者と闘う……それが我の宿命……」
「防衛でも良いんだな。なら基本メンバーは俺と鹿花、HAYATOで相手の編成によって前衛をトングとオルテガとマシューで使い分ける。スナは亀と地球で交替」
「シレネはどうする気?」
「5人に絞るならあいつの枠はねぇだろ」
「気に入って防衛に入れたくせに冷たい人ねぇ」
「思ったほど伸びなかったし、最近手抜きが目立つ。俺とやりてぇって言うわりに行動が伴ってねぇんだから自業自得だ」
「チョット! ねえ! 弱い者イジメがイヤってだけで防衛ヤダとか言ってないからネ!」
「ねー」

 ブラパと鹿花さんが2人で話を勧める横で、ゆらゆら双子ツインズが右に左に揺れている。
 トングさんは寝ていて、オルテガさんとマシューさんは静かに向き合って何かしていると思ったらトランプでスピードをしていた。
 HAYATOさんは体育座りで、俺まで届かないけれど口がモゴモゴ動いているから何か呟いているらしい。
 地球さんとシレネさんは不在。
 ……なんというか、変わったギルドに入ったなぁ、と今さら実感する。
 ロキワでプレイを始めるより前、他の世界で複数のギルドに短期加入したけれど、こんなに自分勝手な人たちばかりが集まっているギルドは初めて見た。
 ギルマスはギルメンへ意思確認はするけれど意見は聞かないし、ギルメンは自分への質問に返事するだけ。
 普通なら緩衝材になりそうなサブマスの鹿花さんもブラパに嫌味を言うだけでワンマンを嗜めるわけではない。
 個性の強過ぎるギルメンに囲まれた状態で、俺だけ場違いな気がしてそわそわしていると、不意に頭に何か乗せられた。

「……?」
「やる。『はい』押して」

 仰ぎ見るとブラパだった。
 やる? 何を? と思いつつ目の前に出たポップアップのYESを押すと、頭の上に乗った何かが動きに合わせて揺れる感覚がした。
 手で触ると、ふわふわして長い何かがある。

「あっ、ちょっと! まぁたアタシの可愛いアバターに余計な物付けて!」
「作ったのはお前でも使ってんのは俺なんだから自由にさせろ」
「それはそうだけど、せめてもっと良い物を……あぁぁ、またコレ……しかも『特別な贈り物』扱い……」

 鹿花さんが俺の頭の上の何かを引っ張って取ろうとして、出来ずに舌打ちした。

「『特別な贈り物』?」
「プレゼント側が許可しないと外せない装備アイテムよ。亀ちゃん、アンタ現実でもなんでもかんでもハイハイ言ってるんじゃないでしょうね? 借金の保証人とかなってない? 契約書とかよく読まずにサインするでしょやめなさいそういうの」
「え、あ、はい」

 急にお叱りが飛んできて、けれど確かに良くない癖だと反省しながらプロフィール画面を開く。
 『亀吉』というプレイヤーネームの下に今の自分のアバター全体が表示されて、それで俺の頭にくっつけられたのがウサ耳だと知れた。
 艶々した黒の毛並みに、ほんのり薄ピンクの内側。
 鹿花さんは憎らしげに見つめてくるけれど、それほど質が悪いようには見えない。
 装備のタブを押してウサ耳を選ぶと、アイテム名が出てくる。
 『春の祝祭ウサギの耳(黒)』。
 文字が紫色だから、公式のアバターガチャ産のようだ。
 その下に、白文字で『祝祭が始まると何処からか卵を持って現れる可愛らしいウサギたち。だが、卵を貰えるのは良い子だけ。今年も私は蹴り飛ばされた……。』とロキ様のコメントが書かれている。
 普通のアイテムなら説明はそこまでなのだけど、そのウサ耳にはまだ先があった。
 黄色い文字で、『特別な贈り物:BUCK LAPIN より』と見慣れないものが追加されている。
 街中フィールドでいいなと思った他プレイヤーの装備を確認することはよくあるが、こんな追記があるアイテムは見たことがない。

「この『特別な贈り物』って、ブラパの許可が無いと外せないんですか? なんで?」

 アバターや課金アイテムのプレゼント機能はあるが、そこに贈った相手の名前が記載されるような機能は無かった筈だ。
 しかも、ロック機能まで付くなんて。
 非公式プログラムかと一瞬疑ったけれど、だとしたらアイテム自体に説明文が追加されることはない。
 それを出来るのは公式だけだから。

「俺の弟子だから。ギルド抜ける時には外してやる」
「……ああ、そういう」

 首を捻る俺のウサ耳をギュッギュと抜けないか確かめるみたいに軽く握ってから、ブラパは答えた。
 つまり、何らかの事情でプレイヤーに目印を付けておきたい時に使う機能なのか、と納得した。
 ブラパの白いウサ耳もおそらくは同じ祝祭シリーズの物だし、確かに繋がりとして分かりやすい。
 ……いや、待て。

「弟子ってなんですか? なった覚えないんですけど」
「似たようなもんだろ。細けぇこと気にすんな」
「ブラパの弟子って肩書き、プレッシャーすごいんですけど……」

 チムコロランク2位の弟子となれば相応の実力を期待されるに違いなく、けれど現状俺はただの亀砂。
 ブラパほどの超人技能など持ち合わせていないのに、と肩を竦めると、ブラパはニィと口角を上げた。

「そのハッタリは相手にも効くってことだ。意味は分かるな?」
「…………ああ!」

 つまり、さっきマイルームで説明された俺にやらせたいプレイ──ガチ警戒からの隙を作って奇襲を誘う戦法を強化する為の布石として機能するのだ、このウサ耳は。
 100%全方位を警戒出来ている、というフリをと見抜かれない為には、相手にも全力で警戒させなければいけないから。
 俺を脅威として認識させる為に、『BUCK LAPINの弟子』という看板は『亀砂』より大きく強固だろう。

「さすが2位ですね……!」
「万年2位で悪かったな」

 アバターすら戦略に絡める本気具合に心底感激して言ったのに、嫌味として受け取ったブラパは頬をつねってきた。
 痛い、とボヤきながら視線を上げるとこちらを見ていた双子と目が合って、すると彼らは同時に俺を指差した。

「これカモ!」
「かもー」

 これかも? 何んだ?

「頭が悪いのかもしれないわねぇ……」

 目を瞬かせていると横から鹿花さんに呟かれて、内心結構ショックを受けながらも引き攣った笑いを浮かべて「すいません」と言うしかない。
 ブラパがため息を吐きながら抓った頬を撫でてきて、泣きそうなのをその温かさで忘れようとした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう一度、誰かを愛せたら

ミヒロ
BL
樹(Ω)涼太(Ω)豊(α)は友人であり、幼馴染みだった。樹は中学時代、豊に恋している事を涼太に打ち明け、応援されていた。 が、高校の受験前、涼太の自宅を訪れた樹は2人の性行為に鉢合わせしてしまう。信頼していた友人の裏切り、失恋による傷はなかなか癒えてはくれず...。 そして中学を卒業した3人はまた新たな出会いや恋をする。 叶わなかった初恋よりもずっと情熱的に、そして甘く切ない恋をする。 ※表紙イラスト→ as-AIart- 様 (素敵なイラストありがとうございます!)

【番外編中】巻き込まれ召喚でまさかの前世の世界だったので好きだった人に逢いに行こうと思います

白銀
BL
☆現在ノロノロにて番外編♪ 変わった夢を見続けるせいで心身共にボロボロの眞木夜見(まきよみ)。成績が悪い為先生から放課後補習に出るように言われ、渋々受けた後、さて帰ろうと腰を上げた瞬間、眩しい光に包まれた。 そっと目を開けると、教室に残っていた4人のクラスメートと一緒に異世へと召喚されてしまった。 夜見は何かの手違いで召喚されたらしい。たいした詫びもなく無一文のまま森へ放り出されるが、実はその異世界は、夜見にとって前世の世界で……。 第3騎士団長バルト×現在冒険者ジン(夜見) 番号の後の「※」は背後注意の意味です ※感想ありがとうございます! ※エールありがとうございます! ※大体1話が900文字~3000文字です ※魔法は白銀の妄想魔法です。 ※相手が出てくるのは結構先です。申し訳ござらぬ。それまで飽きず付き合っていただけたら嬉しいです。 ※表紙は、AIイラストを加工したものです。 ※初作品で拙い&誤字等があると思いますが、温かい目で見守っていただけたら幸いです。

狡猾な狼は微笑みに牙を隠す

wannai
BL
 VRエロゲで一度会って暴言吐いてきたクソ野郎が新卒就職先の上司だった話

だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです! 初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆 なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。 男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。 ✴︎ 挿入手前まで ✴︎✴︎ 挿入から小スカまで ✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで 作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。 リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。 もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。 過去作 なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新) これは百貨店での俺の話なんだが 名無しの龍は愛されたい ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~ こっち向いて、運命 アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中) ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~ 改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど 名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海- 飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編) 守り人は化け物の腕の中 友人の恋が難儀すぎる話(短編) 油彩の箱庭(短編)

悪役ですが、死にたくないので死ぬ気で頑張ります!!!

モツシャケ太郎
BL
両親から虐待される毎日。そんな中で偶然、街中で見かけた乙女ゲーム「蜂蜜色の恋を貴方に」にドハマリしてしまう。 弟と妹の高校の学費を払うため、ブラック企業に務める一方、ゲームをする。──実に充実した生活だ。 だが、そんなある日、両親の暴力から弟妹を庇い死んでしまう。 死んでしまった……そう、死んだ、はずだった。しかし、目覚めるとそこは、知らない場所。えぇ!?ここどこだよ!?!? ん????ちょっと待て!ここってもしかして「蜂蜜色の恋を貴方に」の世界じゃねえか! しかも俺、最悪の結末を辿る「カワイソス令息!?」 乙女ゲームの悪役に世界に転生した主人公が、死にたくなくて必死に頑張るお話です。(題名そのまんまやないかい!) 主人公大好き愛してる系美丈夫 × 不憫跳ね除ける浮世離れ系美人 攻めがなっっっかなか出てこないけど、ちゃんと後から出てきます( ͡ ͜ ͡ ) ※中世ヨーロッパに全く詳しくない人が中世ヨーロッパを書いています。 なんでも許せる人がご覧下さい。

菫青石が輝くとき

ゆい
BL
【雫】の続編です。 アシェルとアレクセイが婚約してから、2年が過ぎた。 アシェルの学園卒業とともに結婚をする予定でいる。 そんな時にアシェルが事件に巻き込まれて……。 今度は、アシェルとアレクセイの視点で構成されています。 暴力シーンも出てきます。 イチャラブいっぱい書けるといいな!(希望)

【完結】そっといかせて欲しいのに

遊佐ミチル
BL
「セックスが仕事だったから」 余命宣告を受けた夜、霧島零(21)はひったくりに合い、エイト(21)と名乗る男に助けられる。 彼は東京大寒波の日なのになぜか、半袖姿。そして、今日、刑務所を出所してきたばかりだと嘘とも本気とも付かない口調で零に言う。 どうしても人恋しい状況だった零はエイトを家に招き入れる。 過去を軽く語り始めたエイトは、仕事でセックスをしていたと零に告げる。 そして、つけっぱなしのテレビでは白昼堂々と民家を襲い金品を奪う日本各地で頻発している広域強盗犯のニュースが延々と流れていて……。

箱庭のエデン

だいきち
BL
人の負から生まれる怪異に対抗するのは、神の力を異能として操る祓屋だ。しかし、降臨地区の一つである京浜には神がいなかった。 神無しと馬鹿にされる街へ左遷されてきた白南由比都は、盲目の祓屋だった。 非公式祓屋集団、お掃除本舗そわか。その社長、夜見綾人の下で働くことになった由比都は、夜見にひどく振り回される羽目になる。 人懐っこい夜見によって徐々に心を解されていった由比都へ、神がいない秘密が明かされようとした時、強大な怪異が二人を襲う。 京浜地区で多発する、過去にない怪異の異常行動。解決の鍵を握るのは、由比都の心の傷にあった──。 最強の異能を持つ能天気大型犬攻め×流され系毒舌ツンデレ美人受け 狭い世界の中、私の世界の輪郭は貴方だった。 バトルBL小説企画作品 ハッピーエンド保証 ギャグ要素あり すれ違いあり 濡れ場は最後の方 よろしくお願いします。

処理中です...