となりの波野さん

はまだかよこ

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となりの波野さん

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 ここのところ、お隣の波野さんご夫婦が何かと騒がしい。フェンス越しの庭から声高に聞こえてくる。

   六月十二日 晴れ
「また、野良猫が俺の畑で糞をしてる。せっかく育ってるインゲンもアスパラもどうしてくれるんだ」
「どうしてくれるったって、私がウンチしたわけではないでしょうが。野菜大切に育ててるのは分かりますけど、たかが二畝の狭い家庭菜園じゃありませんか。少し大目に見てやって下さいよ」
「大体となりの婆さんが、こっそり餌をやってるのが悪いんだ。俺の畑は、あいつらの通り道とトイレだ。まったく!孫たちに無農薬の野菜を送ってやらねばならんのに」

   六月十五日 曇り後雨
「ミャーミャーとうるさい!子猫が産まれたのか」
「物置の裏に五匹いますよ。豆粒みたいなかわいい子たち、黒やグレーや三毛や茶もいますよ」
「色なんかどうでもいい。このまま居ついたら、どうするんだ。どこかへ捨ててこい。おー、ほら見ろ、今年はトマトのできがよさそうだぞ。」

   六月十六日 曇り後晴れ
「うわっ、なんだ!これは」
「だって、夜かなり雨が降ったじゃありませんか。あんまりなので、子猫たち、テラスの方へ移してやったんですよ」
「ばか!雨で困ったら母猫がどこかへやるだろうが。餌なんか絶対やるんじゃないぞ」
「わかってますよ。ほら、今走って行ったのがお母さんですよ。ガリガリに痩せて。かわいそうに」
「捨ててこいと言ってるのに。まったく!おー、うん、キュウリもよく育ってるぞ」

   六月十九日 曇り後雨
「悦子!毛布なんか敷いてやって、どうするつもりだ。飼う気か!」
「何も飼うつもりはありませんよ。あなたは筋金入りの猫嫌いなんですから。昨日の夜はかなり冷えたから。子猫たち寄り添ってふるえてたんですもの」
「そんなことは、母猫に任せておけばいいんだ」
「おっぱいが出ないんじゃないかしら。子猫って、もっとふっくらしてないといけないのに」
「知ったことか。育つものは育つ、育たないものは育たない。野良猫なんぞ、増えないにこしたことはない。そんなことより、今日は支柱を立てて肥料をやらねば」

   六月二十一日 雨
「あなた!子猫がいないの。まさか、捨てたの?」
「母猫がいるんだ。探してなんとかするよ。なにもうちの庭で育てなくってもいいだろう」
「なんて冷たい人!見損ないましたよ。この雨の中、どこへ捨てたんですか」
「公園だよ。いつも野良猫が集まってるじゃないか。一丁目の公園」
「私拾ってきます。私が育てます。あなたと別れて」

 とうとう、私はとなりのチャイムを鳴らした。
「よかったら、うちで飼いましょうか。猫が三匹いるけど。なんとかなると思うの。里親も探します」

     おしまい
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