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60 脱出
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幾ら何でも五月蠅すぎる。堪ったものじゃない。止めさせるには起きるしか無さそう。
時間も頃合いじゃないかな? ちょっと早い?
ガンガンガン。ガンガンガン。
だけどやっぱり我慢できない。相手に判る程度に目を開けて、声を出してみよう。
「こ……こ……は……」
口が上手く動かない演技。空気が抜けたような声にしている。
ガンガンガン。ガンガンガン。
だけど、騒音が止まらない。
音を立てるのが目的になってるんじゃないの? 勘弁して。折角の演技が台無しじゃないか。
「お待ちください! 何か言っているようです!」
誰かが偉そうな奴を押し止めて、やっと騒音が止まった。
「こ……こ……は……」
もう一回同じように声を出した。
「やっと起きたか。待ちかねたぞ」
あたしが悪いみたいに言わないで! 全部あんた自身のせいだよ! 他人の言うことを聞かなかったり、人の声が聞こえないくらい物音を立てたりしたのはあんただ。
「だ……れ……」
「余を忘れたと申すか?」
この偉そうな感じ、聞き憶えが有る。側近までは居ないみたいだけど、どうしてまた現れた? 祟り神か何かなの!?
だけど今は知らない振り。
「だ……れ……」
「貴様! 余を愚弄するつもりか!」
短気な奴だ。それに傲慢だ。一度や二度会ったからって憶えて貰えるとは限らないじゃないか。まあ、あまりの不快さで忘れられないかもしれないけど。あたしがそうだったように。
それでもあたしはまだ知らない振りをする。
「だ……れ……」
「王たる余を、まだ思い出さぬと言うか!」
いつから王になったつもりなの? この「元」第1王子は。
「王……ち……が……う……」
「ぬぬぬ、直ぐに王に成って見せるわ! そのために、貴様が働くのだ!」
クスッと、元第1王子の横に居る男が笑った。だけど、激高している元第1王子はそれに気付いていない。
「い……や……」
「嫌だと申すか? だが、貴様はもう余のために働く運命なのだ!」
「な……ぜ……」
「何故と問うか? 貴様の首に付いているのは、隷属の首輪と申す魔法道具だ。それが有る限り、貴様は余の命令に逆らえはせん。逆らえば貴様の命は無いからな!」
予想通りの答えをありがとう。そして、この首輪は精神を操るようなものじゃなく、本人の命を人質に取るものみたいだね。死んでも嫌だと思われたら命令なんて聞いて貰えないんじゃないかな? よく過信できると感心するよ。
「薬……は……誰……の……提……案……?」
「余に決まっておろう。貴様を押さえるには、搦め手でなければならぬのは先刻承知よ!」
元第1王子は高笑いした。
そう言うことか。一応考えてはいるんだ。
それにしてもペラペラよく喋ってくれる。自分の優位性を示したら相手が言うことを聞くとでも思ってるのかな?
だけどここに居るってことは、元第1王子はこの町のお偉いさんと繋がっているってことなんだろうね……。この町のお偉いさんにメリットが無さそうなのだけど。
「早速、王の座へと向かうぞ」
そう言って、元第1王子は横の男に視線だけを向けた。
「おい貴様、この者を連れ出せ!」
ぐさっ。
「ぐあっ!」
隣に居た男が元第1王子の腹部をナイフで貫いた。元第1王子の刺された部分から服が血に染まって行く。
元第1王子が自分の剣を抜こうとする。しかしその前に、男はもう1本ナイフを取り出して、元第1王子の腕を刺し貫く。
「がっ! き、貴様っ!」
「ただの反逆者に手を貸す馬鹿は居ませんよ。それに、いい加減貴方の声は耳障りだ」
「だ……騙したの……げほっ!」
元第1王子は言い終わる前に血を吐いた。
「これはまた人聞きの悪い。最初から、この娘を捕らえるのに手を貸すだけと言う話だったじゃありませんか」
「この……裏切り……」
元第1王子は言い終わる前に崩れ落ちた。絶命したらしい。
「国を裏切ったのは貴方でしょう」
男は元第1王子の頭を蹴飛ばした。そしてあたしの方に向き直る。
「さて、邪魔者は居なくなりましたので、こちらの用件に入りましょう」
いつまでも痺れた振りをするのも何だから、身体を起こす。
「用件?」
「そうです。貴女の噂は聞いていますよ。とても素晴らしい魔力回復薬を作られるとか」
「魔力回復薬なんて作ってないってば」
「貴女がどう言うつもりかなんてどうでも良いのです。結果の問題です」
「結果?」
「そうです。貴女のせいで冒険者ギルドは大損害です。ギルドで集めた薬草を使った魔力回復薬が売れなくなったのですから、その損害は計り知れません」
確かに、そうした魔力回復薬のことは失念していた。それを生業にしていた人に迷惑を掛けたと言われれば、その言葉自体は甘んじて聞かなきゃいけないと思う。だけど、冒険者ギルドの損害だなんて言ってるこの男の言い分は変だ。クーロンスでは薬草採取は慈善事業みたいなものだ言われた。それはファラドナでも似たようなものだと思うから、ギルドに利益が出るとは思えない。
「損害なんて嘘でしょ?」
「おや? どうしてそう思われます?」
「損害があるなら、金額を弾いている筈でしょ? 『計り知れない』なんて大雑把はあり得ない」
「おやおや、これはしくじりましたね。しかし、薬草について損害が出ているのは本当ですよ?」
「薬草採取は元々採算が取れていないでしょう?」
「これは手厳しい。確かに薬草採取は慈善事業ですから、損害が出て当たり前ですね。はははははっ」
男は何だかポーズを取りながら喋っていて、甚だ鬱陶しい。
「それで用件って何?」
「そうでした。貴女には今後、冒険者ギルドのために回復薬を作って頂こうと思っています」
「お断りよ」
「それは無理ですね。既に商業ギルドからは追放になっていますし、冒険者ギルドにはランク3で登録されています。強制依頼を貴女は断れません」
「何を勝手に!?」
「くっくっくっくっくっ、逃げようとしても無駄ですよ。その首輪が付いている限りはね」
男は勝ち誇ったように言った。
「どうして?」
「その首輪さえ付いていれば、貴女を気絶させることもできれば、殺すこともできます。無理に外そうとすれば死ぬだけですよ。命が惜しければ言うことを聞くのですね」
こう言うところはこの男も元第1王子と変わらないみたいだね。
「そう。それで期限はいつまで?」
「そんなもの、迷宮が攻略されるまでに決まっているではないですか! あーっはっはっははは!」
終了条件が無い依頼は無効だから、この男が「終わる筈が無い」と思っている条件にしたのだと思う。
「ところで、貴方は何者なの?」
「これは、申し遅れました。私は、この町の行政官のバーツオと申します。お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも」
あたしは自己紹介をするまでもないだろうし、するつもりも無い。
それにしても、こんな狂人が行政官とは世も末だよ。
「確認するけど、迷宮が攻略されたら強制依頼はお終いなのね?」
「その通りです。間違い有りません」
あたしは立ち上がって通路の傍まで行く。
「ここを出してくれない?」
「いいでしょう」
バーツオが顎を振ったら、兵士が牢屋の鍵を開けた。
「さあ、これが貴女のギルドカードです。お持ちください」
あたしは牢屋を出て、ギルドカードと依頼書を受け取る。
「貴女の住居も用意していますから、ご案内しましょう。勿論、監視は付いていますけどね。あーっはっはっははは!」
この行政官は箸が転がっても可笑しいお年頃なのかな?
だけど、そんなことはどうでもいい。
「お断りよ」
「は? 今、何と?」
「お断りだと言ったの」
徐に首輪に手を掛け、引き千切る。
ドゴグワワン!
首輪が爆発して、爆風が吹き荒れた。狭い場所だからか、バーツオと兵士達が吹き飛ばされて、壁や床に叩き付けられる。
「ぐがっ」「ぎぎっ」
2人の呻き声が上がる。もう1人の兵士は気絶しているみたい。
「お望み通り、迷宮の攻略までは付き合ってあげるわよ」
「まさ……か!?」
バーツオは、未だ爆風によるダメージでのたうったままだ。
「ええ。あたしが迷宮を攻略してあげる」
「そんなこと……が……許されると……思っているのか!?」
「そっちが望んだことじゃないの」
「貴様!」
バーツオは、床に這い蹲ったまま叫んだ。
「変な欲を出さなければ良かったのに」
「待て!」
呼び止める声を無視して、あたしは牢屋を出る。駆け付けて来て立ち塞がった兵士達には、魔法で強風を叩き付けて吹き飛ばした。
時間も頃合いじゃないかな? ちょっと早い?
ガンガンガン。ガンガンガン。
だけどやっぱり我慢できない。相手に判る程度に目を開けて、声を出してみよう。
「こ……こ……は……」
口が上手く動かない演技。空気が抜けたような声にしている。
ガンガンガン。ガンガンガン。
だけど、騒音が止まらない。
音を立てるのが目的になってるんじゃないの? 勘弁して。折角の演技が台無しじゃないか。
「お待ちください! 何か言っているようです!」
誰かが偉そうな奴を押し止めて、やっと騒音が止まった。
「こ……こ……は……」
もう一回同じように声を出した。
「やっと起きたか。待ちかねたぞ」
あたしが悪いみたいに言わないで! 全部あんた自身のせいだよ! 他人の言うことを聞かなかったり、人の声が聞こえないくらい物音を立てたりしたのはあんただ。
「だ……れ……」
「余を忘れたと申すか?」
この偉そうな感じ、聞き憶えが有る。側近までは居ないみたいだけど、どうしてまた現れた? 祟り神か何かなの!?
だけど今は知らない振り。
「だ……れ……」
「貴様! 余を愚弄するつもりか!」
短気な奴だ。それに傲慢だ。一度や二度会ったからって憶えて貰えるとは限らないじゃないか。まあ、あまりの不快さで忘れられないかもしれないけど。あたしがそうだったように。
それでもあたしはまだ知らない振りをする。
「だ……れ……」
「王たる余を、まだ思い出さぬと言うか!」
いつから王になったつもりなの? この「元」第1王子は。
「王……ち……が……う……」
「ぬぬぬ、直ぐに王に成って見せるわ! そのために、貴様が働くのだ!」
クスッと、元第1王子の横に居る男が笑った。だけど、激高している元第1王子はそれに気付いていない。
「い……や……」
「嫌だと申すか? だが、貴様はもう余のために働く運命なのだ!」
「な……ぜ……」
「何故と問うか? 貴様の首に付いているのは、隷属の首輪と申す魔法道具だ。それが有る限り、貴様は余の命令に逆らえはせん。逆らえば貴様の命は無いからな!」
予想通りの答えをありがとう。そして、この首輪は精神を操るようなものじゃなく、本人の命を人質に取るものみたいだね。死んでも嫌だと思われたら命令なんて聞いて貰えないんじゃないかな? よく過信できると感心するよ。
「薬……は……誰……の……提……案……?」
「余に決まっておろう。貴様を押さえるには、搦め手でなければならぬのは先刻承知よ!」
元第1王子は高笑いした。
そう言うことか。一応考えてはいるんだ。
それにしてもペラペラよく喋ってくれる。自分の優位性を示したら相手が言うことを聞くとでも思ってるのかな?
だけどここに居るってことは、元第1王子はこの町のお偉いさんと繋がっているってことなんだろうね……。この町のお偉いさんにメリットが無さそうなのだけど。
「早速、王の座へと向かうぞ」
そう言って、元第1王子は横の男に視線だけを向けた。
「おい貴様、この者を連れ出せ!」
ぐさっ。
「ぐあっ!」
隣に居た男が元第1王子の腹部をナイフで貫いた。元第1王子の刺された部分から服が血に染まって行く。
元第1王子が自分の剣を抜こうとする。しかしその前に、男はもう1本ナイフを取り出して、元第1王子の腕を刺し貫く。
「がっ! き、貴様っ!」
「ただの反逆者に手を貸す馬鹿は居ませんよ。それに、いい加減貴方の声は耳障りだ」
「だ……騙したの……げほっ!」
元第1王子は言い終わる前に血を吐いた。
「これはまた人聞きの悪い。最初から、この娘を捕らえるのに手を貸すだけと言う話だったじゃありませんか」
「この……裏切り……」
元第1王子は言い終わる前に崩れ落ちた。絶命したらしい。
「国を裏切ったのは貴方でしょう」
男は元第1王子の頭を蹴飛ばした。そしてあたしの方に向き直る。
「さて、邪魔者は居なくなりましたので、こちらの用件に入りましょう」
いつまでも痺れた振りをするのも何だから、身体を起こす。
「用件?」
「そうです。貴女の噂は聞いていますよ。とても素晴らしい魔力回復薬を作られるとか」
「魔力回復薬なんて作ってないってば」
「貴女がどう言うつもりかなんてどうでも良いのです。結果の問題です」
「結果?」
「そうです。貴女のせいで冒険者ギルドは大損害です。ギルドで集めた薬草を使った魔力回復薬が売れなくなったのですから、その損害は計り知れません」
確かに、そうした魔力回復薬のことは失念していた。それを生業にしていた人に迷惑を掛けたと言われれば、その言葉自体は甘んじて聞かなきゃいけないと思う。だけど、冒険者ギルドの損害だなんて言ってるこの男の言い分は変だ。クーロンスでは薬草採取は慈善事業みたいなものだ言われた。それはファラドナでも似たようなものだと思うから、ギルドに利益が出るとは思えない。
「損害なんて嘘でしょ?」
「おや? どうしてそう思われます?」
「損害があるなら、金額を弾いている筈でしょ? 『計り知れない』なんて大雑把はあり得ない」
「おやおや、これはしくじりましたね。しかし、薬草について損害が出ているのは本当ですよ?」
「薬草採取は元々採算が取れていないでしょう?」
「これは手厳しい。確かに薬草採取は慈善事業ですから、損害が出て当たり前ですね。はははははっ」
男は何だかポーズを取りながら喋っていて、甚だ鬱陶しい。
「それで用件って何?」
「そうでした。貴女には今後、冒険者ギルドのために回復薬を作って頂こうと思っています」
「お断りよ」
「それは無理ですね。既に商業ギルドからは追放になっていますし、冒険者ギルドにはランク3で登録されています。強制依頼を貴女は断れません」
「何を勝手に!?」
「くっくっくっくっくっ、逃げようとしても無駄ですよ。その首輪が付いている限りはね」
男は勝ち誇ったように言った。
「どうして?」
「その首輪さえ付いていれば、貴女を気絶させることもできれば、殺すこともできます。無理に外そうとすれば死ぬだけですよ。命が惜しければ言うことを聞くのですね」
こう言うところはこの男も元第1王子と変わらないみたいだね。
「そう。それで期限はいつまで?」
「そんなもの、迷宮が攻略されるまでに決まっているではないですか! あーっはっはっははは!」
終了条件が無い依頼は無効だから、この男が「終わる筈が無い」と思っている条件にしたのだと思う。
「ところで、貴方は何者なの?」
「これは、申し遅れました。私は、この町の行政官のバーツオと申します。お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも」
あたしは自己紹介をするまでもないだろうし、するつもりも無い。
それにしても、こんな狂人が行政官とは世も末だよ。
「確認するけど、迷宮が攻略されたら強制依頼はお終いなのね?」
「その通りです。間違い有りません」
あたしは立ち上がって通路の傍まで行く。
「ここを出してくれない?」
「いいでしょう」
バーツオが顎を振ったら、兵士が牢屋の鍵を開けた。
「さあ、これが貴女のギルドカードです。お持ちください」
あたしは牢屋を出て、ギルドカードと依頼書を受け取る。
「貴女の住居も用意していますから、ご案内しましょう。勿論、監視は付いていますけどね。あーっはっはっははは!」
この行政官は箸が転がっても可笑しいお年頃なのかな?
だけど、そんなことはどうでもいい。
「お断りよ」
「は? 今、何と?」
「お断りだと言ったの」
徐に首輪に手を掛け、引き千切る。
ドゴグワワン!
首輪が爆発して、爆風が吹き荒れた。狭い場所だからか、バーツオと兵士達が吹き飛ばされて、壁や床に叩き付けられる。
「ぐがっ」「ぎぎっ」
2人の呻き声が上がる。もう1人の兵士は気絶しているみたい。
「お望み通り、迷宮の攻略までは付き合ってあげるわよ」
「まさ……か!?」
バーツオは、未だ爆風によるダメージでのたうったままだ。
「ええ。あたしが迷宮を攻略してあげる」
「そんなこと……が……許されると……思っているのか!?」
「そっちが望んだことじゃないの」
「貴様!」
バーツオは、床に這い蹲ったまま叫んだ。
「変な欲を出さなければ良かったのに」
「待て!」
呼び止める声を無視して、あたしは牢屋を出る。駆け付けて来て立ち塞がった兵士達には、魔法で強風を叩き付けて吹き飛ばした。
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