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32 居心地が悪い
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年が明けた元旦の日曜日。クーロンスの景色は白い。吹雪は昨日の朝には止んでいたけれど、聞いていた通りに積もった雪が全く溶けていない。誰かが除雪した部分だけが地面を覗かせている。魔法でじゅじゅって感じに除雪したあたしの店の周りを含めてね。
世間様は新年だからと何かお祝いをすることも無いらしい。ただ、いつもと変わらない1日が過ぎて行くだけだ。
あたしもあたしでお節料理が有るでなし、いつもと変わったりはしない。お節なんて作りたくても、材料も無いし、作り方も知らないんだもの。一人暮らしを続けていたら、お正月なんてどうでも良くなっちゃって、お節料理の作り方なんて全然勉強していなかった。
だから今日、前に来たことのある漁村にまた来たのは、お正月とは関係ない。たまたまそう言うタイミングだったってだけ。
目的は石鹸と塩を作ること。塩のついでに苦汁もね。持参したのは自作の石鍋と使い古しの油などだ。
石鍋は先週の日曜に作った。大小合わせて5個用意している。
作り方はいたって簡単。地面に穴を掘った中に、ドーム状に土を突き固めて盛り上げて、石を熔かして流し込む。それが冷えて固まったら分厚くなっている部分を水刃魔法で荒削りして、風魔法で小石を擦り付けて角を取りつつ表面を滑らかにしたら完成。簡単に言ったら、溶岩製の鋳物なのだ。
かなり歪になっちゃったけど、使えればそれでいいんだ。
最初に石鹸作りに使う灰汁の用意。昆布を集めて乾燥させて燃やして、出来た灰を水と一緒に石鍋に入れて、熱しながら撹拌する。そして暫くこのまま放置する。
ここでひとまず石鹸作りは脇に置いて、塩作り。
石鍋に海水を入れて真空乾燥させる。完全に乾いたら魔法で真水を入れて塩を溶かして、漉しながら別の石鍋に移す。これをまた真空乾燥で析出した塩が乾き切る直前まで乾かす。
完全に乾かしたら塩が石鍋に貼り付いて、こそぎ落とすのも大変だし、苦汁も混じっちゃうものね。
塩は麻袋に詰めて、苦汁を含んだ水が麻袋から染み出すのを待つ。粗方染み出したら、最後に麻袋を振り回して残った水分を飛ばす。これで塩の出来上がり。
出来上がった塩は別の麻袋に移して、同じ事を麻袋が一杯になるまで繰り返す。
苦汁も一部を壺に詰めて持ち帰るつもり。
そして石鹸作りの続き。
昆布の灰を浸けた水の上澄みが灰汁だから、これを掬って鍋に入れて、沸騰するくらいまで加熱して、撹拌しながら油を注ぐ。
ここでできるのはこれだけなんだよね……。
出来上がったものの見た目は、良く言えばピーナッツバター、悪く言えば……うん、まあ、その、なんだ。だけど一応、これを乾かせば石鹸として使える筈なんだ。
ほぼ丸一日掛かったけど、数キログラムの石鹸と、約500グラムの苦汁と、約60キロの塩が手に入った。ついでに天日干しの昆布もだ。
ふふふふふ、抜かりなく出汁用の昆布も乾していたのだ。
夕食は勿論、豆腐だ。
とってもお醤油が欲しかったよ!
◆
年が変わって最初の営業日。価格改定をする。
薩摩揚げをキャッシュカードより気持ち小さいくらいの大きさにして、50円で売る。他のものも1食の量を減らして50円に合わせる。その分、数は作らないといけないのだけど致し方無しだ。
これに合わせてクレープも2食以下用の小さいのを作る。
「あら? 値段を下げたのね」
「はい、その分量は減らしてますけど……」
「それはそうね。それじゃ、今日は薩摩揚げとかき揚げとセロリアックを貰おうかしら」
「ありがとうございます。150ゴールドになります」
メリラさんは、早速薩摩揚げに齧り付いた。
「あら? 前より美味しいわ」
「はい、生姜を入れたので生臭さが緩和されていると思いますが、どうでしょうか?」
「ええ、その通りね。これなら全部これにしておけば良かったかしらね」
「喜んで頂けたなら何よりです」
メリラさんには好評のようで良かった。まあ、反応が判るのがメリラさんだけなんだけど。
そのメリラさんはまだ何やら考え込んでいるけど、これは通常メニューだ。今日食べなかったら無くなるなんてことにはならないぞ。
そんな変わり映えのしない一日の始まりは、ある意味では安心で、ある意味では不安なものだ。
「ここか?」
「入ってみれば判るさ」
表からそんな声が聞こえたと思ったら、扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
「おお! あんただ、あんた!」
入って来た男性は、あたしの顔を見るなり叫んだ。
「はい?」
「おい! ここだ!」
男性はあたしの疑問の声が聞こえていないのか、扉から顔を外に出して叫んだ。
「見つかったか!」
外から男性に応える声がした。どうやら外に居る仲間を呼んだらしい。
何なのかしらね?
男性は、呼び寄せた相手が店に入ったところで漸くあたしに向き直った。
おや? どこかで見覚えが有る? どこだったか……。
あたしが内心で首を傾げていたら、呼ばれた方の男性が前に出た。
「ありがとう。俺が生きて今ここに居られるのはあんたのお陰だ。本当にありがとう」
「はい?」
意味が判らない。コテンと首を傾げる。
そのせいか、二人が戸惑った表情をした。
「ほら、先週、西の森に来てくれただろ?」
「ああー、あの時の方達でしたか」
言われてみれば、目の前にいるのはあの時の冒険者その壱と冒険者その四だ。あの時の疲れ切った様子とは違って、さっぱりしていて清潔感もあるから判らなかった。
あたしが思い出して、二人はホッとした様子。
あっさり忘れていたあたしは若干冷や汗だ。
「俺からも礼を言う。あんたが食い物を持って来てくれて、火を焚いてくれなかったら、こいつだけじゃなく俺たちみんなが死んでいたかも知れないんだ。ここに居ない仲間達もみんな同じ気持ちだ。本当にありがとう」
「あのぅ、感謝の気持ちは受け取っておきますが、あたしも商売でやったことですから……」
むむむ、若干居心地が悪いぞ。別にこの人達のことを思ってしたことじゃないもの。あたしの寝覚めが悪くなりそうだっただけだ。
「商売か……、そうだな。だがそれで助かったのも事実だ。噂に賭けてみて良かったよ」
「噂……ですか?」
「ああ、知ってるかも知れないが、あんたがぼったくりだって噂が流れたことが有ったんだ」
「ああー、はい」
不愉快な噂だった。思い出すだけでイラッとして、少し顔が引き攣ってしまう。
「噂を最初に聞いた時は、迷宮の22階に食い物を届けたって部分がホラだと思ってたんだ。噂を流している連中が話を盛ってるだけってな。それでも魔の森で吹雪に閉じこめられて後が無いとなったら、そんな噂にも縋りたくなったんだ。ホラにしては具体的過ぎるし、ミノタウロスと戦って死にかけた連中が『変な女がミノタウロスを蹴り殺して行った』なんて話していたのを聞いた奴も居たんで、駄目もとで賭けることにしたんだ」
「あー、でも、ギルドの方が確実ではないですか?」
「ギルドはなぁ、依頼を出しても翌日にしかならなくてな。それじゃ間に合わないと思ったんだ」
冒険者その壱は冒険者その四をちらりと見た。冒険者その四は小さく頷いた。
「なるほど」
「そんで、少々ぼったくられたって、命の方が大事だからな。迷宮の22階に配達できるなら吹雪いている魔の森も大丈夫なんじゃないかってな。そしたら、噂は当てにもなったし、当てにもならなかったな」
「はあ……」
「それでちょっと聞きたいんだが、ぼったくりなんて言ってた連中に一体幾ら請求したんだ?」
「それは、商品代金と配達料の2000ゴールドと、追加料金の2万2000ゴールドですが……」
「2万2000?」
「はい、迷宮1階層につき1000ゴールドと言うことで」
「そう言うことか! 他には?」
「それだけです」
「それだけ?」
「はい」
冒険者二人は顔を見合わせる。
「どう思う?」
「安くはないが、場所が場所だけに、ぼったくりと言うほどでもねぇな」
「だな」
そんな会話が聞こえた。
「そうすると、その連中と何か有ったのか?」
「ええ、まあ、配達するかどうか賭をしただけで代金を払うつもりが無かったようで、ついでに襲い掛かられもしまして……」
「それでどうなったんだ!?」
「えーと、まずは温和しくして頂いて、説得? したら、支払いに応じて貰えました」
答えながら若干冷や汗が出た。嘘は言ってないよ?
だけど冒険者二人は脱力して、「判ってますよ」と言う感じで顔を見合わせた。
「独りで22階まで短時間で行けるんだからな……。その程度の相手に遅れは取らないよな。それで相手が逆恨みって訳か」
「なあ、その1階層につき1000ゴールドの根拠って何だ?」
「それは、また行くかどうか判らない場所の地図の代金は出せないかなぁ、と」
「地図か! 確かにあれは1000ゴールドだ!」
「もしかして、迷宮の89階だったとしても、追加料金ってのは8万9000ゴールドでいいのか?」
「そうなりますかね……」
「あんたにとっては迷宮の1階も89階も変わらないんだな」
「いえ、あの、23階から先には行ったことが無いから判りません。配達できないかも知れませんし」
「そうなのか。まあ、奥の方が魔物が強くなるから、行く時は気を付けてな」
「あ、はい」
「それじゃ、このまま帰るのも何だから、何か買わせて貰うとするか」
「じゃがいも、セロリアック、ケール、ビーツ、かき揚げ? 薩摩揚げ?」
「かき揚げってのは玉葱と人参か。この薩摩揚げってのは何で出来てるんだ?」
「魚の鱈が主な材料です」
「魚だって!?」
「これは、魚で出来てたのか!」
冒険者二人の鼻息が荒い。そんなに魚で興奮できるものなの?
「えーと、どれも1個50ゴールドか。じゃあ、薩摩揚げを5つと他のを1つずつで6人分くれ」
「はい、ありがとうございます。締めて3000ゴールドになります」
商品を渡して代金を受け取ると、冒険者二人は「また寄らせて貰うよ」と言い残して帰って行った。
冒険者にも律儀で良い人が居たんだね……。
世間様は新年だからと何かお祝いをすることも無いらしい。ただ、いつもと変わらない1日が過ぎて行くだけだ。
あたしもあたしでお節料理が有るでなし、いつもと変わったりはしない。お節なんて作りたくても、材料も無いし、作り方も知らないんだもの。一人暮らしを続けていたら、お正月なんてどうでも良くなっちゃって、お節料理の作り方なんて全然勉強していなかった。
だから今日、前に来たことのある漁村にまた来たのは、お正月とは関係ない。たまたまそう言うタイミングだったってだけ。
目的は石鹸と塩を作ること。塩のついでに苦汁もね。持参したのは自作の石鍋と使い古しの油などだ。
石鍋は先週の日曜に作った。大小合わせて5個用意している。
作り方はいたって簡単。地面に穴を掘った中に、ドーム状に土を突き固めて盛り上げて、石を熔かして流し込む。それが冷えて固まったら分厚くなっている部分を水刃魔法で荒削りして、風魔法で小石を擦り付けて角を取りつつ表面を滑らかにしたら完成。簡単に言ったら、溶岩製の鋳物なのだ。
かなり歪になっちゃったけど、使えればそれでいいんだ。
最初に石鹸作りに使う灰汁の用意。昆布を集めて乾燥させて燃やして、出来た灰を水と一緒に石鍋に入れて、熱しながら撹拌する。そして暫くこのまま放置する。
ここでひとまず石鹸作りは脇に置いて、塩作り。
石鍋に海水を入れて真空乾燥させる。完全に乾いたら魔法で真水を入れて塩を溶かして、漉しながら別の石鍋に移す。これをまた真空乾燥で析出した塩が乾き切る直前まで乾かす。
完全に乾かしたら塩が石鍋に貼り付いて、こそぎ落とすのも大変だし、苦汁も混じっちゃうものね。
塩は麻袋に詰めて、苦汁を含んだ水が麻袋から染み出すのを待つ。粗方染み出したら、最後に麻袋を振り回して残った水分を飛ばす。これで塩の出来上がり。
出来上がった塩は別の麻袋に移して、同じ事を麻袋が一杯になるまで繰り返す。
苦汁も一部を壺に詰めて持ち帰るつもり。
そして石鹸作りの続き。
昆布の灰を浸けた水の上澄みが灰汁だから、これを掬って鍋に入れて、沸騰するくらいまで加熱して、撹拌しながら油を注ぐ。
ここでできるのはこれだけなんだよね……。
出来上がったものの見た目は、良く言えばピーナッツバター、悪く言えば……うん、まあ、その、なんだ。だけど一応、これを乾かせば石鹸として使える筈なんだ。
ほぼ丸一日掛かったけど、数キログラムの石鹸と、約500グラムの苦汁と、約60キロの塩が手に入った。ついでに天日干しの昆布もだ。
ふふふふふ、抜かりなく出汁用の昆布も乾していたのだ。
夕食は勿論、豆腐だ。
とってもお醤油が欲しかったよ!
◆
年が変わって最初の営業日。価格改定をする。
薩摩揚げをキャッシュカードより気持ち小さいくらいの大きさにして、50円で売る。他のものも1食の量を減らして50円に合わせる。その分、数は作らないといけないのだけど致し方無しだ。
これに合わせてクレープも2食以下用の小さいのを作る。
「あら? 値段を下げたのね」
「はい、その分量は減らしてますけど……」
「それはそうね。それじゃ、今日は薩摩揚げとかき揚げとセロリアックを貰おうかしら」
「ありがとうございます。150ゴールドになります」
メリラさんは、早速薩摩揚げに齧り付いた。
「あら? 前より美味しいわ」
「はい、生姜を入れたので生臭さが緩和されていると思いますが、どうでしょうか?」
「ええ、その通りね。これなら全部これにしておけば良かったかしらね」
「喜んで頂けたなら何よりです」
メリラさんには好評のようで良かった。まあ、反応が判るのがメリラさんだけなんだけど。
そのメリラさんはまだ何やら考え込んでいるけど、これは通常メニューだ。今日食べなかったら無くなるなんてことにはならないぞ。
そんな変わり映えのしない一日の始まりは、ある意味では安心で、ある意味では不安なものだ。
「ここか?」
「入ってみれば判るさ」
表からそんな声が聞こえたと思ったら、扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
「おお! あんただ、あんた!」
入って来た男性は、あたしの顔を見るなり叫んだ。
「はい?」
「おい! ここだ!」
男性はあたしの疑問の声が聞こえていないのか、扉から顔を外に出して叫んだ。
「見つかったか!」
外から男性に応える声がした。どうやら外に居る仲間を呼んだらしい。
何なのかしらね?
男性は、呼び寄せた相手が店に入ったところで漸くあたしに向き直った。
おや? どこかで見覚えが有る? どこだったか……。
あたしが内心で首を傾げていたら、呼ばれた方の男性が前に出た。
「ありがとう。俺が生きて今ここに居られるのはあんたのお陰だ。本当にありがとう」
「はい?」
意味が判らない。コテンと首を傾げる。
そのせいか、二人が戸惑った表情をした。
「ほら、先週、西の森に来てくれただろ?」
「ああー、あの時の方達でしたか」
言われてみれば、目の前にいるのはあの時の冒険者その壱と冒険者その四だ。あの時の疲れ切った様子とは違って、さっぱりしていて清潔感もあるから判らなかった。
あたしが思い出して、二人はホッとした様子。
あっさり忘れていたあたしは若干冷や汗だ。
「俺からも礼を言う。あんたが食い物を持って来てくれて、火を焚いてくれなかったら、こいつだけじゃなく俺たちみんなが死んでいたかも知れないんだ。ここに居ない仲間達もみんな同じ気持ちだ。本当にありがとう」
「あのぅ、感謝の気持ちは受け取っておきますが、あたしも商売でやったことですから……」
むむむ、若干居心地が悪いぞ。別にこの人達のことを思ってしたことじゃないもの。あたしの寝覚めが悪くなりそうだっただけだ。
「商売か……、そうだな。だがそれで助かったのも事実だ。噂に賭けてみて良かったよ」
「噂……ですか?」
「ああ、知ってるかも知れないが、あんたがぼったくりだって噂が流れたことが有ったんだ」
「ああー、はい」
不愉快な噂だった。思い出すだけでイラッとして、少し顔が引き攣ってしまう。
「噂を最初に聞いた時は、迷宮の22階に食い物を届けたって部分がホラだと思ってたんだ。噂を流している連中が話を盛ってるだけってな。それでも魔の森で吹雪に閉じこめられて後が無いとなったら、そんな噂にも縋りたくなったんだ。ホラにしては具体的過ぎるし、ミノタウロスと戦って死にかけた連中が『変な女がミノタウロスを蹴り殺して行った』なんて話していたのを聞いた奴も居たんで、駄目もとで賭けることにしたんだ」
「あー、でも、ギルドの方が確実ではないですか?」
「ギルドはなぁ、依頼を出しても翌日にしかならなくてな。それじゃ間に合わないと思ったんだ」
冒険者その壱は冒険者その四をちらりと見た。冒険者その四は小さく頷いた。
「なるほど」
「そんで、少々ぼったくられたって、命の方が大事だからな。迷宮の22階に配達できるなら吹雪いている魔の森も大丈夫なんじゃないかってな。そしたら、噂は当てにもなったし、当てにもならなかったな」
「はあ……」
「それでちょっと聞きたいんだが、ぼったくりなんて言ってた連中に一体幾ら請求したんだ?」
「それは、商品代金と配達料の2000ゴールドと、追加料金の2万2000ゴールドですが……」
「2万2000?」
「はい、迷宮1階層につき1000ゴールドと言うことで」
「そう言うことか! 他には?」
「それだけです」
「それだけ?」
「はい」
冒険者二人は顔を見合わせる。
「どう思う?」
「安くはないが、場所が場所だけに、ぼったくりと言うほどでもねぇな」
「だな」
そんな会話が聞こえた。
「そうすると、その連中と何か有ったのか?」
「ええ、まあ、配達するかどうか賭をしただけで代金を払うつもりが無かったようで、ついでに襲い掛かられもしまして……」
「それでどうなったんだ!?」
「えーと、まずは温和しくして頂いて、説得? したら、支払いに応じて貰えました」
答えながら若干冷や汗が出た。嘘は言ってないよ?
だけど冒険者二人は脱力して、「判ってますよ」と言う感じで顔を見合わせた。
「独りで22階まで短時間で行けるんだからな……。その程度の相手に遅れは取らないよな。それで相手が逆恨みって訳か」
「なあ、その1階層につき1000ゴールドの根拠って何だ?」
「それは、また行くかどうか判らない場所の地図の代金は出せないかなぁ、と」
「地図か! 確かにあれは1000ゴールドだ!」
「もしかして、迷宮の89階だったとしても、追加料金ってのは8万9000ゴールドでいいのか?」
「そうなりますかね……」
「あんたにとっては迷宮の1階も89階も変わらないんだな」
「いえ、あの、23階から先には行ったことが無いから判りません。配達できないかも知れませんし」
「そうなのか。まあ、奥の方が魔物が強くなるから、行く時は気を付けてな」
「あ、はい」
「それじゃ、このまま帰るのも何だから、何か買わせて貰うとするか」
「じゃがいも、セロリアック、ケール、ビーツ、かき揚げ? 薩摩揚げ?」
「かき揚げってのは玉葱と人参か。この薩摩揚げってのは何で出来てるんだ?」
「魚の鱈が主な材料です」
「魚だって!?」
「これは、魚で出来てたのか!」
冒険者二人の鼻息が荒い。そんなに魚で興奮できるものなの?
「えーと、どれも1個50ゴールドか。じゃあ、薩摩揚げを5つと他のを1つずつで6人分くれ」
「はい、ありがとうございます。締めて3000ゴールドになります」
商品を渡して代金を受け取ると、冒険者二人は「また寄らせて貰うよ」と言い残して帰って行った。
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