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第一章 夏

第一話 パーティ探し

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 木々の緑も濃くなり、日射しも日増しに強くなる初夏。日中には汗ばむ陽気になりそうな気配を漂わせながらも、朝の内は快適だ。

 北へ南へ東へ西へとこの宿場町セバルスを発とうとする客車や荷車が慌ただしく行き交う。
 客車を牽くのは決まって魔法で動かされる首の無い木彫りの馬で、荷車を牽くのは木彫りの馬の他、馬、牛、小型の竜も居る。
 何に牽かせるかはそれぞれの事情による。
 また、木彫りの馬と言っても総称しているだけで、竜の形をしたものも有る。

 大型の竜は地上の覇者とも言える存在だが、荷車を牽く竜は家畜化されている。
 いくつかの種が有るものの、家畜化されたものは総じて短い四つ足で歩く草食型である。
 頭が低い位置に有るためか、体毛が硬質化して鱗状になった種はずんぐりしたトカゲのようにも見える。
 見えるだけで哺乳類なのは他の種と同じである。
 体毛がふさふさしている種も有り、どの種を使うかもそれぞれの事情による。




 町を発つのはこの町で一夜の宿を取った旅人であり、彼らの世話や彼ら相手の商売をする町の住人の朝はもっと早い。
 宿屋、食堂、市場いちばの他、客車や荷車の護衛を営む傭兵やそれを周旋する店、俗に言う組合もである。

 組合は傭兵や賞金稼ぎなどに仕事を周旋する他、狩人などが持ち込んだ獲物や収穫物の元卸をする。
 大抵の町に有るものの、規模は町毎に異なる。
 大都市では複数の組合がしのぎを削る一方、小さな町では酒場が片手間に営むと言った具合だ。

 二〇〇〇人規模のこの町の場合、組合としての営業は日中だけで、夜には酒場となる店が有るのみである。




 そんな組合を通じて収入を得ている身であっても、傭兵でなければ朝はそれほど早くなくて良い。
 むしろ必要が無ければ朝一番の混み合う時間は避けるべきと言える。
 その方が落ち着いて貼り紙を見られるのだ。

 そして俺は今日も今日とて、朝から組合の掲示板でパーティメンバー募集の貼り紙を探す。

 これは……。

 目に付いたものを読んだ。
 しかしながら募集している対象が火魔法で駄目だった。
 俺は火魔法を使えないのだ。

 そっちは……。

 水魔法の募集で駄目だ。
 水魔法も使えない。

 こっちは……。

 この間断られたパーティだ。

 あれもそれも前に断られた。

 そして見つけた。
 まだ当たっていない魔法が限定されてないパーティ。

 面接場所と時間をメモしたら掲示板を後にする。


  ◆


 世界の誰もが魔法を一種類だけ使える。
 例外は無い。
 筈だ。
 火、水、土、風、光、闇、雷、氷、召喚、マリオネット、回復などが有るが、一部は境界が曖昧なために分類は大まかなものでしかない。
 持ち主が多いのは火、水、土、光で、四つで八割以上を占める。
 理由は単純。
 日常生活や仕事でよく使われるために配偶者に恵まれやすく、食うに困ることも少ない。
 つまり子孫を残しやすい。
 そして魔法は両親や祖父母と同じになることが多いのだ。

 ただ、一口に火魔法と言っても、その中にも種類が有る。
 薪が燃えるように炎が揺らめくもの、炎は出ずに光と熱だけが出るもの、爆発するものなどで、火魔法の使い手はそんな中の一つだけが使える。
 訓練次第で強さと継続時間が調節でき、応用は発想次第である。




 時間を合わせて面接場所に行く。
 町中の道沿いに有る広場だ。
 酒場のような場所では魔法を試せず、互いに金銭の持ち合わせが必要になるので、金銭に窮している者やケチくさい者を避けたい募集主でなければ指定しない。

 五分前に着いた時にはもう相手は居た。
 ベンチに並んで座っている。
 オレンジ髪の男は大きく脚を組んで背もたれの裏に両腕を伸ばしてもたれ掛かり、水色髪の男はこじんまりと組んだ脚の上で頬杖を突き、茶色髪の男は脚を開いたまま深く腰掛けて腕を組み、金髪の男は両肘を太股に突いて組んだ手を弄んでいる。
 髪の色は魔法の種類に準ずるので、火、水、土、光の使い手なのだろう。

「パーティメンバーの応募で来たんだけど、いいかな?」

 初めての相手には余所行きの言葉を使うものだが、パーティメンバーの応募では話が別だ。
 常に行動を共にするかも知れない相手に猫を被って話していて、旅先でボロが出てトラブルになったら酷いことになりかねない。
 危険な場所に独りで取り残されようものなら目も当てられないのだ。
 だから端から慣れた相手のような調子で話す。
 トラブルになって独りで残されたとしても、町中なら余裕だ。

「いいぜ。
 ……と言いたいところだが、お前はシモンだろ? 魔法が使えないことで有名だから知ってる」

 オレンジ髪の男が言った。

「貼り紙にも書いていたが、俺達は戦える奴が欲しいんだ。
 帰ってくれ」

 とりつく島もないとはこのことだ。

 だが、そう簡単に諦めることもできない。

「剣や弓なら人並み以上に使えるぞ!」

 剣や弓の鍛練は人一倍してきた自負が有り、剣だけの一対一の勝負なら目の前の男達に勝つ自信が有る。

「人並み以上程度じゃ魔法相手に手も足も出ないだろ」

 それも事実だ。
 殺傷力の無い魔法でも、有るのと無いのとでは大違いなのだ。
 例えば目に水を掛けるだけでも相手に隙が生まれる。

 だから強く反論もできない。
 それでも何とか粘れないかと言う思いから、少し余計な言葉が口から漏れる。

「魔法なら俺にだって……」

 余計だったと漏れた後に気付いても後の祭りだ。

「何の魔法が使えるって言うんだ?」

「召喚……」

 これも本当。
 半端に嘘を言っても黒髪が丸見えなのだから嘘だと判る。
 黒は闇、召喚、マリオネットの一部で現れる色なのだ。

「だったら何か召喚して見せてみろ」

 押し黙るしかなかった。
 他人ひとに見せられる魔法ではないのだ。
 言うことすらはばかられる。

 立ち尽くしていると、オレンジ髪が鼻で嗤う。

「できもしないことをほざくんじゃねぇよ」

「いやいや、きっとまだ使えるようになってないだけで、将来は竜を召喚できるんじゃないか?」

 白髪が茶々を入れた。

「先物買いも一興だが、今欲しいのは今戦える者だ」

「そりゃそうだ」

 茶髪がキッパリと返したのを白髪も半笑いで同意した。

「そう言うことだから、さっさと帰ってくれ」

 ここまで拒絶されれば粘っても無駄だ。
 すごすごと引き下がった。


  ◆


 パーティの応募を断られてしまったが、今となっては腹も立たない。
 最初こそ腹を立てたものだが、よくよく考えたら当然だった。

 パーティで望まれるのは持ちつ持たれつだろう。
 ところが俺には日常生活に役立つ魔法が無いので助けられるばかりになる。
 つまりは情けに縋ろうとしているのだ。
 逆の立場なら俺だってお荷物になりそうな奴をパーティに加えたりしない。

 それが判っていても縋ろうとしているのは収入が心許ないからだ。

 独りで出来るのは町の近くでの採集や狩りくらいのもので、そこで採ったり狩ったりできるものの売り値は安い。
 遠くに行って売り値の高いものもを収穫したらいいのかと言うと、そうでもない。
 遠出には野営道具や水、食糧も必要だ。
 そんなものを背負っていてはその分だけ持ち帰れる量が少なくなり、苦労するだけで収入が減ってしまいかねないのだ。

 ところがパーティなら一人当たりの荷物が格段に少なくなり、長期間の遠征も可能になる。
 水魔法の使い手が居れば水を持ち歩かずに済み、火魔法の使い手が居れば煮炊きに困らず、土魔法の使い手が居れば野営地の設営が容易だ。
 そのため、その三つの魔法からそれぞれ一人以上を基本にして、有ると便利な光魔法、索敵に便利な風魔法などを目的に合わせて組み合わせてパーティを組むのだ。

 これを踏まえれば断られた時にもっと口汚く罵られていたもおかしくはなかった。
 以前に応募したパーティではそうだった。
 その時は落ち込みもし、その日一日何もしたくなくなったものだ。

 そんなことにならなかった今日のパーティは随分優しい男達だったのである。
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