魔☆かるちゃ～魔王はこたつで茶をすする～

１２３０．板前

　その妄想を成就させることなくご機嫌で食事を終えたオリエを前に、女将は幾許かの安堵と伴に悶々としたものを抱えた。
　だから「お下げします」と後片付けをして食器を調理室に運ぶ時には自らの恰好を失念していた。

「お、お客さん！　ここはお風呂場ではありません！」

　女将を見た板前がギョッとして声を上げたのだ。
　板前はオリエを直に見ていないこともあって、容貌の変わった女将を噂で聞いた「裸でチェックインした客」と思い込んだ。

「ぴゃっ！」

　女将は板前に言われて自分の姿を思い出して頓狂な声を上げた。
　堪らず太股を摺り合わせ、両腕で胸を隠す。
　だがここで追い返されても堪らない。

「わ、わたしは女将です！」

　脇を締め、腕で胸の先端が隠すように両手で拳を作って主張する。

「そのおっ……胸が女将さんのはずが……」

　板前も男。無意識に曝け出された女将のたわわな胸に釘付けだ。きっと最初から。
　だからおっぱいが喋っているかのように感じたかも知れない。

「どこ見て言ってるんですか！」

　女将は顔を真っ赤にして胸を両手で抑えながら身体を半回転させた。