上 下
52 / 1,627

363~368 収穫物

しおりを挟む
【363.オリエも】
 オリエもまた箱庭でショップ画面を開いた。

 ナビゲーターのアバターを選択してください。

「選択?」

 オリエは困惑した。選べるのが狸だけで何を選ぶのか。

「いいけど」

 オリエが躊躇いも見せずにボタンを押すと、ポンと音を立ててちんまりとデフォルメされた狸が現れた。

『何をお探しでしょうかー』
「あ、魔王。魔王が教えてくれるんだ」
『やだなー。ナビちゃんは魔王さまではありません。ナビちゃんですー』
「ふーん。今度はそう言う遊び? なんだ」
『……』

 魔王は珍しく戦慄した。オリエにナビちゃんの中の魔王を初見で見抜かれるとは想定外だった。



【364.遊びだったね】
「それで、魔王のお薦めってある?」
『やだなー。ナビちゃんは魔王さまじゃなくてナビちゃんですよ』
「あ、そっか。遊びだったね」
『……』
「で、ねぇ魔王?」

 オリエはお勧めをねだるが、魔王は大きく溜め息を吐いた。

『はあ……。どうして我だと判った?』
「え? だって、魔王の視線そのままだし」
『え……? 視線で?』
「いつもの魔王の視線と一緒だもの」
『いつもって……』
「ずっと見てる……、今は絶えず見守ってくれてる感じかな? でしょ?」
『気付いてたのか!?』

 魔王はオリエの「超」の付く感覚に喫驚した。



【365.気にならない】
『見られていることが気にならないのか?』
「うん。魔王だし、気になってたらここに住んだりしないよ」

 ここに住む前は気になっていたが、害意は感じなかったのでスルーしていた。ここに住むようになった後は、視線の正体が魔王だと知って安心したくらいだ。

『そりゃそうだな』
「それに、気を抜けなかった地上より安心して眠れるもん」
『は? 地上が安心できない?』
「たまにだけど、寝込みを襲われるんだ……」
『……』
「だから前からダンジョンに居る時間の方が長かったくらいだよ」

 オリエを倒して名を上げようと目論む輩の仕業だ。魔王の居室以外のダンジョンと同じでいつ襲われるか判らない。それなら手加減が要らないダンジョンの方がまだマシだった。

『お、おう……』

 魔王から見てもなかなかヘビーな生活である。



【366.拘らない】
「そんな事より、何から始めたらいいのかな?」

 オリエは過去には拘らなかった。それより今後である。全くの白紙の状態では取っ掛かりが掴めなくて困る。

『初心者農耕セットがいいぞ』
「判った」

 オリエは疑いもせず初心者農耕セットをポチる。

『おいおい』
「どうしたの?」
『少しはできそうか考えろ』
「だって、どれができるかなんて判んないもん」
『む……』

 全くの畑違いなら自分にできるか判らないのも道理。魔王もこれ以上諭す意味を感じなかった。ただ、オリエがこんな調子で騙されて貧乏していたのだとは納得した。



【367.ラディッシュ】
 翌日。初心者農耕セットを選んだ3人の畑ではラディッシュの収穫を迎えた。
 これにはオリエもびっくりだ。

「早くない?」
『ゲームだからな』

 ナビちゃんの中の魔王が答えた。
 ラディッシュなら1区画の収穫で7ダンジョンポイントに交換でき、豊作判定ならダンジョンポイントが割増になる。このレートは作物によって異なる。
 これもゲームとしての決め事だ。

「そうなんだ……。でも、あれ? いつもの魔王の話し方でいいの?」

 オリエは納得しつつもナビちゃんの話し方に違和感を持った。それを含めての遊びではないのかと首を傾げる。

『正体を知られている相手にロールプレイしても気まずかろう』
「ふーん」



【368.収穫物】
 数日経って。

「暇だね……」

 オリエは箱庭の畑の様子を見に来ても特に何もする事が無いので気が抜けていた。

『ゴーレム任せならそんなものだ』
「だけどこんなのでいいの?」
『ゴーレムを領民だと思えばいい。お前は領主の立場だ。領主自ら畑は耕さんだろう?』
「……そだね。じゃあ、放っておいても大丈夫なのかな?」
『何を育てるかは決めなくてはならぬがな』
「ふーん」

 そして夕食。食卓に並ぶのはラディッシュサラダ、ラディッシュとほうれん草のシチュー、ほうれん草の卵とじ、などなど。

「最近やけにラディッシュとほうれん草が多くねぇか?」

 剣士が飽きてきたのか不平を言った。

「腐るほどあるからナ」

 シェフは何でもないようにカラカラと笑う。

「まさか」
「まさかダ」
「む……」

 その夜、初心者農耕セットを交換した3人で緊急会議が設けられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...