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323~328 商売候補
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【323.剣士はドヤ顔だった】
サイコロの出目次第のすごろくで剣士が圧勝した翌日。人生ゲームは魔王が夜なべで完成させていた。尤も、眠る必要の無い魔王にとって夜なべはいつものこと。……お茶を啜っているだけの方が多くはあるが。
それはさておき、5人パーティーはすごろくのプレイである。
「ほらやっぱりー」
「ぐぬぬ……」
勝負はあっさりと着いた。剣士が殆ど自爆に等しい破産をし、再起を賭けて勝負に挑めば借金を膨らませる事態を繰り返したのだ。魔法使いが剣士を煽りもすれば、剣士が悔しげに呻きもする。
「ですけど、マホもゾッケンと大差ありませんよ?」
「ぐぬ……」
ヒーラーの突っ込みに魔法使いも呻いた。魔法使いも剣士ほどではないが借金に塗れている。
一方、ヒーラーと槍士は借金は無くても資産も控え目でちょっぴりで終わった。ハンターだけは資産を増やして一人勝ちだ。
そのハンターは喜ぶでもなく遠い目をする。商売もいいなぁ、と思いながら。
【324.商売もいいなぁ】
ハンターは商材に思いを馳せる。直ぐに思い付くのは目の前のすごろくだ。
「魔王、このすごろくってどうやって作るんだ?」
「自作するなら、紙や板にマスを描いて、指示を書くだけだぞ」
「そうじゃねぇんだ。これって売ってるものだろ? 売るほどの数をどうやって作るかって話だ」
これを商売にできれば大儲けだと冗談めかして笑う。ハンターの仲間達は引き気味だが、魔王は特に何を思うこともない。
「これだったら紙に印刷だ」
「おう。その印刷ってののやり方を知りたいんだ」
「ふむ……」
大雑把に言えば、パソコンで描いたイラストに文字を埋め込んで、製版して、紙に刷る。しかしそこには技術的な蓄積があるからこそ手順が簡略化されている。そうなる前は紙にイラストを描いて、文字を貼り付けて、写真に撮って、と言う作業を行っていた。
この世界に合わせるとすると、どこまで遡るかが問題だ。
「……木版を作ればいいんじゃないか?」
「え……?」
ハンターは絶句した。
【325.魔王は木版を奨めた】
「知らないか? 木の板を彫って、インクを塗って、紙に刷る」
「それは知ってるけどよ……、それじゃこんなに綺麗にはならないだろ」
「……そうだな」
木版は斑が出来やすい。細かい表現も苦手だ。それらをどうにかしようとする職人技にも限界が有る。
「しかしだ……」
魔王には魔王の考えがある。パソコンなどの電気製品はオーバーテクノロジーが過ぎるので地上に持って帰らせるつもりが無い。もっと簡便なシルクスクリーン印刷もメッシュの製造技術の無い世界では早晩印刷できなくなる。継続性が全く無いのだ。現状で妥当なのが木版画となる。
それに木版画も捨てた物ではない。多色刷りだって可能なのだ。職人技が必要だけども……。
魔王がそれらを説明すると、ハンターは唇を波打たせた。
「すごろくはもういいや。他に何かいいもんねぇか?」
「〃「……」〃」
ハンターがあっさりし過ぎたせいで、その場が微妙な沈黙に包まれた。
【326.何かいいもん】
「何でもいいのかよ……」
剣士の突っ込みに、当のハンター以外が頷く。
「思い付きで商売をしても上手くは行くまい」
「信念のようなものが必要ですよね」
槍士とヒーラーが追い撃ちを掛けると、ハンターはぶんむくれた。
「料理がお勧めダ。この世界の食材を使った料理だったら、商売ができなくなることもなイ」
話に割り込むようにしながら、「例えばこれダ」とシェフがおやつのポテトチップスをこたつに置く。簡単そうでいて、家庭ではなかなか上手く作れないのがポテトチップスである。そもそものじゃがいもの品種が違ったりする。
「へえ……」
商材になると聞けば、ぶんむくれても居られない。ハンターは真っ先にポテトチップスに手を伸ばし、口に運んではパリパリと小気味良い音を響かせる。
「うめぇ……」
「これは市販品だがナ」
シェフはカタカタと笑った。
【327.料理がお勧めダ】
「ここの料理はシェフが全部作ってるんじゃなかったのか?」
ハンターは心底驚いた顔をする。
「全部など作れるものカ。特に菓子は専門の職人には叶わぬゾ」
「シェフにも苦手があったのか……」
「一つに絞れば上には上が居るだけダ」
どら焼きなら、どら焼きだけを作り続けた職人には敵わないと言うことだ。
「商売にするなら、調味料を作るのもお勧めダ」
シェフも調味料をブレンドしても、基本となる調味料までは作らないし、作れない。酢なら醸造の職人の仕事だ。しかし料理には調味料が無ければ幅が広がらない。
その基本の調味料の製造でも良いし、商売にするだけならブレンドした調味料を作っても良い。
「何かいいものがあるのか?」
「マヨネーズなんてどうダ? 定番だゾ」
「何の定番だよ……」
ハンターは訳が判らないとぼやくのだった。
【328.定番だゾ】
「で、マヨネーズってどうやって作るんだ?」
「大雑把には油と酢と生卵を混ぜるだけダ」
「ふうん。油と酢と生たま……、生卵!? 生卵が入ってるのか!?」
「そうダ」
「だったら駄目だ。ここの卵は大丈夫なんだろうが、地上の卵なんて当てになるもんか」
「腐ってなければいイ。新鮮な卵を選べばより確実ダ」
「その新鮮な卵ってのがな……。鶏なんていつ卵を産むか判んねぇだろ」
鶏を籠で飼い、頻繁に見て回っても取りこぼしが出てしまう。放し飼いならどこに産んだかも判らない。そのせいで産んだばかりだと確信が持てることは多くない。
「このダンジョンの鶏の魔物のドロップなら新鮮だゾ」
「そう来るか……」
ハンターは唸った。
サイコロの出目次第のすごろくで剣士が圧勝した翌日。人生ゲームは魔王が夜なべで完成させていた。尤も、眠る必要の無い魔王にとって夜なべはいつものこと。……お茶を啜っているだけの方が多くはあるが。
それはさておき、5人パーティーはすごろくのプレイである。
「ほらやっぱりー」
「ぐぬぬ……」
勝負はあっさりと着いた。剣士が殆ど自爆に等しい破産をし、再起を賭けて勝負に挑めば借金を膨らませる事態を繰り返したのだ。魔法使いが剣士を煽りもすれば、剣士が悔しげに呻きもする。
「ですけど、マホもゾッケンと大差ありませんよ?」
「ぐぬ……」
ヒーラーの突っ込みに魔法使いも呻いた。魔法使いも剣士ほどではないが借金に塗れている。
一方、ヒーラーと槍士は借金は無くても資産も控え目でちょっぴりで終わった。ハンターだけは資産を増やして一人勝ちだ。
そのハンターは喜ぶでもなく遠い目をする。商売もいいなぁ、と思いながら。
【324.商売もいいなぁ】
ハンターは商材に思いを馳せる。直ぐに思い付くのは目の前のすごろくだ。
「魔王、このすごろくってどうやって作るんだ?」
「自作するなら、紙や板にマスを描いて、指示を書くだけだぞ」
「そうじゃねぇんだ。これって売ってるものだろ? 売るほどの数をどうやって作るかって話だ」
これを商売にできれば大儲けだと冗談めかして笑う。ハンターの仲間達は引き気味だが、魔王は特に何を思うこともない。
「これだったら紙に印刷だ」
「おう。その印刷ってののやり方を知りたいんだ」
「ふむ……」
大雑把に言えば、パソコンで描いたイラストに文字を埋め込んで、製版して、紙に刷る。しかしそこには技術的な蓄積があるからこそ手順が簡略化されている。そうなる前は紙にイラストを描いて、文字を貼り付けて、写真に撮って、と言う作業を行っていた。
この世界に合わせるとすると、どこまで遡るかが問題だ。
「……木版を作ればいいんじゃないか?」
「え……?」
ハンターは絶句した。
【325.魔王は木版を奨めた】
「知らないか? 木の板を彫って、インクを塗って、紙に刷る」
「それは知ってるけどよ……、それじゃこんなに綺麗にはならないだろ」
「……そうだな」
木版は斑が出来やすい。細かい表現も苦手だ。それらをどうにかしようとする職人技にも限界が有る。
「しかしだ……」
魔王には魔王の考えがある。パソコンなどの電気製品はオーバーテクノロジーが過ぎるので地上に持って帰らせるつもりが無い。もっと簡便なシルクスクリーン印刷もメッシュの製造技術の無い世界では早晩印刷できなくなる。継続性が全く無いのだ。現状で妥当なのが木版画となる。
それに木版画も捨てた物ではない。多色刷りだって可能なのだ。職人技が必要だけども……。
魔王がそれらを説明すると、ハンターは唇を波打たせた。
「すごろくはもういいや。他に何かいいもんねぇか?」
「〃「……」〃」
ハンターがあっさりし過ぎたせいで、その場が微妙な沈黙に包まれた。
【326.何かいいもん】
「何でもいいのかよ……」
剣士の突っ込みに、当のハンター以外が頷く。
「思い付きで商売をしても上手くは行くまい」
「信念のようなものが必要ですよね」
槍士とヒーラーが追い撃ちを掛けると、ハンターはぶんむくれた。
「料理がお勧めダ。この世界の食材を使った料理だったら、商売ができなくなることもなイ」
話に割り込むようにしながら、「例えばこれダ」とシェフがおやつのポテトチップスをこたつに置く。簡単そうでいて、家庭ではなかなか上手く作れないのがポテトチップスである。そもそものじゃがいもの品種が違ったりする。
「へえ……」
商材になると聞けば、ぶんむくれても居られない。ハンターは真っ先にポテトチップスに手を伸ばし、口に運んではパリパリと小気味良い音を響かせる。
「うめぇ……」
「これは市販品だがナ」
シェフはカタカタと笑った。
【327.料理がお勧めダ】
「ここの料理はシェフが全部作ってるんじゃなかったのか?」
ハンターは心底驚いた顔をする。
「全部など作れるものカ。特に菓子は専門の職人には叶わぬゾ」
「シェフにも苦手があったのか……」
「一つに絞れば上には上が居るだけダ」
どら焼きなら、どら焼きだけを作り続けた職人には敵わないと言うことだ。
「商売にするなら、調味料を作るのもお勧めダ」
シェフも調味料をブレンドしても、基本となる調味料までは作らないし、作れない。酢なら醸造の職人の仕事だ。しかし料理には調味料が無ければ幅が広がらない。
その基本の調味料の製造でも良いし、商売にするだけならブレンドした調味料を作っても良い。
「何かいいものがあるのか?」
「マヨネーズなんてどうダ? 定番だゾ」
「何の定番だよ……」
ハンターは訳が判らないとぼやくのだった。
【328.定番だゾ】
「で、マヨネーズってどうやって作るんだ?」
「大雑把には油と酢と生卵を混ぜるだけダ」
「ふうん。油と酢と生たま……、生卵!? 生卵が入ってるのか!?」
「そうダ」
「だったら駄目だ。ここの卵は大丈夫なんだろうが、地上の卵なんて当てになるもんか」
「腐ってなければいイ。新鮮な卵を選べばより確実ダ」
「その新鮮な卵ってのがな……。鶏なんていつ卵を産むか判んねぇだろ」
鶏を籠で飼い、頻繁に見て回っても取りこぼしが出てしまう。放し飼いならどこに産んだかも判らない。そのせいで産んだばかりだと確信が持てることは多くない。
「このダンジョンの鶏の魔物のドロップなら新鮮だゾ」
「そう来るか……」
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