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315~322 すごろく

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【315.破廉恥】
 ズズズ……。パリパリパリ……。

 魔王は茶を啜り、煎餅を囓る。暇だ。

 ズズズ……。パリパリパリ……。

 魔王は茶を啜り、煎餅を囓る。

 しくじったか……。

 内心で独りごちる。
 まさかお猿さんと腐敗物を生産するだけになるとは思わなかった。5人パーティーはそれぞれの部屋でビデオに釘付けだ。彼らはお互いに隠し事されている感への苛立たしさをビデオ鑑賞にぶつける形でのめり込んだ。
 お陰で魔王は暇になった。

 ズズズ……。パリパリパリ……。

 茶を啜り、煎餅を囓る。誰かが盛っているのを見ても興奮しないので楽しくない。

「はあ……」

 溜め息が虚空に消えた。空は無いけれど。



【316.魔王は暇を持て余した】
 遊び相手が引き籠もったことで、暇になった魔王は以前からの懸案を思い出した。
 フォント問題だ。書き文字をスキャナーで取り込み、フォント作成ツールに流し込んで作りたかったが、パソコンのオペレーティングシステムを始めとしたアクティベーションの壁に躓いた。
 それをどうにかしたいのだ。

 面倒だがドットを打つよりマシか。

 魔王は内心で呟くと、離れた場所に広大な部屋を構築した。
 そこにデータセンターを丸ごと、どーん!
 自家発電装置、稼働!
0 居間に最新高スペックパソコン、どーん!
 データセンターから引っ張った光ケーブルにメディアコンバーター、装着。
 パソコンの電源、オン!

 ネットワークに接続されていません。

「ぐぬぬ……」



【317.接続されていません】
 直接の原因はパソコンにLANケーブルを繋ぎ忘れたことだった。
 しかしそれだけではまだ繋がらない。DHCPホストもDNSサーバも挟んでなかったから、IPアドレスやドメイン解決ができていない。IPアドレスを決め打ちで設定してHOSTSの設定して……。

「駄目じゃん」

 HOSTSでいちいち設定していられない。DNSサーバを探してデータセンターとパソコンの間に挟み込む。
 アクティベーションサーバとアップデートサーバが別のデータセンターだったものだから、データセンターを追加で、どーん。
 そんなこんなの試行錯誤を繰り返すこと数日。

「おっし! アクティベーションもアップデートも通った!」

 ……。

 魔王はソフトウェアのインストールが面倒になって、フォント作成ソフトがインストールされたパソコンを探してコピーした。パソコンを探すのに数日掛かりだったが、その方が結局早かった。
 チーン♪



【318.フォント作成環境は整えた】
 パソコン1台を設置するために何日もとんだ無駄骨を折った魔王だが、へこたれてはいない。こんなのはよくあることだ。
 とにかく画用紙とマジックを用意する。

「オリエ、これに文字を1文字ずつ大きく書いて貰えるか?」
「いいよ!」

 珍しい魔王からのお願いを、オリエは快く引き受けた。
 魔王がオリエに頼んだのは他でもない。綺麗な字を書くのは貴族の嗜みなのだ。お家再興を目指していたオリエにとって、字の練習は当然するべきものだった。
 しかしこれは慣れないマジックに慣れない字の大きさ。最初は上手く書けずに幾許かの練習を必要とした。

 ズズズ……。

「できたよ!」

 魔王が茶を啜りながら待つこと2時間ばかり、オリエの弾んだ声が響いた。
 魔王は画用紙を検分する。

「いい出来だ。さすがだな」

 魔王がOKを出すと、オリエは「やったー!」と諸手を挙げて喜んだ。たまには魔王の役に立つのも良いものなのだった。



【319.文字の見本は出来た】
 魔王はオリエに書いて貰った文字をスキャナーでパソコンに取り込み、フォント作成ソフトでアウトラインフォントを作成する。フォントセットはオープンタイプだ。アルファベットを置き換えてしまえばキーボードで直接の入力が可能になる。
 それだけで何日も掛かったが、お猿さん達が人間に戻る様子はまだ無い。食事には出て来るが、掻き込むように食べたら直ぐに部屋に戻ってしまってまたお猿さんなのだ。
 魔王がフォント作成に取り組んだ切っ掛けはすごろくである。すごろくの文言を翻訳しつつ表計算ソフトに入力する。
 そして入力が終わった表計算シートを高解像度のプリンターでシール紙に印刷する。
 後はちょきちょき切り貼りするだけだ。

「魔王、それは何だ?」

 切り貼りの半ばで剣士が尋ねた。お猿さんを卒業したらしい。



【320.シールは出来た】
 魔王はシールの切り貼り途上のすごろくを指差しながら答える。

「これはすごろくだ」
「すごろく?」
「サイコロを振ってマスの分だけ進んで、マスに書かれた指示に順いながらゴールを目指すゲームだ」
「ほう」

 剣士はすごろくをしげしげと見る。書かれているのは「5マス進む」「3マス戻る」など、とてもシンプル。

「簡単そうだな」
「これはな」
「?」

 剣士は小首を傾げた。

「ややこしいものになったらゲーム内マネーのやり取りなんかがある」

 剣士が更に首を傾げるので、魔王は大まかな内容を説明する。

「そりゃめんどくさそうだな」

 剣士は酷く厭そうに眉を顰めた。



【321.すごろくも完成間近】
 魔王と剣士が話している間に5人パーティーの他のメンバーも憑き物が落ちたような面持ちで部屋から出て来た。悟りを開いたようにも見える。さすがにお疲れらしい。

「あれ? ゾッケンは魔王と何を話してるの?」
「魔王が新しいゲームをな」
「へえー」

 どれどれどんなものかしらと、魔法使いがすごろくを覗き込み、魔王が簡単な説明を加える。

「割と単純なのね」
「そうでもないぞ」

 剣士はついさっき魔王から聞いたゲーム内マネーの話をする。

「あーはいはい。ゾッケンって金銭感覚無いから」
「ふぁっ!」

 軽く流されたこともさることながら、剣士は「そんな風に思われていたのか!」と喫驚した。



【322.金銭感覚無いから】
「聞き捨てならないな。俺は金銭感覚の固まりだぜ」
「へぇー」

 仲間達は剣士を胡散臭そうに見詰める。よほど信用が無いらしい。

「こうなったら魔王、作っちゃくれないか? ゲーム内マネーってのがあるゲームを」
「ふむ。いいだろう」

 魔王は題材が商人で、選択肢ではサイコロを振るだけでなくプレーヤー自身が選ぶ要素のあるものを探して翻訳する。
 しかしそれが出来上がるまでには時間が掛かるため、今日のところは小手調べにもうすぐ完成の単純なもので遊ばせる。

「ぐぬぬ……」

 魔法使いが悔しげに唸る一方、圧倒的な強さを見せた剣士はドヤ顔だ。サイコロの転がし方で、ある程度出目を選べるらしい。
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