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306~314 ビデオ鑑賞

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【306.除けもんに】
 夕食が終わって暫く経てば、賢者のような時間も終わりを告げる。

「魔王、昼間のアレ、俺の部屋に置けないか?」
「然り。然り。拙者の部屋にもお頼み申す」
「構わんぞ」

 剣士と槍士が女達を横目で気にしながら魔王に無心すれば、魔王は気軽に請け負った。

「だからその昼間のアレって何なんだ?」
「レンジ、何カリカリしてるのよ?」
「こいつらが俺を除けもんにしやがんだよ!」

 ハンターが睨み付けるように言うと、剣士と槍士は顔を見合わせる。

「判った判った。後で俺の部屋に来な。見せてやるよ」

 さすがにここでは説明できないのであった。



【307.部屋にプレーヤーを】
 魔王が剣士と槍士の部屋にプレーヤーとテレビを設置し、早速剣士の部屋でアダルトビデオの再生だ。大型の画面にバーンと肌も露わな女体が映る。

「こ、これは堪らん……」

 ハンターは目を爛々と輝かせた。その手が自然とズボンの上から股間を握る。手をズボンの中に入れるのも時間の問題と思われた。

「これ、俺の部屋にもくれ!」

 どうやらズボンに手を突っ込むのは自重したらしい。

「おいおい、レンジにはマホが居んだから必要ないだろ」
「そりゃマホはいい女だけどよ。マホばかりってのもな……。他の女の裸も見てみたいだろ?」
「そうなのか?」

 剣士は槍士に尋ねた。

「拙者が知るわけがなかろう」

 特定の相手が居ないのは剣士も槍士も同じであった。



【308.ハンターにも】
 ハンターが「狡い。狡い」と五月蠅くなったこともあって、結局ハンターの部屋にもプレーヤーとテレビを魔王に無心した。アダルトビデオやアダルトグッズもだ。

「ぐっへっへ」

 設置後、魔王や剣士達が部屋を出て独りになったところで、ハンターは早速ビデオの再生だ。

「こ、これは堪らん!」

 元気一杯自家発電に勤しむハンターだ。

 バタン!

 どっきんこ!

 ところが突然開いた扉の音に、心臓が跳ね上がった。

「レンジ、居る?」



【309.心臓が跳ね上がった】
 沈黙の帳が降りた。
 暫くは双方固まったままだったが、魔法使いが「あ……」と小さく声を漏らしたのを切っ掛けに動き出したハンターは慌ただしい。
 ティッシュペーパーをガシュガシュガシュっと連続で抜き取り、ごそごそやった後でポイッと捨てる。脱ぎ捨ててあったズボンをつんのめって片足跳びしながら穿くと、何食わぬ顔で魔法使いに声を掛ける。

「居るぞ。何かようか?」
「……」

 特に用があるでもなかった魔法使いはハンターの誤魔化そうとする振る舞いを訝しみ、その背後のベッドへと視線を注ぐ。
 見慣れぬものがある。ちょっとした予感にハンターの部屋に押し入る魔法使い。ハンターを押し退けるようにベッドへと行けば、肌も露わな女の写真に飾られた箱が。DVDのパッケージだ。

「厭らしい!」

 パッケージが炎上した。魔法使いの魔法で文字通りに。



【310.パッケージが炎上した】
 パッケージが炎上した。……かのように見えた。火が消えれば全くの無傷なのだ。

「レンジ! 何をしたの!?」
「俺が知るもんか。魔王の仕業だろ」

 パッケージだけでなく、道連れにされるはずだったベッドも無事だ。焼け焦げ一つ無い。

「だいたい、いきなり燃やそうとするなんて、どうかしてるだろ。危うく俺の寝床が無くなるところだ」
「そんなの、あたしの部屋に来ればいいわ」
「お、おう……」

 怫然としながらも何の躊躇いも無く言う魔法使いに、ハンターは二の句を継げない。

「こうなったら魔王に直談判よ!」

 こんなもの消して貰わなきゃ、とパッケージを抱えて脇目も振らずに部屋を出る魔法使いを、ハンターは慌てて追った。



【311.魔王に直談判】
「魔王! こんなの消しちゃってよ!」

 ぐわっしゃーん!

 魔法使いはアダルトビデオのパッケージを叩き付けるようにこたつに置いた。
 お茶とお茶請けは直前に魔王が避けたので無事だ。

「す、すまねぇ、魔王。マホがいきなり……」

 魔法使いを追って来たハンターは平謝りである。

「なあに……」

 気にすることはないと、魔王は軽く流しながら魔法使いにだけ見えるように別のDVDパッケージをコピーする。そして囁いた。

「それを消さずに済ませるなら、これを代わりにやるが、どうだ?」
「そ、それは……」

 魔法使いが生唾を飲み込んだ。パッケージには男同士が裸で絡み合う様子が写っている。それも、魔王が異世界で懇意にしている国とは別の国の製品、所謂海外物だ。
 一旦は逸らそうとした目がパッケージに引き寄せられて堪えられない魔法使い。「でも」「やっぱり」「だからって」と何を考えているかよく判らない言葉を口から漏らす。
 しかし程なく懊悩の結論が出る。

「い、い、い、いいわ……」

 魔法使いが顔を真っ赤にしつつ同意したことで、取り引きはあっさり成立した。



【312.魔法使いが取り引きに応じた】
 魔王が「よっこいせ」と立ち上がる。

「魔王?」

 魔王はハンターの問い掛けには何も返さない。返事をしたらこそこそと取り引きした意味が無くなる。「中を見られるようにしてやろう」と魔法使いに囁いて、一緒に魔法使いの部屋へと向かう。

「お、おい!」

 足早に立ち去る魔法使いの口が奇妙に吊り上がる。端から滴を垂らしそうになっている。

 じゅるりっ。

 魔法使いは啜りながら口元を手の甲で拭った。

「何だってんだ……」

 ハンターはぶつぶつ言いながらも、放置されたままの魔法使いに持ち出されたDVDのパッケージを回収して足早に立ち去った。



【313.魔法使いもプレーヤーを得た】
 翌朝の朝食。魔法使いの顔がヤバかった。剣士と槍士をチラチラ見ながらにやけまくる。
 こんなの、見られる方は堪ったものではない。気になって気になって落ち着かない。

「マホ? 何なんだ、お前はさっきから? 俺の顔に何か付いてんのか?」

 剣士が苛立たしげに問い質す。

「べーつにー」

 魔法使いは変わらずにやけ顔だ。

「だから何なんだ!」

 剣士は怒鳴った後で、何か心当たりが無いのか視線で槍士に問い掛ける。心当たりの無い槍士は当然首を横に振る。

「あっはっはっは! し! 視線で語ったわ!」

 魔法使いが腹を抱えて笑い転げる。
 これには剣士も怒りより困惑を深くした。



【314.笑い転げる】
 魔法使いの脳裏には昨晩見たビデオが登場人物を剣士と槍士に変えて再生されていた。
 つまりやたらと妄想が捗っていたのである。
 これには魔王も少し引いた。魔法使いが男の裸に興奮する様子から、好むだろうホモビデオを渡したところ、予想以上に琴線に触れてしまったらしい。

 早まったか……。

 微妙に反省する魔王である。
 しかし魔王がホモビデオを渡したのは魔法使いだけではない。そしてその人物も少々挙動不審だ。魔法使いを見ては焦るかのような表情を見せ、顔を逸らしては頬を赤らめる。
 それで誰も気付かない筈もない。

「セヒイラはどこか具合でも悪いのか?」
「は、破廉恥です!」

 ハンターの問いにヒーラーが叫んだ。その突拍子もない反応に皆の視線が集中する。

「ご、ごめんなさい! ちょっと考え事をしていまして!」
「どんな破廉恥な考え事だよ……」

 ハンターの揶揄に、頭から湯気を立てて俯くヒーラーであった。
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