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231~237 鍛練方法
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【231.危ないよ】
「あれ? みんなこんな所を歩いてたら危ないよ!」
「オリエさん! オリエさん……」
オリエの声に驚きの声を上げた魔法使い。しかし、直後にオリエの姿を見咎めて、溜め息のような声を出した。日課の鍛練から帰る途中だったオリエはいつものようにすっぽんぽんなのだ。
ガン見する男達に、魔法使いは白い目を向ける。そして小さく頭を振った。
「さあさ、みんな早く帰ろう!」
オリエが尚も言うが、剣士が少し拗ねたような表情を見せる。
「一度は苦戦するほどでもなく通った道なんだ。危ないってこともないさ」
「ダメだよ、危ないよ!」
オリエは強調するように言った。
【232.今度から】
戸惑ったのは魔法使いもだ。
「どうしてそこまで帰したがるのよ……?」
「だってみんな弱いもの」
「そんな、オリエさんに比べたら……」
誰でも弱く見えようと言うものだ。但し、魔王とシェフは除く。
「それに、みんな身体が鈍ってるから、勘を取り戻さないと」
「うう……」
魔法使いの言葉に、オリエは考え込んだ。その通りだからだ。鈍ったままにしていてはもっと鈍るだけでもっと危険になる。
「じゃあ、今度からあたしが付き添うよ! 絶対に声を掛けてね!」
「「「おおっ!」」」
思わずと言った風情で声を漏らしたのは男達であった。その視線から、オリエの裸身を見放題の期待がありありだ。
魔法使いとヒーラーは、そんな男達を白い目で見た。
【233.感じ取る】
「オリエさんてここで暮らしていて、どうして引き締まった身体のままでいられるのかしら?」
「いつも視線を感じ取れるようにしてるからじゃないかなー」
魔法使いの呟きにオリエは応えた。
これは言葉通りの意味ではなく、常に気配を感じ取って不測の事態に備えることなのだが、常に魔王に見られていることにもオリエは気付いているので全くの嘘でもない。
魔王に見られていることに動じないのは単純に慣れだ。地上で暮らしている時でも、外を出歩けば常に注目を浴びていたし、独りの時でも常に襲撃に備えねばならなかった。だから特に視線に混じる悪意には敏感だ。主にダンジョン探索中に魔物から注がれる視線に対してではあるが、町中で功名心に逸る者や、もっと即物的に不埒な行動に及ぼうとする者からの視線の場合もある。
そう言ったこともあって、ここでの暮らしは地上より遥かに安心だ。魔王の悪意の無い視線だけだから夜もぐっすりである。
しかしそんな話が魔法使いに伝わる筈も無く……。
「視線を感じ取る!?」
激しく喫驚されるのであった。
【234.ふにゅっと】
魔法使いは顔を赤くしたり蒼くしたりで、オリエと男達を見やる。そして少しふにゅっとなっている自分の腹を掴んでみた。
「オリエさんみたいにしなきゃいけないのかしら……」
今度は着ている服に手を掛けながら呟いた。
ヒーラーは魔法使いが何をしようとしているのか目敏く察した。すかさず魔法使いの手を握る。
「マホ、だめ。わたし達はオリエさんとは違うのよ」
魔法使いがオリエの真似をしてすっぽんぽんになったところで痩せる保証は無い。ヒーラーに止められたことで改めてそれに気付かされた魔法使いは、もう一つのことに気付いてげんなりした顔を仲間達に向ける。
何より魔法使いがすっぽんぽんになったところで、彼らが痩せることはないのだ。
【235.どんな鍛練】
「オリエさん、オリエさんは普段、どんな鍛練をしてらっしゃるのですか?」
魔法使いに任せていたらとんでもないことになりそうな予感がしたヒーラーが進み出た。オリエの話が鍛練の方法についてだと敏感に察したのだ。
「みんなと初めて会った時みたいに、魔物の攻撃を避けてるんだよ」
「避けるだけなのですか?」
「うん。反撃したら直ぐに終わっちゃうから」
鍛練が終わってもずっと追い掛けて来る魔物は仕方なく倒すが、それまでは徹頭徹尾避け続けると言うことだ。
ヒーラーが口を波打たせた。言っている意味は判っても内容に付いて行けない。説明に畏れを深くするばかりである。2時間ほどを休むこと無く避け続ける体力と集中力はいかばかりか。
「凄いです……」
しかし割と他人事だった。真似できるとは到底思えないからだった。
【236.しようとしても】
魔法使いが自分の服に手を掛ける。
「やっぱりあたしは……、痛っ!」
ヒーラーが魔法使いの額にチョップを食らわせたのだ。
「正気に戻りなさい」
両手で頭を押さえて涙目の魔法使いに、ヒーラーは冷めた視線を注いだ。
「わたし達がオリエさんの真似をしようとしても無駄です」
前衛で戦う男達はまだ可能性があるが、後衛の魔法使いと自分には可能性が無いと、ヒーラーは考える。
「さあさ、今はオリエさんの言う通りに引き上げましょう」
ヒーラーはいきなりポンコツ化した魔法使いを見ていられず、仲間達の背中を押して急き立てながら、帰りの途へと就くのだった。
【237.いい鍛練の仕方】
帰る途中で何度か魔物に遭遇したが、5人パーティーがあまりに危なっかしく見えたため、オリエはついつい手を出してしまった。
この調子では自身が彼らに付き添っても、彼らの鍛練にはなりそうにない。思い悩むオリエではあったが、妙案が浮かぶ前に魔王の許まで帰り着いた。
しかしそこで、ふと思い付く。
「魔王、何かいい鍛練の仕方って無い? 安全なやつ」
「無いこともないぞ」
「ほんと!?」
「こんなのはどうだ?」
魔王が取り出したのは、黒い肌のマッチョな男が音楽に合わせてエクササイズをするビデオであった。
「あれ? みんなこんな所を歩いてたら危ないよ!」
「オリエさん! オリエさん……」
オリエの声に驚きの声を上げた魔法使い。しかし、直後にオリエの姿を見咎めて、溜め息のような声を出した。日課の鍛練から帰る途中だったオリエはいつものようにすっぽんぽんなのだ。
ガン見する男達に、魔法使いは白い目を向ける。そして小さく頭を振った。
「さあさ、みんな早く帰ろう!」
オリエが尚も言うが、剣士が少し拗ねたような表情を見せる。
「一度は苦戦するほどでもなく通った道なんだ。危ないってこともないさ」
「ダメだよ、危ないよ!」
オリエは強調するように言った。
【232.今度から】
戸惑ったのは魔法使いもだ。
「どうしてそこまで帰したがるのよ……?」
「だってみんな弱いもの」
「そんな、オリエさんに比べたら……」
誰でも弱く見えようと言うものだ。但し、魔王とシェフは除く。
「それに、みんな身体が鈍ってるから、勘を取り戻さないと」
「うう……」
魔法使いの言葉に、オリエは考え込んだ。その通りだからだ。鈍ったままにしていてはもっと鈍るだけでもっと危険になる。
「じゃあ、今度からあたしが付き添うよ! 絶対に声を掛けてね!」
「「「おおっ!」」」
思わずと言った風情で声を漏らしたのは男達であった。その視線から、オリエの裸身を見放題の期待がありありだ。
魔法使いとヒーラーは、そんな男達を白い目で見た。
【233.感じ取る】
「オリエさんてここで暮らしていて、どうして引き締まった身体のままでいられるのかしら?」
「いつも視線を感じ取れるようにしてるからじゃないかなー」
魔法使いの呟きにオリエは応えた。
これは言葉通りの意味ではなく、常に気配を感じ取って不測の事態に備えることなのだが、常に魔王に見られていることにもオリエは気付いているので全くの嘘でもない。
魔王に見られていることに動じないのは単純に慣れだ。地上で暮らしている時でも、外を出歩けば常に注目を浴びていたし、独りの時でも常に襲撃に備えねばならなかった。だから特に視線に混じる悪意には敏感だ。主にダンジョン探索中に魔物から注がれる視線に対してではあるが、町中で功名心に逸る者や、もっと即物的に不埒な行動に及ぼうとする者からの視線の場合もある。
そう言ったこともあって、ここでの暮らしは地上より遥かに安心だ。魔王の悪意の無い視線だけだから夜もぐっすりである。
しかしそんな話が魔法使いに伝わる筈も無く……。
「視線を感じ取る!?」
激しく喫驚されるのであった。
【234.ふにゅっと】
魔法使いは顔を赤くしたり蒼くしたりで、オリエと男達を見やる。そして少しふにゅっとなっている自分の腹を掴んでみた。
「オリエさんみたいにしなきゃいけないのかしら……」
今度は着ている服に手を掛けながら呟いた。
ヒーラーは魔法使いが何をしようとしているのか目敏く察した。すかさず魔法使いの手を握る。
「マホ、だめ。わたし達はオリエさんとは違うのよ」
魔法使いがオリエの真似をしてすっぽんぽんになったところで痩せる保証は無い。ヒーラーに止められたことで改めてそれに気付かされた魔法使いは、もう一つのことに気付いてげんなりした顔を仲間達に向ける。
何より魔法使いがすっぽんぽんになったところで、彼らが痩せることはないのだ。
【235.どんな鍛練】
「オリエさん、オリエさんは普段、どんな鍛練をしてらっしゃるのですか?」
魔法使いに任せていたらとんでもないことになりそうな予感がしたヒーラーが進み出た。オリエの話が鍛練の方法についてだと敏感に察したのだ。
「みんなと初めて会った時みたいに、魔物の攻撃を避けてるんだよ」
「避けるだけなのですか?」
「うん。反撃したら直ぐに終わっちゃうから」
鍛練が終わってもずっと追い掛けて来る魔物は仕方なく倒すが、それまでは徹頭徹尾避け続けると言うことだ。
ヒーラーが口を波打たせた。言っている意味は判っても内容に付いて行けない。説明に畏れを深くするばかりである。2時間ほどを休むこと無く避け続ける体力と集中力はいかばかりか。
「凄いです……」
しかし割と他人事だった。真似できるとは到底思えないからだった。
【236.しようとしても】
魔法使いが自分の服に手を掛ける。
「やっぱりあたしは……、痛っ!」
ヒーラーが魔法使いの額にチョップを食らわせたのだ。
「正気に戻りなさい」
両手で頭を押さえて涙目の魔法使いに、ヒーラーは冷めた視線を注いだ。
「わたし達がオリエさんの真似をしようとしても無駄です」
前衛で戦う男達はまだ可能性があるが、後衛の魔法使いと自分には可能性が無いと、ヒーラーは考える。
「さあさ、今はオリエさんの言う通りに引き上げましょう」
ヒーラーはいきなりポンコツ化した魔法使いを見ていられず、仲間達の背中を押して急き立てながら、帰りの途へと就くのだった。
【237.いい鍛練の仕方】
帰る途中で何度か魔物に遭遇したが、5人パーティーがあまりに危なっかしく見えたため、オリエはついつい手を出してしまった。
この調子では自身が彼らに付き添っても、彼らの鍛練にはなりそうにない。思い悩むオリエではあったが、妙案が浮かぶ前に魔王の許まで帰り着いた。
しかしそこで、ふと思い付く。
「魔王、何かいい鍛練の仕方って無い? 安全なやつ」
「無いこともないぞ」
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「こんなのはどうだ?」
魔王が取り出したのは、黒い肌のマッチョな男が音楽に合わせてエクササイズをするビデオであった。
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