上 下
28 / 1,627

196~201

しおりを挟む
【196.流せない】
 魔法使いとヒーラーが元の服に着替えてから紙袋をぶら下げて居間に戻れば、まだ麻雀は続いていた。違いがあるとするなら、麻雀に飽きたハンターが抜け、日課と入浴を終えたオリエがすっぽんぽんのまま加わっているくらいだ。ハンターは鼻の下を伸ばしてオリエを凝視している。
 しかしあっさり流せないのがヒーラーと魔法使いであった。

「オリエさん! 服を着てください!」
「ほら、レンジもこっちに来なさい」

 ヒーラーは悲鳴のような声を上げ、魔法使いは片手の紙袋を手放して、その手でハンターの耳を摘み上げて引っ張って行く。
 一瞬きょとんとしたオリエであったが、自らの身体に視線を落とし、汗が引いているのを確かめる。

「あ、もういいかな。じゃあ、代わりにやってて」

 オリエは立ち上がって、代わりにヒーラーを座らせた。

「え? え? え?」

 ヒーラーは雀卓と化したこたつと左右を見回して、ひたすら頭に疑問符を浮かべた。



【197.呼んだら】
「痛い! 痛いから、ちょっと待てって!」

 ハンターは魔法使いに為すがままにされながら叫んだ。振り解こうと思えば振り解けるのだが、そうはしない。これもある種のじゃれ合いだ。

「そんなに裸が見たいなら、あたしが見せてあげるって言ったでしょ」
「お、おう……」

 改めてマジ顔ではっきり言われると、返答に困るハンターである。嫉妬と綯い交ぜになっていても好意は素直に嬉しい。しかしそれとこれとは話が別。魔法使いの裸がいつでも見られるとしても、他の女の裸も見たい気持ちは別なのだ。だから「もう見ません」なんて口が裂けても言えない。魔法使いはその場限りの言い逃れで誤魔化せば良いと思う相手でも無い。
 自分の部屋まで行き着いた魔法使いはハンターの耳を放してドアを開け、振り返る。

「ちょっと待ってて。呼んだら入って来るのよ?」
「え……」

 訳も判らず、扉の前に取り残されて茫然とするハンターであった。



【198.はははは入って】
 魔法使いは両の拳を胸元で握って足踏みのようにぴょんぴょん跳ねながら、キャー、キャー、キャーと、声にならない悲鳴を上げた。ハンターに見せようと思ったミニスカートを改めて穿いてみたまでは良かったが、いざ穿いたら穿いたで恥ずかしくなって決心し切れなくなったのだ。
 しかしハンターをいつまでも待たせる訳にも行かない。

「おーい、いつまで待てばいいんだー?」

 ハンターも痺れを切らしつつあるのが声で判る。だから覚悟を決め、ドアを開ける。

「いいいいいいわ。はははは入って」

 火が出るように顔が熱く、声がどうしようもなく震えた。



【199.高鳴り】
 魔法使いの部屋のドアが開いたのは、ハンターがいい加減待ちくたびれた時だった。いくら恋仲であっても一言言わなきゃ気が済まないと、この時は思っていたハンターである。
 ところがその言葉は出なかった。いや、出せなかったが正解だろう。いつに無く恥ずかしそうに顔を赤らめている魔法使いの色っぽさに、思わず生唾を飲み込んだ。

「お、おう……」

 漸く絞り出した声も呻くようなものだった。
 魔法使いはハンターにチラッと視線を送っただけで踵を返して部屋の奥へと行く。
 そのいつもとは異なる様子に、ハンターの胸が高鳴る。そして視界に入る、魔法使いのミニスカートから伸び出たいつもなら見えない生の太股が、その高鳴りを一層強くさせる。

「ふあっ!」

 突然の奇声にビクッとなる魔法使いの後ろで、ハンターは期せずして襲って来た激しい動悸に、胸を押さえて荒い息を吐いた。



【200.くるりと】
 ビクッとなった魔法使いは恐る恐るの風情で振り返るが、ハンターの浮かべるどこか間の抜けた表情に、肩から力が抜けた。すると逆に余裕も生まれる。

「何おたついているのよ?」
「そ、その格好……」

 ハンターはそれだけを絞り出した。

「いいでしょ。魔王がくれた異世界の服よ」

 魔法使いはその場でくるりと一回転する。

「み、短くないか……?」
「見せてあげるって言ったでしょ?」

 魔法使いは蠱惑的な笑みを浮かべると、ハンターに向けてお尻を突き出し、挑発するようにゆっくりとミニスカートの裾をたくし上げる。すると、ハンターの喉が釣られるように上がった。



【201.淫靡な空気】
 魔法使いのたくし上げられたミニスカートから覗くのは、すけすけの下着とその下着越しのお尻だ。ハンターは無意識に生唾を飲み込んだ。
 魔法使いも次第に荒くなるハンターの息に、この後の成り行きに思いを馳せて胸を高鳴らせる。

「どう? この服。そそるでしょ」
「お、おお……」

 ハンターからは言語能力が失われたかのようだ。そして次第に醸し出される淫靡な空気。
 しかしその時だった。

「ご飯だよーっ!」

 どっきーん!

 軽快に響いたオリエの声。魔法使いとハンターの心臓が飛び跳ねた。

「どうしたの?」
「いえ、何でも……」

 ハンターと2人、両手を突いて床に突っ伏した魔法使いは絞り出すように言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

処理中です...