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188~195

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【188.むっつり】
 ヒーラーはとある下着に目を留めた。

「む、向こうが透けてます……」
「うわぁ、すっごい。こんなの穿く意味あるのかしら」
「ひえっ!」

 ヒーラーが慌てて振り返ると、魔法使いが覗き込んでいた。

「セヒイラって、こんなのに興味があるの?」
「い、いえ! そんな!」
「うわー、案外むっつりなんだ」
「ち、違います! オリエさんじゃないんですから」

 へっくちっ!

 日課になった鍛練の途中、くしゃみが出て不思議そうに首を傾げるオリエである。



【189.光に透かす】
「だけどこれ、穿いた方が卑猥じゃない?」

 魔法使いはヒーラーが手にしていたのと同じすけすけの下着を光に透かす。見えそうで見えないのか、見えなそうで見えるのか微妙なところだ。

「ど、どうなんでしょう……」

 ヒーラーは顔を赤らめてそっぽを向いた。声と同じように手が少し震えている。想像したらしい。

「あたしはレンジで試してみるけど、セヒイラはどうする? ゾッケンなら絶対食い付くし、ヤンリークもぶすっとした顔で野獣になるかもよ?」

 ヒーラーが誘えば剣士は勿論、槍士もイチコロだとの評価である。

「は、破廉恥です!」

 真っ赤になって叫ぶヒーラーが可笑しくて、魔法使いは腹を抱えて笑った。



【190.穿いたまま】
「だけどさ。考えてみたら、異世界の人だって重ね着するわよね」

 笑いが治まった魔法使いは人差し指で浮かんだ涙を拭いながら言った。
 ヒーラーもハッとした顔をする。

「そうでした。こんなのだけを着るなんてあり得ませんよね……」
「まあ、こんなに短いスカートと組み合わせたら、あんまり変わらないけどね!」

 未だミニスカート姿の魔法使いである。因みに今は下着を着けていない。試着しては脱ぎ、試着しては脱ぎを繰り返しで気に入る下着を探す最中なのだ。ヒーラーと2人だけと言う安心感から極めて無防備になっている。

「ところで、いつまでその短いのを穿いたままなんですか?」
「そ、それは……」

 ヒーラーの疑問に、魔法使いは顔を赤らめて応えた。ハンターに見せようと言うのだろう。

「はいはい。ごちそうさま」

 ヒーラーは目を眇めて応えた。



【191.決めたら早い】
 魔法使いとヒーラーは、探した中で最も気に入った下着を穿いた。
 そうして下半身が落ち着いたら、次に気になるのが上半身である。下着は多く上下セットになっているものだ。
 魔法使いは下着を着けたマネキンを改めて見る。

「あの人形が胸に着けているのって何かしら?」
「胸を隠すための服ではありませんか?」
「……そりゃ、そうよね」
「……あれも重ね着したら、薄着でも胸が透けないのでは?」
「……」

 魔法使いは暫し考えた。

「着けてみる」

 決めたら早い。あっと言う間にパンツ1枚を残して服を脱いだ。



【192.こんなに広い】
「こんな所で脱がないでください!」

 ヒーラーは顔真っ赤で声を荒らげた。一方の魔法使いはそんなヒーラーに呆れ顔だ。

「セヒイラとあたししか居ないって」
「だからって、こんなに広い場所で!」
「広さ関係無くない?」

 幾ら広くても、この衣裳部屋の中には他に誰も居ないのだ。魔法使いは及び腰なヒーラーに痺れを切らして、脱がしに掛かる。

「ほら! セヒイラも脱いじゃいなさい!」
「や、止めてぇぇ!」

 抵抗虚しくパンツ1枚に剥かれるヒーラーだった。

「ひ、酷いです……」

 そして、よよよと泣き崩れる真似をした。他に誰も居ないのを理解はしているようで、然程ダメージは見られないのであった。



【193.時間掛かりそう】
「「う……」」

 魔法使いとヒーラーはブラジャーを着けようとして固まった。パンツ以上に何かが上手く行かない。

「すっごい時間掛かりそうなんだけど……」
「奇遇ですね。わたしもそう思ったところです」

 顔を見合わせてくすりと笑う2人。そして案の定、これと思う品物を探し当てるまでに、嫌と言うほどの時間を費やすこととなった。

「疲れた……」
「はい……」

 暫しの間へたり込む2人であった。



【194.冷や汗】
 魔法使いとヒーラーは、そこが何のために在るのか判らないまでも、レジから紙の手提げ袋を見付け出した。そしてヒーラーは下着を20セットばかり詰めた袋を1つだけ手に提げる。ところが魔法使いは下着を詰められるだけ詰めた袋を両手に5袋ずつだ。最早、手提げ袋が半円状に広がっている。

「マホ、持ち過ぎです」
「だって、折角だから」
「だけど、まだ服を探す途中なんですよ? それを持ち歩くんですか?」
「あ……」

 魔法使いは冷や汗を垂らした。服はもう探し終わった気分になっていたのだ。

「あ、明日にしよ! ね!」

 魔法使いを半眼で睨むヒーラーではあったが、改めて衣裳部屋をぐるっと見回し、違う冷や汗を垂らした。

「そうしましょう」

 ヒーラーも広さに怖じ気づいたのだった。



【195.可笑しい】
 帰ると決めたらヒーラーはまた下着コーナーへと踵を返し、持てるだけの下着を紙袋に詰め始めた。

「あっきれたー」

 魔法使いの眉尻と口角は限界に近く下がっている。醸し出されるのは心底呆れた風情だ。

「わ、わたしだって……、その……」

 口を尖らせながらぼそぼそと反論するヒーラーの言葉は尻窄みだ。現金なのは自覚しているらしい。
 しかしそんな挙動不審なヒーラーも愛しげなもので、魔法使いにはそれがどこか可笑しい。

 プッ。

 魔法使いは思わず噴き出した。慌てて口を押さえるが、肩の震えは止まらない。
 ヒーラーは恨みがましい視線を向けた。しかし時として笑いは伝染するものらしい。釣られたように笑い出す。
 そしてそれから暫く、声を上げて笑い合う2人であった。
 一過性の病のようなものだろう。
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